通達
2019年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について(抄)
一般社団法人日本クレーン協会会長殿 基安発0527第4号
厚生労働省労働基準局安全衛生部長 令和2年5月27日
2019年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について
 
 職場における熱中症予防対策について、令和2年3月25日付け基安発0325第4号「令和2年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」の実施について」をお送りしたところですが、今般、別添1「2019年職場における熱中症の発生状況(確定値)」を取りまとめるとともに、「新型コロナウイルス感染症を想定した新しい生活様式」(令和2年5月4日)等を踏まえ、別添2により、「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要綱を一部改正しました(7月1日更新の日本クレーン協会ホームページに掲載)。
 つきましては、貴会におかれましても、会員事業場等に対し、周知を図っていただきますとともに、各事業場において熱中症予防の確実な取組が行われますよう、特段の御配慮をお願いいたします。
 
2019年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)
1 職場における熱中症による死傷者数の状況(2010〜2019年)
 職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下合わせて「死傷者数」という。)は、2019年に829人となった。うち死亡者数は25人となっている。記録的な猛暑となった2018年と比べ、死傷者数、死亡者数とも減少となったものの、死傷者数に占める死亡者の割合は高まっており、熱中症による重篤な労働災害が後を絶たない状況にある。
 過去10年間(2010―2019年)の発生状況をみると、年平均で死傷者数595人、死亡者数24人となっており、2019年の死傷者数は、過去10年間で2018年に次いで多い。
 
2 業種別発生状況(2015〜2019年)
 過去5年間(2015〜2019年)の業種別の熱中症の死傷者数をみると、建設業、次いで製造業で多く発生しており、全体の4割強がこれら2つの業種で発生している。
 2019年は、死亡災害のうち10件が建設業において発生しており、建設業以外の15件では、製造業と警備業が多くを占めている。製造業の内訳は食料品製造業、造船業、紙加工品製造業、ガラス・同製品製造業と多岐にわたっているが、警備業ではいずれも屋外で、建設・土木工事の交通誘導等に従事していた事例であった。なお、表中その他の内訳は、通信業、公園・遊園地、ゴルフ場、その他の事業であった。
 また、死傷災害をみると、過去10年間で初めて建設業よりも製造業の方が多くなっていることが特徴的である。
 
3 月・時間帯別発生状況
(1) 月別発生状況(2015〜2019年)
 2015年以降の月別の熱中症の死傷者数をみると、全体の9割弱が7月及び8月に発生している。
 2019年の死亡災害は6月から10月に発生し、6月は1名、7月は5名、8月は15名、9月は3名、10月は1名が死亡しており、例年に比べ7月の発生が少なく8月が多かった。死傷災害にも同様の傾向がみられる。
 
(2) 時間帯別発生状況(2015〜2019年)
 2015年以降の時間帯別の死傷数をみると、11時台及び14〜16時台に多く発生している。なお、日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見される。
 
4 2019年の熱中症による死傷災害の特徴
(1) 屋内作業での発症
 2019年の死傷災害の26%は明らかに屋内で作業に従事していたと考えられる状況下で発生している。業種別の屋内災害の割合は、製造業で66%、商業で40%となっており、熱中症は、必ずしも屋外での作業でのみ発症しやすいわけではないことに留意が必要である。
 屋内作業においては、炉の近傍や厨房など特定の熱源から近いところでの作業での発生がみられるほか、特定の熱源がない場合も、高温多湿と考えられる室内環境において多く発生している。室内の冷房設備が故障した又は設定温度を大幅に高くした後に熱中症を発症したとする事例も複数見られた。
※死傷災害のうち、明らかに屋内で作業に従事していたと考えられるもののみを計上している。
 
(2) 熱中症の発症と年齢との関係
 年齢階級別に死傷年千人率を計算すると図のようになる。おおむね40歳代から熱中症発症率の高まりが見られ、最も高い55〜59歳における死傷年千人率は、最も低い25〜29歳の約2倍である。

※死傷年千人率は、死傷者数と雇用者数(「令和元年労働力調査結果」(総務省統計局)による)を用いて算出した。

 
(3) 熱中症発症時の衣服
 死亡災害のうち、防護服や着ぐるみなど、熱中症発症時に通気性の悪い衣服を着用していた事例も見られた。
 
(4) 熱中症の発見の遅れ
 倒れているところを発見されたなど、熱中症発症から救急搬送までに時間がかかっていると考えられる事例も複数あった。警備業などでは同僚ではなく通行人からの通報により救急搬送された事例も見られた。
 
(5) 熱中症を原因とする二次災害
 熱中症の発症が、二次災害の発生につながる事例も見られた。熱中症により意識を失って転倒し、頭部や肩を強く打った事例、熱中症により高所から墜落した事例、車両の運転中に熱中症を発症し交通事故につながった事例などがある。これらの事例の中には、相当な高所からの墜落や大型自動車による交通事故など、重篤な災害につながりかねない事例も含まれていた。
 
5 2019年の熱中症による死亡災害の事例
番号 業種 年代 気温
(注1)
WBGT値
(注2)
事案の概要
1 6 その他の
食料品製造業
40歳代 25.8℃ 25.1℃  早朝から工場の調理室において業務に従事し、体調不良による早退のため駐車場に向かったところ駐車場で倒れ、病院に搬送されたが2日後に死亡した。
2 7 道路建設工事業 30歳代 30.9℃ 25.9℃  道路工事におけるアスファルト舗装工事として、路盤の転圧作業、アスファルト乳剤の散布作業等を行っていたところ、体調が悪くなったためトラックの運転席で休憩させた。意識がなくなったため病院に搬送したが翌日に死亡した。冬用の上着を着用していた。
3 7 警備業 50歳代 32.8℃ 30.0℃  掘削土砂運搬経路において、堤防上を警備していたが、うつ伏せで倒れているところを通行人に発見された。救急車で病院へ搬送されたが、死亡した。
4 7 公園・遊園地 20歳代 28.7℃ 25.2℃  遊園地において、午後から断続的に着ぐるみを着用して接客に従事していたが、午後7時30分頃から20分程度ダンス等の練習を行い、練習を終えて控室に戻る途中、自力で歩けなくなった。その後救急搬送された病院で死亡した。
5 7 一般貨物自動車運送業 40歳代 35.3℃ 32.6℃  荷主先においてトラックの荷台で養生作業を行っていたが、荷台でうずくまっているところを発見された。救急搬送後、同日に死亡した。通気性の良くないインナー、ナイロンジャケット、帽子、マスクを着用していた。
6 7 ゴルフ場 60歳代 32.2℃ 31.3℃  ゴルフ練習場内の草刈作業を行った後、芝刈機の調整作業を行っていた。気分が悪くなり、屋根のある場所で休憩したものの体調が回復しなかったため救急搬送されて入院したが、当日の深夜に容体が急変し、16日後に急性心筋梗塞で死亡した。
7 7 造船業 60歳代 32.8℃ 28.7℃  造船工場のドックにおいて、船体を高圧洗浄機により洗浄する作業に従事していた。20分間の休憩を取り、作業を再開したが、体調不良を訴えたため作業を中断した。熱中症の疑いがあったため救急搬送したが、同日に死亡した。休憩前の作業においては作業着の上にナイロン製のカッパを着用していた。
8 7 紙加工品製造業 40歳代 35.3℃ 31.0℃  工場内で、終日製造作業に従事していたが、終業前の清掃作業時に倒れているところを同僚に発見された。救急搬送されたが、翌朝死亡した。
9 8 警備業 70歳代 33.9℃ 32.1℃  午前中から交通規制に伴う交通誘導業務を行っていたところ、昼過ぎに通行人に路上で倒れているところを発見され、病院に救急搬送されたが、3日後に死亡した。
10 8 警備業 40歳代 32.1℃ 30.0℃  工事現場で交通誘導員として工事用車両の搬出入の誘導を行っていた。午後2時頃、被災者の体調の異変を感じた同僚が休憩を指示し、休憩所に向かったが、25分後、別の同僚が休憩所へ向かう途中にある公衆トイレの前で倒れている被災者を発見した。その後、救急車で病院に搬送されたが、死亡した。
11 8 その他の建設業・その他 40歳代 30.9℃ 29.5℃  ボーリング作業に終日従事し、作業終了後の片付け作業中、熱中症を発症したため医療機関へ搬送されたが、9日後に死亡した。
12 8 ガラス・同製品製造業 40歳代 32.5℃ 27.1℃  工場内において、網入りガラスの四方に出ている網をサンダーで飛ばす作業の完了後、次の作業のため、移動台車に載ったガラスを取り出そうとした時、急に気分が悪くなり倒れた。その後、入院加療を続けていたが、2か月後に死亡した。
13 8 土地整理士土木事業 50歳代 30.3℃ 27.7℃  士地区画整理事業造成工事における施工管理の補助業務を終日実施した後、帰宅する途中で倒れたため、病院に搬送されたが8日後に死亡した。
14 8 一般貨物自動車運送業 40歳代 33.8℃ 31.1℃  貨物輸送員として、取引先事業場の工場において、重機による積込み作業を行っていたところ、体調を崩し、自ら本社に「手が痺れる」等報告を入れ、トラックで休憩していた。体調不良の連絡を受け、約30分後に同僚が様子を見に行ったところ、トラック内で意識を喪失しているところを発見され、救急隊が到着した際には心肺停止状態であった。救急搬送されるも回復せず死亡した。
15 8 その他の建築工事業 50歳代 32.6℃ 31.5℃  ビニールハウス組立工事にあたり、脚立を利用し陸梁を取り付ける作業を行っていたところ、脚立に座り込み、その後ふらついた状態となった。病院に搬送したところ入院措置となり、17日後に死亡した。
16 8 その他の建築工事業 50歳代 31.9℃ 31.7℃  鉄骨の荷下ろし作業及び仮締め作業に従事していたところ、嘔吐したため休憩していた。同僚複数で昼食に行った際、食事をせずに車内で待機していたが、車外で意識を失っているところを発見され、医療機関に搬送されたが翌日死亡した。
17 8 その他の建築工事業 40歳代 35.1℃ 31.3℃  施設の改修工事において、玄関の段差をはつり作業中、動きが鈍くなり同僚の声かけに応答しなくなったため、病院に搬送されたが4日後に死亡した。
18 8 通信業 40歳代 35.9℃ 33.3℃  配達業務中に路上で倒れているところを発見され、救急搬送されるも翌日に死亡した。
19 8 その他の建築工事業 30歳代 32.8℃ 29.4℃  午前中に住宅の外壁改修工事の足場解体作業を行い、昼休憩を取った後に解体した足場材をトラックの荷台へ積み込む作業を行っていたところ、具合が悪くなった。近くで休憩させていたがその後駐車場でうずくまっているところを発見され、病院に搬送されたが死亡した。
20 8 新聞販売業 40歳代 29.9℃ 25.3℃  原付バイクで新聞配達を行っていたが、道路の脇にバイクと共に倒れていたところを、他社の新聞配達員に発見された。搬送先の病院で治療を行ったが、2日後に死亡した。
21 8 その他の建設業・その他 50歳代 32.5℃ 30.2℃  上水道工事現場において上水道管の引込み作業を行い、午後2時に作業が終了したので自宅に帰宅した。その後、体調が悪くなったため家族が病院に搬送したが死亡した。
22 9 警備業 60歳代 30.0℃ 29.8℃  高速道路上で通信ケーブル張替敷設工事に係る交通規制作業及び警備業務に従事した。警備終了後の交通規制撤去中、それまで資材車に同乗していた被災者が助手席から降りてこなかったため同僚が様子を確認したところ、助手席で意識を失った状態であった。応急処置の実施後、救急搬送されたものの、5日後に死亡した。
23 9 その他の事業・その他 40歳代 34.3℃ 30.5℃  同僚と2名で、太陽光発電パネル設置工事の予定場所に自生する希少植物を探し、工事予定エリア外に移植する作業に従事していたが、同僚とはぐれ行方不明になった。捜索を続け、2日後付近の草むらの中で倒れて死亡しているのが発見された。
24 9 木造家屋建築工事業 50歳代 33.9℃ 30.8℃  建設現場において、コンクリート打設作業を行っていたところ、コンクリート運搬中に倒れたため、救急搬送したが死亡した。
25 10 その他の建設業・その他 40歳代 30.2℃ 28.8℃  アスベスト除去工事のため、所定の防護服を着用して、隔離養生前室内にある廃石綿入りの袋を運んでいたが、体調が悪くなった。作業服に着替えて休憩室で休むよう指示したが、休憩室に向かう途中で倒れているところを発見され、救急搬送されたが死亡した。
(注1) 現場での気温が不明な事例には、気象庁ホームページで公表されている現場近隣の観測所における気温を参考値として示した。
(注2) 現場でのWBGT値が不明な事例には、環境省熱中症予防サイトで公表されている現場近隣の観測所におけるWBGT値を参考値として示した。

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