本災害は,1600t 鍛造プレスを修理するため,ホイスト式天井クレーンにより,同プレスのディスクブレーキ板をつり上げ,その真下で,ボルト締めの作業をしていたところ,同ブレーキ板に取り付けた玉掛け用金具のうち1本が抜けたため,同ブレーキ板が落下し,被災者を直撃したものである。
災害発生当日,被災者A は現場責任者であるBと二人で,3枚構成のディスクブレーキ板(重さ423kg)をボルトで結合する作業を行っていた。その最初の作業として,二人で,28カ所あるボルト穴の大半を仮締めし,次に,仮締めしたボルト穴の反対側を上にしてから,アイボルトの代用品としてT 字型の玉掛け用具2本を対角線上になるように深さ約20mm 程ねじ込んだ。このT 字型玉掛け用具は,当現場に準備されていたアイボルトの寸法がディスクブレーキの穴に合わなかったため,B が現場でディスクブレーキ板結合用のボルト2本をT字型に溶接して作成したものである。A はそのT字型玉掛け用具にワイヤロープのアイを掛け,その中央をクレーンフックに半掛け状態で玉掛けした後,自分で定格荷重2.8t のホイスト式天井クレーンを操作して床上約1.2m の高さまでつり上げた。その後,B は,つり上げられたディスクブレーキの真下に体がはいるようにA をかがみ込ませて,インパクトレンチでボルトを本締めする作業をさせた。Aがボルトの本締め作業を行っていたところ,突然ディスクブレーキ板にねじ込まれていた2本のT 字型玉掛け用具のうち1本が抜け落ち,ディスクブレーキ板が落下し,真下で作業していた被災者が胸部を打撃されると共にその下敷きとなった。災害後本締めボルトと玉掛け用具は同じボルト穴上下からにねじ込んであったことが確認された。
なお,T 字型玉掛け用具をねじ込んでいるディスクブレーキ板の下面のボルト穴にはボルトをねじ込むことを防止するための印などは付けていなかった。
また,本件作業においては,A,B 共にクレーンの運転資格及び玉掛け者の資格を有していなく,Aは雇い入れ時の安全教育も受けていなかった。
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