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落制止用器具の規格」改正について(後編)
spacer.gif   藤井電工(株) 技術顧問 井上 均
はじめに
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 平成30年6月19日告示された労働安全衛生規則の一部改正する省令には、第130条の5等において、事業者は「墜落による危険のおそれに応じた墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)を使用させる等、転落の危険を防止するための措置を講じる。」等と規定されています。これを踏まえ、「墜落制止用器具の規格」に新たに「使用制限」の規定が設けられました。この墜落による危険のおそれに応じた墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)の選定については、前編で説明させて頂きました。
 墜落制止用器具を使用される業種は多岐に亘っており、作業内容も相違していることから、その業種および作業内容に適した墜落制止用器具を選定することはとても重要なことです。
 労働安全衛生法令等では、墜落制止用器具はフルハーネス型の使用を原則とされていることから、本稿(後編)では、フルハーネス型および、それに用いるランヤードの特長と種類、正しい使い方・点検・保守等のポイントについて説明させて頂きます。


1 フルハーネスの構造と特長
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1.1 構造
 「墜落制止用器具の規格」の(構造)第3条には、フルハーネス型の構造について次のように規定されている。
@ 墜落を制止するときに、着用者の身体に生じる荷重を肩、腰部および腿等においてフルハーネスにより適切に支持する構造であること。
A フルハーネスは、着用者に適切に適合させることができること。
B ランヤード(ショックアブソーバを含む。)を適切に接続したものであること。
C バックルは、適切に結合でき、はずれにくいものであること。
 上記の規定を満たした構造の一例を図1に、フルハーネス型を装着した状態のイメージ図を図2で示している。
 
 
 
1.2 特長
 フルハーネス型は、複数のベルトで身体を支持する構造であるため次のような特長がある。
@衝撃荷重が身体の主要部に加わる。
spacer.gif  フルハーネス型は、肩・腿部等複数のベルトで身体を支持するため、墜落阻止時に加わる衝撃荷重を体の主要部(肩・腿部等)で受け止めることができる。
A身体の保持機能が優れている。
 
 複数のベルトで身体を支持するため、墜落阻止時に身体を確実に保持し、ベルトのずり上がりが少なく、身体のすっぽ抜け等のリスクが極めて低い。
B宙つり状態の体勢が安定している。
   墜落阻止時および制止時(宙つり状態)の体勢が、ほぼ直立状態で保持できるため、身体に加わる苦痛が軽減できる。
 ここで、フルハーネス型の特徴である墜落阻止時およびその後の宙つり状態の体勢が安定していることを確認するため、人体ダミーに、フルハーネス型および、胴ベルト型を装着させ、標準的な使用条件を下に落下試験を行い、それぞれの挙動を確認した。図3に試験結果の写真を、その試験結果の概要を下記に示す。
 胴ベルト型は、ショックアブソーバが作動し始める時点で、胴部で衝撃荷重を受け人体ダミーに傾きが生じた(写真A)。その後、ショックアブソーバが作動しランヤードが伸張した状態では、その傾き角度は大きくなっている(写真B)。
 次に、ランヤードが収縮すると人体ダミーがリバウンドによる反動で足部が上方に振り上げられる現象が発生した(写真C)。制止時には、人体ダミーが“への字状”の宙つり状態となる(写真D)。一方、フルハーネス型は、落下前の体勢をほぼ保持した状態で人体ダミーの挙動は制止する。ランヤード等の収縮により人体ダミーがリバウンドしても挙動に大きな変化は現れなかった(写真C)。また、静止状態もほぼ直立した状態を保つことができている(写真D)。
 いずれも、ランヤードにはショックアブソーバが装備されているため、衝撃荷重は4kN以下(規格値)となったが、人体ダミーの挙動には大きな違いがある。
 
 
1.3 フルハーネス装着時の注意事項
 フルハーネス型の性能を十分に引き出すためには、適正なサイズの製品を選定し、正しく装着する必要がある。
 サイズの選定にあたっては、製品の外箱やカタログ等に表示されているサイズ選定図(図4)を参考に選定する方法がある。サイズ選定図は、身長と体重から適用範囲を表示しているが、2項で説明するフルハーネスの種類によって多少相違する場合があるので選定の目安とすること。また、メーカー毎によってもサイズ選定図は相違している。フルハーネス型を正しく装着するためには、試着し選定することが望ましい。
 
 下記にフルハーネス型装着時の注意事項と装着方法について説明する。
@注意事項
  a) バックルがワンタッチ式の場合、確実に連結できているかを確認すること。
(誤った装着ができない構造となったものを選択することが望ましい。)
  b) 通常2つ以上のバックルがあるが、これらの組み合わせを誤らないように注意して装着すること。
  c) 装着後、ランヤードを使用しないときは、ランヤードが垂れ下がらないようにすること。
(製品についているフック掛け等にフックを掛けておくこと。)
  d) 装着後、相互に確認し正しく装着しているか確認すること。
A装着方法
   図5にフルハーネス型の装着方法の一例を示している。
 
 墜落制止時に、フルハーネスのずり上がりを抑え、確実に身体が保持(安定した宙つり状態)できるように、各ベルトを緩みなく調節し装着すること。
 


2 フルハーネス型の種類
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 国内で流通している標準的なフルハーネス型の種類(製品)と、その特長について説明する。
@ももベルトV型
spacer.gif  腿部のベルトの形状がV型で、背部のベルトは肩甲骨の高さ付近でX状に重なる構造となっている。ISO規格等ではこの仕様が標準である。腿ベルトが、股関節に沿って配置されているため、作業姿勢や移動の動きに対する支障が少なく、墜落制止時の身体保持も安定している。
 
A腿ベルト水平型
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 腿ベルト部が水平で独立した構成になっているため、鼠蹊部そけいぶ(大腿部の付け根部分)の拘束感が少なく、立ち仕事や頻繁に移動する作業環境に適している。
腿ベルトのあそび(緩み)が大きい状態で装着すると、墜落阻止時にベルトがずり上がり、身体の圧迫や胸バンドによる頸椎けいついの圧迫等が懸念される。
 
B背中ベルトY型
spacer.gif  フルハーネスの背中部のベルトは、一般的に肩甲骨の高さ付近でX状にクロスしている構造となっているが、作業内容によっては、作業ベルトに多くの工具や工具袋を吊り下げるため、背部のベルトをY型の構造にして工具や工具袋を取り付けるためのスペースを設けている。
 背中ベルトY型のフルハーネス型は、作業ベルト付が標準である。


3 ランヤードの定義と種類
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3.1 定義
 「墜落制止用器具の規格」では、ランヤードとは、フルハーネスまたは胴ベルトと親綱その他の取付設備とを接続するための、ロープ又はストラップ、コネクタ等(フック、ショックアブソーバ等)で構成されたものをいう。と規定されている。
 
3.2 種類
 国内で流通している主なランヤード種類として、ロープ式、伸縮式、巻取り式がある。また、移動時のフックの掛け替え時の墜落を防止するために二本のランヤードを備えた(二丁掛け)構造もある。それぞれの構造の一例と特長等について説明する。
 ここで説明しているランヤードは、フルハーネスのD環に着脱可能な構造の製品であり、ランヤードを、フルハーネスのD環に縫製等により直接連結した構造もあるが、性能や特長等は同じである。
 
@ロープ式ランヤード
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 ロープ式は、一般的に三つ打ちロープが用いられている。三つ打ちロープは強度、耐摩耗性に優れているが、ロープに捻じれが加わると“キンク(型崩れ)”を起こす欠点がある。“キンク(型崩れ)”が発生しない八つ打ちロープも製品化されている。
 
A伸縮式ランヤード
spacer.gif  伸縮式は、ストラップ部が伸縮する構造になっているため、未使用時にはストラップが収縮するため、不用な垂れ下がりが防止できる。ストラップが収納できる“巻取り式”に比べ軽量であることから、作業条件によっては伸縮式が選択されている。
 
B巻取り式ランヤード
spacer.gif  巻き取り式は、未使用時にはストラップが巻取り器本体に収納されているため、移動時にストラップが構造物等に引っ掛かりにくい特徴がある。
 巻取り式は小型化を図るため、ストラップを細幅に厚みも薄くする必要性から高張力繊維が用いられている。巻取り式でロック機能を有したものは、ロープ式、伸縮式ランヤードと比べ、落下距離を短く抑えることができる。また、ストラップが常時巻き込まれた状態を維持し、さらにロック機能を搭載している製品は、落下距離を最小限に抑えることができる。
 ロック機能を有していない巻取り式ランヤードには、“ロック機能なし”等の表示がされているので、選定時には必ず確認すること。(ロック機能がない製品は、ロープ式および伸縮式と同様にランヤード長さ分自由落下することになる。)
 
C二丁掛けランヤード
spacer.gif  二丁掛けランヤードは、移動中に障害物がある場合、フック掛替え時の墜落を防止するために用いるもので、それぞれのフックを相互に掛替えることで、常に構造物との連結ができるため安全性が高められる。尚、二丁掛けランヤードについては、「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」にも、移動時におけるフックの掛替え時の墜落を防止するため、二つのフックを相互に使用する方法(二丁掛け)が望ましいと指導されている。
 


4 墜落制止用器具の使用上の注意事項
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 墜落制止用器具を正しく使用するため、特に重要であるフックの掛け方について説明する。前項で示した「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」にはフック等の使用方法について、“フック等はランヤードのロープ等の取付け部とかぎ部の中心に掛かる引張荷重で性能を規定したものであり、曲げ荷重・外れ止め装置への外力に関しては大きな荷重に耐えられるものではないことを認識したうえで使用すること。”と指導されている。
 従って、フックを構造物に直接掛け、回し掛け、あるいは穴掛け等を行う場合、墜落阻止時に曲げ荷重や抉じる荷重が加わらないように掛けることと、外れ止め装置にも荷重が加わらないように掛けることが重要である。表1にフックの掛け方の正誤について一例を示す。
 


5 墜落制止用器具の点検・保守について
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 墜落制止用器具の性能は、厚生労働大臣の定める規格「墜落制止用器具の規格」に適合したものでなければならない。墜落制止用器具の主要な構成部品(ベルト・ロープ等)は合成繊維製を用いているため、経年による摩耗や紫外線の影響を受け性能(強度)は低下する。従って、日常点検や定期点検は欠かすことができない。
 前述した「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」には点検・保守については、“責任者を定めることにより確実に行い、管理台帳等にそれらの結果や管理上必要な事項を記録しておく。”と指導されている。
 下記にその点検・保守のポイントについて記載する。
@ 点検は、日常点検のほか、一定期間ごとに定期点検を行う。定期点検の間隔は半年を超えないこと。点検項目については、製品の取扱説明書に記載されている項目に準拠して行うこと。
A ランヤードのロープ等は、摩耗の進行が速いため、少なくとも一年以上使用しているものについては、短い間隔で定期的に目視点検を行うこと。
B 一度でも大きな衝撃を受けた墜落制止用器具は、外観に変化がなくても再使用しないこと。
C フルハーネスおよびランヤードの交換時期は、使い方によって異なるが、フルハーネスは使用開始から3年、ランヤードは使用開始から2年を目安としていること。
(日本安全帯研究会(安全帯メーカーで構成された団体)、が推奨している交換の目安を示している。)
 耐用年数は、使用環境によって大きく相違するため、一律に耐用年数を決めることは無理がある。従って、同じ環境(現場)で使用した経年品の残存強度等の試験を行い、その現場ごとの耐用年数を決定することが望ましい。なお、経年品の残存強度等の試験を行うにあたっては、当該製品のメーカーに問い合わせること。


6 特別教育の必要性について
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 国内の墜落災害の原因は、安全帯を着用しているにも関わらず、使用していなかった事例が多く、また安全帯を使用していても、その使用方法が適切でなかった場合も多い。
 このようなことから、墜落防止用の保護具を使用して作業を行わせる労働者に対しての教育を強化すべきであるとの考えから、労働安全衛生規則の特別教育を必要とする業務(第36条第41号)に、「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」が規定された。


おわりに
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 労働安全衛生規則では、高さが2m以上の箇所で作業を行う場合には、作業床を設け、その作業床の端や開口部等には囲い、手すり、覆い等を設け、墜落自体を防止することが原則となっています。このような措置が困難な場合には、事業者は、労働者に墜落制止用器具を使用させる等の措置を講じなければなりません。この場合の墜落制止用器具は、フルハーネス型が原則となります。
 更に、墜落制止用器具のうちフルハーネス型を用いて行う作業に係る業務が、特別教育を必要とする業務に追加され、事業者は労働者にフルハーネス型を用いて作業を行わせる場合には、あらかじめ特別教育を行わなければなりません。
 「墜落制止用器具の規格」改正について、前編では、規格改正の背景とその範囲、および性能に関する考え方等について、また、後編では、フルハーネス型の特徴、ランヤード種類、正しい使い方等について説明させて頂きました。
 本稿が、読者の皆様方にすこしでもお役に立つことができれば幸いです。
 
ご安全に!!


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