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玉掛け作業の安全(1)―玉掛け用具に係る使用上の注意点―
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1. まえがき
     
  spacer.gif  クレーン作業に欠かせない玉掛け作業とは,一般的にワイヤロープやチェーンその他の玉掛け用具を用いて,荷をクレーン等のつり具(フック)に掛けたり,外したりする作業のことをいいます。そしてこの玉掛け作業が何らかの要因となっている災害が,クレーン災害の中で高い比率を占めていることは非常に残念です。
 表1は,毎年9月〜12月のクレーン誌に掲載される災害統計より抽出した,平成12年から平成21年までの10年間に発生したクレーン作業に係る死亡災害のうち玉掛けに起因する災害をピックアップしたものです。また,図1は同10年間のクレーン等による死亡者数(A),玉がけに起因する死亡者数(B),およびその比率(B/A)を示したものです。
 死亡者数(A)は,右肩下がりに減少の傾向にありますが,玉がけに起因する死亡者数との比率(B/A)は,おおむね50%前後を占めております,むしろ僅かながら増加傾向となっています。
 安全は,作業に関する基本事項を繰返し再確認することから始まり,それによって災害要因を最大限に減らし,安全作業を行うことが災害防止につながります。そのためには,再教育を行うことが必要かつ大切なことと思っています。
 以下に玉掛け作業の安全,特に玉掛け用具に係る使用上の注意点にポイントを絞り,再教育等に活用できる内容について,2か月にわたり述べたいと思います。

表1 クレーン,移動式クレーン,デリックにおける死亡災害者数

現象  年 H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
クレーン・移動式クレーン・デリックによる死亡者数(A) 114 119 103 92 96 93 86 92 87 69













玉掛けワイヤロープ等の切断 8 6 3 5 3 4 12 3 9 4
クレーンフック等から玉掛けワイヤロープ等が外れた 4 3 3   2 2 2 2 1  
玉掛けワイヤロープ等からつり荷が外れた 14 16 21 9 16 15 17 12 11 11
クレーンフック等からつり荷が外れた 1 2     2   1 1 1 1
その他 7 11 4 13 4 9 5 7 13 1
小計 34 38 31 27 27 30 37 25 35 17
つり荷,つり具が激突した 4 7 8 5 7 6 3 3 4 2

つり荷,つり具と床上の物体に挟まれた 2 10 12 3 4 3 8 7 8 10
つり荷の転倒により挟まれた 6 9 6 9 5 10 8 8 4 5
小計 8 19 18 12 9 13 16 15 12 15
合計(B) 46 64 57 44 43 49 56 43 51 34
比率(B)/(A)(%) 40.4 53.8 55.3 47.8 44.8 52.7 65.1 46.7 58.6 49.3
クレーン誌掲載年号 H13/9 H14/9 H15/9 H16/9 H17/9 H18/9 H19/9 H20/9 H21/11 H22/12

 

図-1

図1 クレーン等による及び玉掛けに起因する死亡者数の推移

 


2. 玉掛け関連用語
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1) 玉掛け用具
 クレーン等のつり荷をつり上げ,運搬する場合に用いる用具のことをいいます。
 
一般的な用具;玉掛け用ワイヤロープ,玉掛け用つりチェーン,繊維スリング(ベルトス
リング,ラウンドスリング等)
半専用的用具;ある程度つり荷を限定した用具(つりクランプ,ハッカー,アイボルト,
アイナット,リング,つりビーム,つり箱,モッコ等)
専用的な用具;扱う荷に合わせて特別に制作された用具
   
2) つり具
 クレーン等の巻上げ用ワイヤロープによりつるされ,荷をつり上げるために用いられる用具のことをいいます。つり具は,クレーンに付属して装備され,巻上げ用ワイヤロープ等に組み込まれて取外しできないつり上げ用具をいい,取外しのできる玉掛け用具とは区別されます。
 つり具は取り扱う荷に適したものが用いられますが,通常は汎用性の高いフックブロックが用いられています。
注)玉掛け用具と区別されずに使用されることもあります。
   
3) 切断荷重
 玉掛け用ワイヤロープ,玉掛け用つりチェーン,ベルトスリング等の1本が,切断(破断)に至るまでの最大荷重のことです。(単位;kN)
注) JISでは破断荷重と呼ばれています。
   
4) 安全係数
 玉掛け用ワイヤロープ,玉掛け用つりチェーン等の切断荷重と,使用するときにそれらにかかる最大荷重(力)との比のことです。
 クレーン等安全規則に定められている玉掛け用具の安全係数は,次の通りです。
・玉掛け用ワイヤロープ…………6以上
・玉掛け用つりチェーン …………5以上,ただし一定の条件を満たすものは4以上
・玉掛け用フック,シャックル ……5以上
   
5) 基本安全荷重
 安全係数を考慮して,1本の玉掛け用ワイヤロープ等で垂直につることができる最大の荷重のことで,次式で求められます。
なお,JIS B8818「ベルトスリング」では最大使用荷重と称しています。

   
6) 安全荷重
 玉掛け用ワイヤロープ等の玉掛け用具で,掛け数およびつり角度に応じて,つることができる最大の荷重(t)のことです。
注)一部の玉掛け用具等では,安全荷重を定格荷重又は使用荷重として表示されているものもあります。
   
7) 掛け数
 掛け数は,玉掛け用ワイヤロープ等の本数を表し,荷側のつり点の数により1本2点つり,2本2点つり,3本3点つりという表し方をします。
   
8) つり角度
 フックにかけられた玉掛け用ワイヤロープ等の間の開角度(対角)をいい,図2に示すとおりです。

図2 掛け数(つり点)とつり角度(a:つり角度)

   
9)
張力係数
 つり角度により1本当たりの玉掛け用ワイヤロープ等に作用する荷重(張力)を算出するための割増係数のことです。玉掛け用ワイヤロープ等のつり角度による張力係数を表2に,つり角度と玉掛け用ワイヤロープ等にかかる張力の関係を図3に示します。
 なお,1本当りの玉掛け用ワイヤロープ等に必要な基本安全荷重と張力係数の関係は

 
表2 つり角度による張力係数
つり角度 張力係数
 0° 1.00
 30° 1.04
 60° 1.16
 90° 1.41
 120° 2.00

図3 つり角度と張力の関係

   
10) モード係数
 玉掛け用ワイヤロープ等の掛け数やつり角度により,つることができる安全荷重と,全荷重との比であり,表3に示す通りです。
 1本あたりのスリングに必要な基本安全荷重,つり荷の質量およびモード係数の関係は基本安基本安全荷重(t)=つり荷の質量(t)/モード係数であらわすことができます。
   
 
表3 掛け数とつり角度によるモード係数
掛け数   つり角度 0°を超え
30°以下
30°を超え
60°以下
60°を超え
90°以下
90°を超え
120°以下
2本2点つり 2.0 1.9 1.7 1.4 1.0
3本3点つり 3.0 2.8 2.5 2.1 1.5
4本4点つり 3.0(4.0) 2.8(3.8) 2.5(3.4) 2.1(2.8) 1.5(2.0)
2本4点つり 4.0 3.8 3.4 2.8 2.0
注)この表の詳細については「玉掛け作業者必携改訂版」(H23.2.25初版)を参照のこと


3. 玉掛け用具の選定計算
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1) 玉掛け用つりチェーンの例
 図4に示すように,質量4 tの荷をつり角度60°,2本2点つりした場合の,適正なチェーンスリングを選定する。
 なお,安全係数はチェーン,フック等すべて5とする,またチェーンスリングに使用するチェーン等級10の基本安全荷重(使用荷重)を表4に示す。
 


図4 2本2点つり

表4 チェーン等級10の基本安全荷重(K社)

チェーン線径
(mm)
切断荷重
(kN)
基本安全荷重
(使用荷重)
(t)
8 100 2.0
10 160 3.2
12.5 250 5.0
注)チェーンの基本安全荷重(使用荷重)表はメーカー毎に定められているので,その都度メーカーに確認すること。
   
  @ モード係数による方法
 つり方によるモード係数は,表3より60°以下の1 .7を採用し,前記2,10)より
  基本安全荷重(使用荷重)=つり荷質量 / モード係数=4/1 .7≒2.36(t)
 表4より2 .36t以上の基本安全荷重(使用荷重)を有する線径10 mmのチェーンを選定する。
  A 張力係数による方法
 表2より,つり角度60 °の時の張力係数は,1.16であるので,1本当りのチェーンの
 基本安全荷重(使用荷重)は,前記2,9)より
 基本安全荷重(使用荷重)= (つり荷質量 /
 つり点数)×張力係数= 4/2 ×1.16≒2.32(t)
 表4より 2 .32t以上の基本安全荷重(使用荷重)を有する線径 10 mmのチェーンを選定する。
   
2) ベルトスリングの例
 図5に示すように,質量 6 tの荷をつり角度45°,2本4点つりした場合の,適正なベルトスリングを選定する。なお,安全係数は6とし,ベルトスリングの等級はVとする。この場合の最大使用荷重(基本安全荷重)を表5に示す。
 


図5 2本4点つり

表5 ベルトスリング等級の最大使用荷重

幅 ( mm)  形式 両端アイ形
(t)
エンドレス形
(t)
35 1.25 2.5
50 1.60 3.2
75 2.50 5.0
注)この最大使用荷重表の詳細については,平成23年2月 25日初版「技能講習用テキスト玉掛け作業者必携」,または JISB8818を参照のこと。
   
  @ モード係数による方法
 つり方によるモード係数は,表3より 30 °を超え 60 °以下の 3 .4を採用し,前記2, 10)より
 最大使用荷重=つり荷質量/モード係数=6/3.4≒1.76(t)
 表5より両端アイ形の1.60t(ベルト幅50mm)以上の最大使用荷重を有する幅75mmのベルトスリングを選定する。
  A 張力係数による方法
 つり角度45°の張力係数は,計算上1.083となる,1本当りのベルトスリングの最大使用荷重は
 最大使用荷重=(つり荷質量/つり点数)×張力係数=(6/4)×1.083≒1.625(t)
 この値は,表5両端アイ形の1.60t(ベルト幅50mm)より大であるので,その上の最大使用荷重2.50tを有する幅75mmのベルトスリングを選定する。
{参考:張力係数=1/cos(a/2) a:つり角度}
   


4. 玉掛け用具の注意点
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 各玉掛け用具についての使用上の注意点の主なものを以下に述べます。
1)玉掛け用ワイヤロープ
@  正しいつり角度でつり,安全係数は6以上としなければならない。
A  玉掛け用ワイヤロープが傷つきやすい個所には,必ず,“当てもの”をする。
B  玉掛け用ワイヤロープにキンクその他異常のあるものは使用しない。
C  塩害(海岸等)の恐れがあるところではG種(メッキ)を使用することが望ましい。
D  アルミ合金止め玉掛けワイヤロープは海中に入れて使用しない。
(塩分で,アルミ合金が溶解し,締結力が落ちる)
E  圧縮止め玉掛けワイヤロープは,アイ部の口の開き角度を60°以内とする。
F  保管は,湿気,高温,粉じん,酸等の無い風通しの良い場所に,使用区分を定めて整頓しておく。
G  物体の固定や,荷締めに用いる“台付け用ワイヤロープ”と呼ばれるものもあるが,アイ加工の差し終わり部に段差があり,この部分で損傷の恐れがあるため,玉掛けには使用しない。
H  つり荷を着地させた(玉掛け用ワイヤロープが緩んだ)時に,外れ止め装置が付いているフックであっても,玉掛け用ワイヤロープが外れる(図9参照)場合があるので,2重の外れ止め装置等を付けるとより安全である。
((社)日本クレーン協会つり具委員会にて対策を検討中)

(次号へ)

 
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