厚生労働省は、令和3年4月1日付けで「令和3年度地方労働行政運営方針」を策定したこと及び各都道府県労働局においては、この運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に則した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ることとしていることを発表しました。
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本誌においては、この地方労働行政運営方針のうち、主に労働災害防止に関する部分を抜粋して次のとおり掲載します。
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なお、この地方労働行政運営方針の全文及び概要は、厚生労働省ホームページの「報道・広報」の「報道発表資料」に掲載されています。 |
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令和3年度地方労働行政運営方針(抄) |
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第1 労働行政を取り巻く情勢 |
現下の労働行政の最大の課題としては、長期化する新型コロナウイルス感染症への対応があり、事業の継続や従業員の雇用維持に懸命に取り組んでいる企業への効果的な支援を重要な柱として、雇用調整助成金等による対応に努めてきた。今後は、新型コロナウイルス感染症が社会経済活動に様々な影響を及ぼす中で、現下の厳しさがみられる雇用情勢と、労働市場の変化の双方に対応した機動的な雇用政策を実施していくことが重要である。また、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の社会経済に対応するべく、人材ニーズに柔軟に対応した人材開発やテレワークなどの多様な働き方の定着などに取り組むことも重要な課題である。
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さらに、我が国の構造的な課題として、少子高齢化・生産年齢人口の減少の中で、労働供給の確保や生産性向上等に引き続き取り組む必要があるとともに、人生100年時代を迎え、ライフスタイルが多様化する中で、どのような生き方や働き方であっても安心できる社会を創っていくことも必要となっている。このため、様々な事情の下でも意欲と能力を最大限発揮できる環境を整備するべく、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号。以下「働き方改革関連法」という。)の着実な施行等の取組についても、引き続き講じていく。
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こうした情勢に対応しつつ、一億総活躍社会や全世代型社会保障の実現に向けて、労働行政が果たすべき役割は極めて大きい。このことをしっかりと自覚し、各施策を適正かつ迅速に推進していく。
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第2 総合労働行政機関としての施策の推進 |
都道府県労働局(以下「労働局」という。)において重点的に取り組むべき施策については第3以降に具体的に述べるが、労働局が各地域において総合労働行政機関として機能し、地域や国民からの期待に真に応えていくためには、各種情勢に対応した四行政分野(労働基準、職業安定、雇用環境・均等、人材開発)の雇用・労働施策を総合的、一体的に運営していく必要がある。
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このため、働き方改革の推進など、複数の行政分野による対応が必要な施策については、都道府県労働局長のリーダーシップの下、雇用環境・均等部(室)が中心となって本省からの指示内容等を労働局内に共有し、労働局内外の調整を図り、労働基準監督署(以下「監督署」という。)及びハローワークと一体となって施策を進めていく。
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第3 ウィズ・ポストコロナ時代の雇用機会の確保 |
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第4 ウィズコロナ時代に対応した労働環境の整備、生産性向上の推進 |
1 「新たな日常」の下で柔軟な働き方がしやすい環境整備 |
〈課題〉 |
感染防止のため、いわゆる「3つの「密」を避け、極力非接触・非対面とする新たな生活様式は、働き方を大きく変えつつある。ウィズコロナ・ポストコロナの「新しい働き方」としてテレワークが広がる中、情報通信技術を活用した働き方は、雇用に限らず拡大しており、雇用によらない働き方や、副業・兼業での働き方が広がる可能性がある。
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雇用型テレワークについては、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和2年7月17日閣議決定)等を踏まえ、適正な労務管理下における良質なテレワークの普及促進を図る必要がある。
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また、副業・兼業については、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、労働時間管理及び健康管理の在り方等について検討することとされていた。これを踏まえ、労働政策審議会労働条件分科会及び安全衛生分科会において検討を行い、令和2年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定)を改定して、副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてルールを明確化したところであり、また、同日に複数就業者のセーフティーネットの整備に係る改正労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)が施行された。
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労働者が健康を確保しながら安心して副業・兼業を行うことができるよう、本ガイドラインの周知を図ることが必要である。
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〈取組〉 |
(3) 副業・兼業を行う労働者の健康確保に取り組む企業等への支援等 |
事業者による副業・兼業を行う労働者の健康確保に向けた取組が進むよう、一般健康診断等による健康確保に取り組む企業に対する助成金(副業・兼業労働者の健康診断助成金)等の支援事業を周知する。
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また、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したいなどの希望を持つ労働者が、希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境の整備に向けて、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」等について、わかりやすい解説パンフレットを活用した周知等を行う。
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2 ウィズコロナ時代に安全で健康に働くことができる職場づくり |
〈課題〉 |
新型コロナウイルス感染症の職場における感染防止対策に取り組む必要がある。
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ウィズコロナ時代においても、中小企業・小規模事業者等が生産性を高めつつ労働時間の短縮等に向けた具体的な取組を行い、働き方改革を実現することができるよう、中小企業・小規模事業者等に寄り添った相談・支援を推進することが重要である。
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また、多様な働き方が広がる中、ワーク・ライフ・バランスを推進するため、最低基準である労働基準法(昭和22年法律第49号)等の履行確保を図ることに加え、労使の自主的な取組を促進させることが重要である。
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さらに、第13次労働災害防止計画の目標(2017年と比較して、2022年までに、死亡災害を15%以上減少、死傷災害を5%以上減少)達成に向けて、重点業種を中心として労働災害防止の取組を推進するとともに、高年齢労働者や外国人労働者の増加などの就業構造や、転倒災害、腰痛、熱中症の災害発生状況を踏まえた対策に取り組むことが重要である。働き方改革関連法に盛り込まれた、産業医・産業保健機能の強化や長時間労働者に対する面接指導の強化、今後石綿使用建築物の解体工事の増加が見込まれている中で、石綿ばく露防止対策等に取り組む必要がある。
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労災補償業務については、近年、新規受給者数が増加しており、高止まりの状態が続いていることに加え、複雑困難事案(脳・心臓疾患、精神障害、石綿関連疾患)の労災請求件数も増加している。更に、新型コロナウイルス感染症に係る労災補償への対応も求められている。このような状況の中で、被災労働者の迅速な保護を図るために、迅速かつ公正な事務処理に努める必要がある。
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〈取組〉 |
(1) 職場における感染防止対策等の推進 |
労働局に設置した「職場における新型コロナウイルス感染拡大防止対策相談コーナー」における事業者や労働者からの職場での新型コロナウイルス感染拡大防止に係る相談に対して丁寧な対応を行うとともに、「取組の5つのポイント」や「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」等を活用した職場における感染防止対策について、取組を推進する。
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また、高年齢労働者の感染防止対策等を推進するため、社会福祉施設など利用者等と密に接する業務を簡素化するための設備的対策に要する経費の補助金(エイジフレンドリー補助金)を周知する。
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(4) 労働者が安全で健康に働くことができる環境の整備 |
①第13次労働災害防止計画重点業種等の労働災害防止対策の推進 |
労働災害が増加傾向にある第三次産業等については、安全推進者の配置やリスクアセスメントの普及の促進等を通じて、企業の自主的な安全衛生活動、介護労働者の腰痛予防対策の促進を図る。
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陸上貨物運送事業については、荷役作業の安全対策ガイドラインに基づく取組の促進を図る。
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建設業については、墜落・転落災害防止対策の充実強化など建設工事における労働災害防止対策の促進を図る。
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製造業については、機械災害の防止のため、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」及び「機械の包括的な安全基準に関する指針」に基づき、製造時及び使用時のリスクアセスメント、残留リスクの情報提供の確実な実施を促進する。
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林業については、「チェーンソーによる伐採作業等の安全に関するガイドライン」に係る安全対策の充実など林業における労働災害防止対策の促進を図る。
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②産業保健活動、メンタルヘルス対策の推進 |
長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないようにするため、産業医・産業保健機能の強化、医師による面接指導の対象となる労働者の要件の拡大等が図られているところであり、ストレスチェック制度をはじめとするメンタルヘルス対策も含めて、これらの取組が各事業場で適切に実施されるよう、引き続き指導等を行う。
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また、改正後の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく事業場における健康保持増進への取組が進むよう、その好事例や取組方法等を示す手引きや労働者の健康保持増進に取り組む企業に対する助成金(健康保持増進計画助成金(仮称)等を周知する。
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さらに、中小企業・小規模事業者の産業保健活動を支援するため、産業保健総合支援センター(以下「産保センター」という。)が行う中小企業・小規模事業場への訪問支援、産業医等の産業保健関係者や事業者向けの研修、ストレスチェック助成金等について周知する。
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③化学物質対策、石綿ばく露防止対策の徹底 |
化学物質に関するラベル表示の徹底、安全データシート(SDS)の交付の徹底、これらを踏まえたリスクアセスメントの実施を促す「ラベルでアクション」プロジェクトを推進する。また、小規模事業場向けの相談窓口の設置、実践的な指導・援助等を行う。
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建築物の解体等に従事する労働者の石綿ばく露を防止するため、石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)を令和2年7月1日に改正したところであり、改正後の同規則の関係事業者等への周知指導、及び同規則に基づく措置の徹底に向けた施策の展開を図る。
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④放射線障害防止対策の徹底 |
放射線障害防止対策の徹底を図るため、令和3年4月1日に改正された電離放射線障害防止規則(昭和47年労働省令第41号)に基づき、眼の水晶体に係る適正な被ばく線量管理等の実施を徹底するとともに、引き続き、東電福島第一原発の廃炉に向けた作業をはじめとした復旧・復興工事や、除染業務等に従事する労働者に対する安全衛生管理対策等について指導等を行う。
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5 治療と仕事の両立支援 |
〈課題〉 |
疾病を抱える労働者が治療を行いながら仕事を継続することができるよう、平成29年3月に決定された働き方改革実行計画に基づき、企業の意識改革や企業と医療機関の連携強化、労働者の疾病の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みの整備等に着実に取り組む必要がある。
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また、がん等の疾病により、長期にわたる治療を受けながら就職を希望する者に対する支援が社会的課題となってきていること等も踏まえ、がん患者等に対する就職支援を推進する必要がある。
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〈取組〉 |
(1) ガイドライン等の周知啓発 |
産保センターと連携して、あらゆる機会を捉え、平成31年3月に改訂した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」及び「企業・医療機関連携マニュアル」を周知する。
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また、治療と仕事の両立支援に取り組む企業に対する助成金制度について、周知や利用勧奨を行う。
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(2) 地域両立支援推進チームの運営 |
労働局に設置する「地域両立支援推進チーム」の活動を通して、地域の関係者(都道府県衛生主管部局、医療機関、企業、労使団体、産保センター、労災病院等)が連携し、両立支援に係る関係施策の横断的な取組の促進を図る。
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(3) トライアングル型サポート体制の推進 |
主治医、会社・産業医と患者に寄り添う両立支援コーディネーターのトライアングル型のサポート体制を推進する。そのため、地域両立支援推進チーム等を通じて地域の関係者に両立支援コーディネーターの役割についての理解の普及を図るとともに、労働者健康安全機構で開催する養成研修の周知・受講勧奨を図る。
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また、がん患者等に対する就労支援については、ハローワークの就職支援ナビゲーターとがん診療連携拠点病院等が連携して実施する相談支援体制の拡充を図る。
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