厚生労働省は、令和4年3月29日付けで「令和4年度地方労働行政運営方針」を策定しました。 |
各都道府県労働局においては、この運営方針を踏まえつつ、各局の管内事情に則した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ることしています。 |
本誌においては、この地方労働行政運営方針のうち、主として労働災害防止に関する部分を抜粋して以下のとおり掲載します。 |
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令和4年度地方労働行政運営方針(抄) |
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第1 労働行政を取り巻く情勢 |
現下の労働行政の最大の課題は、長期化する新型コロナウイルス感染症への対応であるが、また同時に、少子高齢化・生産年齢人口の減少という我が国の構造的な課題がある中で、国民一人ひとりが豊かで生き生きと暮らせる社会を作るためには、成長と分配の好循環による持続可能な経済社会の実現が不可欠である。そのためには、労働生産性と労働分配率の一層の向上が必要であり、人材ニーズに柔軟に対応した人材開発、成長分野への労働移動の円滑化支援といった「人への投資」や、賃上げしやすい環境整備などに取り組むことが重要である。
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成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現のためにも、労働行政が果たすべき役割は大きい。このことをしっかりと自覚し、各施策を適正かつ迅速に推進していく。
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第2 新型コロナウイルス感染症の雇用への影響を踏まえた総合労働行政機関としての施策の推進 |
現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は雇用にも大きな影響を与えており、雇用の安定と就業の促進等が引き続き主要な課題となっている。こうした情勢の下、都道府県労働局(以下「労働局」という。)には、四行政分野(労働基準、職業安定、雇用環境・均等、人材開発)における雇用・労働施策を総合的、一体的に運営していくことが従前以上に期待されている。
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このため、労働局は、労働局長のリーダーシップの下、雇用環境・均等部(室)が中心となって本省からの指示内容等を労働局内に共有し、労働局内外の調整を図ることで、労働基準監督署(以下「監督署」という。)及びハローワークと一体となって、雇用・労働施策を円滑に進めていく。また、各地域において総合労働行政機関としての機能を遺憾なく発揮し、地域や国民からの期待に真に応えていく。
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第3 雇用維持・労働移動等に向けた支援やデジタル化への対応 |
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第4 多様な人材の活躍促進 |
5 高齢者の就労・社会参加の促進 |
〈課題〉 |
少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、我が国の経済社会の活力を維持・向上させるためには、働く意欲がある高齢者が年齢にかかわりなくその能力・経験を十分に発揮し、活躍できる社会を実現することが重要である。このため、事業主において65歳までの雇用確保措置が適切に講じられるよう取り組むことが必要である。また、令和2年に改正された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号。令和3年4月1日施行。)により、65歳から70歳までの就業確保措置を講じることが事業主の努力義務となったことから、事業主の取組の促進を図ることが重要である。更に、高齢者雇用に積極的に取り組む企業への支援や、65歳を超えても働くことを希望する高年齢求職者に対する再就職支援等が必要である。
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〈取組〉 |
(3)高齢者の特性に配慮した安全衛生対策を行う企業への支援高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向けた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)及び中小企業による高年齢労働者の安全・健康確保措置を支援するための補助金(エイジフレンドリー補助金)の周知を図る。 |
7 外国人に対する支援 |
〈課題〉 |
外国人労働者が、安心して働き、その能力を十分に発揮する環境を確保するため、支援体制の整備を推進する必要がある。
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また、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、外国人労働者がやむを得ず離職する状況も発生している中、外国人を雇用する企業への雇用維持を含めた助言・援助のほか、多言語による相談支援や情報発信に引き続き取り組んでいく必要がある。
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〈取組〉 |
(4)外国人労働者の労働条件等の相談・支援体制の整備地域の実情に即し、外国語で対応できる相談員を労働局や監督署に配置することで、全国で合計13言語に及ぶ外国人労働者向け多言語労働相談体制の整備を図るとともに、外国人労働者が容易に理解できる労働安全衛生に関する視聴覚教材等の周知により、労働災害防止対策を推進する。
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第5 誰もが働きやすい職場づくり |
1 柔軟な働き方がしやすい環境整備 |
〈課題〉 |
感染防止のため、いわゆる「3つの「密」を避け、極力非接触・非対面とする新たな生活様式は、働き方を大きく変えつつある。ウィズコロナ・ポストコロナの「新しい働き方」としてテレワークが広がる中、情報通信技術を活用した働き方は、雇用に限らず拡大しており、雇用によらない働き方や、副業・兼業での働き方が広がる可能性がある。
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雇用型テレワークについては、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる「良質なテレワーク」の導入・実施を進めていくことが必要である。このため、令和3年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を改定し、テレワークの導入・実施に当たり、労使双方が留意すべき点、望ましい取組などを明らかにしたところである。また、テレワークの導入を検討する企業に対し、テレワーク相談センターにおいて相談対応や情報提供等を行うとともに、中小企業事業主に対し、通信機器の導入経費等を助成する「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」を令和3年度から創設したところであり、これらの取組を通じ、良質なテレワークの定着促進を図る必要がある。
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フリーランスについては、「成長戦略実行計画」(令和2年7月17日閣議決定)を踏まえ、関係省庁と連携し、事業者とフリーランスとの取引について、独占禁止法や労働関係法令等の適用関係等を明確化した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を令和3年3月に策定した。また、「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)を踏まえ、関係省庁と連携し、フリーランスと発注者の間にトラブル等が生じた際にワンストップで相談できる相談窓口「フリーランス・トラブル110番」を令和2年11月に設置したところであり、フリーランスの方が安心して働ける環境を整備するため、本ガイドライン及び相談窓口の周知を図る必要がある。
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また、副業・兼業については、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、労働時間管理及び健康管理の在り方等について検討することとされていた。これを踏まえ、労働政策審議会労働条件分科会及び安全衛生分科会において検討を行い、令和2年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定)を改定して、副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてルールを明確化したところであり、また、同日に複数就業者のセーフティーネットの整備に係る改正労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)が施行された。
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労働者が健康を確保しながら安心して副業・兼業を行うことができるよう、本ガイドラインの周知を図ることが必要である。
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更に、選択的週休3日制度については、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)等を踏まえ、好事例の収集・提供等により企業における導入を促し、普及を図る必要がある。
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〈取組〉 |
(3)副業・兼業を行う労働者の健康確保に取り組む企業等への支援等 |
事業者による副業・兼業を行う労働者の健康確保に向けた取組が進むよう、一般健康診断等による健康確保に取り組む企業に対する助成金(副業・兼業労働者の健康診断助成金)等の支援事業を周知する。
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また、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したいなどの希望を持つ労働者が、希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境の整備に向けて、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」等について、わかりやすい解説パンフレットを活用した周知等を行う。
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(4)ワーク・ライフ・バランスを促進する休暇制度・就業形態の導入支援による多様な働き方の普及・促進 |
選択的週休3日制度も含め、働き方・休み方改革に取り組んでいる企業の好事例の紹介を行うとともに、多様な正社員(勤務時間限定正社員、勤務地限定正社員、職務限定正社員)制度について、事例の提供等による更なる周知等を行う。
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2 安全で健康に働くことができる環境づくり |
〈課題〉 |
新型コロナウイルス感染症の職場における感染防止対策に取り組む必要がある。
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中小企業・小規模事業者等が生産性を高めつつ労働時間の短縮等に向けた具体的な取組を行い、働き方改革を実現することができるよう、中小企業・小規模事業者等に寄り添った相談・支援を推進することが重要である。
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また、多様な働き方が広がる中、ワーク・ライフ・バランスを推進するため、最低基準である労働基準法(昭和22年法律第49号)等の履行確保を図ることに加え、労使の自主的な取組を促進させることが重要である。
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更に、第13次労働災害防止計画の目標(2017年と比較して、2022年までに、死亡災害を15%以上減少、死傷災害を5%以上減少)達成に向けて、重点業種を中心として労働災害防止の取組を推進するとともに、高年齢労働者や外国人労働者の増加などの就業構造の変化や転倒、腰痛、熱中症など業種横断的に多発している災害の発生状況を踏まえた対策に取り組むことが重要である。働き方改革関連法に盛り込まれた、産業医・産業保健機能の強化や長時間労働者に対する面接指導の強化、今後石綿使用建築物の解体工事の増加が見込まれている中で、石綿ばく露防止対策等に取り組む必要がある。
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労災保険給付の状況については、近年、新規受給者数が増加傾向にあることに加え、複雑困難事案のうち過労死等事案、石綿関連事案に係る労災請求件数も依然として高い水準で推移している。更に、新型コロナウイルス感染症に係る労災保険給付への対応も求められている。このような状況の中で、被災労働者の迅速な保護を図るために、迅速かつ公正な事務処理に努める必要がある。
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職場におけるハラスメントは、労働者の尊厳を傷つける、あってはならないことであり、働く人の能力の発揮の妨げになる。このため、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労働施策総合推進法」という。)、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に基づくパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務の履行確保を徹底する等、職場におけるハラスメント対策を総合的に推進する必要がある。
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〈取組〉 |
(1)職場における感染防止対策等の推進 |
労働局に設置した「職場における新型コロナウイルス感染拡大防止対策相談コーナー」における事業者や労働者からの職場での新型コロナウイルス感染拡大防止に係る相談に対して丁寧な対応を行うとともに、「取組の5つのポイント」や「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」等を活用した職場における感染拡大防止対策について、取組を推進する。
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また、高年齢労働者の感染防止対策等を推進するため、社会福祉施設など利用者等と密に接する業務を簡素化するための設備的対策に要する経費の補助金(エイジフレンドリー補助金)を周知する。
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④「労災かくし」の排除に係る対策の一層の推進
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「労災かくし」の排除を期すため、その防止に向けた周知・啓発を図るとともに、引き続き、労災補償担当部署と監督・安全衛生担当部署間で連携を図りつつ、事案の把握及び調査を行い、「労災かくし」が明らかになった場合には、司法処分を含め厳正に対処する。
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(4)労働者が安全で健康に働くことができる環境の整備
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①第13次労働災害防止計画重点業種等の労働災害防止対策の推進
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小売業や介護施設を中心に増加傾向にある「転倒」及び腰痛等の「動作の反動・無理な動作」など、職場における労働者の作業行動を起因とする労働災害(行動災害)への対策については、管内のリーディングカンパニー等を構成員とする協議会の設置・運営、企業における自主的な安全衛生活動の導入を支援する取組等により、管内全体の安全衛生に対する機運情勢を図る。
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陸上貨物運送事業については、荷役作業の安全対策ガイドラインに基づく取組の促進を図る。
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建設業については、墜落・転落災害防止対策など建設工事における労働災害防止対策の促進を図る。
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製造業については、機械災害の防止のため、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」及び「機械の包括的な安全基準に関する指針」に基づき、製造時及び使用時のリスクアセスメント、残留リスクの情報提供の確実な実施を促進する。
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林業については、「チェーンソーによる伐採作業等の安全に関するガイドライン」に係る安全対策など林業における労働災害防止対策の促進を図る。
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②高齢者の特性に配慮した安全衛生対策を行う企業への支援
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高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向けた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)及び中小企業による高年齢労働者の安全・健康確保措置を支援するための補助金(エイジフレンドリー補助金)の周知を図る。
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③産業保健活動、メンタルヘルス対策の推進
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長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないようにするため、長時間労働者に対する医師による面接指導やストレスチェック制度をはじめとするメンタルヘルス対策などの取組が各事業場で適切に実施されるよう、引き続き指導等を行う。
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また、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく事業場における健康保持増進への取組が進むよう、その好事例や取組方法等を示す手引きや労働者の健康保持増進に取り組む企業に対する、(独)労働者健康安全機構による事業場における労働者の健康保持増進計画助成金等を周知する。この際、医療保険者から定期健康診断に関する記録の写しの提供の求めがあった場合に、事業者は、当該記録の写しを医療保険者に提供する必要があることについても周知を行うこと。
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更に、中小企業・小規模事業者の産業保健活動を支援するため、産業保健総合支援センター(以下「産保センター」という。)が行う産業医等の産業保健関係者や事業者向けの研修のほか、産保センターの地域窓口(地域産業保健センター)による小規模事業場への医師等の訪問支援、(独)労働者健康安全機構によるストレスチェック助成金等について周知する。
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④新たな化学物質規制の周知、石綿ばく露防止対策の徹底 |
「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」を踏まえ現在検討中の新たな化学物質規制に係る労働安全衛生関係法令について、その円滑な実施のため周知を図る。
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金属アーク溶接等作業で発生する溶接ヒュームのばく露防止対策をはじめ改正特定化学物質障害予防規則の周知指導を行うとともに、フィットテストの円滑な施行に向けた支援等を行う。
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建築物等の解体・改修作業に従事する労働者の石綿ばく露を防止するため、令和2年7月に改正された石綿障害予防規則に基づく措置として、建築物石綿含有建材調査者講習の受講勧奨、石綿事前調査結果報告システムによる事前調査結果等の報告や石綿除去等作業時におけるばく露防止措置の徹底、及びリフォーム等も含む発注者への制度の周知を図る。更に、本年1月19日から施行された建設アスベスト給付金制度の周知啓発を図るとともに、懇切丁寧な相談支援を行う。
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4 治療と仕事の両立支援 |
〈課題〉 |
疾病を抱える労働者が治療を行いながら仕事を継続することができるよう、平成29年3月に決定された働き方改革実行計画に基づき、企業の意識改革や企業と医療機関の連携強化、労働者の疾病の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みの整備等に着実に取り組む必要がある。
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また、がん等の疾病により、長期にわたる治療を受けながら就労を希望する者に対する支援が社会的課題となってきていること等も踏まえ、がん患者等に対する就労支援を推進する必要がある。
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〈取組〉 |
(1)治療と仕事の両立支援に関する取組の促進
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①ガイドライン等の周知啓発
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産保センターと連携して、あらゆる機会を捉え、平成31年3月に改訂した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」及び「企業・医療機関連携マニュアル」を周知する。
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また、治療と仕事の両立支援に取り組む企業に対する助成金制度(治療と仕事の両立支援助成金)について、周知や利用勧奨を行う。
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②地域両立支援推進チームの運営 |
労働局に設置する「地域両立支援推進チーム」において取組に関する計画を策定し、両立支援に係る関係者(都道府県衛生主管部局、医療機関、企業、労使団体、産保センター、労災病院等)の取組を相互に周知協力する等により、地域の両立支援に係る取組の効果的な連携と一層の促進を図る。
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(2)トライアングル型サポート体制の構築 |
主治医、会社・産業医と患者に寄り添う両立支援コーディネーターのトライアングル型のサポート体制を推進する。そのため、地域両立支援推進チーム等を通じて地域の関係者に両立支援コーディネーターの役割についての理解の普及を図るとともに、(独)労働者健康安全機構で開催する養成研修の周知・受講勧奨を図る。
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また、ハローワークとがん診療連携拠点病院等が連携し、がん患者等に対する就労支援を引き続き実施する。
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