本事例は,新幹線用橋脚基礎工事現場において,3本繋ぎの鋼管製基礎杭(直径1m)の上杭を中杭に据え付ける(建込む)作業中に発生した災害である。
災害発生当日,同橋脚基礎工事現場では,被災者A を含む6人の作業者で,7本の基礎杭を打設する作業を実施していた。その作業はいずれも,①下杭を杭打機で所定位置につり込んで垂直に打ち込む,②その上に移動式クレーンで中杭をつり込んで突合せ部を4層盛りで溶接する,③溶接部検査終了後に杭打機で打ち込む,④上杭を上記②,③と同様の方法で建込み,溶接して打ち込むという手順である。
3本の杭の打設を終え,次に,作業者B,C およびD の3名で,残り4本のうちの1本について,打ち込んだ中杭の上に移動式クレーンにより上杭(長さ6m,質量約2.5t)を据え付ける作業に取りかかった。しかし,突合せ箇所の間隔(以下「リード間隔」という。)が東側と西側とで異なっていたため(それぞれ2mm および4mm),上杭が東側に傾いた状態で自立してしまった。このため,B の判断で,玉掛け用ワイヤロープの張力を利用してその傾きを調整することとし,B がC(オペレーター)に指示して,上杭をつった状態で移動式クレーンをわずかずつ西側に旋回させたところ,点付け溶接で仮止めしていた箇所が破断して上杭が中杭から外れて振れ,すぐ隣の杭の溶接作業を行っていたA の頭部を直撃したものである。
なお,本工事現場の鋼管杭打設作業手順書によると「下杭」「中杭」「上杭」からなる杭の打設を,1本ずつ完成させることになっていたが,作業時間の短縮や作業効率を考慮して,5本程度まとめて打設する方法に手順を変更していた。さらに,杭打機による鋼管杭の建込みでは,リード間隔の調整作業の手順は決められていなかった。
また,B は,隣の杭で溶接していたA 及び近くで別の関連作業に従事していた他の作業者に対して,移動式クレーンの旋回によって上杭の傾きを調整することについて連絡していなかった。
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