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天井クレーンの感電防止について
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1. はじめに
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    susume01_07_01.jpg図1は平成元年から11年までの移動式クレーンと天井クレーンの感電災害による死亡者数をグラフにしたものです.移動式クレーンは平成元年の7人をピークに減少傾向にありましたが,平成8年から多少上昇に転じています.一方,天井クレーンは死亡災害の発生件数が極端で,発生する年度と発生ゼロ年度がハッキリしており,発生件数が不安定に推移しています.
天井クレーンの保守・点検は,電流が流れている危険な部分に近接した作業となる場合が多いので,特に感電災害に注意する必要があります.事故発生時,死亡事故になるかヒヤリハットですむか紙一重の状況が,このグラフから見えるような気がします.本稿は特に夏場に事故が集中している天井クレーンの感電災害について,その防止対策をまとめたものです.
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2. 感電災害の原因と特徴
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susume01_07_02.jpg感電は100Vのような低い電圧でも人を死に至らしめるほどの重大災害になることがあります.感電災害は一般に,電源に人体の一部が触れたとき,人体を含んだ電気回路が構成されて起きます.
図2は低圧電気で起こる感電災害の例を示したものです.(高圧電気から低圧に下げる変圧器の低圧側の1線は,接地線です.)
大地に立っている人が接地線以外の電線(これを電圧側電線といし)ます)に触れると,点線のように電流が人体→大地→変圧器の接地線→変圧器の低圧側を通って流れ,感電災害が起きます.
電気機器の金属ケースも,絶縁不良などの原因で漏電しているとその部分が充電部になり感電してしまいます.
図3は,最近の産業現場で発生した低圧電気による感電死亡者の月別発生状況を示したものです.これから明らかなように感電災害は夏期(6〜9月)に多く発生していることがわかります.夏期は肌を露出し,身体が汗で濡れていることが多いためです.
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3.感電時の危険性について
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感電災害の種類を図4に示します.この中で実例の多い感電時の電撃による,ショックと更に死亡に至る危険性について以下に示します.感電(電撃)は人体に電流が流れることによって起こります.電撃を受けたとき単なるショックですむか,死亡災害に至るかは,次の因子で決定されます.

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  (1) 人体に流れた電流の大きさ(通電電流)
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人体に流れた電流が大きいほど危険になります.電圧が100,,200Vと同じであっても,夏期は身体が汗で濡れているため,人体抵抗が小さくなり,感電すると大きな電流が流れます.
夏期に感電災害が多く発生するわけはここにあります.
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  (2) 電流が人体に流れた時間(通電時間)
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通電電流の大きさが同じであれば,一般に流れていた時間が長いほど危険です.
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  (3) 電流が流れた人体の経路(電流経路)
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心臓を通るような経路,すなわち,左手から足,胸から背中のような経路に電流が流れた場合危険です.
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  (4) 人体の電撃反応と危険性
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国際電気標準会議(IEC)では,Pub.479-1(1984)で,50,60Hzの商用周波の交流が人体に流れた場合の人体への影響を図5のように示しています.
これによれば,通電時間に関係なく0.5mAの電流を示す直線aより左の領域(1)は,電撃を受けても生理学的に反応がない領域であり,直線aと曲線bで囲まれた領域(2)は,電撃を受けているという感覚はあっても生理学的に危険でない領域,曲線bとcで囲まれた領域(3)は,非常な苦痛,一時的な呼吸停止等を伴うが心室細動は起こらないと言われる領域であり,曲線C以上の領域(4)は,心室細動が起きる危険性のある領域であるとされています

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[心室細動とは]
人体に流れる電流が大きくなると,心臓部分に流れる電流が増加し,心臓が正常な脈動を打てなくなり,けいれんを起こしたような微細な動きになります.この様な状態を心室細動といいます.心臓が心室細動を起こすと血液の循環機能を失い,たとえ電源から離れても,自然には正常な脈動に回復することなく数分以内に死亡すると言われます.

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4. 天井クレーン設備での感電防止対策
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  (1) 天井クレーン設備の感電危険箇所
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天井クレーン設備で発生する感電災害は,保守,点検等の作業で,活線や充電部に接触したり,誤って電源を投入することにより発生しています.感電災害発生事例が多い箇所としては次のような所があげられます.(図6)

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  (2) 天井クレーン設備での感電災害の発生場所と原因
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・感電災害の発生部所別件数は上位から

1.
走行トロリー線部
2. 横行トロリー線部
3. 配電盤部
4. その他
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となっております.

・感電災害の原因別件数は上位から

1. 電源を切ってなかった
間違えて電源を投入した
2. 設備不良によるもの
3. 作業者自身のミス
4. 電源の入り切り連絡不良
5. 通電状態で作業した
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となっております.
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5. 感電災害防止対策
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感電災害を防止する方法は,

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接近を防止するために装置,設備,部品等をカバーする.(ハード対策)
保守・点検する作業者が接近,接触しないように,またしなければならないときの作業手順を確立する.(ソフト対策)


等が防止対策のキーポイントになります.以下に対応策の概要を示します.
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spacer.gif 5-1 ハード対策の事例
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spacer.gif 天井クレーンの活線部分については,前項(1)天井クレーン設備の感電危険箇所として示してあるとおりです.作業者の接近・接触を防止する安全柵やカバー等による防護対策例を以下に示します.
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(1) 走行・横行給電方式の変更
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spacer.gif susume01_07_08.jpgトロリー線(裸線)をケーブルベア方式等に改善する.(図7)
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(2) 安全柵,チェーンの取付
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(1) 安全柵の取付(写真1)
(2) 立ち入り禁止チェーンの取付け及び感電注意』の標識の取付け(写真2)
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(3) 2次抵抗器カバー取付
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spacer.gif susume01_07_09.jpg2次抵抗器に安全カバーを取付け,不意の接触による事故災害の防止を図った.(写真3)
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(4) 電源給電用主トロリー線プロテクター取付
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spacer.gif susume01_07_10.jpg対象クレーンそれぞれにマッチしたプロテクターを設計し取付けた.(図8)
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(5) 付属電源の分離と活線表示
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(1) susume01_07_11.jpg付属電源スイッチを制御盤内から撤去し外部操作式BOXに収納した.(写真4)
(2) susume01_07_12.jpg活線標識(黄地に黒色で活線)等を取付けた.(写真5)
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spacer.gif 5-2 ソフト対策
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spacer.gif 活線部分の保守・点検・作業の場合は,直接通電部分に近接した作業になるため,電源を遮断して通電を止めることが基本です.このために組織的に作業を行い,電源の入切のタイミングのミスにより,電線,電気端子,トロリー,シュー等,点検作業中に突然通電されることのないようにすることです.
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(1) “元を断つ”電源を切る
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spacer.gif 災害発生はそのほとんどが保守・点検作業時です.事例数からしても,感電災害防止で一番大切なことは,保守・点検作業前に必ず電源を遮断すること.これがキーポイントです.電源さえ切れば感電災害は防止できます.チョットの作業時間だからといって電源を切らない作業は命取りになります.必ず電源を切ってから保守・点検作業をしましよう.活線状態で点検を行わなければならない場合には,充電部に接触しないよう,保護網,絶縁保護具を活用し,懐中電灯は絶縁性のものを使用しなければなりません.
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(2) 保守・点検作業時における安全対策のポイント
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感電災害の防止策の基本は“電源を切って,電流を流さないこと”です.しかし,多人数作業による保守・点検で作業場所が離れているとか,どうしても電源スイッチを切ることのできない活線がある等,制約条件の中での作業となることがあります.こんな時はかならず電源・入切の責任者を決めて,その指示に従い作業をすることです.一般的な注意事項のほかに,次の感電防止対策事項も含めて実施することが必要です.ぜひとも作業時の注意項目に加えてください.

(1) 停電の範囲,クレーンを止める位置,条件設定の計画をたてる.
(2)   身体の露出部が少なくなるよう服装を整える.

(3)

  電源遮断(施錠,ロック)投入禁止札の提示をする.
(4)   停電部の電力コンデンサー,ケーブル等の残留電荷を放電し検電器で確認する.
(5)   絶縁防具の取付,条件設定により接地線取り付け,作業区域に立入り禁止区域を設定する.
(6)   見やすい位置に作業中,点検中,頭上注意等を表示する.
(7)   調査時の計測作業を除き活線接近作業をしないようにする.
(8)   作業が終了したら,絶縁測定器,目視にて電路に異状がないか確かめる.
(9)   作業終了は必ず作業責任者が確認を行う.確認した後,絶縁防具を撤去し,電源投入を行い,異常のないことを確かめる.
(10)   関係部門に試運転開始の連絡をする.

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6. 感電事故発生時の処置
 
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  spacer.gif 万一,同僚が目の前で感電事故に遭遇したときは,次の処置をして下さい.
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  (1) ただちに電源のスイッチを切る
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電源のスイッチはすぐに切って下さい.手近にスイッチがない場合には,乾いた布,竹竿,プラスチックのような絶縁性のもので,感電者から接触物を引き離して下さい.ただし,このとき感電者が倒れたり,つかんだ手を離して高所から落ちるようなことがないよう十分に注意して下さい.
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  (2) 感電者を素手でつかまない
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あわてて感電者を引き離そうとして,素手で感電者をつかむと自分も感電してしまうので注意して下さい.
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  (3) ふだんから救急処置をシミュレーションしておく
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感電者を電源から引き離してからの救急処置,たとえば人事不省に陥っている者へ,人工呼吸を早期に行うことによって助かる場合も多いので,普段からそのやり方の訓練をしておくことも大切です.
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あとがき
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『安全のすすめ』では,過去に数回“感電災害防止”について掲載しており,今回はこれらの記事を改めてアレンジ・加筆してまとめたものです.
感電死亡災害は全体的には少ない発生件数にあるものの,依然として毎年発生しております.統計から見える感電死亡災害の裏には,災害まで至らなかった,かなりの数のヒヤリ・ハットが発生しているに違いありません.
最近の全災害の特長は『私だけは,絶対事故を起こすはずがない』という自信を持ったベテランが事故を起こしてしまう例が多い事です.生身の体はいくら仕事のプロであっても,夏の暑いときは,誰でも感や動作が鈍くなります.ベテランはそういう場面でも過信をせず,冷静な判断により,正しい行動と正確な指示を出し,一般災害はもちろんのこと,感電災害防止にも努めていただきたいと願う次第です.なお,「移動式クレーンの感電災害防止」については,クレーン誌第38巻7号2000年に掲載しておりますので御参照下さい.

参考文献

月刊誌「クレーン」
spacer.gif 電気災害防止実務のポイント 第31巻7号1993年  
クレーンの感電災害防止(1) 第32巻7号1994年  
クレーンの感電災害防止(2) 第32巻8号1994年  
クレーンによる感電災害の防止について   第34巻8号1996年  
感電災害ゼロを目指して 第38巻2号2000年
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「クレーン年鑑」

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