本災害は,機械装置製造工場において,被災者及びトラック運転手の二人で,ホイスト式天井クレーン(つり上げ荷重10t)を用い,トラックで同工場に搬入した鋼材をつり上げ,同工場の奥まで移動させる作業中,被災者がつり荷の振れを抑えるため左手で鋼材を押さえ,右手でコントローラースイッチを操作して移動していたところ,15m ほど進んだ地点でつり荷がハッカーから外れて落下し,被災者がその下敷きとなったものである。
災害発生当日,被災者が「弁箱」と呼ばれる製品の溶接作業に従事していたところ,他の製品の部材である鋼材(幅62.8cm×厚さ8.0cm×長さ560.0cm,質量1.67t)2枚がトラックで工場に搬入されてきた。トラック運転手は近くで作業をしていた被災者(クレーン運転担当者と定められていない)にクレーンの運転を依頼し,部材の荷下ろし及び移動作業を行うことになった。その作業では,運転手が荷台上で玉掛けを担当し,被災者がホイスト式天井クレーンの操作を担当した。
つり荷は枕木(7cm 角)2本を挟んで2枚重ねにした鋼板であるが,結束はされていなかった。また,玉掛けは,ワイヤロープ付きの2個のハッカーを下側の鋼板の長手方向中央部の両側に掛けて2点つりとしたが,ハッカーの開口寸法がつり荷に比べて狭かったため,ハッカーの爪の掛かりが少ない状態であった。
被災者は床上でクレーンを操作し,トラック荷台上で2,3回の地切りを行った後,つり荷を床上約1.4m の高さまでつり上げ,その高さで水平移動を開始したが,つり荷が振れるため被災者は左手でその振れを押さえ,右手でコントローラーを操作して移動した。玉掛けした地点から15m ほど進んだところで,突然つり荷がハッカーから外れて落下し,被災者がその下敷きとなった。
なお,始業前ミーティングでは当日の作業指示のほか,安全作業についての一般的な注意・指示はなされたが,本件災害に係わるクレーン作業についての打合わせや指示はなかった。また,被災者は床上操作式クレーン運転技能講習及び玉掛け技能講習の修了者であった。
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