経年クレーンの特別査定指針が,日本クレーン協会規格(JCAS 1102-2007)により定められた。本規格設定の趣旨は,『現状のクレーン構造規格では,疲労強度上の使用限度に達したクレーンをどのようにするかが規定されていない。そこで,クレーン構造規格を補完するものとして,労働災害を未然に防止し,経年クレーンの安定操業の有効手段として,特別査定を検討する際の指針とする』と記されている。
筆者の所属する事業所においても,本規格に準拠した特別査定を実施しており,次にその概要について述べる。
(1)特別査定対象クレーンの選定
特別査定の取り組みポイントを表2に示す。事業所内で非常に数多くのクレーンが稼動している場合,劣化度の高いものから優先的に査定を行なう必要がある。そこで,この例では,昭和51年以前のクレーン(疲労に関する規定がない構造規格で設計したもの)に対しても,疲労劣化度を「クレーン鋼構造部分の計算基準(JIS B 8821:2004)」によって算定し,算定値と既実施の点検・検査の結果を組み合わせて,優先順位を決定する工夫を行なっている。また更に,前述したリスク評価(=事故の起こりやすさ×事故の大きさ)も実施し,優先順位決定に加味していることを付記しておく。
(2)特別査定における検査
特別査定における検査内容を図5に示す。全ての溶接線や構造部材を対象とするが,特に,重大事故に.がる可能性の高い部位をA 区分として,場合応じてPT(浸透探傷検査)を併用するなど,綿密な検査を重点実施する。また,検査の結果は,異常の有無にかかわらず検査実施記録書を作成保存し,損傷を確認した場合に過去に遡って追跡調査ができ
るような仕組みを構築している。各種記録はクレーン廃棄まで保存することとした。
参考までにガーダまわりの重点検査部位を図6に示す。これら重点検査部位を含む全ての溶接線,構造部材は,トラック式高所作業車などをもちいた近接点検を年に1回の頻度で実施することにより,その健全性を評価している。
(3)疲労損傷度と余寿命の推定
高度経済成長時代に建設され30年以上も生産活動に供してきたクレーンは少なくはない。これらの各々のクレーンについて変動応力と頻度を実測し,これまでの運転実績から現在の疲労損傷度と今後の余寿命を推定することで,経年疲労破壊による事故を未然に防止しようというのが本施策の狙いである。
構造部材がどれくらいの繰り返し荷重,すなわち変動応力に耐えられるかということは,実験的に求められたS-N 曲線によって示されてはいる。が,実際のクレーン構造部材の変動応力は実験室のように,一様な応力変動が規則正しく作用するものではない。従って,不規則に変動する応力に対して疲労を見積もる方法を導入する必要が生じてくる。
一つの方法として図7にレインフロー法の概念図を示す。アルゴリズムは「測定波形を多重の屋根とみなして,雨滴を全ての屋根のつけ根部分から流し,屋根から落ちた段階を計数することで頻度分布を求める」というものである。
それでは,測定事例を示そう。実機では図8に示すように,作業効率を考慮して,複数の重点検査部位にひずみゲージを貼付し同時に測定する。また,測定したデータの信頼性を確保するために,通常の操業状態でクレーンの稼動頻度に応じた一定期間の計測を行なうこととしている。
そして,実測により得られた変動応力と頻度から図9 に示す算出ロジックを用いて疲労損傷度解析が実施される。なお,疲労限界線図は「クレーン鋼構造部分の計算基準(JIS B 8821:2004)」に基づき選定されている。
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