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安全な玉掛け作業のポイント
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1.はじめに
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 表1は過去5年間のクレーン等の作業中に,つり荷の落下と機体等が折損・倒壊・転倒したことが原因で発生した死亡災害の実績です。この原因が全て玉掛け作業によるものとはいえませんが,この数字は多くのことを物語っているように思います。
 つり荷の落下災害のうち,玉掛け用ワイヤロープ等が切断した,フック等から玉掛け用ワイヤロープ等が外れた,玉掛けワイヤロープ等からつり荷が外れた,フック等からつり荷が外れた等玉掛け作業に関すると思われるものが,5年間の平均31件中23.2件,75%を占めています。
 また,機体が転倒した災害のうち,過負荷によるものも多く含まれているものと推定出来ます。
 この災害のうち,玉掛け作業者が有資格者であったか,資格を持っていなかったかは解りませんが,毎月のクレーン誌に載っている災害事例には,時々資格を持っていなかった事例が見られます。
 今回は,「玉掛け作業の資格について」と「玉掛け用具の選定・点検について」解説しますので,各職場・事業所等の作業標準の見直し等の際にでも参考にしていただき,災害の撲滅に少しでも役立て頂ければ幸いです。
 

 


2.玉掛け作業者の資格について
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 つり具を用いて行う荷かけおよび荷はずしの業務を玉掛け作業といい,これを行うには次のいずれかに該当する者でなければ,事業者はその業務に就かせてはならないとされています*2
 
 
  • つり上げ荷重はクレーン等の性能を表しており,つり荷の質量ではありません。
  • 1トン以上の規程には上限が有りません。

備考@ 玉掛け技能講習について
 (社)日本クレーン協会各支部で定期的に講習を行っていますから,受講希望者は各支部へ連絡してください。
 講習時間は,玉掛けの補助作業が未経験者か,6カ月以上経験された方かによって違いがありますが,講習内容と時間は表3のようになっています*5

 
 
  • クレーン等の免許を持っている方,他の技能講習(床上操作式クレーンの運転・小型移動式クレーンの運転)を先に受講し,修了証を持っている方は,力学に関する知識と合図の方法が免除されます*7
  • クレーン等の運転免許を必要とする業務,玉掛け特別教育を必要とする業務に6カ月以上就いていた経験者の方は合図の方法が免除されます*7
  • 実技修了試験時間は延時間です。
  • 細かい日程については各支部に問い合わせてください。

備考A 職業能力開発促進法の訓練を修了した者について

  • 玉掛け科職業訓練を修了した方です。(通信教育を除く)

備考B その他厚生労働大臣が定める者について

  • 旧/新職業能力開発法旧職業訓練法等によって職業訓練を修了した方に資格が有ると認めているもので,内容が複雑多岐ですから,該当すると思われる方はクレーン等安全規則221条(就業制限)を参照し,関係する告示を調査してください*2

備考C 玉掛け特別教育について

  • 特別教育は,表3の内容により事業所で行って良いことになっています,また講習科目を全部又は一部省略することもできます。詳細は労働安全衛生規則を参照してください*6
    また必要が有れば(社)日本クレーン協会各支部でも教育を行います。

 


3.玉掛け用具の選定
     
 クレーン等の玉掛けには,つり荷の質量,形状などによりワイヤロープ,つりチェーン,ベルトスリング等が用いられ,それにハッカ,シャックル,つりクランプ等を連結して用いることもあります。これら用具の選定を誤るとつり荷の落下等の災害につながることになりますから,下記選定方法を参考にして,慎重に選定してください。

 


4.ワイヤロープの選定
     
 ワイヤロープの構造は,通常,ストランド(子なわ)数×ストランドを構成する素線数で示され, 6×24,6×37のように表されます。主に玉掛けに使用されるワイヤロープの呼び名,構成記号,断面の例,特徴を表4に示します。
 
 
  • *フィラー線:ストランド内で,内外層素線間の空隙を充填している細線です。
     ワイヤロープのより方は,ストランドのより方向とワイヤロープのより方向によって
  • 普通より:より方向が反対方向
  • ラングより:より方向が同じ方向に区別されます。
     また,よりの方向によってZ,S の2種類がありますが,玉掛け用には普通・Z よりが多く使われます。これはラングよりに比べよりが戻りにくく,キンクを起こしにくい特徴があるためです。
     なおZ,S とより方向が異なるワイヤロープの使い方ですが,例えば高揚程クレーンの巻上げワイヤロープに採用するもので,図1のように,ウインチの巻取りドラムを左右別に設け,左にZ 右にSよりを巻くことにより,互いに反対よりのために反発し,ワイヤロープが並行のまま(寄りつかないで)フックを地上まで下ろせるようにする等のように使
    います。
 
     

 


5.ワイヤロープに関する荷重等の用語
   


  ・つり角度
玉掛け用ワイヤロープ数×つり点数によって図2のようになります。
 このうち3本×3点の場合については,隣のワイヤロープ間やa/2はつり角度ではなく,(a/2)の2倍の角度になるので若干の説明が必要になります。実際の業務では,図2のように3か所のつり点が対称(120度間隔)の位置に有るとは限らないので,図3のようにつり点が非対称の位置にある場合を例にして説明します。
 非対称のつり点3か所を結ぶ円を想定し,その中心とフックのつり点とを結ぶ垂直線も想定します,3本のワイヤロープのうち,どれか1本を基準ワイヤロープとし,その基準ワイヤロープと垂直線との角度がa/2で,これを2倍した角度がこの場合のつり角度になります。
 (現実にはこの角度はなく想定上の角度です)つまり,想定した円の直径(←………→ で示す)がつり角度を示す三角形の底辺になります。

・切断荷重:
 1本のワイヤロープを引張試験機にかけ,力(張力)を徐々に加えた場合,これ以上力を加えると切断する最大の荷重(単位:kN)でJISG3525ワイヤロープに,附表として記載されています。ワイヤロープの種類と公称径が同じなら,ワイヤロープのメーカが変わっても同じ数値になります。なお,JISでは破断荷重と記載されています。

・基本安全荷重:
 1本のワイヤロープで垂直につることができる最大の荷重(単位:t)です。

・安全係数:
 玉掛け用ワイヤロープを安全に使用するために設けられた係数で,クレーン等安全規則(以下クレーン則と記します)では6(単位:―無名数)以上と決められていますから,計算に使うときは6とします。
 基本安全荷重・切断荷重・安全係数の関係は次の式で表されます。

・安全荷重(単位:t):
 玉掛け用ワイヤロープの掛け数と,つり角度に応じてつり上げることのできる荷の最大荷重で,各事業所・職場で使用するワイヤロープの種類と公称径にしたがって,表6のように安全荷重表を事前に作成しておけば,簡単に安全荷重を求めることができます。
 なお,掛け数は表5にも有るように(玉掛け用ワイヤロープの数×つり点数)で表すのが良いでしょう*5

・張力係数・つり上げる力・引き寄せる力・モー ド係数の関係:
 図4はこれらの関係を説明図です。2本以上の玉掛け用ワイヤロープを使って荷をつり上げる場合,ワイヤロープにかかる張力f,荷をつり上げる力m,引き寄せる力p の大きさはつり角度a によって変化し,それぞれの大きさは次の計算で求められます。
f=1/Cos(a/2) p=Sin(a/2) m=Cos(a/2)
 m は,張力を1とした時つり上げる力が何倍になるかを表し,表5につり点数n 倍した数値(モード係数)を示します。この後で説明する安全荷重はこのモード係数を使って計算してあります。
 p は引き寄せる力と呼ばれ,玉掛け用ワイヤロープを内側に引き寄せる力として働きます,この力もつり角度が大きくなるに従って大きくなり,極端な場合つり荷を壊すこともあるので注意が必要です。

 

・張力係数
 つり角度が0度の場合の張力を1とした時,つり角度が広がった場合,張力が何倍になるか表す係数を張力係数と呼び,つり角度と張力の関係を図5に示します。同じ質量の荷をつり,つり角度がa1からa2に広がった場合にワイヤロープに掛かる張力が大きくなることを表しています。
 つり荷の重力は質量に比例しますから,つり角度が広がっても,つり荷の質量が変わらなければ,図の下向きの矢線の大きさで示すつり荷の重力(w)は変わりません。つまりクレーン等のフックには,このつり荷の重力が玉掛け用ワイヤロープの張力を経由してかかるので,その張力を合成した上向きの矢線の大きさ(F)も変わりません,そのためつり角度がa2に広がった場合の玉掛け用ワイヤロープにかかる張力F11,F22は,図のように大きくならないとフックにかかる力(F)にならないことを示 しています。

・モード係数
 モード係数は,玉掛け用ワイヤロープの掛け数とつり角度によって,つることができる安全荷重と基本安全荷重との比を意味し,本来はつり角度に応じて変わる値ですが,表5に示すように,通常つり角度を30度間隔に区切り,その間は一定値とすることにより使用上の便宜が図られています。

4本の玉掛け用ワイヤロープを使い4点つりする場合,長さが全て同じことは稀なので,4本均等に荷重がかからないことが想定されるため,安全を見てつり点数を3とするものです。

安全荷重表の使い方と作り方(計算方法)

玉掛け用ワイヤロープの種類:6×24 A 種,つり点数:2点,使用係数:モード係数での安全荷重表の作成例と,この表の使い方を以下に示します。

 

この表の作り方

  • 切断荷重と基本安全荷重は上記のとおりです。
  • 安全荷重=モード係数×基本安全荷重(有効数字3桁)として計算しています。
  • この表は1本×2点又は2本×2点つりの場合を示しています。
  • 3本×3点又は4本×4点つりの場合は,モード係数が1.5倍になりますから,この安全荷重を1.5倍します。
  • 2本×4点つりの場合はモード係数が2.0倍になりますから,この安全荷重を2.0倍します。
  • 玉掛け用ワイヤロープの種類が異なった場合は,JIS G3525を取り寄せるか,ワイヤロープ販売業者から切断荷重表を入手して,切断荷重の値を書き換え他は再計算してください。
     (参考までに,筆者はパソコンの表計算ソフトを使って切断荷重を手入力すれば,他は自動計算するようにしています。)

この表の使い方

  • 玉掛け用ワイヤロープの選定をつり荷の質量とつり角度から行います。
  • つり荷の質量4.0t,つり角度40°を例にします。
  • 矢線で示すように,つり角度30°以上60°未満の列を縦に見て,4.0t 以上の安全荷重を探し,4.62tに出会います。その行を左に見て公称径の18mmを得ます。つまり公称径18mm 以上のワイヤロープを選定することになります。

 


6.その他の玉掛け用具の選定と点検
     
 つりチェーン,ベルトスリング等の選定のためのモード係数等は,ワイヤロープと考え方は同じですが,それぞれに特徴がありますが,紙面の都合でここに掲載できませんが,つりチェーンはJIS B8816巻上げ用チエーンスリングで「使用荷重表」として規定しています。
 ベルトスリングはJISB8818ベルトスリング,JISB8811ラウンドスリングで「使用荷重等」を規定しています。どちらも「使用荷重」で表示していますから,モード係数から安全荷重を計算する必要が無く,メーカが出している取扱説明書に表示されている荷重(質量)とつり角度の範囲内で使用すればよい訳です。
 なお日本クレーン協会規格としてJCAS6801ベルトスリング使用マニュアル,JCAS6806ラウンドスリング使用マニュアルに詳しい使用上の注意事項や点検要領等が記載されています。
JIS,JCAS を必要に応じて取り寄せて利用してください。

 


7.玉掛け用ワイヤロープの点検検査
   

 
 代表的な玉掛け用具であるワイヤロープに関して,クレーン則第215条で不適格なワイヤロープの使用禁止として次のように規定しています。

  • ワイヤロープ1よりの間において素線数(フィラー線を除く)の10%以上が切断しているもの
  • 直径の減少が公称径の7%を超えるもの
  • キンクしたもの
  • 著しい形くずれ又は腐食があるもの

 これらはいずれも法令による廃棄基準を示しているもので,最低限度の遵守事項と考えるべきでしょう。
 また,著しい形くずれは数値化できないので,(社)日本クレーン協会から“ワイヤロープの簡易点検”が出されているので参考にしてください。これはいろいろな形くずれや腐食の例が,下敷き状の上質紙にカラー写真で表示されているので,現物と対比してみると判断しやすくなっています。
 ここで問題なのは,内部素線の切断や腐食の状態は,専用の特殊工具又は専用測定器がなければ外部からの目視だけでは解らないことです。また個々の項目だけではなく,例えば直径の減少と腐食が同時に見られたような場合の判断がないということです。
 この問題に関しては,ワイヤロープに関するJISB8836が2007年に出ています。その基準の一部を記載すると,外部素線の切断は,表7の単層ストランドロープの破棄すべき可視素線数を超えた場合と,谷部素線の断線(ニップ断線)が1より間に2本見られた場合,いずれも破棄するとなっています。
 また付表として,表8のようなロープの検査記録の例が載っています,これは複合した劣化状態を総合的に判断する手法で,個別の劣化要因ごとの廃棄基準に対する割合を明記しておき,その合計が100%に達したら破棄するというものです。各事業場・職場の状況に合わせて作業標準に取り入れることを検討してみてはいかがでしょう。この規格はワイヤロープ一般に関するものですが,表8は玉掛け用に一部修正してあります。

 


8.おわりに
     
 玉掛け作業者の資格と玉掛け用具の選定・点検について述べましたが,各事業場・職場の環境は千差万別なので,全てにそのまま採用できる安全策を述べることはできませんでした。労働安全衛生法の改正により,安全管理が法令遵守型から自主管理型に方向転換が図られています。「危険又は有害性等の調査等に関する指針」や「機械の包括的な安全基準に関する指針」に基づき玉掛け作業を含めたクレーン作業等のリスクアセスメントを実施し,先取り型
の安全管理を行うよう努力することが事業者や安全委員会・協議会等に求められていますので,本稿がその手掛かりになり各事業場・職場の安全に少しでも寄与できれば幸いです。

 
参考文献

1 

(社)日本クレーン協会発行クレーン誌
各年におけるクレーン等による死亡災害の発生状況
2 (社)日本クレーン協会発行クレーン等安全規則の解説第221条(就業制限)【解説】
3 労働安全衛生法施行令第20条(就業制限に係る業務)16号
4 労働安全衛生規則第36条(特別教育を必要とする業務)19号
クレーン等安全規則第222条(特別の教育)
5 玉掛け技能講習規程第2条(講習科目の範囲及び時間)【解説】
6 労働安全衛生規則第37条(特別教育の科目の省略)
7 玉掛け技能講習規程第3条(講習科目の受講の一部免除)
8 (社)日本クレーン協会発行「玉掛け作業の安全にかかるガイドラインの解説」
9 JISB8836表-1,附表(玉掛け用に一部修正)

 

((社)日本クレーン協会東京支部 講師 岸 光輝)


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