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目,疲れていませんか? ―目の疲労とその予防対策―
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1.はじめに
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 私たちは,目,耳,鼻,口などの感覚器官を通して,外界から光,音,匂い,味などの情報を得ています。そのうち8割以上は目から入ってくるといわれています。起きている間,目は何かを見ていて,休む暇なく忙しく働いているわけですから,目が疲れるのも無理のないことなのかもしれません。では,「休む暇なく忙しく働いている」間,目にはどのようなことが起こっているのでしょう。それがわかれば,目の疲れの予防を考えるときにきっと役に立つはずです。
  それではまず,普段,ほとんど無意識で実行している「見る」という行動について,ちょっと振り返ってみましょう。

 


2.「見る」ための目の仕組み
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 目は,どのような仕組みでものを見ているのでしょうか。図2に目の構造を示しました。瞳孔を通って目に入った光は,水晶体で曲げられ,網膜上に像を結びます。これが電気信号に変換され視神経を通って脳に到達し,ようやく「見えて」いるのです。

(1)見たいものに視線を向ける(眼球運動)
  ものを見るためには,まず視線を見たい方へ向けなければなりません。この動きを眼球運動といいます。図2には描いてありませんが,目の周りある6本の筋肉を使って,眼球を上下左右に動かしています。
  普段,私たちは広い範囲で,ものがはっきりくっきり見えているように感じているかもしれませんが,よく見える範囲というのは案外狭いものです。たとえば,今,片目をつぶってこの文章の一つの文字をじっと見て下さい。そのまま目を動かさないで5つ目くらい隣の文字が読めますか?おそらくぼんやりとしか見えていないと思います。それでも,私たちは本を読んだり,写真を鮮明に見たりできます。これは,網膜上の中心窩という,ものがくっきり見えるごく狭い範囲に像ができるように,実にこまめに目を動かして次から次へと見たいものに視線を向けているからです。このとき,左右の目はほぼ同じ方向に動いています(共同運動)。
  眼球運動にはもう一つ,別の種類があります。遠くから近くに視線を移すとき,左右の目は内側に動きます。逆に近くから遠くへ視線を移すときには目は外側に動きます。これらの動きを輻輳といい,次に説明する焦点の調節機能と協同して働いています。

(2)焦点を合わせる(調節機能)
  見たいものまでの距離はさまざまです。手元から空の星まで,視線を向けてはっきり見えるようにするためには,それぞれに焦点あわせが必要です。これは,レンズの一種である水晶体(図2)で行われています。水晶体は,近くを見るときには自動的に厚みを増し,焦点距離を短くします。このように,視線を向けて距離を関知すると,水晶体の厚さ調節が自動的にすばやく行われて,網膜上の中心窩に鮮明な像が結ばれるため,私たちははっきりと見ることができるのです。まさに究極のオートフォーカスですね。

(3)周りの明るさを感じて対応する(瞳孔反射,網膜の光順応)

  月明かりでも快晴の空の下でも,私たちはものを見ることができます。その明るさの違いはどれくらいなのでしょうか。図3をご覧下さい。満月の月明かりと晴天では,照らされている面の明るさ(照度)は10万倍以上違っています。そのような大きな明るさの違いに対応できる仕組みとはどのようなものなのでしょうか。

  外界の明るさに反応する仕組みは二つあります。一つは瞳孔反射といい,瞳孔の大きさを変え,目に入る光の量そのものを調節するものです。暗いときには瞳孔を広げてなるべく多くの光を目に入れようとし,明るいときには瞳孔を小さくして光を制限しようとします。カメラの絞りと同じです。瞳孔の直径は暗いときの約7mm(面積は約40平方ミリメートル)から明るいときの約3mm(面積は約7平方ミリメートル)まで変化します。確かに光の量は調節できますが,面積の変化は10倍以下程度ですので,これだけでは10万倍の明るさの変化に対処するのは困難です。
  そこでもう一つの仕組みが働きます。それは,網膜の感度を変化させるということで光順応といいます。網膜には光を感じる細胞が大きく分けて2種類あります。明るい場面で働き,色を区別することができる錐体という細胞と,暗い場面でごくごくわずかな光を感じることのできる杆体(かんたい)という細胞です。外の明るさの変化にともない,網膜ではこの2種類の細胞を自動的に切り替えて対応しているのです。明るいところから急に暗いところにはいると,最初は何も見えませんが,次第にまわりが見えるようになってきます。これは光に反応する細胞が,錐体から杵体へと切り替わった結果です。このように周囲の明るさが変化し,目に入る光の量が変わると瞳孔も網膜もその対応に追われてしまうのです。

(4)より鮮明に快適に見る(まばたきと涙)
  「見る」ための目の主な機能は以上に述べた通りです。このほかにもまばたきや涙もその一翼を担っています。まばたきは,異物が入らないよう目を保護すると同時に,涙の分泌,排出を促進しています。涙は目の表面の潤いを保ち,異物を洗い流し酸素を補給するなどの働きをしています。また,まばたきと涙は協同して働きます。つまり,まばたきをするたびに目の表面に均一の涙の層ができ,目の表面がなめらかになり,網膜上に歪みのない像を結ぶ助けとなっています。
  普段何気なくやっている「見る」ということには,いろいろな仕組みが関わっており,それらが見事に協調して働いていることに気づいていただけたでしょうか。こうした機能を総動員して,たとえば,明るい,暗い,近い,遠いなど,さまざまな条件下にあるものをできるだけクリアに見ようと,目は常に奮闘しているのです。それでもこれは「見る」ということのほんの入り口です。この先,網膜に映った像は電気信号に変えられ,視神経を通って大脳に運ばれて認識できたとき,「見た」と知覚できるのです。

 


3.目の疲れとは
   
 

 さて,それでは本題の,目の疲れに関する話題に移りましょう。目の疲れには,大きく分けて二つあります。一つは生理的な目の疲労といい,休憩したり一晩休んだりすることによって回復するものです。もう一つは眼精疲労といい,睡眠をとっても目の症状や頭痛が残ってしまうなど,生理的な目の疲労より症状が重いものです。眼精疲労の主な症状は,目の疲れ,痛み,かすみ,いらいら感など目に関する症状のほか,頭痛,肩こり,さらに重症化すると食欲不振や倦怠感,不眠にまで至ることがあります。目が疲れないようにするのが一番ですが,たとえ,「目が疲れた」としても,なんとか生理的な目の疲労の段階で止め,眼精疲労まで至らないようにすることが肝心です。

(1)目の疲れるのはどんなとき?
  いろいろな調査から,コンピュータを使っている人の8割以上が目の疲れや痛みを訴えていることがわかっています。ここでは,このコンピュータ作業を例として取り上げ,なぜ疲れるのかを先に紹介した目の仕組みや働きに基づいて明らかにしていこうと思います。

@ コンピュータ作業では「近く」ばかりを見ている
  真っ暗な中でぼんやりと目を開けているとき,つまり何かを見ようと努力していない状態で,どの辺をみているのかを調べた実験があります。その結果から,多くの人が70cm から1m 付近を見ていることがわかりました。この距離のあたりに見たいものがあるようにすると,目に掛かる負荷が小さくなると考えられます。皆さんがコンピュータを使っているときの視距離はどれくらいでしょうか。特にノートパソコンを使っていると,画面はこの距離よりもずっと近いところにあると思います。近いところを見るには,目をぐっと寄り目にしなければなりません(輻輳)。また,近くを見るためには水晶体を厚くして焦点距離を短くする必要もあります。こうしたことが負担となり目の疲れに結びつくと考えられます。

A コンピュータ作業では「眼球運動」の量が多い
  書類を読む,書くなどの作業と,原稿入力(ワープロ)作業をしているときの目の動きを測ったところ,ワープロ作業は書類の読み書きに比べて眼球運動の量が2〜3倍となっていることがわかりました。画面上の動きの激しいゲームをしている場合は,眼球運動はもっと多くなると予想できます。疲れるはずです。
  また,ワープロ作業では,手元の原稿,キーボード,画面がそれぞれ目から異なる距離にありますから,視線を動かすたびに,くっきりした像を結ぶように目のレンズである水晶体は厚さを頻繁に変えなければなりません。こうしたことも目にとって重荷になることは明らかです。

B コンピュータ作業中は「まばたき」の回数が減る
  リラックスしているとき,人は1分間に平均15回から20回程度のまばたきをしています。ワープロ作業中では,この回数は半分から1/3程度になってしまうという報告があります。まばたきが減ると目の表面が乾燥します。また,自覚できるほど顕著ではないかもしれませんが,目の表面のなめらかな膜が壊れるため,網膜上の像にゆがみができたりぼやけたりする可能性もあります。こうしたことも目の疲労につながるでしょう。

C コンピュータ作業では画面上の明るさの変化が激しい
  ディスプレイ画面は,書類とは違ってそれ自体が発光しています。さらに,インターネットやゲームの画面にはいろいろな色が使われており,視線の移動により目は明るさの異なる部分を次から次に見ていることになります。暗い部分から明るい部分へ視線を向ける,またその逆の動きで,瞳孔が縮小と拡大を繰り返し,網膜の感度も頻繁に変わるということが起こりえます。こうした変化は,自動的に行われるため気づきにくく,知らないうちに疲れがたまってしまいます。

D コンピュータ画面は外からの光を反射しやすい
  試しに画面を暗くして見て下さい。画面に天井の蛍光灯や窓など映って,明るく光ってはいませんか。明るいものが映り込んだものをグレアといいます。画面に集中していると,こうした映り込みは意識されないままに,視線がそこに向くたびに瞳孔が縮小したり,網膜の感度調整が起こったりして目の疲れの原因になります。

E コンピュータ作業では視線が上向いている
  コンピュータ作業では,ディスプレイが顔の前にあるので,書類の読み書きに比べて視線が上向き,画面を見ているときに目を見開きがちです。すると,より広い面積の眼表面が外界にさらされ,涙の蒸発が促進されます。目は涙による保護を失い,ちょっとした刺激にも反応して痛みを感じたりします。こうしたことも目への負荷となり,疲れにつながるのです。さらに,空気が乾燥していたり,顔に風が当たったりすると,涙の蒸発はさらに進んでしまいますので,温度,湿度や気流のコントロールも大切です。
  ここではコンピュータ作業を取り上げましたが,皆さんも目の疲れを感じるとき,どのような環境で何をしていて,それは目のどのような機能に負荷を掛けているかを考えてみると,対策を立てるのに役立つと思います。

  たとえば乗り物の中でケータイを操作していて目の疲れを感じたとすると,その原因は何でしょうか?ケータイを使っているときの状態は,

  • 乗り物の振動によって見たい部分が動くことに釣られて目も動く
  • 手に持った状態で使っているので,非常に近いところを見ることになり,焦点調節や輻輳(寄り目)に大きな努力が必要
  • 刻々と周りの明るさが変わるので瞳孔径や網膜の感度が刻々と変わる
  • 文字が小さめで,読むのに高い集中を必要とし,まばたきが減り目が乾きやすい
  • ほこりっぽい外気にさらされ,目が刺激されやすい
 ほかにも,もっとあるかもしれません。乗り物中でケータイを操作することは目にとって大きな負担となりうることが想像できると思います。

 

(2)目の疲れを軽減するには
  疲れを感じる前に休むことが,疲れをためない第一歩です。例えばコンピュータ作業のガイドラインでは,1時間作業をしたら10〜15分の休憩をとることを勧めています。また,1時間の作業の間にも小休止をとることが推奨されています。ただ,いうのは簡単ですが,実際には仕事に追われていたり,おもしろくて熱中するあまり時間を忘れてつい…ということも多いかと思いますが,長い目で見て,意識して休むことが目を長く健康に保ち,ひいては成果にもつながっていくのではないでしょうか。以下に,疲れを軽減する対策をいくつか挙げますので,できるものから実行するとよいでしょう。


@ 目の健康チェック
  今使っている眼鏡は,見たいものがちゃんと見えるように調整されているでしょうか。
  近視,遠視,乱視,老視のある方は,裸眼では網膜上にくっきりした像を結ぶことができないので,眼鏡などを用意する必要があります。コンピュータ作業など比較的近くを見る場合には,車の運転用などの遠くがよく見えるようにつくられた眼鏡は適さないことがあります。ディスプレイまでの視距離に焦点が合うように調整された,いわゆるパソコン用眼鏡を用いると目の疲れがぐっと軽くなります。これは老視であるなしに関わらず効果があります。また,視力は時と共に変化することがありますので,作ったときにはよく見えていた眼鏡が,ほんとうに今の視力にあっているのかをときどき確認するとよいでしょう。
  なお,コンタクトレンズは眼鏡よりも目への負荷が大きくなりがちですので,目を酷使しやすい場合にはなるべく眼鏡を用いた方がよいといえます。
  また,病気でものが見にくくなって目が疲れやすくなる場合もあります。年齢が上がると白内障や緑内障を始めとし,種々の病気にかかりやすくなります。こうした目の病気は,視力検査だけではわかりにくく,中には自覚症状がほとんど無くて,気づいたときには進行してしまっている,ということもあります。毎年,体の健康診断を受けるように,眼科医による目の健康診断を受けることをお勧めします。

A 見やすく調節(視距離,画面の明るさ,文字の大きさ,太さなど)
  見たいものが見やすくなるよう位置や高さを調節します。コンピュータ作業の場合,ディスプレイまでの距離を十分確保し,画面をやや下に見下ろせる高さに調節するなどです。また,画面自体のまぶしさを感じないように輝度やコントラストを調整します。昼や夜,晴れた日と雨の日などでも,外から入ってくる光の量はだいぶ変わりますので,それに合わせて画面の明るさを変えるとなおよいと思います。表示される文字の太さや大きさを調整することも,疲労軽減の一助となります。
  また,見たいものの周りの環境を整えて,見やすさを確保することも大切です。コンピュータ作業する場合を例として,快適な環境作りの例を図8に示します。
  コンピュータ作業の場合では,画面に光源が映り込まないよう画面の向きを変えたり,照明にカバーをつけたり,部屋が乾燥する場合には加湿器で補ったり,風が顔に当たるようでしたら目の乾きを防ぐように風向きを変えたり,パーティションで風を防いだりすることが目を守ることになります。他のいろいろな場面でも応用できることもあると思いますので,参考にして下さい。

B ガイドライン等の利用
  本稿で述べた例はどれもほんの一部です。目についてもっとよく知ることや,目を疲れから守る知恵や工夫が示されているガイドラインを読んで実行することをお勧めします。インターネット上で検索するといろいろな情報が提示されています。目の仕組みや働きを考え合わせ,合理的かどうかを基に実行するかしないかを判断するとよいでしょう。
  起きている間中,目はいろいろな機能を駆使して,ものをはっきり見ようと努力しています。もし目が疲れても生理的な目の疲れの範囲にとどめ,末永く目を健康に保つために,目を知り,目にやさしい環境づくりをどうかお願いします。

【もっと詳しく知りたい方のために】
○目及び目の健康に関する知識について
奥澤康正,新見浩司「ぎもんしつもん目の辞典」
http://www.ocular.net/jiten/jiten000.htm
日本眼科医会ホームページ
http://www.gankaikai.or.jp/

○コンピュータ作業をよりよい状態で行うためのガイドライン
厚生労働省「VDT 作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.html

(独)労働安全衛生総合研究所「パソコン利用のアクションチェックポイント」
http://www.jniosh.go.jp/results/2007/0621_2/checkpoint_jp/index.html
日本人間工学会「ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン」
http://www.ergonomics.jp/fpd/note_pc_guide/NP_ergoGL.html


(独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
人間工学・リスク管理研究グループ 外山みどり)


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