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あらまし |
本災害は,道路拡張工事現場において,道路山側斜面の崩壊防止のために設けられていた防護柵のH鋼支柱を撤去するため,H鋼3本をまとめて玉掛けし移動式クレーンにより巻き上げ旋回中,当該H鋼が3本とも玉掛けワイヤロープから抜け落ちて被災者らを直撃し,2名が死傷したものである.
この工事は国道の山側斜面を削り取り,道路幅員の拡張と擁壁の構築をするもので,M建設が元請けとなり,Kクレーンが2次下請けとして作業を行っていた.Kクレーンの主な作業は,道路斜面に設けられた仮設の落石防護柵を解体し,H鋼支柱(長さ11メートル,1本の質量約500キログラム)の上部をつりクランプで挟んでボルト締めし,これを移動式クレーン(ホイールクレーン,つり上げ荷重25トン)でつって引き抜き,そのまま擁壁の表側(前面)を旋回させて,トレーラーの荷台に積み込むものであった.
災害発生当日,元請けから来ていた2人の労働者は擁壁の裏側で砕石の敷きならし作業を,また,Kクレーンから派遣された6名の労働者は前日の作業に引き続いて防護柵の解体・運搬作業を行っていた.移動式クレーンの運転は当初KクレーンのAが担当していたが,午前10時頃本人が体調の不良を訴えたため,急遽Bが交替して作業を続けた.午後になって玉掛者Cは,解体されて仮置きされていた防護柵のH鋼支柱3本を半掛けで玉掛けしてクレーン運転士Bに巻き上げの合図を送り,Bはそれに従ってH鋼支柱をつり上げ当初の計画とは異なる擁壁の裏側を旋回させてトレーラーの荷台上に下ろした.なお,旋回経路が当初の計画と異なったのは,擁壁の裏側で工事が行われていることがクレーン運転士に知らされていなかったためであった.その後,Bは玉掛けワイヤロープをフックに掛けたままH鋼支柱の仮置き場までクレーンを旋回させて戻した.玉掛け者のCとDは,前回と同じ方法で3本のH鋼支柱に玉掛けし,つり上げの合図を運転士Bに送った.これを受けたBも前回と同様,H鋼支柱をつり上げて擁壁の裏側を旋回させ,つり荷が擁壁の正面を通過したところで目線をトレーラーの方向に移した瞬間,つり荷のH鋼支柱3本が玉掛けワイヤロープから抜け落ちて,そのうちの1本が擁壁の裏側に,他の2本が表側に落下した.このとき,擁壁の裏側で砕石の敷きならし作業をしていた元請けであるM建設のEの頭部を直撃して脳挫傷により死亡し,一緒に作業していたFは荷の落下を避けようとして構築物に身体をぶっつけて負傷した.
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