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安全保護具の種類と正しい使い方(3)−安全靴−
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はじめに
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皆さんは「安全靴」とはどのようなものとお考えですか.
安全靴とはつま先に鉄の芯が入っており,どんなに重い物が落ちてきてもびくともしない靴くらいに考えてはいませんか.
安全靴は,作業者のつま先を防護するものですが,ここでは安全靴の性能とその限界について説明を致しますので,安全靴の選定とご使用にご活用ください.

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1.種 類
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現在安全靴はJIS 規格の指定品目製品となっており,「JIS T 8101 安全靴」の中で安全性能をはじめとして材料性能や表示,取り扱い上の注意事項などが決められています.

@ 甲被による種類

現在安全靴の甲被としては,革製では牛革,総ゴム製では耐油及び非耐油ゴムが規定されています.
革製安全靴の例 総ゴム製安全靴の例

したがって,人工皮革やビニルレザーや合成樹脂引布などを使用した製品は,例えつま先部に硬質先しんが入っていても安全靴とは呼べず,JIS マークも付けることができません.
昨今ワークショップなどで売っている市販品の 中には,甲被に人工皮革やビニルレザーや合成樹脂引布などを使用し,つま先部に鋼製先しんを装着して「安全靴」として販売している製品がありますが,これらは正確な「安全靴」ではありません.
これらの製品はプロテクティブスニーカーと呼ばれています.(下図に一例を示す)

近年人工皮革の性能も向上してきましたが, 「甲被に人工皮革を使用した製品」を購入してか ら耐久性に問題があることがわかったという事例が多々あり,着用環境によっては向かない場合がありますので,ご購入に当っては十分ご注意下さい.

A 作業区分による種類

安全靴には,安全性能の差によりH 種(重作総ゴム製安全靴の例革製安全靴の例業用),S 種(普通作業用),L 種(軽作業用)の区分があります.近年日本では労働環境の整備が進み,H 種(重作業用)が必要な職場環境は減少しております.
もともとH 種(重作業用)は,鉱山作業や鉄鋼・造船作業の一部で使用されていましたが,設作業などでは,昨今はほぼS 種(普通作業用) 及びL 種(軽作業用)が使用されています.
JIS 規格に規定された安全靴の安全性能では, 主に耐圧迫性能と耐衝撃性能があります.
耐圧迫性能とは,靴のつま先部を平行な盤にはさみ,ゆっくりと圧迫力をかけてゆく(潰してゆく)という試験方法で,規定荷重になるまで徐々に力をかけたときに,潰れた状態での先しんと靴の中底のすきまがサイズごとに規定されています. (サイズ26.0の場合14.0mm 以上)
一部のユーザーの方はこの1t の荷重という数値をとらえ,1t でも大丈夫と考えている場合がありますが,これはあくまでゆっくりと徐々に潰した場合の試験であって1t の物体が落下してきたような場合とは条件が異なりますので注意が必要です.

表1 圧迫試験の規定荷重(圧迫力)
記号 圧迫力
H 種 15kN(15キロニュートンと呼び,約1.5tの荷重に相当します.)
S 種 10kN(10キロニュートンと呼び,約1tの荷重に相当します.)
L 種 4.5kN(4.5キロニュートンと呼び,約450kg の荷重に相当します.)
安全靴の圧迫試験装置(圧迫前) 安全靴の圧迫試験装置(圧迫後)

物体の落下時の性能には,耐衝撃性能があります.
この試験は,先端がくさび形の20kg の錘を規定の高さからつま先先しん部に落下させたときに, へこんだ状態での先しんと靴の中底のすきまがサイズごとに規定されています.(サイズ26.0の場合14.0mm 以上)
S 種の場合では,先しん部に加わった衝撃エネルギーは,計算上は20×9.8×0.36=70J(70ジュールと呼ぶ)となりますが,ここで70J といってもどの程度の衝撃なのかわかりづらいと思いますので,この衝撃エネルギーをボーリングに置き換えて分かり易く言いますと,15ポンド(約7kg) のボーリング用ボールを胸の前に構えた位置(約1m)からつま先に自由落下させたときの衝撃エネルギーとほぼ同等となります.

表2 衝撃試験の規定落下高さと衝撃エネルギー
記号 落下高さ
衝撃エネルギー
H 種 51cm 100J(100ジュールと呼びエネルギーの単位です.)
S 種 36cm 70J(70ジュールと呼びエネルギーの単位です.)
L 種 15cm 30J(30ジュールと呼びエネルギーの単位です.)
安全靴の衝撃試験装置(落下前) 安全靴の衝撃試験装置(落下後)

B 付加的性能による種類
JIS 規格では,安全靴の必須性能項目(耐圧迫, 耐衝撃,表底のはく離抵抗など)の他に,付加的性能項目があります.
これは,プラスアルファの性能であり,次の項目があります.
イ. 耐踏抜き性(記号P)
ロ. かかと部の衝撃エネルギー吸収性(記号E)
ハ. 足甲プロテクタの耐衝撃性(記号M)
耐踏抜き性とは,靴底面からの突起物などの踏み抜きを防止する性能であり,釘やその他突起物が作業場にあるような環境で必要な性能です.
かかと部の衝撃エネルギー吸収性とは,かかと部の衝撃を和らげる性能であり,歩行が多い作業環境などでの疲労軽減に必要な性能です.
足甲プロテクタの耐衝撃性とは,つま先だけではなく甲部の保護が必要な作業において必要な性能です.またJIS 規格の次の見直し(本年度)では,ここに「耐滑性」が加わる予定になっています.転倒による4日以上の休業を要した労働災害人数は年間22,500人(平成13年)と言われており, 労働災害の中における転倒災害は16.1%を占め, この割合は増加しています.
このような状況においての耐滑性の規格化であり,安全靴のJIS 規格は市場ニーズに合わせた改正に向かって着実に動いています.
次のJIS 改正では耐滑性が必要な職場に対しての耐滑性の目安としての動摩擦係数0.2以上という規格値が盛り込まれますので,より選択肢が増えるものと考えます.

このようにJIS 規格に適合した安全靴(JIS マーク表示品)は,基本性能はもちろん様々な作業環境に対応する性能を有しており,安心してご使用頂けるものになっております

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2.構 造
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安全靴の構造は,何と言ってもつま先部に保護先しんが装着されていることが必要ですが,最近の傾向として従来の鋼製先しんに代わり,軽量の強化樹脂製先しんが使われるようになってきました.
この結果,安全靴の軽量化が進み,又靴としての全体の重量バランスがとれるようになり,履き心地の向上につながっています.

従来の鋼製先しん 強化樹脂先しん

また,近年安全靴にも健康,快適(コンフォート)の考え方が取り入れられるようになり,
@ 表底部の2層構造によるクッション性及び軽量化,耐久性の向上
A アーチクッションによる足の舟状骨の低下の抑制
B アーチサポート構造による着用中の足の横ぶれの防止
C 踏まず部のシャンク構造による歩行時の靴のかえり性能の向上
など疲労防止につながる性能が大幅に向上しています.

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3.選ぶポイント
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安全靴の選ぶポイントは,次のとおりです.
@ まず作業に合った安全靴を選ぶ.
作業環境別には,次のようなものがあります.
  a. 溶剤などを取扱う作業では,底材がその溶剤に対して耐性をもっていると共に,できれば防爆の観点から静電靴の着用が望ましい.
  b. 滑り易い床面での使用では,耐滑性に優れた靴が必要.
  c. 高熱作業場での使用では耐熱靴が必要.
  d. 高所作業場での使用では高所作業に適した比較的屈曲性に優れた靴が望ましい.

また安全靴には,形状別に短靴,編上靴,長編上靴,半長靴などがあり,それぞれ用途が異なっており,短靴は,形状的に動き易いことから最も一般的に使用されています.編上靴,長編上靴は, アキレス腱,踝の保護機能をもっており,丈寸法はタイプにより様々なタイプがあり,半長靴は, 着脱が容易であり,外部からの水,埃などの浸入をある程度防止するという機能を持っています.
この他に着脱性を高めたファスナー仕様やマジックバンド仕様など種々の形状がありますので, ご選定時はメーカーにご相談下さい.
短靴 編上靴
長編上靴 半長靴

A サイズの選定に当っては,できるだけ実際に足入れを行って選定して下さい.

  a. 足は着用を続けてゆきますと朝と夕方で寸法が変わってきますのでサイズ選びは出来るだけ午後が望ましいと考えます.
  b. まず足を前一杯に移動させた状態でかかとに人差指が軽く入ることを確認します.
  c. 次に靴ひも又はマジックバンドなどを締めた状態で,甲部がきつくないことを確認します.
  d. 同サイズの靴でもメーカーやデザインが変わると足入れの感覚が変わる場合がありますので, ご注意下さい.
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4.点検と交換の目安
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安全靴の点検は,始業時に靴の外観を確認することをお薦め致します.
確認項目は,
@ 甲被(甲革)に破れはないか.
A 表底の意匠が著しく摩耗していないか.
B 表底を曲げてみて細かい亀裂が入るような劣化が生じていないか.
C 甲プロテクタ製品については,安全靴の先しん後端にプロテクタ本体が3mm 以上重なっているか.
などがあり,いずれも問題がある場合には,速やかに交換することをお薦め致します.また,静電靴については,始業時に帯電防止性能(電気抵抗値) を測定することをお薦め致します.
交換の目安については次のとおりとなります.
@ 先しんが露出したもの
A 甲被が破れているものや,縫糸切れ・履口損傷の著しいもの
B 甲被のサイド部,接着際が破れているもの
C 靴底が割れているもの
D 底が剥がれているもの
E 靴底が減って意匠がなくなったもの
最後に,安全靴の取扱い方法については,靴箱や挿入チラシなどに記載された注意事項を確認の上ご使用頂くと共に,安全靴の着用は,万が一の場合に足指を守る「保険」ですので,今後とも引き続き作業時には着用を励行されることをお薦め致します.

(ミドリ安全(株)笠井一治)
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