通 達
「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」の実施について
厚生労働省労働基準局安全衛生部長 基安発0310第5号
一般社団法人日本クレーン協会会長殿 平成29年3月10日
基安発0310第5号
平成29年3月10日
一般社団法人日本クレーン協会会長殿
厚生労働省労働基準局
安全衛生部長
「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」の実施について
 
 熱中症の予防については,第12次労働災害防止計画(以下「12次防」という。)において,重点とする健康確保・職業性疾病対策の一つとしてあげられており,平成20年から24年までの5年間と比較して,平成25年から平成29年までの5年間の職場での熱中症による休業4日以上の死傷者の数(各期間中(5年間)の合計値)を20%以上減少させる,との目標が設定されているところです。
 これまで,平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」に基づく対策をはじめとして,毎年,重点事項を示して,その予防対策に取り組んできたところですが,12次防期間中の発生件数は,平成29年1月現在の速報値で,平成20年から24年までの5年間の発生件数の95%に達し,あと1年を残して,12次防期間中の目標件数を上回る状況となっています。
 このうち,平成28年における熱中症の発生状況は,死亡災害については対前年で大幅増加となった平成27年を下回り平成26年並みになりましたが,死傷災害については,平成27年と同程度となる見込みです(別紙)。
 熱中症の予防のためには,その発症の評価指標となるWBGT値(暑さ指数)を測定し,その結果に基づき適切な措置を講じることが必要ですが,今般,簡易にWBGT値を測定できる「電子式湿球黒球温度(WBGT)指数計」について,その精度を担保するための日本工業規格が制定され,JISB7922として3月21日に公示される予定となっています。
 このような状況を踏まえ,日本工業規格に準拠したWBGT測定器の普及を図り,職場における熱中症予防対策の徹底を図ることを目的として,関係省庁及び関係団体との連携の下,別添のとおり標記キャンペーンを実施することといたしました。
 つきましては,貴会におかれましても,キャンペーンの趣旨を踏まえ,会員事業場に対し,その御周知を図っていただきますとともに,各事業場において確実な取組が行われますよう,特段のご配慮をお願いいたします。
 
別紙
 
職場における熱中症による死傷災害の発生状況
(平成29年1月末時点速報値)
 
1 熱中症による死傷者数の推移(平成19〜28年分)
 過去10年間(平成19〜28年)の職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下合わせて「死傷者数」という。)をみると,平成22年に656人と最多であり,その後も400〜500人台で推移している。
 平成28年の死亡者数は12名と平成27年に比べ減少したが,死傷者数は,平成27年とほぼ同数となっている。
 
職場における熱中症による死傷者数の推移(平成19〜28年) (人)
19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年 26年 27年 28年
378 280 150 656 422 440 530 423 464 462
(18)
(17) (8) (47) (18) (21) (30) (12) (29) (12)
( )内の数値は死亡者数であり,死傷者数の内数
 
※平成28年の数は,平成29年1月末時点の速報値であり,今後,修正されることがあり得る。
 
 
2 業種別発生状況(平成24〜28年)
 過去5年間(平成24〜28年)の業種別の熱中症の死傷者数をみると,建設業が最も多く,次いで製造業で多く発生しており,全体の約5割がこれらの業種で発生している。
 平成28年は,前年に死亡災害が多発した建設業,警備業のうち,警備業においては,死亡災害の発生はなかったが,建設業では,死亡災害全体の半数に当たる6名が死亡した。
 
熱中症による死傷者数の業種別の状況(平成24〜28年)    (人)
業種 建設業 製造業 運送業 警備業 商業 清掃・
と畜業
農業 林業 その他
平成24年 143
(11)
87
(4)
43
(0)
27
(2)
35
(0)
28
(1)
7
(0)
6
(2)
64
(1)
440
(21)
平成25年

151
(9)

96
(7)
68
(1)
53
(2)
31
(3)
28
(2)
8
(1)
8
(1)
87
(4)
530
(30)
平成26年

144
(6)

84
(1)
56
(2)
20
(0)
28
(0)
16
(0)
13
(1)
7
(0)
55
(2)
423
(12)
平成27年

113
(11)

85
(4)
62
(1)
40
(7)
50
(0)
23
(2)
13
(1)
8
(0)
70
(3)
464
(29)
平成28年
(速報値)

109
(6)

97
(0)
52
(0)
28
(0)
37
(2)
37
(1)
10
(1)
13
(1)
79
(1)
462
(12)

660
(43)

449
(16)
281
(4)
168
(11)
181
(5)
132
(6)
51
(4)
42
(4)
355
(11)
2,319
(104)
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
※ 平成28年の数は,平成29年1月末時点の速報値であり,今後,修正されることがあり得る。
 
 
 
3 月・時間帯別発生状況
(1)  月別発生状況(平成24〜28年)
 平成24年以降の月別の熱中症の死傷者数をみると,全体の約9割が7月及び8月に発生している。
 平成28年の死亡者数は,7月は1名であったが,8月に7名が死亡した。
 
熱中症による死傷者数の月別の状況(平成24〜28年) (人)
  5月
以前
6月 7月 8月 9月 10月
以降
平成24年

3
(0)

6
(0)
194
(11)
202
(9)
35
(1)
0
(0)
440
(21)
平成25年

16
(0)

15
(1)
185
(14)
295
(14)
12
(0)
7
(1)
530
(30)
平成26年

6
(0)

32
(0)
182
(6)
191
(5)
8
(1)
4
(0)
423
(12)
平成27年

15
(0)

19
(2)
212
(10)
210
(16)
7
(1)
1
(0)
464
(29)
平成28年
(速報値)

12
(0)

26
(2)
161
(1)
221
(7)
38
(2)
4
(0)
462
(12)

52
(0)

98
(5)
934
(42)
1,119
(51)
100
(5)
16
(1)
2,319
(104)
※ 5月以前は1月から5月まで,10月以降は10月から12月までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
※ 平成28年の数は,平成29年1月末時点の速報値であり,今後,修正されることがあり得る。
 
 
 
(2)  時間帯別発生状況(平成24〜28年)
 平成24年以降の時間帯別の死傷者数をみると,14〜16時台に多く発生している。なお,日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見される。
 
熱中症による死傷者数の時間帯別の状況(平成24〜28年) (人)
 



10

11

12

13

14

15

16

17

18



平成24年 39
(0)
34
(3)
60
(4)
35
(2)
31
(1)
53
(2)
67
(2)
50
(3)
31
(1)
40
(3)
440
(21)
平成25年 40
(0)
40
(2)
55
(2)
25
(1)
29
(1)
68
(6)
78
(3)
88
(6)
49
(6)
58
(3)
530
(30)
平成26年 24
(0)
39
(0)
46
(2)
43
(1)
32
(1)
47
(2)
69
(1)
48
(3)
31
(0)
44
(2)
423
(12)
平成27年 45
(0)
23
(1)
61
(3)
34
(2)
41
(3)
59
(6)
66
(3)
53
(5)
37
(4)
45
(2)
464
(29)
平成28年
(速報値)
49
(1)
37
(0)
52
(1)
22
(1)
34
(1)
55
(1)
74
(3)
47
(2)
39
(2)
53
(0)
462
(12)
197
(1)
173
(6)
274
(12)
159
(7)
167
(7)
282
(17)
354
(12)
286
(19)
187
(13)
240
(10)
2,319
(104)
※ 9時台以前は0時台から9時台まで,18時台以降は18時台から23時台までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
※ 平成28年の数は,平成29年1月末時点の速報値であり,今後,修正されることがあり得る。
 
 
 
4 平成28年の熱中症による死亡災害の事例(速報(注1)
 
番号 業種 年代 事案の概要
1 6 林業 60
歳代

 被災者は,広葉樹の伐採現場において,他の労働者とともに午前10時から立木の伐倒及び造材作業を行っていた。午後3時頃,同僚が伐倒作業を行っていた被災者に作業終了を告げ,先に集合場所へ戻ったが,なかなか被災者が集合場所に戻らないため,再度,呼びに行ったところ,斜面に倒れている被災者を発見した。医療機関に救急搬送したが,4日後に死亡した。被災者は当該事業場の労働者として作業に従事した初日であった。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は,30.3℃ (参考(注2))
  • 被災者に対する健康診断が実施されていなかった。
2 6 廃棄物処理業 50
歳代

 午後から敷地内の草刈り作業を行うこととなり,被災者は午後1時から午後2時30分まで草刈機で草刈り作業を行い,1時間の休憩後,同僚と共に敷地内の雑木の切り枝の回収業務等を行い,午後4時に作業を終えた。作業終了後,被災者はベンチで休憩を取っていたが,午後4時30分頃嘔吐し,発汗が多かったことから熱中症の疑いで救急搬送された。搬送後意識を失い,翌々日死亡した。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は,28.4℃ (参考(注2))
  • 被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
3 7 農業 50
歳代

 被災者は,7時よりビニールハウス内や屋外で,苗の水やり等の作業を行っていた。同僚と被災者の2名は,15時50分頃から始めたビニールハウス内の夜冷庫への苗の移動作業中,辛そうな様子の被災者を確認した同僚から休んでいるように促されビニールハウス内で休憩をしていたところ,同僚が被災者の異変を感じ,救急車で病院に搬送したが,搬送先の病院で5日後に死亡した。被災者は採用3日日であった。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は,33.1℃ (参考(注2))
4 8 建築工事業 30
歳代

 被災者は,基礎型枠の解体作業において,単管等の資材の受け渡し等の作業に従事していたが,体調が悪くなってうずくまり,その後,その場に倒れこんだ。すぐに救急車を手配して病院へ搬送したが,およそ3時間後に死亡が確認された。被災者は採用3日目であった。また,発注者が現場近くで測定していた作業時のWBGT値は,27℃であった。

5 8 建築工事業 30
歳代

 災害発生当日,被災者はマンション新築現場にてコンクリート打設の補助をしていた。昼の休憩後,午前中の作業の続きを始めたが,13時30分頃,突然転倒したので小休止を取らせ様子をみていたが,顔色が悪く,熱中症が疑われたので,救急車で病院へ搬送した。救急隊が到着した時は意識があったが,15時前に意識を失い,4日後に死亡した。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は,30.9℃ (参考(注2))
6 8 商業 20
歳代

 事業場にて商談,展示車両の洗車業務等に従事していた労働者が,17時30分頃,事業場内の清掃作業中に頭痛を訴えた。2階の休憩室で休養し,19時過ぎに帰宅した。翌8日の朝,起床してこないことから,家族が様子を見にいったところ,呼吸停止の状態で発見された。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は32.0℃ (参考(注2))
7 8 商業 60
歳代

 被災者は始業後30分程回収資源の仕分け作業を行った後,トラックの荷台に上がり,回収してきたアルミサッシ片をヤードに卸す作業を行っていたところ,当該作業を開始した数分後に,突然,後ろ向きに倒れ込み,ほとんど意識のない状態で同僚に発見された。その約20分後に救急搬送され,蘇生処置が続けられていたが,翌日死亡が確認された。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は29.6℃ (参考(注2))
8 8 その他の事業 40
歳代

 被災者は,標高約100メートルの山頂にある無線中継所のアラーム障害の点検復旧を行うため,単独で入山した。午後0時頃から午後1時30分頃まで点検復旧作業を行った後,下山したが連絡が取れなくなり,翌朝山の斜面で倒れているのを発見された。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は30.6℃ (参考(注2))
9 8 土木工事業 50
歳代

 道路わきの案内看板移設工事を行っていた被災者が体調不良を訴えたため,日陰で休ませていたが,その後意識混濁状態になっているところを発見された。すぐに救急車で病院に搬送したが,翌日死亡した。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は31.5℃ (参考(注2))
10 8 土木工事業 40
歳代

 被災者は,町道の舗装工事において,朝礼後の8時30分から,同僚1名と共にロードカッタを操作し,アスファルトを切削する作業に従事した。12時前に作業が終了し,後片付けしていたところ,気分が悪くなり,倒れこんだため,病院に運ばれたが,死亡した。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は29.4℃ (参考(注2))
11 9 その他の建設業 30
歳代

 土壤等の仮置場において,密閉容器から鋼製容器に土壤等を移し替えるため,被災者は密閉容器のふたを開ける作業を行っていたところ,暑さによる疲れがみられたため車で休憩していたが,15分後に体調が急変し病院に搬送された。意識不明であったが,2週間後に死亡した。被災者は現場入場2日目であった。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は31.1℃ (参考(注2))
  • 被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
12 9 土木工事業 30
歳代

 屋根の防水工事において,被災者は午前8時から当該工事の補助作業に従事していたが,17時頃作業終了後,同僚と現場近くの宿舎に徒歩で戻り,17時50分頃,宿舎エレベーターを降りたところで意識を失い倒れた。直ちに病院に搬送されたが,翌日死亡した。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は30.7℃ (参考(注2))
  • 被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
  • 被災者に対する健康診断が実施されていなかった。
  • 被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
(注1)  平成29年1月末時点の速報であり,今後,内容が修正されることがあり得る。
(注2)  現場でWBGTの測定が行われていなかった事例には,環境省熱中症予防サイトで公表されている現場近隣の観測所におけるWBGT値を参考値として示した。
 
 
別添
 
STOP!熱中症クールワークキャンペーン実施要綱
 
1 趣旨
 熱中症については,第12次労働災害防止計画(以下「12次防」という。)において,重点とする健康確保・職業性疾病対策の一つとしてあげられており,平成20年から24年までの5年間と比較して,平成25年から平成29年までの5年間の職場での熱中症による休業4日以上の死傷者の数(各期間中(5年間)の合計値)を20%以上減少させる,との目標が設定されている。これまで,平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」に基づく対策をはじめとして,毎年,重点事項を示して,その予防対策に取り組んできたところであるが,12次防期間中の発生件数は,平成29年1月現在の速報値で,平成20年から24年までの5年間の発生件数の95%に達し,あと1年を残して,12次防期間中の日標件数を上回り,また,80名を超える労働者が死亡している状況にある。
 このため,熱中症による死亡災害ゼロを目指し,12次防の最終年となる平成29年の下記期間において,事業場における責任体制の確立を含めた熱中症予防対策の徹底を図ることを日的とし,本キャンペーンを展開することにより,重点的な取組を推進し,今後の効果的な対策の推進の端緒とする。
 
2 期間
 平成29年5月1日から9月30日までとする。
 なお,4月を準備期間とし,政府全体の取組である熱中症予防強化月間の7月を重点取組期間とする。
 
3 主唱
 厚生労働省,中央労働災害防止協会,建設業労働災害防止協会,陸上貨物運送事業労働災害防止協会,港湾貨物運送事業労働災害防止協会,林業・木材製造業労働災害防止協会,一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会,一般社団法人全国警備業協会
 
4 協賛
 公益社団法人日本保安用品協会,一般社団法人日本電気計測器工業会
 
5 後援(予定)
 関係省庁
 
6 主唱者及び協賛者等による連携
(1)  主唱者及び協賛者等による連絡会議の開催
(2)  各関係団体における実施事項についての情報交換及び相互支援の実施
 
7 主唱者の実施事項
(1)  厚生労働省の実施事項
  熱中症予防に係る周知啓発資料等の作成,配布
  熱中症予防に係る有益な情報等を集めた特設サイトの開設
    (ア) 災害事例,効果的な対策,好事例の紹介(チェックリストを含む)
    (イ) 熱中症予防に資するセミナー等の案内
  各種団体等への協力要請及び連携の促進
  都道府県労働局,労働基準監督署による事業場への啓発・指導
  その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項
(2)  各労働災害防止協会等の実施事項
  会員事業場等への周知啓発
  事業場の熱中症予防対策への指導援助
  熱中症予防に資するセミナー等の開催,教育支援
  熱中症予防に資するテキスト,周知啓発資料等の提供
  その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項
 
8 協賛者の実施事項
(1)  有効な熱中症予防関連製品及び日本工業規格を満たしたWBGT値(暑さ指数)測定器の普及促進
(2)  その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項
 
9 各事業場の実施事項
(1)  準備期間中に実施すべき事項
  WBGT値(暑さ指数)の把握の準備
 

 WBGT値(暑さ指数)測定器については,JISZ8504又はJISB7922に適合したものを準備しておく。ただし,輻射熱等の影響等により,作業場所によってWBGT値(暑さ指数)が大きく異なることがあるので,その場合には,容易に持運びできるものを準備しておく。
 なお,黒球が付いていない測定器は,日本工業規格に適合しておらず,こうした測定器では,特に屋外や輻射熱がある作業場所においては,WBGT値(暑さ指数)が実際よりも低く表示されることがあるので,これらの場所において作業を行う場合には,必ず黒球が付いているものを準備する。

  作業計画の策定等
 

 夏期の暑熱環境下においては,作業を中止すること,休憩時間を一定時間ごとに十分に確保すること,熱への順化期間を設けること等に配慮した作業計画について,あらかじめ,検討及び策定を行う。

  設備対策の検討
 

 WBGT値(暑さ指数)が基準値を超えるおそれのある場所において作業を行うことが予定されている場合には,簡易な屋根の設置,通風又は冷房設備の設置,ミストシャワー等による散水設備の設置を検討する。ただし,ミストシャワー等による散水設備の設置に当たっては,湿度が上昇することや滑りやすくなることに留意する。

  休憩場所の確保の検討
 

 作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所の確保を検討する。当該休憩場所は臥床することのできる広さのものとする。

  服装等の検討
 

 熱を吸収し,又は保熱しやすい服装は避け,透湿性及び通気性の良い服装を準備する。これらの機能を持つ身体を冷却する服の着用も検討する。また,直射日光下における作業が予定されている場合には,通気性の良い帽子,ヘルメット等を準備する。

  教育研修の実施
 

 各級管理者,労働者に対する教育を実施する。教育は,平成28年2月29日付け基安発0229第1号の別表1及び別表2に基づき実施する。
 教育用教材としては,厚生労働省ホームページに公表されている「職場における熱中症予防対策マニュアル」及び熱中症予防対策について点検すべき事項をまとめたリーフレット等,環境省熱中症予防情報サイトに公表されている熱中症に係る動画コンテンツ及び救急措置等の要点が記載された携帯カード「熱中症予防カード」などを活用する。
 なお,事業者が自ら当該教育を行うことが困難な場合には,関係団体が行う教育を活用する。

  熱中症予防管理者の選任及び責任体制の確立
 

 作業を管理する者であって,上記カの教育研修を受けた者等熱中症について十分な知識を有するもののうちから,熱中症予防管理者を選任し,同管理者に対し,(2)クの同管理者が行う業務について教育を行う。あわせて,事業場における熱中症予防に係る責任体制の確立を図る。

(2)  キャンペーン期間中に実施すべき事項
  WBGT値(暑さ指数)の把握
 

 日本工業規格に適合したWBGT値(暑さ指数)測定器を使用し,WBGT値(暑さ指数)を随時把握する。作業場所が近い場合であっても,太陽照射の有無などによる輻射熱の影響でWBGT値(暑さ指数)が大きく異なることがあることに留意する。
 WBGT値(暑さ指数)測定器が準備できなかった場合には,平成28年2月29日付け基安発0229第1号「平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について」の記の1等に記載された方法を参考とする。
 なお,建設業労働災害防止協会において,建設現場における熱中症の危険度を簡単に判定できるフロー図が作成されており,同協会のホームページに掲載されているので,参考とする。
http://www.kensaibou.or.jp/data/pdf/leaflet/heat_stroke_risk_assessment_chart.pdf

  WBGT値(暑さ指数)の評価
 

 WBGT値(暑さ指数)が別紙の基準値を超え,または超えるおそれのある場合には,WBGT値(暑さ指数)の低減をはじめとした以下ウ〜オの対策を徹底する。

  作業環境管理
 
  (ア)  WBGT値(暑さ指数)の低減等
     (1)ウで検討したWBGT値(暑さ指数)の低減対策を行う。
  (イ)  休憩場所の整備等
     (1)エで検討した休憩場所の設置を行う。休憩場所には,氷,冷たいおしぼり,水風呂,シャワー等の身体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を設ける。また,水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行えることができるよう飲料水,スポーツドリンク等の備付け等を行う。
 作業管理
  (ア)  作業時間の短縮等
     (1)イで検討した作業計画に基づき,WBGT基準値を大幅に超える場合は,原則として作業を行わないこととする。WBGT基準値を大幅に超える場所で,やむを得ず作業を行う場合は,次に留意して作業を行う。
    @  単独作業を控え,休憩時間を長めに設定する。
    A  作業中は心拍数,体温及び尿の回数・色等の身体状況,水分及び塩分の摂取状況を頻繁に確認する。
  (イ)  熱への順化
     熱への順化の有無が,熱中症の発生リスクに大きく影響することから,7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くする。
     なお,夏季休暇等のため熱へのばく露が中断すると4日後には順化の顕著な喪失が始まることに留意する。
     熱への順化ができていない場合には,特にアに留意のうえ,作業を行う。
  (ウ)  水分及び塩分の摂取
     自覚症状の有無にかかわらず,水分及び塩分の作業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を行うとともに,水分及び塩分の摂取を確認するための表の作成,作業中の巡視における確認などにより,定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図る。
     なお,尿の回数が少ない又は尿の色が普段より濃い状態は,体内の水分が不足している状態である可能性があるので留意する。
  (エ)  服装等
     (1)オで検討した服,帽子,ヘルメット等を着用する。
 健康管理
  (ア)  健康診断結果に基づく対応等
     熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある次のような疾病を有する者に対しては,医師等の意見を踏まえ配慮を行う。
    @糖尿病,A高血圧症,B心疾患,C腎不全,D精神・神経関係の疾患,E広範囲の皮膚疾患,F感冒等,G下痢等
  (イ)  日常の健康管理等
     睡眠不足,体調不良,前日の多量の飲酒,当日の朝食の未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることについて指導を行うとともに,必要に応じ作業の配置換え等を行う。
  (ウ)  労働者の健康状態の確認
     作業開始前に労働者の健康状態を確認する。
     作業中は巡視を頻繁に行い,声をかけるなどして労働者の健康状態を確認する。また,複数の労働者による作業においては,労働者にお互いの健康状態について留意するよう指導する。
 労働衛生教育
   (1)カの教育研修については,期間中,機会をとらえて実施する。特に平成28年2月29日付け基安発0229第1号の別表2に示す内容については,雇入れ時や新規入場時に加え,日々の朝礼等の際にも繰り返し実施する。
 異常時の措置
   少しでも本人や周りが異変を感じたら,体温を測定し,体温が高い場合には,水分摂取や濡れタオルの使用等により体温を下げるように努めつつ,病院に搬送するなどの措置をとる。症状に応じ,救急隊を要請する。
 熱中症予防管理者の業務
   熱中症予防管理者は,次の業務を行う。
  (ア)  ウ(ア)のWBGT値(暑さ指数)の低減対策の実施状況を確認すること。
  (イ)  あらかじめ各労働者の熱への順化の状況を確認すること。
  (ウ)  朝礼時等作業開始前において労働者の体調を確認すること。
  (エ)  WBGT値(暑さ指数)の測定結果を確認し,その結果に応じ,作業を中止又は中断させること。
  (オ)  職場巡視を行い,労働者の水分及び塩分の摂取状況を確認すること。
(3)  重点取組期間中に実施すべき事項
 
 作業環境管理
   (2)ウ(ア)のWBGT値(暑さ指数)の低減効果を再確認し,必要に応じ追加対策を行う。
 作業管理
  (ア)  期間中に梅雨明けを迎える地域が多く,急激なWBGT値(暑さ指数)の上昇が想定されるが,その場合は,労働者の熱への順化ができていないことから,WBGT値(暑さ指数)に応じた作業の中断,短縮,休憩時間の確保を徹底する。
  (イ)  水分及び塩分の積極的な摂取及び熱中症予防管理者によるその確認の徹底を図る。
 健康管理
   睡眠不足,体調不良,前日の多量の飲酒,当日の朝食の未摂取等について,作業開始前に確認するとともに,巡視の頻度を増やす。
 労働衛生教育
   期間中は熱中症のリスクが高まっていることを含め,重点的な教育を行う。
 異常時の措置
   異常を認めたときは,躊躇することなく救急隊を要請する。
 
 
別紙
 
表1 身体作業強度等に応じたWBGT基準値
区分 身体作業強度(代謝率レベル)の例 WBGT基準値
熟に順化し
ている人 ℃
熱に順化して
いない人 ℃
0 安静 ◆安静 33 32
1 低代
謝率
◆楽な座位
◆軽い手作業(書く,タイピング,描く,縫う,簿記)
◆手及び腕の作業(小さいベンチツール,点検,組立てや軽い材料の区分け)
◆腕と脚の作業(普通の状態での乗り物の運転,足のスイッチやぺタルの操作)
◆立位 ◆ドリル(小さい部分) ◆フライス盤(小さい部分)
◆コイル巻き ◆小さい電気子巻き
◆小さい力の道具の機械
◆ちょっとした歩き(速さ3.5km/h)
30 29
2 中程
度代謝率
◆継続した頭と腕の作業(くぎ打ち,盛土)
◆腕と脚の作業(トラックのオフロード操縦,トラクター及び建設
車両)
◆腕と胴体の作業(空気ハンマーの作業,トラクター組立て,しっくい塗り,中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業,草むしり,草堀り,果物や野菜を摘む)
◆軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする
◆3.5〜5.5km/hの速さで歩く ◆鍛造
28 26
3 高代
謝率
◆強度の腕と胴体の作業:重い材料を運ぶ
◆シャベルを使う ◆大ハンマー作業
◆のこぎりをひく ◆硬い木にかんなをかけたりのみで彫る
◆草刈り ◆掘る ◆5.5〜7km/hの速さで歩く
◆重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする
◆鋳物を削る ◆コンクリートブロックを積む
気流
を感
じな
いと

25
気流
を感
じる
とき
26
気流
を感
じな
いと

22
気流
を感
じる
とき
23
4 極高
代謝率
◆最大速度の速さでとても激しい活動
◆おのを振るう
◆激しくシャベルを使ったり掘ったりする
◆階段を登る,走る,7km/hより速く歩く
23 25 18 20
(注1)  日本工業規格Z8504(人間工学―WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価―暑熱環境)附属書A「WBGT熱ストレス指数の基準値表」を基に,同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成したもの。
(注2)  熱に順化していない人とは,「作業する前の週に毎日熱にばく露されていなかった人」をいう。
 
表2 衣類の組合せによりWBGT値に加えるべき補正値
衣類の種類 WBGT値に加えるべき補正値(℃)
  作業服(長袖シャツとズボン) 0
  布(織物)製つなぎ服 0
  二層の布(織物)製服 3
  SMSポリプロピレン製つなぎ服 0.5
  ポリオレフィン布製つなぎ服 1
  限定用途の蒸気不浸透性つなぎ服 11

 補正値は,一般にレベルAと呼ばれる完全な不浸透性防護服に使用してはならない。また,重ね着の場合に,個々の補正値を加えて全体の補正値とすることはできない。

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