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安全帯の正しい使い方―安全帯の選定方法と使用時の注意事項等―
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はじめに
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 労働安全衛生規則では、「労働者を危険な場所(高さが2m以上の箇所で作業床を設けることが困難な時、開口部で囲いを設けることが困難な時)で作業を行わせる場合には、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講じる必要がある。」と規定されている。このように、安全帯は、送電線工事や建設工事およびプラント建設等の高所作業において、作業者の墜落や転落等の労働災害を防止するためには必須の個人用保護具である。この安全帯において、日本の市場の現状は欧米で使用されているハーネス型安全帯が急速に普及してきている。そこで、本稿ではハーネス型安全帯の特長を含めた安全帯に関する法規や性能および、安全帯の正しい使い方について説明する。また、今後の課題である墜落阻止後の被災者の救助方法についても紹介する。


1 安全帯に関する法規
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 安全帯に関する法規には、(1)製造業者に関すること (2)事業者に関すること (3)労働者に関することの3項目がある。これらに関連の条項とその内容について要約する。
1.1 製造業者に関すること
spacer.gif 条項: 労働安全衛生法 第42条
労働安全衛生法施行令 第13条第3項28
要約: 危険な場所において使用するものにおいては、厚生労働大臣が定める規格または安全装置を具備すること。危険な場所において使用するものの一つに、安全帯(墜落防止用に限る)が指定されている。すなわち、安全帯については、厚生労働大臣が定める規格である「安全帯の規格」に適合した製品を提供する義務がある。
 「安全帯の規格」に適合した製品には、ベルトに縫製されたラベルに「安全帯の規格」適合品と表示されている(図1)。
   
 
    図1 ラベル表示の一例
 
1.2 事業者に関すること
spacer.gif 条項: 労働安全衛生法 第21条第2項
労働安全衛生規則 第27条 第518条第2項 第519条第2項 第521条第2項
要約: 労働者を危険な場所(高さが2m以上の箇所で作業床を設けることが困難なとき、開口部で囲いを設けることが困難なとき)で作業を行わせる場合には、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講じる必要がある。また、安全帯を使用させる場合には、安全帯を取り付ける設備を設け、その設備については異常の有無を随時点検しなければならない。
 図2は、垂直タラップの上部に、リトラクター式墜落阻止器具を、また梁上には水平親綱を設置した墜落阻止用の設備の一例を示す。
   
 
    図2 安全対策の例
 
1.3 労働者に関する事項について
spacer.gif 条項: 労働安全衛生法 第26条
労働安全衛生規則 第520条
要約: 労働者は事業者が講じた措置について必要事項を守らなければならない。また、安全帯の使用を命じられたときはこれを使用しなければならない。
   
 


2 安全帯の選定方法
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2.1 安全帯の種類
spacer.gif  表1は、安全帯の種類、構造および用途(使用方法について)に分類したものである。安全帯の選定にあたっては、作業用途に適合した安全帯を選定し使用することが重要である。
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表1 安全帯の構造と用途
 
2.2 作業場所に適した安全帯の選定について
a. 一本つり専用
spacer.gif  作業場所に安定した足場があり、作業者は安全帯によって身体を保持しなくても作業ができ、万一の墜落を阻止するために使用する安全帯である。
 主に、建設工事用として使用する。胴ベルト型安全帯(図3)とハーネス型安全帯(図4)がある。
   
 
  図3 胴ベルト型安全帯の一例 図4 ハーネス型安全帯の一例
   
b. U字つり用/一本つりU字つり兼用
   電柱や鉄塔上の作業のように、安全帯のロープを構造物に回した“U字つり状態”にして体重を預けて身体を安定させなければ作業が出来ない場合に使用する安全帯である。また、これらの作業環境において一本つり状態で使用する場合には“一本つりU字つり兼用”の安全帯を選定する。
 U字つり状態の場合は、作業者の墜落・転落を阻止するためのランヤード(セフティロープ)を併用すること。
   
 
  図5 一本つりU字つり兼用安全帯の一例


3 安全帯の装着時及び使用時の注意事項
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 安全帯の正しい装着方法と使用方法について説明する。
3.1 装着時の注意事項
a. バックルの通し方
spacer.gif  ベルト先端部をバックル本体の挿入口から通し、スライド部で確実に把持させる。ベルトの先端部は必ずベルト通しに通す。ワンタッチバックルの場合は、“カチッ”と音がするまで差し込むこと。
   
 
   
b. ベルトの装着位置
   ベルトは、腰骨の位置にしっかりと締めること。ベルトと身体の間に親指が入る程度を目安とする。腰骨より上に装着すると、落下阻止時にベルトがずり上がり肋骨を損傷するおそれがある。また、下方に装着した場合には、身体がすり抜けるおそれがある。
   
 
   
c. 「D環」の位置
   安全帯のD環の位置は身体の前側(腹部)にならないようすること。
 D環が身体の前側の位置で落下阻止した場合、身体が“鯖折り状態”になり背骨を損傷するおそれがある。
 
   
d. ベルトのねじれ(ハーネス型安全帯)
   ハーネス型安全帯は、複数のベルトで構成しているため、間違いなく装着する必要がある。
 また、それぞれのベルトに捻じれがないように注意し、装着後各々のベルトに緩みが無いように調節すること。
   
 
   
3.2 使用時の注意事項
   安全帯の使用時におけるフックの掛け方は最も重要な注意事項である。また、安全帯の使用前には、製品に添付の取扱説明書を熟読し理解することが重要である。
   
a. 「D環」より高い位置に掛けること。
   フックはD環より高い位置に掛け、墜落阻止時に加わる衝撃荷重を低く抑えるようにする。
 フックの掛ける位置によって衝撃荷重値が大きく相違することを理解すること。
   
 
  表2 フックの掛ける位置と衝撃荷重の関係
   
b. フックの掛ける位置は作業位置から離れないこと。
   フックの掛ける位置は作業位置と大きく離れないこと。
 大きく離れた場合には、落下阻止時振り子状態になり構造物に激突する危険性がある。
 
   
c. 開放部がないこと。
   開放部がある構造物には掛けないこと。墜落阻止時にフックが構造物から抜ける危険性がある。
 
   
d. フックに、曲げ荷重が加わらないように掛けること。
   フックの強度は、ロープ/ストラップの取付け部とフックのかぎ部の中心にかかる引張荷重で強度が規定されている。従って、フック本体や外れ止め装置に曲げ荷重や押え荷重が加わると十分な性能を発揮できない。表3に正しい掛け方と誤った掛け方を示す。
   
  表3 フックの正しい掛け方と誤った掛け方
 
   
e. 一度でも大きな荷重が加わったものは廃棄すること。
   安全帯(ランヤードを含め)の主要部はナイロン繊維のベルトを用いている。ナイロン繊維は、高強度、高伸度である特性を有しているため、安全帯の性能や品質を満たせる上で最適な材質である。しかし、一度でも、大きな荷重が加わった場合、伸度が失われるため同一の安全帯で墜落阻止した場合には、衝撃荷重が著しく高くなるため廃棄する必要がある。この現象を示した試験結果を表4に示す。
   
  表4 衝撃荷重の大きさの違い
 
   
f. フックの掛け替えが多い作業にはダブルランヤードを使用すること。
   建設工事やプラント建設等において、水平移動が多い作業環境では、図6に示すように安全性を高めるため2本のランヤードを備えた安全帯(通称:二丁掛け)を使用すること。この仕様の安全帯は、交互にランヤードを掛け替えることにより、常に構造物とランヤードが連結され、無胴綱状態を無くし墜落の危険性を回避することができる。図7にダブルランヤード式安全帯の一例を示す。このダブルランヤード式安全帯は、胴ベルト型安全帯及びハーネス型安全帯とも製品化されている。
   
 
  図6 ダブルランヤード式安全帯の使用 図7 ダブルランヤード式安全帯の一例


4 ハーネス型安全帯について
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4.1 ハーネス型安全帯の定義
spacer.gif  「安全帯の規格」には、ハーネス型安全帯は下記の通り定義されている。
  @ 墜落を防止する時に、着用者の身体を肩・腿等複数個所において支持するベルトにより支持される構造であること(図8)。
  A 吊り下がったときに頭頂部と臀部とを結ぶ線とランヤードとのなす角度が頭頂部を上方として30度を超えないこと(図9)。
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図8 ハーネス型安全帯の構造 図9 吊り下がり状態
 
4.2 ハーネス型安全帯の特長
spacer.gif  ハーネス型安全帯は、複数のベルトで構成されていることから、墜落阻止時に加わる衝撃荷重が分散することは知られている。しかし、その墜落阻止時に加わる衝撃荷重の分散について数値化したデータはなかった。そこで、それを検証するため圧力センサーを組み込んだトルソーを開発しその衝撃荷重の分散を数値化した。
   
a. 衝撃荷重の測定方法
   開発した専用のトルソーにそれぞれ、ハーネス型安全帯および胴ベルト型安全帯を装着させた状態でランヤード長さ(1.7m)落下させ、トルソー各部に加わる荷重を測定した。なお、いずれの安全帯にもショックアブソーバ付きランヤード(ロープとフックを含めた呼び方)を用い、トルソーの質量は「安全帯の規格」で規定されている85kgとした。トルソーの概念図を図10、11に示す。尚@〜Cは圧力センサーの取付位置を示す。トルソーの形状は左右対称のため片側に加わる衝撃荷重値を測定した。
   
 
  図10 ハーネス型安全帯用トルソー 図11 胴ベルト型安全帯用トルソー
   
b. 試験結果
   上記トルソーを用いて行った衝撃荷重試験において、主に荷重が加わった部位の数値を表5に示す。表5より、腿部AとCの箇所、肩部ではDとEの箇所で衝撃荷重を受けていることが判った。試験結果の荷重が両側に加わったものとした結果を表6に示す。一方の胴ベルト型安全帯の場合には、胴部の側面周囲に荷重が集中していることが判った。また、図12はハーネス型安全帯及び胴ベルト型安全帯の墜落阻止時に加わった荷重を人体(イラスト)に載せ替えたイメージ図である。
   
  表5 衝撃荷重の測定結果
 
  ハーネス型安全帯 胴ベルト型安全帯
腿部 肩部
測定箇所 A C D E A C
各測定箇所の
最大衝撃荷重(kN)
0.79 0.46 0.35 0.26 1.44 1.85
ランヤード衝撃荷重
に対する比率(%)
15.6 9.1 7.2 5.4 28.9 37.1
   
  表6 ハーネス型安全帯における各部位に加わる衝撃荷重
 
   
 
  図12 墜落阻止時に加わった荷重を人体に載せ替えたイメージ図
  出典 (公社)日本保安用品協会発行ハーネス型安全帯を使用しよう!!


5 安全帯の点検
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5.1 点検の必要性
spacer.gif  安全帯は、厚生労働省の「安全帯の規格」に適合したものでなければならない。3.2項eで述べたように安全帯の主要な構成部品(ベルトやロープ)はナイロン等の合成繊維を使用している。
 ナイロン繊維は、高強度で伸度があり、安全帯の材料としては優れた機械的特性を有している。
 しかし、合成繊維のため使用しているうちに摩耗や紫外線の影響をうけ強度は低下する。
 この経年使用による強度低下については、独立行政法人労働安全衛生総合研究所著書の『NIS-TR-No37安全帯使用指針』に“安全帯および安全帯関連器具は消耗品であり、使用しているうちに摩耗等により性能が低下していくものである。”と記載されている。特に、ロープの摩耗や擦り切れについては取扱説明書の状態と照らし合わせて必要な処置をする必要がある。
 これらのことから、安全帯の使用前には必ず使用者による“始業前点検”を行うことが重要であり、更に、管理者が行う定期点検も不可欠である。
 また、安全帯を正しく使用するため、また安全帯の交換時期の目安とするため下記の注意事項については厳守すること。
   
 
@ 個人(ユーザー)による改造は行わないこと。
A 安全帯の構成部品(ベルト部やランヤード部)は同一メーカーのものを組み合わせること。
B 一度での大きな荷重(落下阻止)が作用したものは使用しないこと。
C 点検等で異常が認められた場合には使用しないこと。
D “さつま編み込み”はメーカーに依頼すること。
E 安全帯の使用者名・使用開始年月は必ず記入すること。
   
5.2 点検項目と点検内容について
   安全帯の点検において、表7に該当する場合は、廃棄すること。
   
  表7 安全帯の点検と廃棄基準
 


6 救助方法の紹介
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 墜落・転落により“宙吊り状態”になった被災者を救助するためには、被災者に加わっている圧迫や苦痛をいち早く取り除き、地上に降ろすことである。加えて、救助中には被災者の体勢を極力直立させて構造物への接触等の二次災害をなくすることも重要な課題となる。この課題を解消するためにハーネス型安全帯は有効である。
 ハーネス型安全帯は墜落阻止時には、被災者の体勢がほぼ直立しているため、救助活動を短時間で行える長所がある。
 本稿では、ハーネス型安全帯装着時における救助方法の一例について紹介する。この救助方法は、救助者2名で行うことで効率よく救助ができる。
 先ず、救助者は救助用ブロックを被災者より上方の構造物に台付ベルトを使用して取り付ける。その後、被災者の背部のD環に救助用ブロックのカラビナを連結する。
 この状態で、地上の救助者がロープを操作して被災者を地上に降ろす。救助用ブロックのロープ操作は、動滑車を介して行うため大きな力を必要としない。また、本器具は軽量で取扱いや操作は容易であるので、特殊な訓練等の必要はない。
 
図13 救助方法のイメージ図と機材


7 おわりに
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 第1項で説明しましたが、安全帯製造業者は、厚生労働省の「安全帯の規格」を満たした製品を提供する義務があります。
 事業者は、安全帯等を取り付ける設備の設置やその設備の点検、また作業者は高さ2m以上で作業床の設置が困難な時、作業床に囲いを設けることが困難な場合には、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止する対策を講じなければならないと規定されています。また、労働者は、事業者が講じられた措置を守らなければなりません。
 このように、製造業者・事業者・作業者がそれぞれ決められた規則を遵守することで、高所からの墜落災害の撲滅に繋がると考えています。
 いうまでもありませんが、高所作業前には必ず、始業前点検を実施して頂き異常のある場合には、廃棄するなどの適切な処置を講じてください。また、安全管理者(現場責任者)による定期点検も実施してください。
 また、安全帯の耐用年数については、使用条件が多岐にわたるため、製造業者に経年使用品の残存強度等の試験を依頼し、劣化状況を確認するなどで、ユーザー毎に適応した管理を行うことが必要であります。
 最後に、本稿が高所作業に携われている皆様のお役に立てることができれば幸いです。
 
(藤井電工株式会社 開発一部 技術顧問 井上 均)


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