この災害はトラックで運ばれてきた鋼板を荷下ろしするため,2本つめのハッカー2個で2本つりした鋼板7枚をつり上げ荷重10.15t の床上操作式天井クレーンでつり上げ中,約2m の高さから鋼板が滑りおちてペンダントスイッチを操作していた運転者を直撃したものである.
災害が発生した事業場はA,B,C の3棟の作業場があり,鋼板を所定の形状に切断後溶接して建設機械の部材の製作及び組み立てを行っていた.災害発生当日は10時15分頃,40t 積み牽引トラックに積まれた27枚の鋼板(幅104~177cm,長さ386~399 cm,厚さ4または5cm)がC 棟に到着したので, 当日の作業担当者のL が数量と伝票の確認を行った.近くにいた別の作業担当者M は,荷下ろし作業を手伝うためLの所へやってきた.この事業場では以前から荷を運送してきたトラック運転手に玉掛け作業を行わせており,今回もトラック運転手のN が荷台から鋼板をつり上げる際の玉掛け作業を行うことになった.作業指揮者も兼ねるL が床上操作式天井クレーンを操作し,荷下ろし作業にとりかかった.トラックの荷台に乗ったN は,上から3枚目の鋼板の幅が他よりも15cm 程度大きいことから,3枚目までの鋼板を一緒に玉掛けしようと思いクレーン運転者のL に打診したところ,7枚目まで一緒に玉掛けして欲しいとの返事があった.N は縦横の寸法が揃わず不安定な積み重ねになると思ったが,クレーン運転者からの指示であり問題はないと判断して,L の指示に従い7枚目の鋼板の長さのほぼ中央に玉掛け用のハッカー2個を2本つりになるように掛けた.玉掛け後L が荷のバランスを確認するため試しつりを2回行った後,荷を約2m の高さにつり上げ荷の移動に移った.トラックの荷台にいたN はつり上げた荷が上下にやや揺れていたため,つり荷である一番上の鋼板を手で押さえて安定させ,その後現場を離れた.L は天井クレーンを操作し,つり荷を所定の位置まで移動させてすでに置いてあった他の鋼板の上に整然と積み重ねるため,荷下ろし予定位置の手前でつり荷を90度回転させようとした.そのためM はつり荷の前方で荷に両手を添え,L はつり荷の後方に立って荷を片手で押し,もう一方の手ではペンダントスイッチを操作しながら向きを変えたときに,一番下の鋼板に取り付けていたハッカーが突然すべって外れ,鋼板がL の頭部を直撃した.事故後ハッカー等を調べた結果, 玉掛け用具に損傷は認められなかった.運送伝票をもとに鋼板の質量を求めたところ,11.08t あり, クレーンのつり上げ荷重を超えていた.クレーンを操作し被災したL は床上操作式クレーン運転技能講習並びに玉掛け技能講習を,また,一緒に作業したM 及びトラック運転士のN はいずれも玉掛け技能講習を修了していた.
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