spacer.gif
クレーン用無線操縦装置の安全機能に関して
spacer.gif  
1.まえがき
spacer.gif spacer.gif


 平成16年に日本クレーン協会は,JCAS 1002-2004「無線操作式クレーンの安全に関する指針」を制定した。この指針はクレーン操作を無線化する際の,クレーン本体の構造要件やその管理・運転等だけでなく,無線操縦装置に関する要件も規定している。本稿では実際の無線操縦装置がどのようにこの指針に基づいて安全機能を実現しているかを,当社のハイパーテレコンとハンディテレコンを例に紹介する。また,指針の解説で参照しているJIS B9960-1:1999「機械類の安全性―機械の電気装置―第1部:一般要求事項」との関連も併せて記載する。

 


2.操作装置(送信機)
spacer.gif spacer.gif


 天井走行クレーン用およびホイストクレーン用の代表的な操作装置の外観を図1に示す。
  操作装置には,押しボタンスイッチ,ジョイスティックスイッチ等が組み込まれ,これらの操作信号が電波で発信される。

ハイパーテレコン
ハンディR Ⅱテレコン
図1 代表的なテレコン操作装置

 

2.1 電源スイッチ
 
 操作装置は,電源を「オン」することで操作が可能となるが,指針では「操作者を限定するために,キースイッチやアクセスコードを必要に応じて備えなければならない」としている。
  キースイッチは,「オフ」の位置でキーが抜き取れ,「オン」の位置では抜き取れない構造のものである。操作装置を使用する場合は,必ずキースイッチが必要となる。またキースイッチが抜かれた状態は,確実に電源が切れている状態を示すので,電源の切り忘れを防止できる。当社のハイパーテレコンとハンディ10テレコンに標準で装備されている。
  アクセスコードとは,電源「オン」後,いくつかの操作スイッチ等を定められた順序で押すことによりクレーンの操作が可能となる機能をいう。アクセスコードを知らない人が勝手に操作装置を操作できなくする。当社のハンディR Ⅱテレコンにオプションで装備されている。

 

2.2 停止スイッチ
 
  指針では「操作装置には,クレーンの動きを直ちに停止できる停止スイッチを設ける」と規定している。
  停止スイッチについてJIS B 9960-1-1999では,「操作盤には,危険な状態を起こしうる機械のすべての動きの停止機能を働かせるための,独立した,かつ明確に識別できる手段を備えなければならない」と規定し,指針でも「操作者に注意を促すことを目的に,赤きのこ型スイッチを使用することが望ましい」としている。
  当社の操作装置の停止スイッチは,赤きのこ型スイッチにするか,スイッチを赤くマーキングすることで,他の操作スイッチと明確に識別できるようにしている。さらに赤きのこ型の停止スイッチは,EN60947-5-1(欧州規格)で規定されている強制開離構造を採用している。
  当社ハンディ10テレコンの強制開離構造スイッチの構造例を図2に示す。スイッチは,固定側接点と可動側接点からなり,通常使用時は接点がオンしている。停止操作時には,スイッチを押し込む力で直接可動側接点を強制的に開離する(強制開離構造)ので,接点溶着や異常時でも接点を確実にオフできる。
  また,JIS B 9960-1-1999によれば,「ケーブレス制御機能を備えた機械は,次の状況において,自動的に機械を停止する手段(中略)をもたなければならない」としている。
  a) 停止信号を受けたとき
  b) システム内で障害を検知したとき
  c) 有効な信号が所定時間内に検出されなかったとき
  当社の操作装置は,停止スイッチを押すと停止信号を送信する。そして,停止信号を受信した受信装置は即座にリレー接点出力をすべてオフし,クレーンを停止させる(上記a)。しかし,停止信号を受信して停止させる方式だけの場合は,ノイズ等で通信状態が悪い場合は停止信号を受信することができないので,停止信号を受信できない場合でも,ある一定時間正常なデータが受信できない場合は,自動的にリレー接点出力をオフする(上記c)。また,当社の操作装置は,一定時間停止信号を送信した後,電波の送信も停止することとし,二重の手段で停止させるようにしている。また,停止スイッチ信号の読込み回路も二重化しており,片方の回路で故障が起きても,もう一方の回路で確実に停止手段が機能するようにしている。
  停止状態の解除は操作装置の電源を一度オフにしなければ解除できないようにインターロックが組込まれ,停止スイッチを復帰しただけでは停止状態が解除しないようになっている。また,停止状態を受信装置からリレー接点出力しているので,外部表示器等で確認することも可能である。

 

2.3 操作スイッチ

(1)押釦スイッチ
  指針では不意の接触によって作動する危険を防止するため,有効な高さのガードリングを設けるよう規定している。
  操作装置の押釦スイッチやジョイスティックハンドルの頭部押釦スイッチは,操作中に手や身体の一部が不意に接触することがある。これを防ぐために,スイッチには,それぞれに最適な形状のガードリングを装備している。
  ガードリングとは,ボタンの周囲を取り巻く保護物で,不用意な操作で押し釦スイッチが作動することを防ぐものである。また有効な高さとは,ガードリングの高さまで釦を押し込んでもスイッチが作動しない高さをいう。
(2)ジョイスティックハンドル
  当社のジョイスティックハンドルは,1本のハンドルで2つの方向(例えば走行と横行)の正逆操作各3ノッチを,同時に速度制御できる。ハンドルの操作頻度は,クレーンの運転回数に比例するが,平均1日あたり1000回にも達するため,電気的および機械的に長寿命の必要がある。
  ハンドルの信号は赤外発光素子とホトトランジスタとの間で光結合させる非接触接点式とし,長寿命化を実現している。
  機構部は操作が軽く歯切れのよい感覚が得られるよう,ノッチ機構を二方向に独立して設けた。この結果,ハンドルの電気的寿命は半永久的,機械的寿命は100万回以上が確保できた。図3にジョイスティックハンドルの機構構造を,図4にスイッチ部の構造を示す。

 

2.4 電池電圧監視
 
  操作装置は,電池電圧の低下をランプやブザー等で表示しているが,操作者は吊荷を見ながら操作しているので手元のランプ表示に気がつかなかったり,騒音のためにブザーでは気がつかない場合がある。当社は,操作装置に警報表示を設けるだけでなく,電池低下信号を受信装置に送信し,リレー出力することが可能となっているので,クレーン側に電池電圧低下警報ランプやブザーを取り付けて,操作者の注意を喚起することができる。

 

2.5 操作装置の防塵・防水構造
 
  当社の操作装置は,屋外の雨中や粉塵の多い過酷な条件でも使用できるIP65(規格:IEC529,屋外防水)対応としている。
  保護等級IP65を満足するために,可動部分のパッキンは接触面の保持性を向上させ,スイッチ類はOリングを装着している。ジョイスティックハンドル部はジャバラ部分の形状をスリムにし,その分ケースとジャバラ部分の接触面積を大きくすることで防水性を確保した。また下ケース底面には撥水性防水膜を設け,温度変化(高温→低温)により内部圧力が減圧し,ケース嵌合部から水の吸い込みが発生しないようにした。ハンディテレコン操作装置の防水構造を図5に示す。

 

2.6 転倒検知機能

  転倒検知機能は,操作装置がある規定された角度範囲以外で操作された場合に受信装置のリレー出力をオフする機能である。
  この転倒検知に用いられるスイッチは,
・通常の操作時に生じる振動・衝撃で誤出力してはならない
・長寿命であること
が要求される。従来は,水銀スイッチが使用されていたが,環境上の問題で近年は使用できなくなった。水銀スイッチの代用として金属球を使用したスイッチも市販されているが,金属球の接触自体に信頼性が無く,常時加わる振動により接点がオンオフを繰り返しているために接点寿命が短いという欠点がある。これらを解決するために当社では,三次元加速度センサを用いたスイッチを製品化している。図6に三次元加速度センサを用いた傾斜センサを示す。
  三次元加速度センサは,センサ部に加わる加速度に応じ変化する内部のピエゾ抵抗素子の状態をXYZ の3軸について電圧出力するセンサである。操作装置を傾けると,このセンサにかかる重力加速度が変化するので,このときの電圧をA/D コンバータを通してワンチップマイコンに取り込み角度を計算する。ただし,実際には振動や衝撃による加速度も加わっているため,マイコン内のソフトウェアで,これらの影響を取り除く処理を行っている。また,転倒を検出する角度の設定はマイコン内のROM で任意に設定できる。

   

 


3.受信装置
spacer.gif spacer.gif

 代表的な受信装置の外観を図7に示す。

 

3.1 運転操作のインターロック
 
(1)異なる動作間及び正逆動作間のインターロック
  前進と後退,巻上と巻下のように相反する操作を同時に行った時は,前進と後退(巻上と巻下)の2つとも出力しないようにしている。このインターロック回路を正逆インターロックと呼ぶ。
  押釦スイッチの故障やリレー接点の溶着による誤動作を防ぐため,一つの操作スイッチに対し,操作した時にオンとなる信号と操作しない時にオンとなる信号(ゼロ信号)の二つの信号を用意し,万一この二つの信号を同時に受信したときはゼロ信号を優先させ,操作した時にオンとなる信号出力をゼロ信号で切るようにしている。このインターロック回路をゼロインターロックと呼ぶ。図8に正逆インターロック,ゼロインターロックの回路を示す。
  また,ジョイスティックハンドルは,ハンドルを倒しただけでは出力せず,頭部押釦スイッチを押しながら倒したときにのみ出力するようにしている。


(2)複数の操作装置間のインターロック
  1台のクレーンを2ヶ所(周波数は2波使用)から無線操作を行う場合がある。このとき重要なことは,片方の操作装置から操作しているときに,勝手に他方の操作装置から制御できない様にすることである。何もインターロックが取られていない場合は,外部環境により電波断が発生したときや,作業上の都合により,操作装置の電源をオフしたときに,他の操作装置が操作を乗っ取ってしまう場合がある。
  当社では,操作装置に占有―解除のロータリースイッチ(選択スイッチ)を設けている。操作中の無線機で,スイッチを占有に切り替えると,操作権が確保され,電波断や電源オフしても操作権が他方の操作装置に移らないようになっている。操作権を放棄するには,操作者が意志を持ってスイッチを解除に切替えて,キースイッチをオフにする必要がある。
この方式を2ヶ所制御方式(占有―解除方式)と呼ぶ。
(3)始動時のインターロック
  受信装置の電源オン時は,操作装置からの電波を正常に受信していること,操作装置の全ての操作信号が無操作状態(手を離した状態即ち押釦スイッチは,押していないこと。ジョイスティックハンドルは中立位置にあること)であること,ゼロ信号を受信していること,これら全ての条件が整った時に,クレーンへの制御出力を開始する。このインターロック回路を主電源投入インターロックと呼び,図9にその回路を示す。電波断等で一度電波が遮断され,リレー出力がオフとなると,再度電波が正常に受信されてもいったん全ての操作を解除しなければ,運転操作は再開できない。

 


4.定期自主点検
spacer.gif spacer.gif

  指針では「天井クレーンの定期自主検査指針」及び「ホイスト式クレーンの定期自主検査実施要領」により行うよう規定されているが,これらには無線操作装置に関する点検項目はない。当社では定期検査をサポートするために,自己診断機能およびモニタリング機能(オプション)を用意している。

 

4.1 自己診断機能
 
  操作装置は無線モジュール不良,CPU 異常,設定スイッチ不良,キャリアセンス中,非常停止動作などをランプ表示し,故障か否かの判別が容易にできるようにしている。
  受信装置も同様に無線モジュール不良,設定不良,CPU 異常などの判別ができるよう各ユニットごとにランプ表示している。また,故障したユニットがあった場合,サービスマンコール信号としてリレー接点出力を設けている。さらに,電池電圧低下警報も操作装置のランプ表示だけでなく,受信装置からもリレー接点出力する。

 

4.2 モニタリング機能
 
  モニタユニットとメンテナンスソフトを使用することで,予防保全や事後保全を支援するメンテナンスサポートシステムを用意している。本システムの構成を図10に示す。



(1)予防保全
  操作信号や出力信号の上限回数をモニタユニットに登録し,上限回数を超えた場合,サービスマンコール信号としてリレー接点出力をする。これにより,操作スイッチやリレーが故障に至る前に交換ができ,予防保全が可能となる。
 
(2)事後保全
  モニタユニットは,操作装置から送られてきた操作信号,受信装置の出力信号,電波状態,無線伝送エラー等をメモリカードに記録することが可能である。意図せぬ動作や障害が発生した場合,記録データを解析することで,原因究明をサポートすることができる。データの解析は,パソコンのメンテナンスソフトを使用する。このソフトは,非常停止動作・走行動作などの特定の条件を設定し検索することができるとともに,時系列にチャート表示することが可能である(図11,図12)。


(3)電波測定
  記録されたデータの電波状態・無線伝送エラーを解析することで,受信レベル,通達距離,デッドポイントの確認が可能である(図13)。


(4)点検報告書作成
  メンテナンスソフトは,記録データから,装置稼働時間,リレーの動作積算回数等を抽出し,表紙,点検情報,装置情報,積算情報の4ページの構成からなる定期点検報告書を作成することが可能である(図14)。

 


5.あとがき
spacer.gif spacer.gif

 弊社は,長年にわたりテレコン装置の製造・販売を行うとともに,常にその時代の安全思想と先端技術を取り込み,より安全な製品作りに心がけている。
  昨今は様々な事故の報道を見聞するにつけ,製品の保守・管理が充分でなければ,安全は確保できないということが再認識されつつある。
  弊社は,製品自体の性能・安全性向上はもとより,製品の保守・管理をも容易にするツールの提案も行い,お客様に安心して使っていただける無線操縦装置を今後も提供していく所存である。

(金陵電機(株)テレコン事業部技術課)


spacer.gif
[ホーム]