通 達
平成27年の職場における熱中症による死傷災害の発生状況について
一般社団法人日本クレーン協会会長殿 基安発0523第2号
厚生労働省労働基準局安全衛生部長 平成28年5月23日
平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について
 

 平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施については,平成28年2月29日付け基安発0229第2号「平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について」をもって厚生労働省労働基準局安全衛生部長から当協会会員事業場への周知要請があり,既に5月号でお知らせしたところですが,今般,別添のとおり平成28年5月23日付け基安発0523第2号「平成27年の職場における熱中症による死傷災害の発生状況について」をもって,本年の取組みの徹底要請がありました。会員各事業場におかれましても熱中症の発生状況を踏まえ,予防対策に一層のお取組をいただきますようお知らせします。
 なお,別添中の「基本対策」の具体的内容につきましては,厚生労働省の次のアドレスでご確認ください。

基本対策
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000085000.pdf

 
別添
 (注1)通達中の別紙1の災害発生状況等については一部省略
 (注2)通達中の別紙2の重点通達は上記のとおり5月号に掲載したため省略
 
基安発0523第2号
平成28年5月23日
一般社団法人日本クレーン協会会長殿
厚生労働省労働基準局安全衛生部長
 
平成27年の職場における熱中症による死傷災害の発生状況について
 
 安全衛生行政の推進につきまして,日頃から格別の御配慮をいただき,厚く御礼申し上げます。
 さて,職場における熱中症予防対策については,平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」(以下,「基本対策」という。)により示しているところですが,今般,平成27年の職場における熱中症による死傷災害発生状況について,下記及び別紙1のとおり取りまとめました。
 気象庁の暖候期予報によれば,平成28年の暖候期(6〜8月)は,特に西日本では気温が平年並みか平年より高くなることが予想されていることから,熱中症による労働災害が多く発生することが懸念されるところです。
 平成28年の職場における熱中症予防対策については,平成28年2月29日付け基安発0229第1号「平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について」(別紙2。以下,「重点通達」という。略)において留意すべき事項を示しておりますので,貴職におかれましては,平成27年の熱中症による死傷災害発生状況を参考にしていただき,基本対策及び重点通達に基づく職場における熱中症予防対策に一層の取組をいただくとともに,関係事業場への周知等について特段の御理解と御協力をお願い申し上げます。
 
平成27年の熱中症による死傷災害発生状況の概要
 平成27年の職場における熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数は464人と,平成26年よりも41人多く,死亡者数は29人と,平成26年よりも17人増加している。特に建設業及び建設現場等に付随して行う警備業においては,死亡者数が18人と,酷暑であった平成22年の死亡者数と同程度となっている。
 気象庁の発表によると,平成27年は,西日本を中心に7月上旬の平均気温が低かったが,北・東日本では7月中旬から,西日本では7月下旬から晴れて暑い日が続き,8月上旬には35度以上の猛暑日となった所が多かった。
 平成27年に熱中症により死傷した464人のうち,303人が7月下旬から8月上旬に被災している。また,死亡した29人のうち,10人は7月に,16人は8月に被災している。
 死亡した29人に係る災害の発生状況等をみると,WBGT値(暑さ指数)の測定は28人においてなされていなかった。また,熱への順化期間(熱に慣れ,当該環境に適応する期間)の設定は26人においてなされていなかった。さらに,定期的な水分及び塩分の摂取は17人,健康診断の実施は13人においてなされていなかった。
 
別紙1
職場における熱中症による死傷災害の発生状況
 
1 職場における熱中症による死傷者数の推移(平成18〜27年)
 過去10年間(平成18〜27年)の職場での熱中症による死亡者数,および4日以上体業した業務上疾病者の数(以下,合わせて「死傷者数」という。)をみると,平成22年に656人と最多であり,その後も400〜500人台で推移している。平成27年の死亡者数は29人と前年に比べ17人増加し,死傷者数は464人と,依然として高止まりの状態にある。
 
 
2 業種別発生状況(平成23〜27年)
 過去5年間(平成23〜27年)の業種別の熱中症による死傷者数をみると,建設業が最も多く,次いで製造業で多く発生しており,全体の約5割がこれらの業種で発生している。
 
 
3 月・時間帯別発生状況
(1)月別発生状況(平成23〜27年)
 過去5年間(平成23〜27年)の月別の熱中症による死傷者数をみると,全体の約9割が7月および8月に発生している。
 
 
(2)時間帯別発生状況(平成23〜27年)
 過去5年間(平成23〜27年)の時間帯別の熱中症による死傷者数をみると,14〜16時台に多く発生している。なお,日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見される。
 
 
4 作業開始からの日数別発生状況(平成23〜27年)
 過去5年間(平成23〜27年)の,作業開始日から熱中症発生日までの作業日数別の死亡者数をみると,全体の5割が「高温多湿作業場所」(※)で作業を開始した日から7日以内に発生している。
(※) 高温多湿作業場所:基本通達(平成21年6月19日付け)でいう,WBGT 基準値を超え,または超えるおそれのある作業場所。
 
 
5 平成27年の熱中症による死亡災害の詳細(抄)
 平成27年に熱中症によって死亡した全29人について,その発生状況は以下のとおりである。
【全体の概要】
(1) 29人のうち,28人については,WBGT値の測定を行っていなかった。
(2) 29人のうち,26人については,計画的な熱への順化期間が設定されていなかった。
(3) 29人のうち,17人については,自覚症状の有無にかかわらない定期的な水分・塩分の摂取を行っていなかった。
(4) 29人のうち,13人については,健康診断が行われていなかった。
【各事案の詳細】
発生時のWBGT値について,現場での測定が行われていなかった事案では,環境省熱中症予防サイトで公表された現場近隣の観測所におけるWBGT値を参考値として示した。
 



事案の概要





50

8時頃から住宅の新築工事現場で基礎の型枠の組立作業を行っていた被災者が,15時頃,気分が悪そうに座り込み,型枠に寄りかかったため,事業主が帰宅を指示したが,車を正常に運転できなかったため,事業主は,気分が良くなったら帰宅するよう指示した。17時30分頃,作業を終えた事業主が車の運転席で横たわっている被災者を発見し,病院に搬送したが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は31.8℃
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。




30

被災者は8時20分頃から店舗の増築工事現場で路面舗装工事に伴う排水溝(U 字溝)の設置作業を行っていた。16時15分頃,現場に点在していたカラーコーンを集めていた被災者が,突然地面に両膝をつき,右肩から落ちるように倒れた。同僚が119番通報し,被災者は病院に搬送されたが,翌日死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は28.3℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。




50

被災者は8時頃から木造家屋の解体工事に従事し,16時頃休憩を取った際に,意識が朦朧としていたため,病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は28.1℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。




40

被災者は建物屋上で8時頃から防水作業を行っており14時頃,体調不良を訴えた。陰で5分程度休憩をとったが,体調が良くならず,現場代理人の指示により同僚が現場近くの病院に搬送しようとしたが,被災者が希望した自宅近くの病院に搬送中,被災者が暴れだしたため119番通報し,救急車で別の病院に搬送されたが,6日後に死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は30.5℃
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。




50

被災者は木造住宅の新築工事現場で清掃作業を行っていた。15時30分頃,倒れ込み,痙攣を起こしたため,病院に搬送されたが,2日後に死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は30.1℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
・被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。




40

被災者は8時40分から解体撤去工事現場で,廃材の片付けや清掃作業を行っていた。16時20分頃,被災者が突然尻もちをつくようにその場で倒れたため,すぐに日陰に移動させ休ませた。被災者の意識が明確ではなかったため,医師に診てもらう必要があると判断し,被災者の同僚の車で近くの病院に搬送している最中に容体が急変し,119番通報により病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は31.5℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せになっていた。




40

被災者は,7時50分から事務所の新築工事現場で,コンクリートプロックの仮置き作業を行っていた。14時50分頃,被災者がふらつきながら事務所裏手に歩き,よく分からない言葉を口走ったため,同僚が付き添い,水分を取らせて日陰で休ませた。次第に被災者の目の焦点が合わなくなり,地面に倒れて呼びかけにも応じなくなったため,同僚が119番通報し,病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は29.5℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
・被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
・被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。




40

被災者は8時から除草作業現場で刈った草の集積とトラックヘの積み込み作業を行っていた。14時頃,被災者が「体調が悪い」と申し出たため,近くの日陰で休憩させた。被災者は突然震え,飲んでいた飲み物を嘔吐し,身体が痙攣し始めたが,現場代理人の声かけに対し,「大丈夫」と答え,一旦は状態が安定した。しかし再び嘔吐し,自力で身体を曲げることができず,ろれつが回らなくなったため,付き添っていた同僚が119番通報し,病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は25.7℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・涼しい休憩場所は設けられていなかった。
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
・被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。




60

被災者は8時から,草刈り機を使用し,資材置き場の除草作業を行っていた。11時頃,被災者が体調不良を訴えたため,車の中で休憩をとらせた。11時45分,被災者から「体調が回復しないため午後は休む」との申出があり,同僚が病院に連れて行こうとしたが,「自宅で寝ていれば治る」と言われ,12時に同僚とともに事業場に戻り,被災者は車で帰宅した。事業主が「体調は大丈夫か」と被災者に声をかけた際には「大丈夫」と返答したが,17時頃,帰宅した妻が,心肺停止で横たわっている被災者を発見し,搬送された病院で,死亡が確認された。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は29.4℃
・水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
・被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
・被災者に対して健康診断結果に基づく対応が不十分であった。
・被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。
10



30

被災者は8時30分から,草刈り機を使用し除草作業を行っていた。16時15分頃,被災者は作業場所に草刈り機を置き,同僚のところに近づき,大の字になって地面に倒れ,意識を失ったため,同僚が119番通報し,病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は26.1℃
・被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
11



50

被災者は,個人住宅新築工事現場で,外構工事を行っていた。16時35分頃に現場の片付けを行い,16時50分頃にトラックで会社に戻ろうとしたところ,トラックのタイヤが現場前の空き地にはまり動けなくなった。17時頃,空き地で倒れている被災者を事業主が発見し,声をかけたところ,「滑ってしまいました」と言った後,反応が無くなったため,事業主が119番通報し,病院に搬送されたが,死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は29.5℃
・熱への順化期間は設けられていなかった。
・被災者に対して健康診断は行われていなかった。
・被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。
20

50

被災者は肥料を製造する工場で,汚泥等が入ったフレコンバッグをクレーンで卸す作業を行っていたが,14時頃,同僚に仰向けで倒れているところを発見された。その後,被災者は病院に搬送されたが,翌日死亡した。
・環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT 値は30.5℃

[目次へ戻る]

 
 
[ホーム]