通 達
第14次労働災害防止計画の推進について
各事業者団体の長 殿 基発0327第3号
厚生労働省労働基準局長 令和5年3月27日
 厚生労働行政の運営につきまして、平素から格別の御協力を賜り感謝申し上げます。

 さて、今般、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第6条の規定に基づき、2023年度を初年度とする第14次の労働災害防止計画を別添のとおり策定し、3月27日付けで公示したところです。

 1958年以降、これまで13次にわたる労働災害防止計画により、国、事業者、労働者等の関係者が一丸となって取組を推進してきた結果、我が国の労働現場における安全衛生の水準は大幅に改善してきました。一方で近年の状況を見ると、死亡災害は減少しているものの、休業4日以上の死傷災害は、ここ数年増加傾向にあります。また、労働災害発生率が高い高年齢労働者の労働災害の増加や中小事業場における労働災害の発生が顕著となっています。さらに、働き方改革への対応やメンタルヘルス不調、女性の就業率の上昇に伴う健康課題への対応、治療と仕事の両立支援やコロナ禍におけるテレワークの拡大等、労働者の健康保持増進に関する課題は多様化しており、現場のニーズの変化に対応した産業保健体制や活動の見直しが必要となっています。加えて、化学物質による重篤な健康障害の防止や石綿使用建築物の解体等工事への対策の着実な実施が必要となってきています。
 第14次の労働災害防止計画は、このような状況を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めたものです。本計画の趣旨を御理解いただき、計画の推進に特段の御協力を賜りますようお願いいたします。
 
基安安発0327第1号
令和5年3月27日
一般社団法人日本クレーン協会会長 殿
厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長
 
第14次労働災害防止計画に基づく「安全衛生対策におけるDXの推進」について
 
 平素より、労働安全衛生行政の推進に当たり、格別の御理解と御協力を賜っておりますことに心より感謝申し上げます。
 さて、第14次労働災害防止計画(以下「14次防」という。)については、本年3月27日に公示され、令和5年3月27日付け基発0327第3号「第14次労働災害防止計画の推進について」をもって貴職あて協力依頼がなされたところですが、14次防の「4(1)ウ労働安全衛生対策におけるDXの推進」については、新たなデジタル技術の安全衛生分野への活用による安全衛生活動の効率的かつ効果的な実施に資するとともに、作業の無人化や遠隔化による「災害要因と人との接触の排除」を通じた災害リスクの除去・低減が可能となる取組であり、積極的な取組の推進を図ることとしているところです。
 しかしながら、これらの取組は、新技術の開発や既存のデジタル技術の安全衛生分野への応用など、個々の事業場のみでは十分に安全衛生活動への活用を図ることができないものも多く、メーカーやシステム開発事業者など幅広い関係者が協力してこれに取り組む必要があると考えられます。
 つきましては、。傘下事業場に対して14次防の内容を周知していただく際には、上記趣旨を御理解いただき、安全衛生対策におおいてデジタル技術の活用がより一層推進するよう働きかけていただくなど、個々の事業者が安全衛生活動にデジタル技術を導入することが容易となるような環境整備、導入に向けた機運の醸成等に特段の御配慮をお願いいたします。
 

《参考:14次防関係部分抜粋》

4 重点事項ごとの具体的取組

(1)自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発

ウ 安全衛生対策におけるDXの推進

(ア) 労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと

・AIやウェアラブル端末等の新技術を活用した効率的・効果的な安全衛生活動の推進及び危険有害な作業の遠隔管理、遠隔操作、無人化等による作業の安全化を推進する。

 
第14次労働災害防止計画
 
令和5年3月
厚生労働省
 
〈目次〉
はじめに4
1 計画のねらい4
 (1) 計画が目指す社会4
 (2) 計画期間5
 (3) 計画の目標5
 ア アウトプット指標5
 イ アウトカム指標7
 (4) 計画の評価と見直し8
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性9
 (1) 死亡災害の発生状況と対策の方向性9
 (2) 死傷災害の発生状況と対策の方向性10
 ア 死傷災害の発生状況10
 イ 死傷災害の増加の要因及び対策の方向性12
 (3) 労働者の健康確保を巡る動向と対策の方向性15
 ア メンタルヘルス対策関係15
 イ 過重労働防止対策関係16
 ウ 産業保健活動関係16
 (4) 化学物質等による健康障害の現状と対策の方向性17
 (5) 事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発の菫要性18
3 計画の重点事項19
4 重点事項ごとの具体的取組19
 (1) 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発19
 ア 安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価される環境整備19
 イ 労働災害情報の分析機能の強化及び分析結果の効果的な周知21
 ウ 安全衛生対策におけるDXの推進21
 (2) 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進22
 (3) 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進23
 (4) 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進23
 (5) 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進24
 (6) 業種別の労働災害防止対策の推進24
 ア 陸上貨物運送事業対策24
 イ 建設業対策25
 ウ 製造業対策26
 エ 林業対策26
 (7) 労働者の健康確保対策の推進27
 ア メンタルヘルス対策27
 イ 過重労働対策28
 ウ 産業保健活動の推進28
 (8) 化学物質等による健康障害防止対策の推進29
 ア 化学物質による健康障害防止対策29
 イ 石綿、粉じんによる健康障害防止対策30
 ウ 熱中症、騒音による健康障害防止対策31
 エ 電離放射線による健康障害防止対策32
(参考)アウトプット指標及びアウトカム指標の考え方33
 
はじめに
 労働災害防止計画は、戦後の高度成長期における産業災害や職業性疾病の急増を踏まえ、1958年に第1次の計画が策定されたものであり、その後、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化等に対応しながら、これまで13次にわたり策定してきた。
 この間、労働災害や職業性疾病の防止に取り組む国、事業者、労働者等の関係者が協働して安全衛生活動を推進する際の実施事項や目標等を示して取組を促進することにより、我が国の労働現場における安全衛生の水準は大幅に改善した。
 しかしながら、近年の状況を見ると、労働災害による死亡者の数(以下「死亡者数」という。)こそ減少しているものの、労働災害による休業4日以上の死傷者の数(以下「死傷者数」という。)に至っては、ここ数年増加傾向にある。また、労働災害発生率(死傷年千人率)が高い60歳以上の高年齢労働者の労働災害件数が増加しているほか、中小事業場における労働災害の発生が労働災害の多数を占めており、中小事業場を中心に安全衛生対策の取組促進が不可欠な状況にある。
 職場における労働者の健康保持増進に関する課題については、働き方改革への対応、メンタルヘルス不調、労働者の高年齢化や女性の就業率の上昇に伴う健康課題への対応、治療と仕事の両立支援やコロナ禍におけるテレワークの拡大等多様化しており、現場のニーズの変化に対応した産業保健体制や活動の見直しが必要となっている。
 さらに、第13次労働災害防止計画期間(2018年度~2022年度)を経て、化学物質による重篤な健康障害の防止や石綿使用建築物の解体等工事への対策の着実な実施が必要となってきている。
 このような状況を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、労働者一人一人が安全で健康に働くことができる職場環境の実現に向け、2023年度を初年度として、5年間にわたり国、事業者、労働者等の関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めた「第14次労働災害防止計画」を、ここに策定する。
 
1 計画のねらい
 
(1) 計画が目指す社会
 誰もが安全で健康に働くためには、労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者のほか、労働者等の関係者が、安全衛生対策について自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要である。また、消費者・サービス利用者においても、事業者が行う安全衛生対策の必要性や、事業者から提供されるサービスの料金に安全衛生対策に要する経費が含まれることへの理解が求められる。
 これらの安全衛生対策は、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会も見据え、また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展も踏まえ、労働者の理解・協力を得ながら、プライバシー等の配慮やその有用性を評価しつつ、ウェアラブル端末、VR(バーチャル・リアリティ)やAI等の活用を図る等、就業形態の変化はもとより、価値観の多様化に対応するものでなければならない。
 また、労働者の安全衛生対策は事業者の責務であることが前提であるが、さらに「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革の促進が掲げられ、事業者の経営戦略の観点からもその重要性が増してきており、労働者の安全衛生対策が人材確保の観点からもプラスになることが知られ始めている。こうした中で、労働者の安全衛生対策に積極的に取り組む事業者が社会的に評価される環境を醸成し、安全と健康の確保の更なる促進を図ることが望まれる。
 さらに、とりわけ中小事業者等も含め、事業場の規模、雇用形態や年齢等によらず、どのような働き方においても、労働者の安全と健康が確保されることを前提として、多様な形態で働く一人一人が潜在力を十分に発揮できる社会を実現しなければならない。
(参考)SDGs( 持続可能な開発目標)8.8 Protect labour rights and promote safe and secure working environments for all workers, in- cluding migrant workers. in particular women migrants, and those in precarious employment..(移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。)
(2) 計画期間
 2023年度から2027年度までの5か年を計画期間とする。
(3) 計画の目標
 国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないという基本理念の実現に向け、以下の各指標を定め、計画期間内に達成することを目指す。
ア アウトプット指標
本計画においては、次の事項をアウトプット指標として定める。事業者は、後述する計画の重点事項の取組の成果として、労働者の協力の下、これらの指標の達成を目指す。国は、その達成を目指し、当該指標を用いて本計画の進捗状況の把握を行う。
(ア) 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
・転倒災害対策(ハード・ソフト両面からの対策)に取り組む事業場の割合を2027年までに50%以上とする。
・卸売業・小売業及び医療・福祉の事業場における正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を2027年までに80%以上とする。
・介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる。
(イ) 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
・「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和2年3月16日付け基安発0316第1号。以下「エイジフレンドリーガイドライン」という。)に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組(安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等)を実施する事業場の割合を2027年までに50%以上とする。
(ウ) 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
・母国語に翻訳された教材や視聴覚教材を用いる等外国人労働者に分かりやすい方法で労働災害防止の教育を行っている事業場の割合を2027年までに50%以上とする。
(エ) 業種別の労働災害防止対策の推進
・「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(平成25年3月25日付け基発0325第1号。以下「荷役作業における安全ガイドライン」という。)に基づく措置を実施する陸上貨物運送事業等の事業場(荷主となる事業場を含む。)の割合を2027年までに45%以上とする。
・墜落・転落災害の防止に関するリスクアセスメントに取り組む建設業の事業場の割合を2027年までに85%以上とする。
・機械による「はさまれ・巻き込まれ」防止対策に取り組む製造業の事業場の割合を2027年までに60%以上とする。
・「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」(平成27年12月7日付け基発1207第3号。以下「伐木等作業の安全ガイドライン」という。)に基づく措置を実施する林業の事業場の割合を2027年までに50%以上とする。
(オ) 労働者の健康確保対策の推進
・年次有給休暇の取得率を2025年までに70%以上とする。
・勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を2025年までに15%以上とする。
・メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに80%以上とする。
・使用する労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年までに50%以上とする。
・各事業場において必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を2027年までに80%以上とする。
(カ) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条及び第57条の2に基づくラベル表示・安全データシート(以下「SDS」という。)の交付の義務対象となっていないが危険性又は有害性が把握されている化学物質について、ラベル表示・SDSの交付を行っている事業場の割合を2025年までにそれぞれ80%以上とする。
・法第57条の3に基づくリスクアセスメントの実施の義務対象となっていないが危険性又は有害性が把握されている化学物質について、リスクアセスメントを行っている事業場の割合を2025年までに80%以上とするとともに、リスクアセスメント結果に基づいて、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を実施している事業場の割合を2027年までに80%以上とする。
・熱中症災害防止のために暑さ指数を把握し活用している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる。
イ アウトカム指標
 事業者がアウトプット指標を達成した結果として期待される事項をアウトカム指標として定め、本計画に定める実施事項の効果検証を行うための指標として取り扱う。
 なお、アウトカム指標に掲げる数値は、本計画策定時において一定の仮定、推定又は期待の下、試算により算出した目安であり、計画期間中は、従来のように単にその数値比較をして、その達成状況のみを評価するのではなく、当該仮定、推定又は期待が正しいかどうかも含め、アウトプット指標として掲げる事業者の取組がアウトカムにつながっているかどうかを検証する。
(ア) 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
・増加が見込まれる転倒の年齢層別死傷年千人率を2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。
・転倒による平均休業見込日数を2027年までに40日以下とする。
・増加が見込まれる社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに減少させる。
(イ) 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
・増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率を2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。
(ウ) 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
・外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに労働者全体の平均以下とする。
(エ) 業種別の労働災害防止対策の推進
・陸上貨物運送事業における死傷者数を2022年と比較して2027年までに5%以上減少させる。
・建設業における死亡者数を2022年と比較して2027年までに15%以上減少させる。
・製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を2022年と比較して2027年までに5%以上減少させる。
・林業における死亡者数を、伐木作業の災害防止を重点としつつ、労働災害の大幅な削減に向けて取り組み、2022年と比較して2027年までに15%以上減少させる。
(オ) 労働者の健康確保対策の推進
・週労働時間40時間以上である雇用者のうち、週労働時間60時間以上の扉用者の割合を2025年までに5%以下とする。
・自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合を2027年までに50%未満とする。
(カ) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
・化学物質の性状に関連の強い死傷災害(有害物等との接触、爆発又は火災によるもの)の件数を第13次労働災害防止計画期間と比較して、5%以上減少させる。
・増加が見込まれる熱中症による死亡者数の増加率※を第13次労働災害防止計画期間と比較して減少させる。
※ 当期計画期間中の総数を前期の同計画期間中の総数で除したもの
 上記のアウトカム指標の達成を目指した場合、労働災害全体としては、少なくとも以下のとおりの結果が期待される。
・死亡災害については、2022年と比較して、2027年までに5%以上減少する。
・死傷災害については、2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022年と比較して2027年までに減少に転ずる。
(4) 計画の評価と見直し
 本計画に基づく取組が着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。また、必要に応じ、計画を見直す。
 計画の実施状況の評価に当たっては、それぞれのアウトプット指標について、計画に基づく実施事項がどの程度アウトプット指標の達成に寄与しているのか、また、アウトプット指標として定める事業者の取組がどの程度アウトカム指標の達成に寄与しているか等の評価も行うこととする。
 
 第14次労働災害防止計画
 

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