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天井クレーン災害と安全ポイント
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1.はじめに
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 図1は,厚生労働省安全衛生部安全課の資料「平成18年度のクレーン等による現象別・機種別死亡災害発生状況」を基に,死亡災害発生状況を種別に抜き出したものです。また,図2は死亡災害発生割合が41%で第2位となったクレーンの機種別の内訳です。

 クレーン機種別で25件(全体の61%)もの死亡災害を発生した天井クレーンについて,能力別,操作方式別の傾向を,図3,図4に示します。能力別では5t 未満が,操作方式別では床上式(床上運転式と床上操作式)が,いずれも6割近くを占めています。
  同様に,被災者の作業状況別の傾向と現象別の傾向を,それぞれ図5,図6に示します。作業状況別では運転作業中の被災が48%を占めており,前出の床上式での事故の多さを裏づけしています。現象別では,つり荷等による挟圧とつり荷落下で全体の8割を超え,死亡災害の殆どが床上で発生しています。

 


2.事故の要因
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 表1はJCA 発行の「クレーン年鑑/平成19年度版」より,平成18年度の天井クレーンによる死亡災害(25件)を,各災害事例ごとに考えられる発生原因の上位約4件を,操作方式別に集計した結果です。
  安全作業違反に関するものの「安全対策の省略」は,転倒防止・墜落防止・感電防止などの事前に判明している危険に対する処置を行わなかった事例を一纏めにしたものです。また,運転業務不良に関するものの「他」には運転ミスや不適切な運転が,安全作業違反に関するものの「他」には一人作業・意識の欠如・確認不足・知識不足等が少数の要因として含まれています。
  無資格運転などの法令遵守違反や安全対策の省略などの要因が多いという結果から,クレーン作業の安全に対する「甘さ」,あるいは「慣れ」が,運転者や他の作業者だけでなく管理者側にもあったことがうかがえます。そこで,ここでは基本に立ち返り,クレーンの運転方式・運転資格や玉掛け資格・法令等遵守事項・安全装置について記述し,最後に天井クレーンの作業上の安全ポイントについて述べます。
  なお玉掛け業務不良に関するものの安全のポイントにつきましては,割愛させていただきます。

表1 天井クレーン死亡災害25件の要因
要因 床上操作式 無線操作式 機上+不明 合 計
運転業務
不良に関
するもの
不適切な運転位置
5 11 1 4 2 6 8 21
無資格運転 3 1 2 6
3 2 2 7
玉掛け業
務不良に
関するもの
不適切な玉掛け方法 7 12 2 3 3 6 12 21
不適切な玉掛け用具の使用 4 1 2 7
無資格作業 1 0 1 2
安全作業
違反に関
するもの
不適切な作業位置 5 18 3 4 2 10 10 32
安全対策の省略 5 0 2 7
8 1 6 15
その他の
要因
安全作業手順なし
7 8 2 3 3 5 12 16
1 1 2 4
合計 49 14 27 90

 


3.天井クレーンの操作方式
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 天井クレーンの操作方式は,運転資格に係わる区分では,機上運転式,無線操作式,床上運転式,床上操作式に分類されます。

(1) 機上運転式(図7)
  クレーン本体に取り付けられた運転室等から,コントローラなどの制御器で操作する方式で,特にトロリに取り付けられているものはマントロリ式,運転室単独で移動できるものはセミマントロ式と呼ばれています。
  機上運転式の場合は,運転者・玉掛け者・合図者の3人一組で作業するのが望ましい作業方法です。
     
(2) 無線操作式(図8)
  床上から無線送信機で操作する方式で,クレーンの横行及び走行動作と無関係に操作できます。送信機には,ユニバーサルハンドルタイプのものや,押ボタンスイッチ式のものがあります。
  無線操作式の場合は任意の位置で操作可能なため,運転者がつり荷による事故に遭遇する機会は少ない反面,目的位置の状況把握が困難で,つり荷の衝突による人的・物的事故の可能性が高くなります。
     
(3) 床上運転式(図9)
  床上からペンダントスイッチで操作する方式で,カーテン式と定点つり下げ式の2種類があり,運転者は常に走行と共に移動しなければなりません。
  横行方向に移動できるようにガイドレールからつり下げたカーテン式の場合は,運転者が横行と無関係に操作できるため,経路を気にすることなく走行することができ,またつり荷による事故に遭遇する機会も少ないなどの利点があります。
  ガーダや歩道など機上の固定点からつり下げた定点つり下げ式の場合は,運転者が横行方向に対し常に一定の位置で操作することになるため,走行経路を確保する必要があるだけでなく,カーテン式に比べて自由度が低い分だけ,つり荷による事故に遭遇する機会も増える恐れがあります。
 
     
(4) 床上操作式(図10)
  トロリから直接つり下げたペンダントスイッチで操作する方式で,運転者は常に横行及び走行とも,荷と共に移動しなければなりません。
  運転者は常に進行方向の足元の状況を注意しなければならず,また自由度が低いため,つり荷による事故に遭遇する機会が最も多い操作方式です。

 


4.運転資格及び玉掛け資格
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 クレーン等安全規則では,天井クレーンの運転業務,及び玉掛け業務について,それぞれに就業を制限しています。
(1) 天井クレーンの運転資格
  労働安全衛生法関係法令の改正(平成18年4月1日施行)により,天井クレーンの運転には,天井クレーンの運転資格の区分(表2)に応じた資格を有する者でなければ就業できません。
  なお,これ以前の「クレーン運転士免許」は,「クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)」として,また「床上運転式限定免許」は「クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)」として扱われ,従来どおりに天井クレーンの運転業務を行うことができます。
(2) 玉掛け資格
  つり具を用いて行う荷かけや荷はずし業務のことを玉掛け作業といいます。
  クレーン等安全規則第221条と第222条には,労働安全衛生法施行令第20条第16号に掲げる業務(制限荷重が1t 以上の揚貨装置の玉掛け業務を除く)についての就業制限が規定されています。
  天井クレーンの玉掛け作業には,玉掛け資格の区分(表3)に応じた資格を有する者でなければ就業できません。
  従って,玉掛け作業から運転作業までを一人で行うことが可能な無線操作式や床上運転式,床上操作式のクレーンを使用して一人で作業する場合は,該当するクレーンの運転資格と玉掛け資格の両資格を有する必要があります。

表2 天井クレーンの運転資格の区分
操作方式     つり上げ荷重 0.5t 以上
5t 未満
5t 以上
床上操作式 運転者が常に荷と共に移動する (免)
(限)
(技)
(特)
(免)・(限)・(技)
床上運転式 運転者が走行と共に移動する (免)・(限)
無線操作式 運転者が荷と共に移動しない (免)
機上運転式
適用条文 クレーン等安全規則第21条・第22条・第223条・第224条の4
(特)…クレーンに関する「特別の教育」を受けた者
(技)…「床上操作式クレーン運転技能講習」又は「技能特例講習」修了者
(限)…「クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定免許)」取得者
(免)…「クレーン・デリック運転士免許(又はクレーン限定免許)」取得者

表3 玉掛け資格の区分
つり上げ荷重 1t 未満 1t 以上
資 格 (玉)・(職)・(特) (玉)・(職)
適用条文 クレーン等安全規則第222条 クレーン等安全規則第221条
(特)…玉掛けに関する「特別の教育」を受けた者
(職)…「職業訓練法の玉掛け科の訓練」を修了した者
(玉)…「玉掛け技能講習」修了者

 


5.法令等遵守事項
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 クレーン等安全規則より,クレーン作業にかかわる遵守事項(第2節使用及び就業)と,点検業務にかかわる遵守事項(第3節定期自主検査等)を抜粋します。

(1)  第2節使用及び就業
  ◇第20条の2(外れ止め装置の使用)
  ◇第21条(特別の教育)
  ◇第22条(就業制限)
  ◇第23条(過負荷の制限)
  ◇第25条(運転の合図)
  ◇第26条(搭乗の制限)
  ◇第27条(搭乗の制限等)
  ◇第29条(立入禁止)
  ◇第30条(並置クレーンの修理等の作業)
  ◇第30条の2(運転禁止等)
  ◇第31条(暴風時における逸走の防止)
  ◇第31条の2(強風時の作業中止)
  ◇第32条(運転位置からの離脱の禁止)
  ◇第33条(組立作業)
(2)  第3節定期自主検査等
  ◇第34条(定期自主検査:年次)
  ◇第35条(定期自主検査:月次)
  ◇第36条(作業開始前の点検)
  ◇第37条(暴風後等の点検)
  ◇第38条(自主検査の記録)
  ◇第39条(補修)

 


6.荷振れ防止運転
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 床上操作式天井クレーンの死亡災害状況の上位を占める挟圧・落下・激突等の主要因は不適切な運転位置・不適切な作業位置で,荷振れ防止運転により防ぐことができるものが多数あります。
  荷振れ防止運転には,インチング運転によるものと,追いノッチ運転によるものがあります。

(1) インチング運転による荷振れ防止運転
  インチング運転による荷振れ防止運転は,比較的容易に荷振れを防止できますが,モートルの温度上昇を促進するなど,各部への負担が大きくなるため,あまり推奨できるものではありません。

(2) 追いノッチ運転による荷振れ防止運転
  起動時(図11)は起動操作によりつり荷が遅れた瞬間に当該操作を中止し,つり荷が追いついてくるタイミングで再度当該操作を行うことで,停止時(図12)は停止操作によりつり荷が先行した瞬間に当該操作を瞬時行うことで,荷振れを抑える運転方法です。

 


7.安全装置
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 床上操作式天井クレーンの死亡災害の要因で,運転業務不良に関するものの「他」に含まれている「運転ミス」や「不適切な運転」による事故を防止するために,次のような安全装置があります。(クレーン構造規格で規定されたものにつきましては,その項番を記載します)

(1)  過巻防止装置(第24条・第25条)
 巻過ぎを防止するために,自動的に動力を遮断して作動を制動する機能を有する装置で,つり具上面と接触する恐れがあるものとの間隔が,直働式(重錘式やレバー式)では0.05m 以上,その他(ギヤ式や電気式)では0.25m 以上になるように調整できる構造とするよう規定されています。
 巻過ぎの場合は重大災害に至るため,重錘式で動力回路を,ギヤ式等で操作回路を遮断するなど,2系統の過巻き防止装置を設けるのが望ましく,さらに逆巻による巻過ぎを防止するために,下限も検出対象とすることを推奨します。
(2)  過負荷防止装置以外の過負荷を防止するための装置(第27条)
 つり荷の荷重のみを検出する装置で,バネやひずみゲージで検出するものや,モートルへの負荷電流を検出するものがあります。なお,バネ式には軸重検出式や,ロープ張力検出式なども含まれます。
  天井クレーンにおきましては,基発第134号「クレーン製造許可の取扱いについて」の中で,下記について指導するよう通達されています。
  @  主巻と補巻の巻上げ又は巻下げを同時に行うことを目的とするクレーンの場合は,主巻と補巻それぞれのフックにかかる荷重の合計値が主巻の定格荷重を超えない装置及び補巻フックにかかる荷重が補巻の定格荷重を超えない装置を備えること
  A  複数のフックを用いた「共づり」作業を目的とするクレーンの場合は,各々のフックの定格荷重を超えない装置を備えること(*)
    *:巻上げ及び巻下げの同調装置並びにトロリの衝突防止装置も具備のこと
   これらの装置は検出時に警報や表示灯で運転者へ注意を促す機能を備えるものや,自動的に巻上を停止する機能を備えるもの,あるいはそれら複数の機能を備えるものがあります。なお,自動停止機能を備えていない場合は,警報等による注意喚起後直ちに当該操作を中止する必要があります。
(3)  警報(第30条)
 床上で運転し,かつ,運転者が走行とともに移動する方式のクレーン及び人力で走行するクレーン以外のクレーンには,電鈴やブザー等の警報装置を備えることが義務づけられています。
 運転者は,これからクレーンが走行することなどを,周囲の作業者や他の人に警報して,確実に注意を喚起してください。
(4)  携帯式のコントローラ(第36条)
  床上で運転する方式(定位置から運転する方式のクレーンを除く)のクレーンのコントローラには,下記が義務づけられています。
  @  運転者がその操作部分から手を放した場合に,自動的に当該クレーンの作動を停止させる位置に戻ること,かつ,当該クレーンの作動を停止させる構造であること
  A  運転者の見やすい箇所に,当該コントローラが制御するクレーンの作動の方向が表示されていること
   クレーンを操作する場合は,必ずクレーンの作動する方向を確認してください。なお,とっさの場合は直ちに当該コントローラの操作部分から手を放し,クレーンを停止させてください。
(5)  緩衝装置等(第39条)
  横行方向の両端部に緩衝装置か緩衝材を,あるいは横行レール両端部又はこれに順ずる箇所に車輪直径の1/4以上の高さの車輪止めを備えること,及び走行方向の両端部に緩衝装置か緩衝材を,あるいは走行レール両端部又はこれに順ずる箇所に車輪直径の1/2以上の高さの車輪止めを備えること,が義務づけられています。
  緩衝装置等への衝突はクレーン及び建屋損傷の原因になるので,絶対に衝突させないでください。
(6)  並置クレーンの緩衝装置等(第40条)
  同一ランウェイに並置されているクレーン(床上で運転し,かつ,運転者が走行とともに移動する方式のクレーン及び人力で走行するクレーンを除く) には,相対する側に緩衝装置又は緩衝材を備えることが義務づけられています。なお本項目の適用を除外されているクレーンにつきましても,緩衝装置又は緩衝材を備えることを推奨します。
  クレーン同士の衝突はクレーン機器損傷の原因になるので,絶対に衝突させないでください。
(7)  接近検出装置
  建屋とクレーン,クレーンとクレーン,トロリ相互間などの接近状態を検出する装置で,光電式・超音波式・機械式などがあります。
  これらの装置は検出時に警報や表示灯で運転者へ注意を促す機能を備えるものや,自動的に走行や横行を停止する機能を備えるもの,あるいはそれら複数の機能を備えるものがあります。なお,自動停止機能を備えていない場合は,警報等による注意喚起後直ちに当該操作を中止する必要があります。前項(5)及び(6)の衝突を回避するために有効な装置です。
(8)  その他の安全装置
  「機器の故障」や「点検作業中」の事故を防止するために,次のような安全装置があります。
  @  接点溶着検出装置:電磁接触器等の接点溶着によるクレーンの暴走を防ぐために,操作機器の指示状態とクレーンの動作状態を監視し,異なる場合は表示灯を点灯して,主電源を遮断する機能を有する装置です。
  A  回転部分の防護(第29条):歯車・軸・軸継手等の高速で回転する部分に,容易に手や足が接触しないよう,覆いや囲いを備えることが義務づけられています。
  B  外れ止め装置(第32条):鋳なべ用特殊フックや巻取紙用特殊フック,コイル運搬用C 型フックなどの例外を除き,フックには玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置を備えることを義務づけられています。

 


8.おわりに
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 資格が有り,知識があり,安全装置を装備していても,基本事項を確実に実践しないと事故は無くなりません。天井クレーンにかかわる作業における安全作業のポイントは以下のとおりです。

@ 作業前の注意事項

  • 作業内容と作業手順及び合図を確認する
  • 適切な服装や安全装備を着用する
  • 転倒防止・墜落防止・感電防止等の必要な安全対策を実施する
A 運転位置の確認
  • つり荷の下に入らない
  • 荷の進行方向前方や荷振れ方向に立たない
  • 運転に必要な通路と荷崩れ等に対する避難場所を確保する
B 周辺作業者への配慮
  • 確実に合図する
  • 頭上を運搬しない
  • 荷振れを常に考慮する
C 運転中の注意事項
  • 玉掛け作業中は電源を切っておく
  • 表示を確認してから操作する
  • 地切り時などに不安や異常を感じたときは,必ず作業を中止する
  • 横引きや斜めづりは行わない
  • ストッパに衝突させない
  • 安全装置を過信しない
  • 不安定な場所へ荷降ろししない
  • つり荷を着地しても,玉掛けを外し終え,クレーンのフックを巻上げて移動するまで気を抜かない
  • 作業の区切りごとに電源を切る

((株)大倉製作所技術本部 技術部 香山誠一)


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