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あらまし |
本災害は,造船工場において,仮置きされた質量約1トンの鋼板を縦つりクランプ2個を用いて玉掛けし,無線操作式の天井クレーンをで定盤へ移す作業を行っていた際に,運転者
が無線コントローラのボタン操作を誤り,鋼板が運転者の方に急に引き寄せられて,運転者が鋼板と建家支柱の間に胸部を挟まれ死亡したものである.
災害のあった事業場では,鋼板を溶接して船体ブロックを製作する業務を専門に行っていた.
災害当日,被災者は工場長の指示により,工場の建家支柱の近くに置かれた船体ブロック製作用の鋼板11枚を,1枚ずつ無線操作式の天井クレーンを用いて,約5メートル離れたユニオン定盤上に並べる作業を―人で行っていた.
このとき使用していたクレーンは定格荷重が主巻き3Oトン,補巻き5トン,揚程15メートル,スパン25メートルであって,荷の鋼板は1枚ずつ玉掛けして補巻きによりつり上げていた.
鋼板の1枚当たりの大きさは幅2.3メートル,長さ7.6メートル,厚さ9.5ミリメートル,質量約1トンである.この鋼板への玉掛けは,直径16ミリのワイヤロープを取り付けた2個の縦クランプを用いて鋼板の端2箇所を挟み,ワイヤロープの他端はアイにしてクレーンのフックに掛ける方法で行った.クレーンの操作は運転者が首からつり下げた押しボタン式の無線コントローラを用いて行っていた.
午後2時半頃課長が作業状況を見に行ったところ,被災者が無線コントローラを右手に持ち,左手で鋼板を抱えるような格好で荷と建家支柱との間に胸部を挟まれているのを発見した.直ちに病院に収容されたが外傷性ショックで死亡した.
本災害は単独作業中に発生したため目撃者がおらず詳細は明らかではないが,被災状況から判断すると,天井クレーンで鋼板を移動させる際,補巻きを巻き上げるボタンを押すべきところ,誤ってすぐ下に位置する走行ボタンを押したため,天井クレーンが約3メートル走行して鋼板が被災者側に急に近づき,被災者が鋼板と建家支柱の間に挟まれたと推察される.
なお,被災後無線コントローラを調査した結果,異常は認められなかった.
また,当日の始業前点検においても正常に機能していることが確認されていた.
被災者はクレーン運転免許を取得しているほか,玉掛技能講習も修了しており,経験年数も40年に達していた.
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