JCA cr95061

あらまし

本災害は，鉄骨加工工場で質量5tのI形鋼で作られた主桁を矯正機にかけるため，ストックヤードから無線操作クラブトロリ式天井クレーンで運搬しようとしてつり上げていたところ，溶接作業を終わって戻ってきた作業者から溶接した主桁を矯正機まで運んで欲しいと依頼されたため，運転者が急遽つっていた主桁を下ろして依頼者が玉掛け用具のハッカーを外した後，空荷の状態でフックを巻き上げたところ，ハッカーが下ろした主桁に引っかかって倒れ，主桁を固定しようとしていた作業者が下敷きになったものである．
災害が発生した事業場には20台の天井クレーンが設置され，協力会社が常駐して溶接等によって鋼構造物を製作していた．災害当日，事業場に所属するクレーン運転士のAと，被災者で協力会社に属する労働者Bは，完成した主桁を矯正機に運ぶ作業を行っていた．ストックヤードの一番北側に置かれていた長さ1150cm，フランジ幅45cm，高さ216cm，質量約5tのI形鋼の主桁を矯正機に運ぶため，Aは無線操作式のつり上げ荷重50tの天井クレーンの25tの補巻きに取り付けたハッカーを，主桁に玉掛けした．続いてAは主桁の転倒を防止するために，底部フランジに対角線上に取り付けられていたシャコ万力２個を外して，30mm程地切りして重心とバランスの確認を行った．このとき，別の主桁の溶接作業を終わって戻ってきた協力会社の労働者Cが，溶接した主桁を矯正機まで運んでもらおうと思い，Aに「ちょっと待って」と声をかけた．CがAに「あれを持っていってもらいたいのですが」と言ったので，Aは「先にやろうか」と答え，作業を急遽変更することにした．Aは主桁を下ろしたが，これに転倒防止用のシャコ万力を取り付けるのを忘れてしまった．一方，CはAが主桁にシャコ万力を取り付けたと思った．CはAにハッカーを「外しましょうか」と聞いたところAがうなずいたので，Cは主桁からハッカーを外した．その後Cは，合図を行うことなく別な作業に向かうため，背を向けて歩き出した．AはCが立ち去ったので周囲には人がいないと思い込み，合図や確認をすることなくフックの巻き上げを行った．ハッカーから目を離したまま巻き上げを続けたところ，ハッカーが主桁のフランジに引っかかり，主桁が北側に倒れた．このとき，下ろした主桁にシャコ万力が取り付けられたかを確認するために近づいたCが主桁の下敷きとなり，頚椎骨折で死亡した．なお，Aはクレーン運転士免許証及び玉掛技能講習修了証を，玉外しを行ったCはクレーン運転士免許証を有していたが，玉掛技能講習修了証は有していなかった．Bは玉掛技能講習修了証を有していた．