本災害は,硫黄加温槽である受け樋の取付け作業中,天井クレーンで受け樋をつり上げ,移動させ,一旦停止・保持していたところ,玉掛け用ワイヤロープ2本のうちの1本が破断してつり荷の片方が落下し,受け樋の下方で作業を行っていた被災者が,つり荷と床面に挟まれたものである。
金属鉱山の工場では操業を停止して約1週間にわたる定期点検及び補修工事を実施中であった。その工場の残渣処理建屋においては,一次及び二次下請けの作業者が同施設内の硫黄循環ろ過装置及びそれに付属する配管や硫黄加温用の受け樋(幅50cm,長さ120cm,質量500kg)の解体,搬出,点検・補修,清掃及び再組立ての作業を実施していた。
災害発生当日は,朝から,被災者A を含む5名(A~E)が,点検・補修の終わったろ過装置及び付属設備を元の位置に戻す作業に従事していた。午後2時半頃から天井クレーン(つり上げ荷重2.02t)を用いて受け樋を元の場所に戻す作業に取り掛かった。作業者B が天井クレーンを運転し,予め受け樋に目通しで掛けていた2本の玉掛け用ワイヤロープのアイをクレーンフックに掛けてつり上げ,2階床面から約1m の高さで2~3分程度保持していたところ,玉掛け用ワイヤロープのうちの1本が破断した。そのため,受け樋が振れ落ち,受け樋の下方で同僚と二人でバイパス管の取り付け作業を行っていた被災者が受け樋のフランジ部と床面とに挟まれ被災した。
なお,本件で破断した玉掛け用ワイヤロープは,公称径8mm(実測径8.1~8.3mm)破断荷重3.22t(JIS 規格G 種)であるが,直角にとがっている受け樋に当てもの無しで目通しされ,目通し部のワイヤロープ角度は約135.6度と非常に大きく,樋の角ではワイヤロープの張力が著しく増大していたと推定された。また,玉掛け作業及び天井クレーンの運転を担当していた作業者はそのいずれの業務についても必要な資格を有していなかった。
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