天井クレーンで水門扉をつり上げ中，ベルトスリングが切れてつり荷が落下し，作業者が挟まれて死亡する

　本災害は水門等を製作している工場で，質量約1.3tの水門扉をナイロン製ベルトスリングで玉掛けして，つり上げ荷重5.043tの床上操作式天井クレーンでつり上げ，水門扉に「下げ振り」と呼ばれる重りのついた紐をぶらさげようとして作業者が荷に近づいたところ，ベルトスリングが突然切れて水門扉が落下・横転し，作業者が水門扉と作業台の間に挟まれ死亡したものである．
　災害が発生した当日は日曜日であったが，納期が迫っていたため殆どの従業員が出勤していた．水門扉の製作は最終段階に入っており，班長Aと作業者B及びCの３名が担当していた．
　災害当日の午前中は作業台に載せた水門扉にローラーを取り付ける作業を，午後は扉に防水用ゴムを取り付ける作業を行った．これらの作業が終了したので午後３時頃からほぼ完成した水門扉（縦2.07m，横2.15m，厚さ255mm，質量約1.3t）の重心の確認を行うことになった．確認作業は，クレーンで水門扉をつり起してつり上げた後，水門扉に下げ振りをぶら下げて重心を調べる作業であって，班長A の指示により玉掛け及びクレーンの運転をBが行い，Cは下げ振りの取り付けと重心確認を行うことになった．Bは長さ1.82m，幅50mmのベルトスリングを水門扉の部品の穴に直接通し，２点つりにしてクレーンでつり上げた．Cはつり上げられた水門扉に下げ振りを取り付けようと近づいたところ，突然ベルトスリングが切断して水門扉が落下・横転し，Cは作業台上で水門扉の下敷きとなった．直ちに病院に収容されたが，後腹膜出血等で死亡した．
　使用していたクレーンは，ホイストからつり下げられた押しボタンスイッチにより床上で運転し，運転者が荷の移動とともに移動する方式のクレーンであって，床上操作式天井クレーンに該当する．しかし，運転者Bはクレーン運転特別教育及び玉掛け技能講習は修了していたが，床上操作式クレーン運転技能講習は修了していなかった．
　なお，被災したCは玉掛け及び床上操作式クレーン運転の両資格を有していた．
　切断したスリングは，２点つりの場合の許容荷重は3.15トンであった．このスリングは班長のAと玉掛け者のBが，作業開始前に目視による点検を行っており，さらに，月１回の点検と，毎週月曜日の用具点検等が実施されていた．作業開始前のスリングの点検では，汚れや繊維のほつれ，及び使用限界としてメーカーのカタログに示されている青色糸の検出に重点が置かれていた．
　しかし，作業前には異常は認められなかった．