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ホイールクレーン災害と安全ポイント
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1.はじめに
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 厚生労働省安全衛生部安全課が纏めた平成18年のクレーン等による業種別・機種別死亡災害の発生状況(表1)をみると,機種別では移動式クレーンによる災害が45%を占めており,その内3分の1がホイールクレーンにおいて発生しております。
  また,業種別では建設業の割合が移動式クレーン全体では約7割,ホイールクレーンでは8割に達しています。
  同じく現象別・機種別の状況(表2)では,ホイールクレーンにおける死亡災害(15名)のうち,9名(60%)がつり荷の落下等の落下によるもの,3名がつり荷の転倒等の挟圧によるもの,2名が作業床等からの落下の墜落によるもの,機体,構造部分が折損,倒壊,転倒したもの1名となっています。
  上記の内容からも,ホイールクレーンの災害の多くは,作業者が,安全装置を含む機械の構造,操作に関する知識,クレーン作業における安全ポイントが十分に分かっていれば,防げたものと思われます。
  従って,本稿では,ホイールクレーンの中でも特に台数の多いラフテレーンクレーンのクレーン作業における安全ポイントについて述べます。

 


 


2.ラフテレーンクレーンの安全知識
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(1) アウトリガー設置時の安全について
  アウトリガーのフロートを設置する時には,地盤には最大接地圧以上の支持力が必要です。
  支持力が足らなければ,クレーン作業中にフロートが沈下し転倒する恐れがあります。
   

(2) 機械による荷重と反力
  機械を設置した地盤には機体の質量とつり荷重の重量がかかり,その反作用として,アウトリガーのフロートやタイヤの地面と接触している部分には,地面側から重量を支えようとする力が発生します,これを反力と言います。
  図1に示すようにクレーンの上部本体が約45°旋回した時に最大となり1本のアウトリガーフロートにかかる荷重は機体質量とつり荷重の合計の70%〜80%にも達します。
  したがってアウトリガー設置地盤の支持力はこれ以上必要になります。

*豆知識

 アウトリガー設置時にはタイヤを地面から離すことにより,タイヤへの反力が無くなり,タイヤがウエイト代わりとなって機械は安定します。
 
(3) 機械の接地圧
  地盤にかかる最大の荷重を地面に接するアウトリガーフロートの面積で割った値が最大接地圧です。
  フロート部の接地面積が広いほど接地圧は小さくなり,フロートが地面に沈下しにくくなります。
【最大接地圧の計算例(ラフテレーンクレーン25tクラス)】
*1cm あたりに直すと15.2kg の荷重がかかっておりこれ以上の荷重がかかると地盤は沈下します。
*ここでたとえば85cm 四方の広い敷板を使用すると接地圧は下記のようになります。
 
(4) アウトリガーの張り出し幅は均等に!
  下図のようにアウトリガーを異張り出しした状態で後方づりをした場合,全張出し時と比べて安定度は変わりませんが,右後ろのアウトリガーフロートの接地圧は左後ろのアウトリガーフロートに比べて大きくなり地盤に沈下するおそれがあります。
  上記の内容を身近な例を挙げて説明しますと(図3参照),B さんの天秤棒の方がA さんに比べて短いため,Bさんの持つ荷重の方が大きくなります。
  よってB さんの足元の接地圧はA さんより大きくなるわけです。
 
(5) アウトリガー設置時のチェックポイント
  @ 地盤の固さ(支持力)
  A その作業での最大反力
  B その作業での最大接地圧
  C 接地圧は地盤の支持力より小さいか
  D 接地圧は小さく支持力は大きく

*豆知識

<接地圧の例>
@乗用車: 150〜200kpa(1.5〜2.0kg/cm2)
(タイヤの空気圧とほぼ同じ)
A油圧ショベル: 50kpa(0.50kg/cm2)
(本体質量20t クラス)
B人間: 長靴40〜50kpa(0.4〜0.5kg/cm2)
スキー3〜5kpa(0.03〜0.05kg/cm2)
 
(6) アウトリガーロックピンの挿入は確実に!
  アウトリガービームにロックピンを挿入していなければ,オーバーロードでクレーンが傾いた時にビームが縮小してしまうこともあります。必ずアウトリガー張り出し時にはロックピンを挿入します。(図3を参照)
  また,ビーム格納時にもロックピンを挿入して,走行中ビームが出ないようにする必要があります。
   

 


3.つり荷走行及び定置づり時の安全のポイント
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 ラフテレーンクレーンは,一定の使用条件を遵守すれば,つりに走行及び定置づりが可能となりますが,つり荷走行は不安定で危険を伴うため,各メーカが示すつり荷走行条件と性能表に従って行って下さい。
 
(1) つり荷走行
  @ タイヤの空気圧が各メーカが示す規定圧になっていること。
  A サスペンションロックシリンダーを最縮小状態でロックすること。
  B 走行速度は2km/h 以下で,急発進,急ブレーキ,急変速,急ハンドル操作は行わないこと。
  C 走行地盤は水平で,タイヤの接地圧に耐えられること。
  D 主ジブ長さは出来るだけ縮小状態であること。補助ジブの使用は禁止する。
  E つり荷走行時の性能は,前方,後方,側方とそれぞれ定格総荷重が異なります。側方領域への旋回は過負荷になる恐れがあるため特に注意すること。
  F つり荷は地切り程度の高さを保持し,荷振れしないようにフロントバンパ等で支えたり,ロープ等で防止すること。
  G 走行中はクレーン操作は行わず,旋回ブレーキは確実にロックすること。
  H アウトリガーフロートは地面に近づけておくこと。

(2) 定置つり
  アウトリガーを使用せず,一定の位置に停車して荷をつる作業を行う場合は下記の条件に従って下さい。

  @ 規定のタイヤ空気圧になっていること。
  A パーキングブレーキをかけること。
  B サスペンションロックを必ず作動させること。
    (スプリングロックとも言います)

(3) 後方安定度
  アウトリガーを設置しないで,クレーン作業を行う場合は,後方安定度にも注意して下さい。
  荷をつらない状態でアウトリガーを使用せず,主ジブの長さを最縮小,主ジブ角度を最大にした時に主ジブ側の転倒支点Aにラフテレーンクレーンの質量に重力加速度を乗じた値の15%以上の荷重が残っていなければなりません。

*質量25t のラフテレーンクレーンの後方安定度の計算例。

W×(g×0.15) g=9.8m/s
=25,000kg×9.8m/s ×0.15
=36,750N(=3,750kg)
*豆知識!
@ サスペンションロックを作動させることは,後方安定度を確保するための重要な条件です。
A クレーン作業の前には必ずサスペンションロックを作動させてから使用して下さい。
B サスペンションロックを最初にロックさせなければ,PTOスイッチを入れてもアウトリ
ガー等の各部装置が作動しないクレーンもあります。
C PTOスイッチを入れるとサスペンションシリンダがその位置でチェックバルブによってロックされるクレーンもあります。
(サスペンションロック入れ忘れ時に役立ちます)

 


4.移動式クレーンの安定度について
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 移動式クレーンの安定度には,前方安定度と後方安定度があります。
  後方安定度については前述しましたので,前方安定度について説明します。
 
(1) 前方安定度
  前方安定度とは,定格荷重(定格総荷重からつり具等を引いた実際に,つり上げることのできる荷重)の1.27倍に相当する荷重をつって,最も不利な条件で地切りできることを言います。(水平堅土上で静かに運転した場合の値)
  労働局の立会いの下でこの基準に合格したクレーンがお客様のところへ出て行きます。
  もちろん,日本国内で使用するクレーンの過負荷防止装置は,定格荷重1.27倍(127%)の78%を過負荷防止装置の警報点(100%)としています。
 
(2) 強度域と安定度域
  クレーンの能力には,ジブや油圧シリンダ等の部材の強度によって決められた強度域と,安定度によって決められた部分の安定度域があり,定格総荷重表には図6の例に示すように,表中の一定の部分を太い線で囲み色でも区別しています。
*強度域での過荷重はジブ等の損傷をまねきます。
*安定度域の過荷重は機械の転倒につながります。
 
(3) 伸縮ジブのたわみ
  伸縮ジブの部材には軽くて丈夫な高張力鋼が使われていますが,比較的高い応力で使われているため,ジブの長さとつり荷の質量に比例してたわみが生じやすく,これによって作業半径が大きくなり機体の安定にも影響を与えます。
  また,つり荷を地切した時にジブのたわみ分だけつり荷が移動するため,玉掛け者が壁などに挟まれる恐れがあるので,つり荷作業時には注意が必要です。
*豆知識
高張力鋼(High-Tensile Steel)ハイテン
  引張強さ490N/mm (50kg/mm )以上を高張力鋼と呼びます。
引張にも圧縮にも強い,強度の高い鋼です。
  高張力鋼を使えばそれだけの高い応力に耐えられるため少しでも自重を軽くしたいクレーンのジブには最適です。
  溶接する前に,あらかじめ予熱をする必要があるなど,十分に管理した溶接が必要となりますので,ジブへの溶接は禁止です。
 
(4) 風が安定におよぼす影響
  つり荷が大きければ大きいほど,高ければ高いほど,ジブが長ければ長いほど,風の影響を受け易いので注意が必要です。
  特に風を受ける面積が広い鉄板などをつっている時のジブ前方,後方,側方からの風は,機械の転倒やジブの損傷の恐れがあります。
  風速10m/秒を超える時は,作業を中止してジブを全縮小し,角度も風の影響を受けない位置まで下げて,旋回ブレーキをかけ,ロックピンを入れておく必要があります。

 


5.ラフテレーンクレーンの安全装置
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 クレーン作業にあたっては,人為的ミスによる大事故の危険性がつきまとっています。
  クレーンの転倒事故は,現場が狭く,アウトリガーを異張出し状態で作業中,張出し状態を忘れて旋回し転倒したケースが多く,これはまさしくオペレーターのうっかりミスによるものです。
  これらのうっかりミスを防止するために次のような安全装置があります。
 
<旧機種またはメーカーによっては装着されていない場合もあります>
(1)アウトリガー張り出し幅自動検出装置
(2)旋回自動停止装置
(3)作業領域制限装置
(4)乗降遮断装置
(5)フリーフォールインターロック装置


(1) アウトリガー張出幅自動検出装置
  アウトリガー張出幅検出センサを備えて張出し幅を自動的に検出すると同時に,張出し幅表示ランプも操作に伴い自動的に点灯し,オペレーターの手動セットによる誤作動を防止しています。
  また,アウトリガー水平張出し後の垂直張出し忘れ防止のために,垂直操作後に始めてセット可能となります。
  セットは確認ボタン操作を行うことで完了し,さらに,音声アラームにて,地盤状況,フロートの接地確認を再度促します。


(2) 旋回自動停止装置
  安全装置として従来より装着している過負荷防止(停止)装置に加えて,過負荷状態時に旋回を停止させるものです。
  旋回は急停止すると荷揺れによる転倒,衝突,ジブの破損の恐れから自動停止が採用されていませんでしたが,最近では各メーカーともに採用されています。
  アウトリガー異張出し長さを自動的に読み取り,各旋回角に於けるクレーン能力を演算し,危険側に旋回するときは,旋回緩停止制御にて,危険位置までに旋回が自動的につり荷の揺れを最小限に抑えるようにして旋回を停止させます。
  さらに,音声を付加し,オペレーターに事前に注意を促しています。
予報域:旋回停止制御開始4秒前より「旋回注意」
の音声アラーム発生。
制御域:「旋回停止します」の音声アラーム発生。


(3) 作業領域制限装置
建物の内部や狭あい地などで作業する場合に,うっかりミスによるジブ等の接触防止を未然に防止させる装置です。
  ジブの起伏角度,揚程,作業半径,旋回角度の作業領域制限(各々自動停止して欲しい位置までクレーンを操作した後)をパネル上のスイッチで設定することで自動的に停止させ,事故を防止することができます。

 

(4) 乗降遮断装置
  オペレーターが席を離れるときには,ドアー部にある乗降遮断レバーを起こさなければならない構造になっており,この動作と連動して全てのクレーン動作が停止します。
 
(5) フリーフォールインターロック装置
  ウインチ中立ブレーキモードからフリーフォールモードにするための切り替えクラッチレバーは,ブレーキペダルを踏んだ状態で,同時にレバーを押さなければフリーフォール側に切り替わらない構造になっています。
 
(6) 過負荷防止システムの概要
  過負荷防止システムは,過負荷防止装置(モーメントリミッタ)を中心に,下図のようにシステム構成されます。
 @モーメントリミッタ
各検出器からの信号を基に,ジブ長さ,ジブ角度,作業半径及びアウトリガーの張出し幅を演算し表示する。
  各検出器からの信号を基に定格総荷重及びつり荷重を演算し表示する。
  負荷率から判定して予報,警報,自動停止の各出力を行う。
  過荷重時の危険側操作に対しては作動を停止する。
 A角度計
  ジブ角度に応じた電気信号をモーメントリミッタに出力する。定格総荷重,つり荷重の演算にも用いる。
 B長さ計
  ジブ長さに応じた電気信号をモーメントリミッタに出力する。定格総荷重,つり荷重の演算にも用いる。
 C圧力検出器
  起伏シリンダの圧力を電気信号に変換しモーメントリミッタに出力する。つり荷重の演算に用いる。
 D作業半径
  ジブ長さと角度からの信号を基に作業半径を計算する。
片方の信号が,ない場合は定格総荷重及びつり上げ荷重の演算ができなくなりクレーンは停止する。
 E各リミットスイッチ
  フックの巻き過ぎ時に作動し巻き過状態を防止する。
  レバー操作の作動(上げ下げ,伸縮,左右)検出を行う。
F旋回角度検出器
  旋回角度に応じた電気信号を上部コントローラに出力する。旋回自動停止の演算に用いる。
  当検出器に異常があると正確な旋回自動停止ができなくなる。


 


6.あとがき
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 ラフテレーンクレーンの運転の安全を図るためには,基本的な事項をきっちり遵守する,そして種々の安全装置を理解して作動させることが重要です。
  そのためのポイントを下記に記載します。

@ アウトリガーフロート部の地盤の確認と養生を行う。
A 接地圧を小さくするための敷板を敷く。
B アウトリガー張出幅は最大,均等でロックピンを挿入する。
C 安全装置(過負荷防止,旋回停止)の解除は絶対に行わない。(解除キーは安全管理者が保管する)
D 各種安全装置を理解し安全作業に役立たせる。

 

(コベルコ建機(株)カスタマーサポート部サービス技術Gr西村四郎)


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