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作業現場における移動式クレーンの地盤対策について
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1. はじめに
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    susume00_09_01.jpg最近の「クレーン等による現象別災害発生状況(労働省統計)」によると,移動式クレーンでは転倒による死亡災害が約2割を占めている.転倒原因を見ると,(1)移動式クレーンの安定度を超える作業いわゆる過荷重による転倒事故と,(2)クレーンを設置した地盤の支持力不足によってアウトリガーやクローラが地盤にめり込み転倒に至る場合,の2ケースがある.今回は後者における対策すなわち「水平堅土」を確保する上で関係の深い「接地圧」「地盤の補強」等について取り上げる.
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2. 不整地・軟弱地盤による事故例
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アウトリガーやクローラが地盤にめり込み転倒に至った事故としては図1に示すような例がある.

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図1 不整地・軟弱地盤による事故事例

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3. 移動式クレーンの安定性
 
  3.1 安定度
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移動式クレーンの安定度は一般に図2によって表され,安定モーメントと転倒モーメントの比は1.15以上になるように「クレーン等安全規則」や「移動式クレーン構造規格」に定められている。
しかしこの安定度は,「水平堅土」上で静かに運転した場合の値であり,実作業では定格荷重を超えてはならないことはもちろんのこと,それより小さなつり荷質量であっても,地盤がわずかに傾斜したり,アウトリガーフロート部の沈下めり込み,ジブにかかる風圧によってさらに安定度が低下する。従って,その低下分を十分に考慮した作業を行う必要がある。

Wm クレーン本体質量
l2 転倒支点から重心までの距離
Wj クレーンアタッチメント質量   (クレーン及び付属品)
B1 転倒支点からクレーンアタッチメント重心までの距離
W+w つり荷質量(W)とつり具質量(w)の和
l1 転倒支点からつり荷までの距離
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  3.2 反力
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アウトリガーを有するクレーンでつり荷をつり上げたとき,その全質量はアウトリガーの各フロート部がそれぞれ分担して機体を支持する,この支持する力を反力と呼ぶ.またアウトリガーでの分担割合は,ジブの方向によって変化する.
表1にジブ旋回角度45°ごとのアウトリガー反力の例を示す.
なお,アウトリガー1脚にかかる最大反力値は,一般的に(2)式に相当するといわれるが,あくまでも目安であり,正確な値はメーカーに確認することが望ましい.

 P(kN) = (機体質量(t) + つり荷の質量(t)) × 重力加速度(9.8) × 0.7〜0.8 ………(2)

表1 旋回角度のアウトリガー反力
   (50t ラフテレーンの例)
旋回角度 アウトリガー位置 ジブ方向
P1(kN) P2(kN) P3(kN) P4(kN)
0 228.5 23.4 32.7 219.2 前方
45 315.6 83.9 25.8 78.6 右前方
90 233.5 227.1 22.9 20.3 右側方
135 89.5 310.0 84.9 19.5 右後方
180 26.9 225.0 234.3 17.6 後方
225 23.4 81.0 324.8 74.7 左後方
270 21.9 21.3 244.2 216.5 左側方
315 82.5 21.9 98.7 300.8 左前方
360(0) 228.5 23.4 32.7 219.2 前方

作業条件
 アウトリガー張出幅 : 7.4m(Max),
 ジブ長 : 17.55m
 作業半径 : 10.0m,定格総荷重 : 13.0t
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  3.3 接地圧
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クローラクレーンの場合は,地盤に作用する荷重を接地圧で表現する.すなわち,機体質量やつり荷質量はクローラシューで受けているために,(3)式で算出した平均接地圧がよくカタログ等でも使われる.一般的には40〜80(kN/m2)である.(つり荷の質量は含まず)

平均接地圧(kN/m2) = (接地質量(t) + つり荷の質量(t))
× 9.8/クローラシュー全接地面積(m2) ………(3)


しかし,実際の接地圧はジブ方向によって図3に示すごとく三角形分布や台形分布になり,ここで示す最大接地圧が図2の転倒支点に作用することになる.

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図3:旋回角度と接地圧分布(クローラクレーン)


susume00_09_07.jpg正確な最大接地圧算出には機体各部位の質量や重心位置,ジブ方向等の値を把握する必要があり,アウトリガー反力と同様にメーカーに確認することが望ましい.なお,走行時の接地圧分布は図4のようになり平均接地圧の1.2〜2倍(深さ20数cm)になるとの文献もある.
また,アウトリガーのある場合の最大接地圧は3.2項で示した最大反力を地盤に接する部分(アウトリガーフロートなど)の面積で除した値(4)式となる.


 最大接地圧(kN/m2) = 最大反力(kN) / 接地面積(m2) ………(4)

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  3.4 地盤の強度(地盤支持力)
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以上述べた(最大)接地圧に対し,地盤側の強度を地盤支持力や地耐力と呼び,安全率を考慮した呼び方としては許容支持力と呼んでいる.
この許容支持力の目安値は土の種類・性質や性状及びN値(その位置における土の硬さや締まり具合の相対的な値を知るための指標)と共に表2のように示されるのが一般的である.

表2 一般的な土質性状とN値に対応する許容支持力(短期)
土質 性状 N値 短期許容支持力qa(kN/m2)
軟質土 軟らかい粘性質 2<N≦6 100〜300
ゆるい砂質土 4<N≦10 80〜200
中硬質土 中位の硬さの粘性土 6<N≦8 300〜400
中位の締った粘性土 10<N≦40 200〜800
硬質土 硬い粘性土 N>8 400〜600
締った粘性土 N>40 800以下
ローム
(火山灰質粘性土)
軟質 N<3 150以下
硬質 N≧3 150
(社)日本建設機械化協会「移動式クレーン,杭打機等の支持地盤養生マニュアル」より(1kgf≒10Nとして換算.)

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  3.5 地盤の補強  
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移動式クレーンの安定性を判断するには,以上述べた作用荷重(最大接地圧)に対して地盤支持力(許容支持力)が小さい場合は,地盤を補強(養生)する必要がある.補強方法としては
(1) 敷板,敷鉄板等により移動式クレーンの荷重分散を図る(図5)
 

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図5 敷板・敷鉄板の使用例

 

(2) 地盤改良により地盤支持力をあげる(図6)
 

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図6 敷鉄板と表層改良工法の併用例

 

(3)

(1),(2)の併用
等がある.
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図7 荷重の分散状況
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なお,支持地盤補強方法に鉄板等を用いた際の寸法,枚数の目安を表3,表4に示す.


表3 トラッククレーン等のアウトリガー1脚に必要な鉄板等の目安
土質 形状  N値 短期許容支持力
qa(kN/m2)
鉄板厚
(mm)
アウトリガーフロート1脚に作用する荷重(kN)
100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
軟質土 1)柔らかい粘性土 2<N≦6 100-300 25 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m - - - - - -
22
2)緩い砂質土 4<N≦10 80-200 25 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m - - - - - - -
22 6.0x1.5m 6.0x1.5m
中硬
質土
3)中位の硬さの粘性土 6<N≦8 300-400 25 0.6x0.6m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m
22 6.0x1.5m
4)中位に締まった砂質土 10<N≦40 200-800 25 1.2x1.2m 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m -
22 -
硬質土 5)硬い粘性土 N>8 400-600 25 0.6x0.6m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m
22 6.0x1.5m
6)締まった砂質 N>40 800 25 0.6x0.6m 0.6x0.6m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m 1.2x1.2m
22
ローム 7)軟質 N<3 100 25 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m - - - - - -
22
8)硬質 N≧3 150 25 1.2x1.2m 1.2x1.2m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m 6.0x1.5m - - - -
22 6.0x1.5m

※1 0.6×0.6mは厚さ7cmの敷板,他はすべて敷鉄板.
※2 6.0×1.5mは敷鉄板2枚を用いる.
※3 −は敷鉄板では対応できないので他の支持地盤養生方法を検討する必要がある. (社)日本建設機械化協会「移動式クレーン,杭打機等の支持地盤養生マニュアル」より(1kgf≒10Nとして換算)

表4 クローラクレーンに必要な鉄板の枚数
土質 形状  N値 短期許容支持力
qa(kN/m2)
鉄板厚
(mm)
クローラの最大接地圧(kN/m2)
100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600
軟質土 1)柔らかい粘性土 2<N≦6 100-300 25 0 1 2 2 - - - - - - -
22
2)緩い砂質土 4<N≦10 80-200 25 1
2 2
2 - - - - - - -
22
中硬
質土
3)中位の硬さの粘性土 6<N≦8 300-400 25 0 0 0 0
0 1 1 1 1 2 2
22
4)中位に締まった砂質土 10<N≦40 200-800 25 0 0 0 1 1 2 2 2 2
2
-
22
硬質土 5)硬い粘性土 N>8 400-600 25 0 0 0 0 0
0 0 1 1 1 1
22
6)締まった砂質 N>40 800 25 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
22
ローム 7)軟質 N<3 100 25 0 1 2 2 - - - - - - -
22
8)硬質 N≧3 150 25 0 0
1 2 2 2 2
- - - -
22

※1 敷鉄板寸法は6.0×1.5m.
※2 表に示す0は敷鉄板無し(但し,クローラシュで地盤を乱す場合は1枚設ける),1は敷鉄板1枚,2は敷鉄板2枚を用いる.但し,配置は下図による.
※3 −は敷鉄板では対応できないので他の支持地盤養生方法を検討する必要がある.
(社)日本建設機械化協会「移動式クレーン,杭打機等の支持地盤養生マニュアル」より
(1kgf≒10Nとして換算)

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4. おわりに
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移動式クレーンの大型化や利便性をより追求した自動化等クレーン本体の技術進歩はめざましいものがある.しかし,人が介在する運転技術や今回取り上げた地盤との関係等では,従来の経験等を有効に活用する必要がある.
本稿が移動式クレーン転倒災害防止の−助になれば幸いである.

参考文献
(1) 畠昭治郎著「土木教程選書−建設機械学」
(2) (社)日本建設機械化協会発行「移動式クレーン,杭打機等の支持地盤養生マニュアル」
(3) (株)加藤製作所「技術資料」

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