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埠頭に設置されているコンテナクレーンや造船所で船体のブロック取り付け等に使用されるゴライアスクレーンに見られるように,橋形クレーンは大型の構造物であることが多く,屋外に設置されることが殆どです。そのため自然環境,特に風については影響が大きいので,ここでは風に関係するクレーン等安全規則,クレーン構造規格,JIS 規定と安全装置について紹介します。
(1)強風時の作業中止
クレーン等安全規則第31条の2
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事業者は,強風のため,クレーンに係る作業の実施について危険が予想されるときは,当該作業を中止しなければならない。 |
「強風」とは,10分間の平均風速が10m/s以上の風をいうものである。 |
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瞬間風速と平均風速の比である突風率(ガストファクタ)は,設置場所の地形などにより変化しますが,一般的に1.3~1.5程度と言われていますので,13m/s程度の瞬間風速が吹き始めると平均速度が10m/sに達する可能性があると考えておくべきです。
また,クレーン構造規格における設計時風荷重である,風速16m/sまで作業を続けて良いと誤解されている事が多いので注意を要します。
(2)逸走防止装置の措置および性能と風速の関係
クレーン等安全規則第31条 |
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事業者は,瞬間風速が30m/sをこえる風が吹くおそれがあるときは,屋外に設置されている走行クレーンについて,逸走防止装置を作用させる等その逸走を防止するための措置を講じなければならない。 |
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クレーン構造規格第41条 |
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屋外に設置される走行クレーンの逸走防止装置は,次の式により計算して得た値の風荷重に耐える性能を有するものでなければならい。
2 前項の風荷重は,走行クレーンの逸走に関し最も不利になる状態で計算するものとする。
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第1項の風荷重の算定式は,風速60m/sとして導いたものである |
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これらの規定は,逸走防止装置に関するものです。
(3)クレーン安定度と逸走防止装置の関係
クレーン構造規格第15条第3,4項 |
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3 屋外に設置されるクレーンは,荷をつっていない状態における安定度についての計算において,クレーンの停止時における風荷重がかかった場合における当該クレーンの転倒支点における安定モーメントの値が,その転倒支点における転倒モーメントの値以上のものでなければならない。
4 前項の規定による安定度は,次の定めるところにより計算するものとする。
3 走行クレーンのあたっては,逸走防止装置等により,逸走を防止するための措置が講じられた状態にあるものとすること。 |
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逸走防止装置および転倒防止装置には,それぞれを単独の装置とした分離形(図2-1,2-2)と,両者をひとつにまとめた兼用形(図3)があります。
分離形転倒防止装置の多くは,通常ターンバックルを締め付けることにより,クレーンを基礎金具へ固定する方式となっており,また逸走防止装置は,基礎側の溝に短冊状の金具を落とし込む方式となっています。
一方,兼用形の場合は短冊に長穴が設けられており,基礎金具との間をピンにより固定し,浮き上がり及び逸走を防止する構造となっています。
これらの逸走防止装置ならびに転倒防止装置には,それらが解放されている状態の時にのみ走行が可能なインターロック機能が設けられています。 |
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(4)風による逸走対策について
JIS B8828-1:2006 ―逸走防止装置― |
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解説3.2.2 風による逸走対策
屋外で運転されるクレーンは,作業時風荷重に対し十分な走行電動機を備え,クレーンをアンカー位置に運ぶことができるか,又は任意の位置で十分突風に対抗し得るレールクランプを備えなければならない。
アンカー及びレールクランプは,次の条件を満足するものとする。
1. |
風荷重アンカー60m/sの風荷重 |
2. |
レールクランプ約35m/sの風荷重
(休止時風荷重の40%相当) |
3. |
逸走に対する安定度1.5以上 |
4. |
レールとレールクランプの間の
摩擦係数μ=0.25 |
クレーンの走行抵抗は考慮してもよい。
アンカーおよびレールクランプの両者を備えるものも,両者がそれぞれ独立して1,2の風荷重に抵抗できること。 |
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この規定はJIS 規格であり,法律的には先のクレーン等安全規則第31条の2,クレーン等安全規則31条,クレーン構造規格第41条,クレーン構造規格第15条第3,4項に従わなければなりません。従ってレールクランプの設置は法的に義務付けられたものではありません。また,レールクランプの耐風荷重である休止時風荷重の40%は,約35m/sの風荷重に相当しますが,その風速まで任意の位置で待機してよいわけではなく,クレーン等安全規則第31条の2に従って,平均風速10m/s以上の場合には作業を中止し待避しなければなりません。
レールクランプは摩擦力により逸走を防止するものであるため,レールクランプの爪の摩耗,レール頭部の経年変化による変形,レールの浸水の場合には逸走抑止力が低減することもありますので,あくまでも急な突風に対する設備と考えるべきです。
(5)逸走を防止するための措置を講ずるために必要な走行電動機の出力について
クレーン構造規格第42条 |
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屋外に設置される走行クレーンは,逸走を防止するための措置を講ずることができる箇所まで,16m/sの風が吹いた場合においても走行させることができる出力を有する原動機を備えるものでなければならない。 |
「走行させることができる出力を有する」とは,走行用の原動機が定格出力として当該出力を有していなければならない趣旨ではない。 |
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16m/sの向かい風の場合,走行モータは過負荷状態で駆動しており,あまり長い時間その状態が続くと,モータの焼損を防ぐために設けられている過電流検出器が作動し,停止する恐れがあります。通常モータは180%,1分間程度の過負荷に耐えられる能力を持っていますが,それを大幅に超えるような,長い距離を待避しなければならない場合には,数回に分けて待避することも必要になります。
(6)瞬間風速30m/s後のクレーン点検について
クレーン等安全規則第37条 |
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事業者は,屋外に設置されているクレーンを用いて瞬間風速が30m/sをこえる風が吹いた跡に作業を行うとき,(中略)あらかじめ,クレーンの各部分の異常の有無について点検を行わなければならない。 |
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新聞,テレビ等で発表される「最大風速」とは10分間の平均風速での最大値を言いますので,先に述べた突風率を考慮し,最大風速20m/s以上の台風では,最大瞬間風速が30m/sに達することもあると考えておくべきです。
風速計の設置は法的に義務付けられたものではありませんが,風向風速計を取り付けたクレーンは数多くあります。通常の風速計は,瞬間風速を計りますが10分間の平均風速も併せて計れるものもあります。
通常,記録計は設置されてなく,瞬間風速の表示と設定値を越えたときに警報を発するものとなっています。
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