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建設工事用クレーンの強風対策 (1)
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spacer.gif 基礎知識編
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1. まえがき
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風.私たちはいつも風の中にいます.風には心が洗われるようなさわやかな風や髪が乱れまとわりつくような迷惑な風などいろいろあります.そんな風がひとたび暴れだすとクレーンを倒壊させてしまうほどの風害を起こします.
そこで台風シーズンを迎えるに当たって,「建設工事用クレーンの強風対策」と題し,3回シリーズで分かり易く解説します.
今月の風に関する基礎知識に続き,移動式クレーンの強風対策,クライミング式タワークレーンの強風対策と続きます.
強風対策については災害事例などを盛り込みながら具体的な方法を分かりやすく紹介する予定です.
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2. 風の強さと性質について
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クレーンの強風対策を講じるには,まず風を知らなければなりません.そこで基礎的な風速,風の息,風圧そして高さと風速の関係を説明します.

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(1) 風速
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susume02_08_01.jpg風速は風速計で測定し,毎秒何メートルの風(m/秒)と呼ばれます.
風速の表し方には,10分間の平均値である「平均風速」と「瞬間風速」とがあり,周辺の状況により異なりますが,一般に瞬間風速は平均風速の1.5~2.0倍程度の大きな値を示します(図1).
天気予報などでは特にことわらない限り平均風速を表しています.

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(2) 風の息
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susume02_08_02.jpg風が短い間隔で風速や風向きを絶えず変化することを風の息と呼びます.風の息の周期とクレーンの固有振動によっては共振が発生し,思わぬ災害を生じます(図2).
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(3) 風圧(風荷重)
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susume02_08_04.jpgクレーンなどが風を受けると,風による圧力が生じます.風圧は風速の2乗に比例するので,風速が2倍になると風圧は4倍になり,思わぬ大きな力を受けることがあります.
強風時にはクレーンばかりではなく,つり荷にも大きな力が作用します(図3).
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(4)  高さと風速
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susume02_08_03.jpg風速は地上から高いほど,大きくなる傾向があります.地上で風が弱くても高い所に設置されたクレーンは強い風を受けます(図4).
いつもクレーン周辺の風に気をつけておく必要があります.
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3. 強風の種類
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強風には,台風や季節風など広い範囲に吹く風と,ビル風などの周辺状況による局地的なものがあります.風は横風だけでなく,下からの吹き上げもあります.
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(1) 台風
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susume02_08_05.jpg熱帯性低気圧が最大風速17.2m/秒以上になると台風と呼ばれます.台風の北上に際し,その中心に近い東側では南寄りの風が非常に強く吹きます.台風の進路が西側又は北側と予測されるときは,クレーンなどの強風対策を特に徹底する必要があります(図5).
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(2) 冬期季節風
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susume02_08_06.jpg冬期の西高東低型の気圧配置で等圧線の間隔が狭くなると最大風速20m/秒前後の強い北西風が広い範囲で吹きます(図6).
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(3) 春一番
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susume02_08_07.jpg春先,日本海の低気圧に向けて南方の高気圧から暖かく強い南よりの風が広い範囲に吹きます.特に立春から春分までの間で東南東から西南西,風速8m/秒以上のその年の初めての強い風を春一番と呼びます(図7).
この時期,クレーンが煽られる事故が時々発生しています.'
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(4) 旋風
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susume02_08_08.jpg西高東低型の気圧配置において,発達した低気圧が大陸から北海道東岸を通過するときに台風並みの暴風が発生することがあります.この風を旋風と呼びます(図8).
一般的に北日本地域で強く,平均最大風速32m/秒,瞬間最大42m/秒を記録したこともあります.
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(5) 局地的突風
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susume02_08_10.jpg天候の急変などで局地的に発生したり,市街地や山間部で周辺地形の影響で局地的に吹く強い風があります.

高層ビル群の周辺では,ビルの影響で局地的に風が強い場所があり,ビルの側面を吹き抜ける風は,風速が数倍に増加されるといわれます(図9).

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susume02_08_09.jpgまた,山間部の平地(谷間),川沿いなどの風道と呼ばれるところに吹く強い風もあります(図10).

クレーンなどを設置するとき周辺の状況を確認して,そこに吹く風の特徴をつかんでおく必要があります.

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4. 風の強さの見分け方
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風の強さを知るには,風速計を設置したり,吹流しや周辺の様子を観察するなどいろいろな方法があります.
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(1) 風速計
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susume02_08_11_01.jpg風速計には設置型の風杯式風速計や携帯型のハンド風速計があります(図11).
瞬間風速と平均風速が測定でき,有線または無線で事務所にデータを送信してモニターできるものもあります.
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(2) 吹流し
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吹流しは瞬間風速に近い風の状況をつかむことができます.(社)日本クレーン協会規格(JCA)の「クレーン作業に使用する吹流し」は容易に設置でき,簡易で有効な方法です(図12).
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○ 335型
風速4 m/s:42° 風速6 m/s:61° 風速8 m/s:70° 風速10 m/s:76° 風速12 m/s:80°
○ 670型
風速4 m/s:42° 風速6 m/s:61° 風速8 m/s:70° 風速10 m/s:76° 風速12 m/s:80°
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(3) 気象庁風力階級表
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風力をいくつかの段階に分けた気象庁風力階級表により,周辺の様子から風の強さを判断することができます(表1).


表1 気象庁風力階級表(ビューフォート風力階級表)

風力
階級
陸上で観測するときのようす 海上で観測するときのようす 風速m/秒
以上 未満
0 susume02_08_12_01.jpg けむりはまっすぐにのぼる. かがみのような海面. 0.0 0.3
1 susume02_08_12_02.jpg けむりはなびくが,風速計には感じない. うろこのようなさざ波ができるが,波がしらにあわはない. 0.3 1.6
2 susume02_08_12_03.jpg 顔に風を感じる.木の葉が動く.風速計も動きだす. 海面に,はっきりしたさざなみがあらわれる.波がしらはなめらかで,くだけていない. 1.6 3.4
3 susume02_08_12_04.jpg 木の葉や,こまかい小えだが,たえず動く.かるい旗がひらひらする. 小波の大きいもの.波がしらがくだけはじめ,あわがガラスのようにみえる.ところどころに白波がみえてくる. 3.4 5.5
4 susume02_08_12_05.jpg 砂ぼこりがたち,紙くずがまいあがる. 波はまだ小さいが,白波がかなり多くなる. 5.5 8.0
5 susume02_08_12_06.jpg 葉のあるかん木がゆれはじめる.池や沼の水面に白波がたつ. 波の中くらいのもので,白波がたくさんあらわれ,波がしらがくだけて,しぶきをあげることもある. 8.0 10.8
6 susume02_08_12_07.jpg 大えだが動く.電線がなり,かさがさしにくくなる. 波が大きくなり,いたるところに白くあわだった波がしらができて,しぶきをあげることが多くなる. 10.8 13.9
7 susume02_08_12_08.jpg 樹木全体がゆれ,風にむかって歩きにくい. 波はますます大きくなり,波がしらがくだけてできた白いあわが,すじをひいて風下にふき流されはじめる. 13.9 17.2
8 susume02_08_12_09.jpg 小えだがおれる.風にむかって歩けない. 大波のすこし小さいもので,波がしらがくだけて,水けむりをあげる.あわは,はっきりと,すじをひいて,風下にふき流される. 17.2 20.8
9 susume02_08_12_10.jpg 家のえんとつがたおれ,屋根がわらがはがれる. 大波.あわは,こいすじをひいて風下にふき流される.波がしらがくずれおち,さかまきはじめる.波のくだけるしぶきにさえぎられ,遠くのものがみえにくくなる. 20.8 24.5
10 susume02_08_12_11.jpg 樹木が根からたおれる.人家に大そん害をあたえる.陸地ではめずらしい. のしかかってくるような,ひじょうに高い大波.波ははげしい力でくずれおちる.大きなかたまりとなったあわは,白いすじをひいて,風下にふき流され,海面は白くみえる.しぶきで,遠くのものがほとんどみえなくなる. 24.5 28.5
11 susume02_08_12_12.jpg めったにおこらないが,広いはんいに大きなひ害をあたえる. 中くらいの船が,波のかげになってみえなくなるほど,波は山のように高くなる.海面は風下にふき流された白いあわのかたまりでおおわれる.しぶきで遠くのものは,まったくみえなくなる. 28.5 32.7
12 susume02_08_12_13.jpg ひ害は,いよいよ大きくなる 海上は,あわと,しぶきにおおわれて,近くのものさえ,みえなくなる. 32.7

(次号へ)

(編集委員 青柳隼夫)

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