本災害は,貨物船の上構(居住区)に風防壁を取り付ける作業において,ジブクレーンのフックが風防壁に引っかかり,被災者が倒れた風防壁の下敷きとなったものである。
災害発生当日,現場では,下請け事業場の代表者A と,溶接作業者である被災者及び同僚並びに元請事業場のクレーン運転手及び玉掛け作業者の合計5名で,貨物船の上構(居住区)の4階部分に当たるナビゲーションブリッジデッキ及び5階部分に当たるコンパスデッキへの風防壁の取り付け作業を予定していた。災害発生時は,ブリッジの右舷に翼状に張り出したデッキテラスの前方縁に垂直に板状の風防壁(鉄製,高さ1.4m×幅3.9m,質量480kg)を取り付ける作業を行っていた。この作業では,まず,ブロック置き場に置かれている風防壁の上部につりクランプ2個を取り付けて玉掛けし,ジブクレーン(つり上げ荷重80t)でつり上げてデッキテラスの上に移動させ,下端を同テラス前縁にセットした。この状態で,まず,被災者が同壁の下端2箇所を同デッキテラスに仮止め溶接し,次に,同壁がデッキテラスの外側に倒れないように,代表者がチェーンブロックにより同壁の上端をデッキテラスの内側に引っ張って固定した。この時点で,代表者はもう風防壁が倒れないものと判断し,2個のつりクランプを風防壁上端から外した。通常はクランプが風防壁に引っ掛からないように,外したクランプを風防壁の内側に垂らしているが,この場合は,船首に向かって左側のつりクランプは内側に垂らしていたが右側のつりクランプは外側に垂れたままであった。次に,代表者は,右側つりクランプを右手で持ち上げた状態で,左手でクレーン運転手に対し巻上げの合図を送った。この間,被災者は風防壁の3カ所目の仮止め溶接を行っていた。ところが,代表者の合図に従って運転手が巻上げ操作を行ったところ,フックが上昇を開始した直後に,代表者が保持していた右側つりクランプが風防壁の補強板に引っ掛かり,風防壁を引っ張り上げる形となった結果,風防壁下部の仮止め溶接部分を破断したため,同風防壁がデッキテラスの内側に倒れた。そのため,デッキテラス内で溶接を行っていた被災者が,倒れた風防壁の下敷きとなって死亡した。
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