本災害は海岸改良工事において,針金で編んだ籠(根固めネットという)に直径が約50~150mm の割栗石を詰め込んだ質量約2t の荷を,つり上げ荷重2.9t のクレーン機能付き油圧ショベルでつり上げ旋回中,ショベルが海中に転落して運転者が機体の下敷きとなったものである.
護岸改良工事において仮設道路を設けるため,根固めネットに割栗石を詰めるのに用いる小型油圧ショベル1台と,割栗石を詰めた根固めネットを仮設道路に仮置きするのに使用するクレーン機能付き油圧ショベル1台を用いて,3人の作業者が交代で玉掛け,ショベルの運転,クレーン機能付き油圧ショベルの運転を行っていた.なお,割栗石を詰めた根固めネットの大きさは約1.3m ,質量は約2t である.
災害発生当日は8時半頃から作業をはじめ,前日に続いて根固めネットの製作とその仮置きを行っていた.3時40分頃,A が小型油圧ショベルを操作して割栗石を入れ,B とC が根固めネットの口を締めると共に,玉掛けの準備をした.A は約5.7m 離れた箇所に止めてあるクレーン機能付き油圧ショベルに乗り,同人の運転で根固めネットをつり上げ, 海側を旋回して仮置きしようとしたところ,ショベルが傾いて海中に転落し,A も機体と共に転落した.B がすぐに海中を調べたところ,A が機体の下敷きとなっているのを発見した. 使用していた油圧ショベルはクレーン機能付き車両系建設機械であって,移動式クレーンとして使用する場合は,バケットからフックを取り出してセットし,作業モードスイッチをクレーンモードに切り換え,速度調節つまみをクレーンモードにするよう指示されていた.この操作により,過負荷警報装置が作動すると同時に外部表示灯が点灯し,バケット操作がロックされ,バケットの高さや作業半径が自動的に制限される安全装置が作動する機構となっていた.
ショベルを海から引き上げ,アームの状態から事故時の作業半径を調査したところ,6.8m と推定された.この機械の定格荷重表によれば,作業半径が6.7m のとき定格荷重は1.2t となっていることから, 被災時には大幅に定格荷重を超えていた.また,このクレーン機能付き車両系建設機械でクレーン作業を行うときは作業モードスイッチを切り替えることが必要であったが,警報装置が鳴るためスイッチを切り替えない状態で作業が行われていた.さらに, この種の機械でクレーン作業を行う際には小型移動式クレーン運転技能講習修了の資格が必要であるが, 作業に従事していた3名とも資格を有していなかった.
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