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移動式クレーンの共づり作業について
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はじめに
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 移動式クレーンによる共づり作業(「相づり作業」ともいう)は,移動式クレーン相互の運動の差異等によって危険な状態が発生する可能性があるため,安全上原則として行わないことになっている.しかし,実際の作業現場においては臨時的で短期間の作業であったり,作業条件・環境に制限があり代替の方法が採用できない場合等,作業の性質上やむを得ない理由により,共づり作業を必要とする場合がある.
 一方,ISO12480-1:1997(Cranes-Safe use- Part1:General)では,共づり作業に関する条件(クレーンの定格総荷重と作業可能な吊り荷の質量など)が規定されている.また,昭和50年に労働省労働基準局長から発令された通達「荷役・運搬機械安全対策について」の中に,2台の移動式クレーンによる共づりは原則禁止させること,やむを得ずこれを行う必要がある場合で,かつ作業指揮者の直接指揮のもとに行わせるときに限定されることなどが規定されている.
 (社)日本クレーン協会では,これらの実態を踏まえて,移動式クレーンの共づり作業は必要な作業形態の一つであるという観点から,実機を用いた実験を行って,共づり作業時の2台のクレーンに対するつり荷の影響を調査した結果をもとに,これら法令,規格などを参考にし,共づり作業の指針を2002年にまとめた.本稿では,この指針の内容について解説するとともに,実作業における留意事項,遵守事項などについてまとめた.

 


1.共づりの作業例
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(共づりとは,複数の移動式クレーンで1つの荷を吊り上げる作業をいう.作業の例としては,以下のようなものが挙げられる.

@ 1台ではたわんでしまう長物のつり上げを,2台以上の移動式クレーンで行う作業
 長尺の橋梁桁材など,中央部分をつり点としてつり上げたときに,部材が大きくたわんでしまったり,多大な曲げ応力により部材が破損する恐れのある場合(写真1).

A 長い構造物の建て起こしを,2台の移動式クレーンで行う作業
 部材の上部をつり点とし,地面に接する下部を支点として1台で建て起こしたときに,荷の振れ,転がりが発生したり,支点部分が変形する恐れのある場合(写真2〜6).

B 1台では能力が不足する場合に,2台以上の移動式クレーンでつり上げる作業
 作業条件として大型クレーンの設置が困難な場合や,対象となる重量物のつり上げ頻度が少ない場合.

   
写真1 長物部材のつり上げ
   
写真2 鉄骨柱の建て起こし@
写真3 鉄骨柱の建て起こしA
写真4 鉄骨柱の建て起こしB
写真5 円形タンクの建て起こし@
写真6 円形タンクの建て起こしA 写真7 重量物のつり上げ
   

 


2. 共づり作業の特性
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 移動式クレーンは,旋回,ジブの起伏,フックの巻上げ下げの操作を単独あるいは複数を組み合わせて行っている.したがって,1台のクレーンでは容易に行える動作も,2台のクレーンによる共づり作業では非常に複雑な動作になる場合が多いので,細心の注意が必要である.

(1)吊り荷の傾き
 図1に示すように,単独づりの場合はフックの高さが変化してもクレーンに加わる負荷は変化せず,一定である.これに対し共づりの場合は,2台のクレーンフックの相対的な高さが変化し荷が傾くと,荷の高くなった方のクレーンに加わる負荷が増加する.したがって,共づり作業における荷の移動(建て起こし作業は除く)では,荷の傾きが発生しないように2台のクレーンフックのレベルを常に監視し,慎重な合図と運転が必要となる.
また,長手方向の2点を吊り点とし,フックに玉掛け用ワイヤロープのアイを掛ける「目掛け」とした場合,吊り荷の傾きにより2本のワイヤロープに作用する負荷が変化し,上側のロープの負荷が増加するので,玉掛け用具の選定において安全荷重に余裕をみることが必要である(図3).

(2)クレーンフック間の水平距離
 2台のクレーンの旋回操作を含んだ荷の移動では,クレーンフック間の水平距離が離れ過ぎたり,近づき過ぎないように監視し,適切な合図により各々のクレーンの動作を慎重に調整しながら行わなければならない.クレーンフック位置が横にずれると,2本のワイヤロープに作用する負荷が変化するだけでなく,2台のジブの衝突,ジブと相手の巻上ワイヤとの接触,半掛けしたつり荷の脱落等の事故につながる恐れもある.

(3)建て起こし作業
 共づりによる建て起こし作業では,上側のクレーンの負荷が徐々に大きくなり,最後に吊り荷の質量が全て作用するので,1台でつり上げる能力のあるクレーンおよび玉掛け用具類を選定する.
また,建て起こし完了間際では,つり荷の下部をつり上げていたクレーンに作用する負荷が急激に低下するため,2台のクレーンフックの位置によって荷が急激に回転することもあるので,慎重な合図と確認,広い範囲にわたる作業区画と立ち入り禁止処置が必要である.

 


3. 作業に伴って実施すべき事項
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 共づり作業を行う場合は,クレーン等安全規則に規定された内容(第66条の2,第70条の3,第70条の4,第70条の5,第71条,第74条,第74条の2,第74条の3,第75条,第78条)を遵守し,かつ「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」に基づくとともに,以下の項目については,特に検討,実施しなければならない.

3.1 移動式クレーンの能力

共づり作業に伴う移動式クレーンに加わる最大負荷は,それぞれの移動式クレーンの定格総荷重の75%以内であること.
ISO12480-1では,以下の条件が明確になっていれば通常の定格総荷重までの範囲で作業ができるとあり,明確ではない場合には定格総荷重の25%以上を低減するとある.

 @ つり荷の質量が正確にわかっていること.

 A つり荷の製作誤差,溶接質量誤差等が考慮された重心位置が明確であること.

 B つり具の質量が明確であること.

 C つり具に作用する力が明確で,強度が十分満足できること.

 D 操作特性,ブレーキセッティングの違いによる作用力を最小にすること.

 E ジブポイントに作用する作用力の角度,大きさをモニタリングし,最適にすること.

 実際には,これらの条件を明確にすることは不可能なので,日本クレーン協会の指針ではこの内容は採用せず,作業時に予期せぬ移動式クレーンの誤作動,あるいは誤操作により負荷が増大した場合の転倒などに対する安全余裕を確保すること,また従来からも使用クレーンの能力に余裕を持たせていた点からも,作業負荷は使用するそれぞれの移動式クレーンの能力の75%以下としている.

3.2 玉掛け作業責任者の指名

「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」の「玉掛け作業責任者」は,特に経験豊かな者1名を指名すること.

 実際の作業において,玉掛け作業責任者に課せられる役割は非常に重要であり,適切な総合判断と指示のできる経験豊かな者を指名する必要がある.
□玉掛け作業責任者が実施する事項(「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」より)

つり荷の質量,形状及び数量が事業者から指示されたものであるかを確認するとともに,使用する玉掛用具の種類及び数量が適切であることを確認し,必要な場合は,玉掛用具の変更,交換等を行うこと.
クレーン等の据付状況及び運搬経路を含む作業範囲内の状況を確認し,必要な場合は,障害物を除去する等の措置を講じること.
玉掛けの方法が適切であることを確認し,不適切な場合は,玉掛け者に改善を指示すること.
つり荷の落下のおそれ等不安全な状況を認知した場合は,直ちにクレーン等の運転者に指示し,作業を中断し,つり荷を着地させる等の措置を講じること.

3.3 長物のつり上げ

1台ではたわんでしまう長物のつり上げを,2台以上の移動式クレーンで行う場合,
@作業開始前に打ち合わせを実施し,作業手順を作業に携わる者に周知させること.
A使用する移動式クレーンは,原則として同一機種とすること.
B移動式クレーンは,原則として巻上,起伏のみの操作で作業すること.

 使用する移動式クレーンの機種の違いによる巻上,起伏等の各操作速度の違いを極力抑えるため,長物のつり上げ作業においては同一機種とすることを原則としている.また,つり上げ位置と取り付け位置をできるだけ近くし,かつ移動式クレーンを側面に配置することによって,極力円運動となる旋回操作を避け,巻上,起伏のみの操作で作業できるように計画する(図8).

3.4 長い構造物の建て起こし

長い構造物の建て起こしを,2台のクレーンで行う場合,
@構造物上部をつる移動式クレーンは,つり上げる構造物の質量を1台でつり上げる能力を有すること.

 3項で述べたように,建て起こしの最終段階では,上部をつる移動式クレーン単独で対象物をつることになるので,上部をつる移動式クレーンは対象物を1台でつれる能力が必要である.また,玉掛け用具など負荷の作用する部材についても,同様である.

3.5 能力不足による共づり

1台では能力が不足するため,2台以上の移動式クレーンでつり上げる作業の場合,
@作業計画作成時に手順書を作成し,事前に打ち合わせを実施して,
  作業手順を作業に携わる者に周知させること.
A同一機種のクレーンを用いること.

 移動式クレーンの能力が不足するため,やむなく共づりを行う場合の留意事項は,4.3の長物の場合に準ずる.

4.6 その他留意事項

@共づり作業におけるオペレータへの合図は,複数の同時通話可能な無線システムを採用することが多いが,各々のオペレータへの合図は明確に区別できるようにし,誤操作を防止する.
A共づり作業の監視責任者は,共づり作業全体がよく見渡せる位置に配置する.揚重物が長大であったり,夜間工事などで確認しにくい場合は複数の監視人による相互連絡システムを採用したり,監視カメラなどを併用する.
B旋回操作を伴う共づり作業では,ジブの起伏,巻上げ下げとの併用操作となり複雑な動作となることが多い.このため,つり荷の水平度だけでなく,ジブ同士あるいはジブ先端と相手の巻き上げワイヤとの接触,ジブの下面と吊り荷との接触などにも十分注意して作業を行う.

 移動式クレーンによる共づり作業は,運転者,合図者,玉掛け者の意思の疎通が不可欠であり,各人の行動を明確にしておく必要がある.このためにもクレーン等安全規則に定められた規定を遵守するのは勿論であるが,特にこの作業では,2台以上の移動式クレーンが同じ目的の作業を実施するという点からも,各作業者が各人の役割を認識し,作業内容,手順の周知徹底を図ることが重要である.



 

((株)竹中工務店東日本機材センター土屋敏明)

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