ワイヤロープの廃棄基準について,日本クレーン協会では簡易点検マニュアルを作成しており,それに従って実施するのが最も簡便である.簡易点検マニュアルにはクレーン等に使用されるワイヤロープのマニュアルと玉掛け用ワイヤロープのマニュアルの2種類がある.
クレーン等に使用されるワイヤロープの簡易点検マニュアルを次に示す.
ワイヤロープの簡易点検マニュアル
ワイヤロープのシーブを多く通過する部分等を中心に,目視で損傷の状況をチェックする.
その損傷の状況をワイヤロープの損傷写真と比較する.
点検は |
<ステップ1>:形崩れ |
|
<ステップ2>:摩耗・腐食 |
|
<ステップ3>:断線 |
により行ない,どれか一つでも廃棄基準に達していれば,そのワイヤロープは廃棄する.
<ステップ1>:形崩れ
形崩れの部分を良く似た損傷写真と比べてみる.
<ステップ2>:摩耗・腐食
摩耗してワイヤロープの表面が光っている部分や,赤錆のある部分の油や汚れをよく拭いて,損傷写真と比べて見る.
<ステップ3>:断線
目視による点検する.断線を発見したら,その周辺の油や汚れをよく拭いて点検する.点検後はロープグリースを塗布しておく.
(1)クラウン断線(山切れ)の場合
ロープ径(d)の6 倍(約1 ピッチ)及び30倍(約5ピッチ)の範囲内の断線数を数え,使用されているワイヤロープの構成を確認して,次表の断線数以上あれば廃棄する.
ワイヤロープの構成
|
可視断線数 |
点検範囲 |
6d |
30d |
18×7 19×7 |
4 |
8 |
6×Fi(25)
6×WS(26)
6×P・WS(26)
34×7 35×7 |
5
5
5
5
|
10
10
10
10
|
6×Fi(29)
6×WS(31) |
6
6
|
11
13
|
6×WS(36)
6×P・WS(36) |
7
7
|
14
14
|
6×SeS(37) |
8 |
16 |
6×WS(41) |
9 |
18 |
6×37 |
10 |
19 |
4×F(40)
3×F(40) |
2
2
|
4
4
|
・IWRC のものも同様に扱う.
(2)ニップ断線(谷切れ)の場合
1本でもあれば廃棄する.
<廃棄基準・更新基準>
ロープの廃棄基準・更新基準は,その業種を管理・監督する各省庁により,法的な規則が決められている.ロープの関連法規を表4に示す.
表4 ワイヤロープの関連法規
No.
|
法規 |
最新の改正時期
(未改正のもの
は制定時) |
内容 |
名称 |
種類 |
安全率 |
D/d |
フリート
アングル |
取替基準 |
1 |
建築基準法施工例 |
政令 |
平成2年 |
○ |
○ |
|
|
2 |
石油鉱山保安規則 |
通産省令 |
平成2年 |
○ |
|
|
○ |
3 |
石炭鉱山保安規則 |
通産省令 |
昭和61年 |
○ |
|
|
○ |
4 |
金属鉱山等保安規則 |
通産省令 |
平成1年 |
○ |
|
|
○ |
5 |
鋼索鉄道の施設に関する
技術上の基準
の細目を定める告示 |
運輸省告示 |
昭和62年 |
○ |
○ |
|
|
6 |
鋼索鉄道の索条交換基準について |
運輸省通達 |
昭和62年 |
|
|
|
○ |
7 |
索道施設に関する技術状の
基準を定める省令 |
運輸省令 |
昭和62年 |
○ |
○ |
|
|
8 |
単線自動循環式普通索道の
支えい索に使用される索条の
交換基準について |
運輸省通達 |
昭和62年 |
|
|
|
○ |
9 |
船舶安全施工規則 |
運輸省令 |
平成2年 |
○ |
|
|
○ |
10 |
労働安全衛生規則 |
労働省令 |
平成2年 |
○ |
|
|
○ |
11 |
クレーン等安全規則(玉掛索) |
労働省令 |
平成4年 |
○ |
|
|
○ |
12 |
クレーン構造規格 |
労働省告示 |
平成7年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
13 |
移動式クレーン構造規格 |
労働省告示 |
平成7年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
14 |
デリック構造規格 |
労働省告示 |
昭和43年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
15 |
エレベータ構造規格 |
労働省告示
|
昭和46年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
16 |
簡易リフト構造規格 |
労働省告示 |
昭和43年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
17 |
建設用リフト構造規格 |
労働省告示 |
昭和43年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
18 |
ゴンドラ構造規格 |
労働省告示 |
平成6年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
19 |
機械集材装置構造基準(指導基準) |
労働省通達 |
昭和37年 |
○ |
○ |
○ |
○ |
20 |
運材索道構造基準(指導基準) |
労働省通達 |
昭和39年 |
○ |
○* |
|
○ |
21 |
集材機作業基準(作業要領) |
林野庁通達 |
昭和58年 |
○ |
|
○ |
○ |
*印:D/δで表現
D:ドラム・シーブの径mm
δ:ロープの外層素線径mm
|
(労働省関係の廃棄基準)
法規名称
|
記載条項 |
内容 |
労働安全衛生規則 |
くい打機又はくい打機の巻上用(第174条) |
1. |
ロープの1より(1ピッチ)の間において素線(フィラー線を除く)の数の10%以上の素線が断線したもの. |
2. |
直径の減少が公称径の7%をこえるもの. |
3. |
キンクしたもの. |
4. |
著しい形崩れ又は,腐食のあるもの.
(注) |
(1) |
くい打機」は継目のあるものの禁止. |
|
(2) |
「巻上げ装置」「機械集材装置」では(フィラー線を除く)がない. |
|
(3) |
「機械集材装置」では摩耗による直径の減少が公称径の7%をこえるものとなっている. |
|
|
車道の巻上げ装置の巻上用(第217条)
|
揚貨装置の玉掛け用(第471条)
|
機械集材装置又は運材索道用(第501条)
|
クレーン等各構造規格 |
クレーン(第51条)
移動式クレーン(第14条)
デリック(第38条)
エレベーター(第36条)
ゴンドラ(第36条)
簡易リフト(第17条)
建設用リフト(第36条) |
クレーン等安全規則 |
玉掛け(第215条) |
|
法的規制ではないが,実際には,各業界で規格や基準を作り対応している.クレーン用ワイヤロープに関しては,日本クレーン協会「JCA S 0501-1986クレーン等に使用されるワイヤロープの保守・点検および廃棄基準」(表5)があり,エレベータロープに関しては,「JIS A 4302-1992昇降機の検査標準」(表6)がある.
表5 日本クレーン協会規格の廃棄基準
項目 |
廃棄基準 |
断線 |
外層ストランド中の素線の総数(フィラー線を除く)に対して,断線数が次の率以上になったもの.
・ロープ1より(1ピッチ)の間において10%
ただし,1本のストランドだけに発生している場合5%
・ロープ5より(5ピッチ)の間において20%
なお,ケーブルレイドロープは,外層のロープ(シェンケル)を外層ストランドとみなす. |
摩耗 |
・直径の減少が公称径の7%を超えたもの. |
腐食 |
・素線の表面にピッチングが発生して,あばた状になったもの.
・内部腐食により素線がゆるんだもの. |
形崩れ |
・キンクしたもの.
・うねりの幅が公称径dの25倍以内の区間において4/3d以上になったもの.
・局部的な押しつぶしにより,偏平化し,最小径が最大径の2/3以下になったもの.
・心綱または鋼心がはみ出したもの.
・著しい曲がりがあるもの.
・かご状になったもの.
・ストランドが落ち込んだもの.
・1本のストランドがゆるんだもの.
・素線が著しく飛び出したもの. |
|
表6 エレベーター用ワイヤロープの取替え基準
摩損状態 |
基準 |
素線の破断が平均に分布している場合
|
1構成より(ストランド)の1よりピッチ内での破断4以下 |
破断素線の断面積が,元の素線の断面積の70%
以下となっているか,又は,さびが甚だしい場合 |
1構成より(ストランド)の1よりピッチ内での破断2以下 |
素線の破断が1箇所または特定のよりに集中している場合 |
素線の破断総数が1よりピッチ内で6より鋼索では12以下,8より鋼索では16以下 |
摩耗部分の鋼索の直径 |
摩耗していない部分の鋼索の直径の90%以上 |
|
|