本災害は,船舶の内装品製造工場において,亜鉛メッキ塗装を施した鉄製の電気スイッチボックス(縦235mm×横295mm×高さ178mm,質量10.2kg)を木製平パレットに載せた状態でホイスト式天井クレーン(定格荷重:2.8t)を用いて移動させていたところ,荷がパレットから落下し,下で作業を行っていた労働者の頭部を直撃したものである。
災害当日,作業長(及び合図者)Aは,クレーン運転者Bに対し2日前に木製平パレット(幅145cm×奥行き80cm×厚さ10cm)の上に16個がバラ積みされた状態(高さ60cm,固縛なし)で工場2階北端に仮置きされていた電気スイッチボックスを工場の南端1階に下ろすよう指示した。クレーン運転者Bは,従来から小物運搬には金属製のカゴを用いていたため,そのカゴを用意し,1階に作業者が不在となる昼休みに下ろそうとした。しかし,Aより直ぐにパレットごとそのまま全てを1階に下ろすよう指示されたため,Bは,ナイロンスリング2本を用いて平パレットに玉掛けし,2階南端まで移動させた。その移動中,同パレット前方(南側)が下がっていることに気付き,このままでは電気スイッチボックスが落下すると判断し,2階南端荷卸口手前で一旦荷を下ろし,同パレットを水平に修正した。この間,合図者である作業長Aは,Bに連絡せずに玉外し用手袋を取りに隣の工場に行っていた。パレットの水平度を修正したBはパレットを1.1mつり上げ南側に移動(走行)させようとしたが,1階に居るはずのAの姿は確認できなかった。しかし,Aからの合図がなかったので,下には誰も居ないと判断し,つり上げたパレットをそのまま南側に移動させた。そして,不意に走行ボタンを離したと同時に発生した慣性力によりパレット前方に載せていた電気スイッチボックス3個が落下し,そのうちの1個が1階で別の作業を行っていた被災者(保護帽着用なし)の頭部を直撃した。
なお,クレーン運転者Aは,玉掛け技能講習は修了しているものの,クレーン運転に関する特別の教育を受けていなかった。さらに,関連作業についての作業標準等も定めていなかった。 |