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落制止用器具の規格」改正について(前編)
spacer.gif   藤井電工(株) 技術顧問 井上 均
はじめに
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 厚生労働省が参集された、有識者およびユーザ等で構成された委員による“墜落防止用の個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会”が開催されました。その検討会では、個人用保護具に関する国際的な動向、国内の災害事例等を踏まえ、規格改正に関連する技術的要件や労働者教育および、関連法令等の改正スケジュールについて検討が行われました。
 その検討会の結果を受け、労働安全衛生法施行令(政令)の一部改正により、第13条28号「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る)」が「墜落制止用器具」に改められ、厚生労働大臣が定める構造規格の名称も「安全帯の規格」から「墜落制止用器具の規格」に、また当該規格も基本的に国際規格等と整合され全部改正されました。
 そこで、本稿(前編)では「墜落制止用器具の規格」改正の背景とその概要および、当該規格に規定された主な性能等について説明させて頂きます。
 また、次号(後編)では、墜落制止用器具は「フルハーネス型」を使用することが原則とされていることから、フルハーネス型の特長と種類、ならびに墜落制止用器具の使用方法・点検・保守等について説明させて頂きます。


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1 背景
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 労働安全衛生規則“第九章墜落、転落崩壊等による危険の防止”では、事業者は墜落による労働者の危険を防止する措置として、高さが2m以上の箇所で作業を行わせる場合には、作業床を設置し、作業床の端や開口部で墜落の危険がある場合には囲い、手すり、覆い等を設け墜落自体を防ぐことが原則となっている。
 このような対策が困難な場合は、事業者は労働者に安全帯を着用させる等の措置を講じなければならない。この措置として用いられている安全帯は、国内では胴ベルト型のものが多く着用されている。
 しかし、胴ベルト型は着用者の胴部だけを支持する構造であるため、墜落阻止時に加わる衝撃荷重が胴部に集中的に加わることや、胴ベルト自体のずり上がりによる胸部圧迫等の危険性が指摘されており、これらの原因による死亡災害が発生した事例(表1参照)もある。
 一方、国際標準化機構(ISO規格)等(以下ISO規格という)では、墜落制止用(フォールアレスト)としては、フルハーネス型のみが認められている。このような状況下、ISO規格等との整合性を図る目的で、「安全帯の規格」(平成14年厚生労働省告示第38号)が全部改正され「墜落制止用器具の規格」(平成31年厚生労働省告示第11号)が告示され、同年の2月1日から適用されている。
 
表1 国内における安全帯に起因する死亡災害事例
  作業内容 安全帯の使用方法 災害概要
1 ブランコ作業 一本つり ブランコ板にて外面窓ガラス清掃作業を行っていた被災者が、メインロープのうち1箇所が外れたため、バランスを崩したブランコ板から墜落した。ライフラインにより地面への墜落は避けられたものの胴ベルト型安全帯で宙吊りになった。
2 電線を跨いで姿勢を保持する作業 U字つり 訓練用鉄塔にて作業訓練中、被災者は、両手で電線をつかんだ状態で宙づりとなった。その際、電線に架けていた胴ベルト型安全帯が胸部付近までずれ上がり、胸部を圧迫した。
3 電柱上の作業 U字つり+一本つり
U字吊りの緊張が原因と思われる
電話線の更新工事中、空中に張った電話線の不具合を改善するため、安全帯を電話線を支持している張線に掛け、作業していたところ、胴ベルト型安全帯が胴部から胸部にずり上がった状態で宙吊りとなった。
4 安全帯をロープ代わりに降下 一本つり 吸気口周囲の雨漏れ箇所を補修するため一人で、屋上から親綱とロリップと胴ベルト型安全帯を使用し下降しようとしたところ、屋上から約1メートル下の箇所で動けなくなった。
5 電柱上の作業 U字つり 電線補修作業員が、電柱上において、胴ベルト型安全帯がヘルメットにかかり宙づりとなり、さらにヘルメットの顎紐で頸部が圧迫された。
6 鉄塔上の作業
(降りる際)
U字つり
一本吊りもしくはU字吊りかは災害原因の論点ではない
作業を終えて照明柱を降りるため安全帯の親フックを外した際に、足を乗せていた照明器具の取付用架台から落下した。その際、親フックの金具が取付用架台と照明柱の隙間に引っかかり胴ベルト型安全帯で宙吊りとなった。
(出典個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会で厚生労働省から提出された資料)


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2 墜落防止用の個人用保護具の分類と規格改正の範囲
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2.1 墜落防止用の個人用保護具の分類
 ISO規格、欧州(EN)規格、米国安全衛生庁(OSHA)規則等において、墜落防止用の個人用保護具はフォールアレスト用保護具、ワークポジショニング用器具、レストレイント用保護具、ロープアクセス用器具の4種類に分類されている。フォールアレスト用保護具は、墜落時に労働者を地面に衝突させることなく制止し、保持できる性能を有する保護具(図1)。
 ワークポジショニング用器具は、ロープに労働者の身体を預け、身体を作業箇所に保持するための器具(図2)。レストレイント用保護具は、労働者が墜落する危険性のある箇所に到達することを制止する保護具(図3)。ロープアクセス用器具は、ロープに取付けた身体保持器具を用いて、労働者の身体を移動および保持するための器具(図4)である。
 
 
2.2 規格改正の範囲
 ISO等では、墜落防止用の個人用保護具の考え方は、墜落阻止時の身体保持等の安全面からみて、フォールアレスト用保護具としては、胴ベルト型のものは認められずフルハーネス型のみが認められている。また、前項に示した国内の災害事例等を踏まえ、フルハーネス型を主とした規格改正になっている。
 しかし、フルハーネス型は、胴ベルト型と比べ落下距離が長くなるため、フルハーネス型の着用者が地面に到達(衝突)するおそれのある場合の対応として、一定の条件に適合する胴ベルト型は有効であるとの考えから、胴ベルト型も含められている。
 一方、従来の「安全帯の規格」において定められていた、U字つり用胴ベルト(以下柱上安全帯という)については、ISO規格等では、ワークポジショニング用器具と位置づけられているため、規格改正には含まれていない。
 電気工事等に用いられている「柱上安全帯」は、十分な足場がない高所作業では、なくてはならない器具であることから、その構造や性能等は「JIST8165墜落制止用器具」でワークポジショニング用器具として規定されている。
 また、墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン(基発0622第2号)には“柱上安全帯は、墜落防止のために一定の有効性を有するが、墜落した場合にそれを制止するためのバックアップとして墜落制止用器具を併用する必要がある。”と指導されている。
 図5に、ワークポジショニング用器具と墜落制止用器具の併用例を示す。


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3 墜落制止用器具の種類
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 墜落制止用器具とは、前述(2.1項/図1)に示したように、墜落時に労働者を地面に衝突させることなく保持できる性能を有した器具である。「墜落制止用器具の規格」には、フルハーネス型と胴ベルト型の二種類が規定されたが、使用に際してはフルハーネス型が原則となる。
 但し、フルハーネス型の着用者が、地面に到達(衝突)するおそれのある場合(高さが6.75m以下)には、一定の条件注―1を満たせた胴ベルト型を使用することができる。
 図6にフルハーネス型の使用例、図7に胴ベルト型の使用例を示す。
注―1  胴ベルト型が使用できる一定条件を@〜Bに示す。
  @ 落下時の衝撃荷重が4kN以下であること。
(落下距離を少なくできるロック機能を備えたランヤードが望ましい。)
  A ランヤードの長さは、1.7m程度を上限とする。
  B 必ず、腰より高い位置にフックを掛けること。
 


4 性能に関する考え方
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 「墜落制止用器具の規格」改正は、ISO規格等に整合させることを原則としている。
 そのため、部品毎(ハーネス本体・ショックアブソーバ・コネクター等)に性能を確認する試験を行うことになる。
 一方、強度面においてISO規格等と整合させることによって生じる、重量増加、外観の大型化によることで作業性を損なう労働災害の誘発が懸念されることから、日本人の体格等を踏まえ、一部は従来の「安全帯の規格」に定められていた規格値も取り入れられている。
 また、技術の進展に迅速に対応するため、「墜落制止用器具の規格」には、構造や強度(静的・動的)および試験方法の基本的な要件を定め、部品の仕様や詳細な試験方法・判定基準等については「JIS規格」に定められている規定を引用することになっている。
(構造規格の見直しは、大きな問題がない限り改正されないが、JIS規格は5年ごとの改正(見直し)が基本となっているため、JIS規格を引用することで迅速な対応できるとの考え方である。)
 
4.1 静的性能(部品の強度)
 コネクタ(フック/カラビナ)および巻取り器の強度については、前述したようにISO規格等と整合させることによって重量増加、外観形状の大型化等により労働災害の誘発のおそれがあることから従来の規格値(11.5kN以上)となっている。一方、ベルト・繊維製ロープ等の引張強度については、重量増加が少ないため(比重1.1程度)現行の規格に比べ高強度(22.0kN以上)の規格値となっている。
 フルハーネス(本体)については、新たに足部方向の強度が規定され、静的トルソー(引張試験に用いる人体の胴体型の冶具)の頭部方向に15.0kN、足部方向に10kNの引張荷重を加えた場合に破断しないことと規定された。
 この試験方法を図8に示す。
 
4.2 耐衝撃性等
(1) フルハーネス(本体)の衝撃試験
 フルハーネスの性能を確認するため、トルソー(落下試験に用いる人体の胴体型をした重り)にフルハーネスを装着させた状態で、テストランヤード(ワイヤー)を連結し、足部および頭部方向から1m自由落下させる。
 この試験においてフルハーネスが破断することなく、トルソーを確実に保持しなければならない。また、落下制止後のトルソーの傾き角度も規定されている(図9フルハーネスの衝撃試験)。
 
 
(2) ショックアブソーバの種別と性能
 ショックアブソーバには、第一種、第二種の2種類が設けられ、それぞれ単体での性能が規定されている。第一種は、落下体質量(85kg、100kg)を、それぞれ1.8m自由落下距離させた時、衝撃荷重は4kN以下で、ショックアブソーバの伸びは1.2m以下の性能を有しなければならない。一方、第二種は、落下体を、4.0m自由落下距離させた時、衝撃荷重は6kN以下、ショックアブソーバの伸びは1.75m以下の性能を有しているものでなければならない。と規定されている。また、ショックアブソーバには、その種別、使用可能質量、標準的な使用条件の下で行った最大自由落下距離、および落下距離の表示が義務付けられている(図10ショックアブソーバの表示例)。
 
 
■ショックアブソーバの表示内容と数値について
@標準的な使用条件とは。
   耐衝撃性能(フルハーネスとランヤードを組合せた状態)の試験は、「標準な使用条件」を下にして行う。その条件とは、フルハーネスとランヤードを結合するD環の高さ(b)を1.45m、ランヤード長さを(c)を1.7m、そのランヤードのフックを連結する設備(手すり等)の高さ(a)を0.85mとした場合を目途としている。(図11作業中のイラスト参照)。ショックアブソーバに表示の数値は、上記の試験結果を示している。
A自由落下距離とは。
   作業者がフルハーネス型を着用した状態で墜落すると、当該フルハーネス型にランヤードを接続する部分の高さから、フック等の取り付け設備等の高さを減じたものにランヤードの長さを加えた距離を落下することになる。(図11のA参照)。
   すなわち、ランヤードを接続する部分の高さ1.45mと、フックを連結する設備の高さが0.85mであるためその差は0.6mで、この値にランヤード長さ(1.7mの場合)を加えた長さの2.3mを最大自由落下距離注―2として表示している。言い換えれば、墜落後にランヤードが緊張し、ショックアブソーバが作動するまでの距離である。
B落下距離とは。
  作業者の墜落を制止するときに生じる、ショックアブソーバの伸び、ランヤード及び、フルハーネスの伸び等に自由落下距離を加えた距離図11のB)である。
C使用可能質量とは。
   装着する作業者の体重に、装備品を加えた質量をいう。
D追加落下距離とは。(この距離は自由落下距離に含まれているため表示されていない。)
   フックを掛ける設備等の高さと、ランヤードを接続している「D環」の高さの違いによることで発生する距離をいう。(フルハーネス型の場合は0.65m、胴ベルト型の場合は0.1m)
   
(3) イラストによる自由落下距離および落下距離の説明
 図11は標準的な使用条件の下において、フルハーネス型の自由落下距離と落下距離を説明したものである。フルハーネス型で落下を制止した状態の落下距離Bは、ショックアブソーバの伸びにランヤードおよびフルハーネスの伸びを加えた値になる。従って、ショックアブソーバに表示されている落下距離以上の作業高さで使用しなければ足下が地面に到達(衝突)するおそれがある。
追記: 胴ベルトにおいても、自由落下距離および落下距離の考え方は同じ考え方である。但しランヤードを結合するD環の高さは腰部付近となるため追加落下距離は0.1mとなる。(再掲)
注―2  2.3mの最大自由落下距離について
   「墜落制止用器具の規格」では、第一種ショックアブソーバの自由落下距離は1.8mと規定されているのに対し、ショックアブソーバには、最大自由落下距離を2.3m(ランヤード長さ1.7mの場合)と表示している。この自由落下距離について基発0125第2号(「安全帯の規格の全部を改正する告示に施行について」には、「第一種ショックアブソーバに係る落下試験については、1.8mを超える自由落下を落下させ、第一種の基準に適合することを確認することは、より安全な措置であることから認められること。」と示されている。
 


5 墜落制止用器具の選定について
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 政令の一部改正に伴い、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(平成30年6月19日付け)では、「事業者は、作業床の設置が困難な場合、作業床の開口部に囲い、手すり、覆いの設置が著しく困難なときは、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等、墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。」と定められている。(第518条2項、第519条2項の要約)
 要求性能墜落制止用器具とは、「墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具」をいう。そこで、要求性能墜落制止用器具の選定要件について説明する。
要件1: 6.75mを超える箇所では、フルハーネス型を選定すること。
2m以上で作業床がない箇所または、作業床の端、開口部等で手すり等の設置が困難な箇所での墜落制止用器具は、フルハーネス型を使用することが原則となる。但し、フルハーネス型の着用者が地面に到達するおそれのある場合(高さが6.75m以下)は胴ベルト型を使用することができる。(一般的は建設作業の場合は、5mを超える箇所ではフルハーネス型の使用が推奨される。)
   
要件2: 使用可能な最大重量に耐える器具を選定すること。
墜落制止用器具は、着用者の体重及び装備品の重量の合計に耐えるものでなければならない。(85kg用または100kg用)製品に最大重量の表示が義務付けられているので、選定時には必ず確認すること。
   
要件3: ショックアブソーバは、フック位置によって適切な種別を選定すること。
腰の高さ以上にフック等を掛けて作業を行うことが可能場合には、第一種ショックアブソーバを備えたランヤードを選定すること。鉄骨組み立て作業等において、足元にフック等を掛けて作業を行う必要がある場合は、フルハーネス型を選定するとともに、第二種ショックアブソーバを備えたランヤードを選定すること。(両方の作業を混在して行う場合は、フルハーネス型を選定するとともに、第二種ショックアブソーバを備えたランヤードを選定する。)
(出典厚生労働省発行のパンフレット安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!)


6 特別教育について
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 国内の墜落災害の原因は、安全帯を着用しているにも関わらず、使用していなかった事例が多く、また安全帯を使用していても、その使用方法が適切でなかった場合も多い。
 このようなことから、墜落防止用の保護具を使用して作業を行わせる労働者に対しての教育を強化すべきであるとの考えから、労働安全衛生規則の特別教育を必要とする業務(第36条41号)に、「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」が追加された。
 従って、事業者は、当該業務に労働者を就かせる時は、あらかじめ、学科および実技による特別教育を所定の時間以上行わなければならない。


おわりに
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 本稿では、今般の規格改正の背景、その概要および性能に関する考え方、並びに労働安全衛生規則に規定されている“要求性能墜落制止用器具”の選定等について説明させて頂きました。
 労働安全衛生法施行令の一部改正により、「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に改正され、関連法令等から、安全帯の名称が消えることになりますが、製品の呼び方については、今まで通り安全帯で問題はないとされています。従って、始業前点検等の指先呼称では、“安全帯よし!”それとも“フルハーネスよし!”となるのでしょうか。
 安全帯メーカーとしては、「安全帯」の名称が消えることは少し寂しい思いはありますが、今後も引き続き、高性能・高品質な製品の提供を行い、ユーザ様方の安全作業に繋げられるように努めてまいります。
 次号(後編)では、フルハーネス型の特長と、ランヤードの種類および、墜落制止用器具の正しい使用方法、保守・点検方法等について説明させて頂きます。


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