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トラッククレーン・オールテレーンクレーン災害と安全ポイント
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1.はじめに
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 厚生労働省安全衛生部安全課がまとめた平成18年のクレーン等による業種別・機種別死亡災害の発生状況をみると,機種別では移動式クレーンによる災害が45%を占めていて,その内の16%がトラッククレーンにて発生しています。
  また,業種別では移動式クレーンによる死亡災害45名の内の69%が建設業で発生,トラッククレーンによる災害7名の内2名(29%)が建設業,2名(29%)が港湾荷役業で発生しています。
  現象別・機種別死亡災害の発生状況をみると,トラッククレーンによる災害7名の内4名(58%)が吊り荷の落下によるもの,2名(29%)が挟圧によるものとなっています。超大型機種では一般的なクレーン作業での災害より,搬入,搬出の準備,片付け作業時に複雑な機構を多人数で同時に操作することで発生する災害が懸念されるので,その機構を紹介し安全ポイントを示します。

 


2.分類と歴史上の位置付け
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 トラッククレーンの走行による分類では,貨物トラックと同様な走行機構の「トラッククレーン」と,多軸駆動多軸操舵の「オールテレーンクレーン」に区別されます。
  トラッククレーンは一般道路をタイヤで高速走行できるクレーンで,クローラクレーンに対し機動性のよさが特長。戦後の復興,高度成長とともに数を増し進化してきました。歴史的にはラチス構造ジブのものも存在しましたが,主ジブ(以下ブームという)が伸縮できる形に集約され,さらに機動性が高まりました。日本の移動式クレーンの歴史を語る上で欠かせない存在といえます。その後,狭隘地への出入りに有利な後輪操舵機能を持つラフテレーンクレーンに首位を奪われ,超大型機種でも回転半径の小さなオールテレーンクレーンに変わってきていて,小型機種と超大型機種がわずかに残っている状況です。国内向けの需要は激減しています。ただ東南アジア・中近東への輸出は整備性のよいトラッククレーンが依然主流。
  超大型トラッククレーンは重量の関係で分解輸送しなければなりませんが長距離を走行するため高速が要求されます。そこでトラッククレーンとラフテレーンクレーンの長所を併せ持つ形のオールテレーンクレーンが出現しました。多軸駆動多軸操舵方式で回転半径が小さいのが特長です。
  トラッククレーン・オールテレーンクレーンとも走行機能の違いがほとんどで,クレーン作業としてはほぼラフテレーンクレーンと同じであるため本稿では相違点のみ紹介します。安全ポイントも同様で,「クレーン」第46巻3号を参照されたうえ本稿を追加事項として捉えてください。
  なお,安全に関してラフテレーンクレーンとの違いが如実に現れているのは,トラッククレーン・オールテレーンクレーンともに超大型機種における別送部品の組立および分解作業関連なので,主としてそれらに関する項目について紹介します。

 


3.超大型トラッククレーン・オールテレーンクレーン特有の機能
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(1)ミッドサポート
超大型トラッククレーンには現場でアウトリガービームを挟むように装着するミッドサポート(写真1)が設定されている機種もあります。走行フレーム,アウトリガービームのたわみを抑えて荷を安定させ,またアウトリガー反力を分散させ地盤陥没等の危険を減らしています。
   
(2)サイドサポート
  超大型トラッククレーンのミッドサポート,センターサポートのような現地装着式から常設になったものがサイドサポート(写真2)です。ロータリ式セレクトスイッチ(図1)を順番に操作すると正しい順番に設置できます。外側のアウトリガーが主でサイドサポートはあとから軽く支える程度に張ります。
   
(3)センターサポート(兼アシスタントホイール)
  NK-5000(500t 吊りトラッククレーン)(図2)は通常のアウトリガー位置にあるのがミッドサポートで,アウトリガーは別送し現地で装着します。この他,作業現場内移動(後述)のためのアシスタントホイール(通常の後輪の外側に現地装着する油圧モーター駆動のタイヤ)がクレーン作業時には機体を支える足となります。これをセンターサポート(写真3)といい,ミッドサポートの他に追加装着して走行フレームのたわみを抑えています。
   
(4)カウンタウエイト装備状態による性能
  トラッククレーン・オールテレーンクレーンは超大型のものが多く,吊り上げ性能が大きいためカウンタウエイト質量も大きくなります。別送するため分割し1個の質量を抑えていて,現地で下部走行体フレーム前方に積み上げ(図3),旋回して後方を向き着脱装置で上部旋回体後部に取り付けます。ジブの質量,荷重の大小によってカウンタウエイト装備も変えられるため,アウトリガーの張出幅だけでなくカウンタウエイト装備状態によっても性能が変わります。カウンタウエイトにコネクターを接続(図4)することにより過負荷防止装置の性能は自動的に切り換わり,過負荷防止装置のディスプレイにカウンタウエイト質量が表示されます。
   

(5)スーパーラフィングジブ(SL ジブ)
  伸縮式ブームの先にジブを装着し起伏機能を持ったものをラフィングジブと呼びますが,起伏だけでなく伸縮機能も持ったものをスーパーラフィングジブ(略してSL ジブ)(図5)と呼んでいます。建物の屋上の奥での作業に便利な機能です。超大型のものは吊り上げ性能は高いが,重量の関係により別送し現地で装着する方式で,着脱装置が用意されています。装着のイメージを紹介します(図6)。

 

   
(6)スタンション
  SL ジブの装着作業はブーム上面(高所)での作業が多いためスタンション(図7)という安全帯用ロッドが用意されていて,引き起こし水平親綱を張って安全帯をかけます。
   
(7)ヘビーリフトジブ
  SL ジブで届かない高所への作業や作業半径の大きな作業,また荷重の大きな作業にはヘビーリフトジブ(図8)の設定があります。ヘビーリフトジブはラチス構造のジブで,別送し現地でブームの先端に装着する方式で,着脱装置付き。2つの巻上げ装置の一方で起伏操作を行い他方で吊上げ作業を行います。現地組立方法には平組み(図9)と立組み(たちぐみ)(図10,写真4)があります。平組みは予め地面で組んでおいたジブを接続するため長い組立スペースが必要なのに対し,立組みはジブを1本ずつ空中で組むため狭いスペースで可能です。従来はジブ1本分登って空中(高所)でピン接続する方式でしたが現在は地上からリモコンを使って油圧でピンを作動させる方式を採用しています。ピン挿入時機械的にプレートが起立し挿入の確認ができます。どちらの組立方式もブーム上面やヘビーリフトジブ上面での作業が多いためSL ジブ同様スタンション(図11,写真5)という安全帯用ロッドが用意されていて,引き出し水平親綱を張って安全帯をかけます。

   
(7.1) ローラブロック(ヘビー)(図12)
  ヘビーリフトジブ起伏のためブーム後端とリヤマスト直後のシーブケース間にワイヤロープを掛けまわす必要がありますが,ブームの上面での作業なのでパイロットウインチとローラブロックを使って簡単にできるようにしてあります。
 
(7.2) バックストッパ(図13)
  ヘビーリフトジブはワイヤロープで起伏操作を行うため巻上げ過ぎるとジブを後方に倒す危険があります。これを防止するのがバックストッパで,3種類設定してあります。
@ バックストッパシリンダ
  ジブが起きてくるとシリンダが圧縮力を受けるようになり,内部圧力がアキュームレータの窒素ガスを押し込みながら上昇します。逆にジブはシリンダから上昇した圧力に応じた力を受け起きにくくなります。
A アンダーロープ
  ジブが起きると下面に設置してあるアンダーロープが張ってきてストッパとして働くと同時に視認できます。
B メカニカルロック
  油圧によるストッパとアンダーロープによるストッパを超える状態までジブが起きると最終的に直接当たるストッパとしてメカニカルロックがあります。
 
(8)水平設置
  超大型機種ではジブやカウンタウエイトの組合せにより走行フレームにもたわみが生じ機体の水平度が変化するため,カウンタウエイト装着,ジブ装着後の作業状態になったときにアウトリガー調整時作業半径表に定められた作業半径にして再びアウトリガーを調整し水平設置します。
 
(9)分解輸送
  機種によって分解輸送方法は異なりますがマルチリフターを使用する一例を紹介します(図14)。

 


4.安全のポイント
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(1)全般
  クレーン作業の安全ポイントとしてはラフテレーンクレーンと同じ内容です。「クレーン」第46巻3号を参照願います。ここでは超大型のトラッククレーン・オールテレーンクレーンについての安全ポイントについて述べます。

(2)分解輸送
  重量の関係からクレーンを分解しなければ公道を移動できないので分解可能な構造になっています。分解するとき安全装置も解除状態になるので手順書通りに進めることが重要。専任指揮者を選出しその指示に従ってください。組立後にはスイッチ等の設定を元に戻して安全装置が正常に働くことを確認する必要があります。各部で同時に作業をすることが多く見られますが,後方は死角になるため特にカウンタウエイトの着脱時の巻上巻下操作等は同時に行ってはいけません。(「クレーン」第44巻6号に災害事例の記述あり)高所での作業も多いが手すりの使用,安全帯の使用を徹底してください。

(3)作業現場内移動(条件を抜粋)
  現場内でやむを得ずクレーンを作業姿勢にしたまま作業位置を移動することをいいます。オールテレーンクレーンを含む超大型トラッククレーンの場合,ジブやカウンタウエイト等非常に質量の大きい部品を高い位置に装着していることが多く,移動時には転倒等の災害を防ぐため細心の注意が必要です。現場内移動姿勢が機種ごとに決められているので厳守。なお,前述のアシスタントホイールが設定されている機種はそれらを使用します。

 一例としてKA-3000(300t 吊りオールテレーンクレーン)の作業現場内走行条件は
@ 水平堅土が原則。軟弱地盤,傾斜地,簡易アスファルト舗装面のような場合敷板などで養生する。
A 強風時,夜間等視界不良では移動厳禁。
B 急発進,急ブレーキ,急ハンドル禁止。
C 据え切り禁止。
D タイヤの空気圧が規定圧であること。
E ブーム,SL ジブは最縮小で,後方向きとし,旋回ブレーキ,旋回ロックピンを掛ける。
F ブームの角度等現場内移動時の姿勢が機種ごとに決められているので厳守。
G アウトリガービームを最大張出,バーチカルシリンダを伸長しアウトリガーフロートを地面に近づけておく。
H キャリアのサスロックスイッチはサスロックモード,台車・装備切換スイッチは装備側にする。
I 微速での移動(2km/h 以下)を厳守。
J 直進移動が原則。やむを得ずカーブを曲がる等ハンドル操作する場合は回転半径を大きくとり直進に近い状態とする。
K 移動車周辺へは誘導員以外の立入禁止。
L 誘導員を置き,笛,旗で誘導すること。移動は誘導員の指示にて行うこと。

(4)ジブの現地装着
@ SL ジブの場合,着脱装置で巻き上げるとジブがブーム側に移動する。ジブ先端のローラが転がるよう敷き鉄板等の養生をしておく。
A 高所作業が多くなるのでスタンション,安全帯を使用すること。
B ヘビーリフトジブの場合特に,運転室,ブーム上,地上での作業が同時に行われるが,死角にも作業者が存在するので専任指揮者を選出しその支持に従うことが重要。
C ヘビーリフトジブの場合,バックストッパ用のアンダーロープも分解時には解除するので組立時にセットすること。
D ヘビーリフトジブ先端には荷重計や巻過防止装置,また風速計も取り付くが,組立時にコネクタ接続しないと働かないので要注意。必ず作業開始前点検をすること。

 

 


5.おわりに
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 超大型クレーンは機構が複雑なだけでなく,分解,組立作業時には別位置で同時に多人数が作業を行うため,災害が発生しやすくなります。作業に精通した専任指揮者が必要で,指揮者の指示で作業することが安全上重要です。

 

((株)加藤製作所 プロダクトサポート部研修センター 樋口勝美)


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