spacer.gif
安全帯の正しい使い方-安全帯の選定方法と使用時の注意事項等-
spacer.gif  
1.はじめに
spacer.gif spacer.gif
 
 安全帯は,送電線工事や建設工事での高所作業において,作業者の墜落や転落等の労働災害を防止するためには必須の個人用保護具である。安全帯の構造や性能(強度・耐衝撃性能等)については厚生労働省の「安全帯の規格」により規定されている。
 この安全帯を正しく理解して頂くため安全帯に関する法規や選定方法,使用時の注意事項及び,保守管理等のポイントについて説明する。
 また,最終項では,建設工事で主流になってきている「ダブルランヤード式」や「ハーネス型安全帯」についての特徴を説明する。


2.労働災害の現状
spacer.gif spacer.gif
 
 表1は平成22年の労働災害を,業種別にまとめたものである。特に高所作業との関連が深い「墜落・転落」で311名の方が尊い命を失われている。これは,全産業の約26%を占めている。「墜落・転落」は,一たび発生すれば重大災害に繋がる危険性が高いと言える。
 
表1 労働災害死亡災害発生状況(平成22年)
  墜落
・転落
転倒 激突 飛来・
落下
崩壊・
倒壊
激突
され
挟まれ・
巻き込
まれ
感電 爆発 火災 交通
事故
その他 合計 割合
(%)
製造業 40 6 0 14 14 13 68 6 2 0 18 30 211 17.7
鉱業 2 0 0 0 0 1 1 0 0 0 1 0 5 0.4
建設業 159 11 1 20 27 19 35 6 2 4 40 41 365 30.5
運輸・貨物
・港湾
14 5 1 11 7 8 15 0 0 0 103 17 181 15.1
林業 12 1 1 6 11 19 2 0 0 0 2 5 59 4.9
その他 84 10 2 12 8 13 50 1 1 1 126 66 374 31.3
合計 311 33 5 63 67 73 171 13 5 5 290 169 1,195 100.0
割合
(%)
26.0 2.8 0.4 5.3 5.6 6.1 14.3 1.1 0.4 0.4 24.3 13.3 100.0


3.安全帯に関する法規
spacer.gif spacer.gif
 
 安全帯に関する法規には,(1)製造業者に関すること(2)事業者に関すること(3)労働者に関することの3項目がある。これらに関する法規の条項について要約する。
(1) 製造業者に関すること
条項
労働安全衛生法 第42条
労働安全衛生法施行令 第13条の2
要約
危険な場所において使用するものにおいては,厚生労働大臣が定める規格または安全装置を具備すること。危険な場所において使用するものの一つに,安全帯(墜落防止用に限る)が指定されている。すなわち,安全帯については,厚生労働大臣が定める規格である「安全帯の規格」に適合した製品を提供する義務がある。
(2) 事業者に関すること
条項
労働安全衛生法 第21条の2
労働安全衛生規則 第27条
第518条の2 第519条の2
第521条 第521条の2 第526条
要約
労働者が危険な場所(高さが2m以上の箇所で作業床を設けることが困難なとき,開口部で囲いを設けることが困難なとき)で作業を行なわせる場合には,安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講じる必要がある。また,安全帯を使用させる場合には,安全帯を取り付ける設備を設け,その設備については異常の有無を随時点検しなければならない。
(3) 労働者に関する事項について
条項
労働安全衛生法第26条
労働安全衛生規則第520条
第526条の2
要約
労働者は事業者が講じた措置について必要事項を守らなければならない。また,安全帯の使用を命じられたときはこれを使用しなければならない。
 
図1


4.安全帯の選定方法
spacer.gif spacer.gif

 

4.1 安全帯の構造
安全帯の選定にあたり,まず,安全帯の基本的な構造と各部の名称について説明する(図2)。

4.2 安全帯の種類について
表2は,安全帯の種類を構造と用途別(使用方法について)に分類したものである。安全帯の選定にあたっては,作業用途に適合した安全帯を
選定し使用することが重要である。

 

図2 一本つり専用安全帯
表2 安全帯の構造と用途
   
4.3 安全帯の用途について
(1) 一本つり専用
 作業場所に安定した足場があり,作業者は安全帯によって身体を保持しなくても作業ができ,万一の墜落災害を防止するために使用する安全帯である。主に。建設工事用として使用する。胴ベルト型安全帯とハーネス型安全帯がある。

図3 ハーネス型安全帯の一例
(2) U字つり用/一本つり U字つり兼用
 電柱や鉄塔上の作業のように,安全帯のロープを構造物に回した“U字つり状態”にして体重を預けて身体を安定させなければ作業が出来ない場合に使用する安全帯である。また,これらの作業環境において一本つり状態でも使用する場合には“一本つりU字つり兼用”の安全帯を選定する。

図4 一本つりU字つり兼用安全帯の一例

(3) 安全帯の種類の表示
 安全帯には図5に示すように胴ベルトに縫製してあるラベルに,「安全帯の規格」適合品であること及び,安全帯の種類が表示されている。購入にあたっては,必ずこの表示を確認する必要がある。


図5 表示ラベルの例


5.安全帯の装着時及び使用時の注意事項
spacer.gif spacer.gif
   
 安全帯の正しい装着方法と使用方法について説明する。

5.1 装着について
@ バックルの通し方
 ベルト先端部をバックル本体の挿入口から通し,スライド部で確実に把持させる。ベルトの先端部は必ずベルト通しに通す。

A ベルトの装着位置
 ベルトは,腰骨の位置にしっかりと締めること。ベルトと身体の間に親指が入る程度を目安とする。
 腰骨より上に装着すると,落下阻止時に肋骨を損傷するおそれがある。また,下方に装着した場合には,身体がすり抜けるおそれがある。
B D環の位置
 一本つり用の場合には,D環の位置が身体の前にならないようすること。D環が身体の前の状態で落下阻止した場合,“鯖折り状態”になり背骨を損傷するおそれがある。
C ハーネス型安全帯
複数のベルトで構成しているため,間違いなく装着する必要がある。また,それぞれのベルトに捻じれがないように注意すること。
背中部のD環にランヤードを接続する場合には,第三者に確実に接続できているか確認してもらうこと。
 
5.2 使用時の注意事項
 安全帯の使用時における主な注意事項を説明する。また,安全帯の使用前には,製品に添付の取扱説明書を必ず熟読すること。
@  D環より高い位置に掛け,墜落阻止時に加わる衝撃荷重を低く抑えるようにする。フックの掛ける位置によって衝撃荷重値が大きく相違することを理解することが必要である。
 
表3 フックの掛ける位置と衝撃荷重の関係
A  フックの掛ける位置は作業位置と大きく離れないこと。大きく離れた場合には,落下阻止時振り子状態になり構造物に激突する危険性がある。
B  開放部がある構造物には掛けないこと。落下阻止時にフックが構造物から抜ける危険性がある。
C  フックに,曲げ荷重が加わらないように掛けること。
 フックの強度は,引張荷重の強さが規格により決められている。すなわち,落下阻止時にフックに曲げ荷重等が作用すると,十分な性能を発揮できない危険性がある。


6.ダブルランヤード式安全帯とハーネス型安全帯の特徴
spacer.gif spacer.gif
 
 建設工事現場やプラントの保守工事において,より安全性を高める目的で「ダブルランヤード式安全帯(通称:二丁掛け)」や「ハーネス型安全帯」が多く使用されるようになってきた。そこでこの項ではこれらの安全帯の特徴について説明する。

6.1 ダブルランヤード式安全帯
 フックの掛け替え作業が多い現場では,安全性を高める目的で無胴綱状態(ランヤードが構造物に掛かっていない状態)をなくするため,2本のランヤードを備えたダブルランヤード式安全帯の使用が急増している。ダブルランヤード式安全帯は,交互にランヤードを掛け替えることにより,常に構造物とランヤードが連結され,無胴綱状態を無くし墜落の危険性を回避することができる。
 このダブルランヤード式安全帯は,胴ベルト型安全帯及びハーネス型安全帯とも製品化されている。


図6 ダブルランヤード式安全帯の使用例

図7 ダブルランヤード式安全帯の構造(例)
   
6.2 ハーネス型安全帯
 現状の日本の市場では,安全帯と言えば胴ベルト型安全帯を指すぐらい定着している。
 しかし,欧米では,安全帯と言えばハーネス型安全帯が規格化され使用されている。
 ハーネス型安全帯は胴ベルト型安全帯に比べ,墜落阻止時に体の主要部分(腿・胴・肩)に衝撃荷重が分散され,身体に加わる負担が少ないと言われている。そこで,この特徴を確認するため被験者に胴ベルト型安全帯とハーネス型安全帯を装着させ,宙つり状態にし,体に加わる変化を検証した。
 胴ベルト型安全帯の場合,写真1に示すように,作業者の体形が“への字”状態になり胴部一か所に荷重が集中し,約1分程度で呼吸が苦しくなった。一方のハーネス型安全帯の場合は,被験者の体を複数のベルトで支持するので体形が直立し呼吸が苦しくなることはなかった。

写真1 宙吊り試験(胴ベルト型安全帯)

写真2 宙吊り試験(ハーネス型安全帯)


7.点検と廃棄基準について
spacer.gif spacer.gif
 
 安全帯を正しく使用するためには,使用前には必ず始業前点検や定期点検は必ず実施し,異常のないことを確認の上で使用することが重要である。安全帯の点検箇所と廃棄の基準を表4に示す。
表4 安全帯の点検と廃棄基準


8.おわりに
spacer.gif spacer.gif
 
 第2項で説明しましたが,安全帯製造業者は,厚生労働省の「安全帯の規格」を満たした製品を提供する義務があります。
 事業者は,安全帯等を取り付ける設備の設置やその設備の点検,また作業者は高さ2m以上で作業床のない場合には,安全帯の着用が義務つけられています。
 このように,製造業者・事業者・作業者がそれぞれ決められた規則を遵守することで,高所からの墜落災害の撲滅に()がると考えています。
 いうまでもありませんが,高所作業前には必ず,始業前点検を実施して頂き異常のある場合には,廃棄するなどの適切な処置を講じてください。また,安全管理者(現場責任者)による定期点検も実施してください。
 また,安全帯の耐用年数については,使用条件が多岐にわたるため,製造業者に経年使用品の残存強度等の試験を依頼し,劣化状況を確認するなどで,ユーザー毎に適応した管理を行うことが必要であります。
 最後に,本文が高所作業に携われている皆様のお役に立てれば幸いです。
 
(藤井電工(株)開発一部 井上 均)


spacer.gif
[このページの先頭] [ホーム]