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あらまし |
災害が発生した事業場では,輸出製品等の梱包や輸送時の木箱組み立て等の業務を主に行っていた.災害発生当日は,船の接岸時に緩衝物となる防舷材を作るための金型がトラックで運ばれてくるので,これを天井クレーンを用いて工場西側の金型置場に積み上げることになっていた.この作業は以前から行われていてクレーン運転者の指示に従うことが慣例になっており,また金型1個当たりの運搬作業が15分程度で終了することから,段取りや役割分担等については特に打ち合わせはしなかった.当日はトラックで運ばれてくる金型は2個あり,荷役作業は作業指揮者を兼ねたクレーン運転者1名と玉掛け者2名及び補助作業者1名の4人が当たることになった.午後2時頃,金型を積んだトラックが到着したので,クレーン運転者以外の3名の作業者が4本のシャックル付き玉掛け用ワイヤロープを用いて,金型の4カ所にあるつりピースの穴にシャックルのボルトを通して4本4点つりし,作業指揮者兼クレーン運転者のA が玉掛け状況を確認後,クレーンを操作して工場内の所定の位置に仮置きした.3名の作業者が玉掛けしたのと同じ位置で玉外しした後,シャックルが金型に引っ掛からないように中央にたぐり寄せてから各自が待機した.クレーン運転者のA は各作業者に玉外しが完了したかを呼びかけ,OK という返事を各人から聞いた後,“巻上げるから待避せよ”と呼びかけてから巻上げを開始した.このとき作業者は金型の置かれた場所から約2.5m 離れて待避した.巻上げに際してクレーン運転者には死角となる箇所があるため,運転者はこれまでシャックルが金型の上部に当たって発するカチーンという衝突音を聞いて,シャックルが引っ掛からずに巻上げられていることを確認していた.今回も複数のカチーンという衝突音がしたので,クレーン運転者及び待避していた作業者がシャックルが荷に引っ掛からなくなったと思い込み,作業者は次の金型の移動作業の準備をするため金型を下ろす予定の場所に移動するため,災害が発生した金型に接近した.このとき外れたと思われていたシャックルが金型の蓋に引っ掛かり,蓋が跳ね上げられて2.7m の高さから落下し,2個目の金型を積んだトラックの方に向かっていた作業者の頭部に激突した.なお,落下した蓋は幅108cm,長さ400cm,厚さ1.5cm,質量約1,500kg である.
災害発生後シャックルの状態を調べた結果,シャックルピンが奥までねじ込まれておらず,このような状態で巻上げ操作を行った場合,シャックルとシャックルピンの鍔の間の隙間に金型の蓋の一部が挟まれる場合があることが判明した
作業に従事したクレーン運転者のA は床上操作式クレーン運転及び玉掛け技能講習を,他の2人は玉掛け技能講習を修了していたが,被災者は何の資格も有していなかった.
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