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走行クレーンの逸走防止対策(その1)
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1.はじめに
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 定置式クレーンの災害ですぐに思いあたるのは,台風や春一番などの暴風の影響でジブが横風などにあおられて折損するものがあげられます。この場合,クレーンの使用者や管理者は気象の変化をある程度事前に察知できたにもかかわらず,トラワイヤーを張るなどの防護処置を怠ったり不十分であったりした為と考えられます。しかしながら,これらのケースの多くは,クレーン等安全規則で強風により危険が予想されるときの作業中止が規定されていることもあり,少なくともクレーン作業自体は行われておらず,作業者も退避しているので人的被害は起きていません。

 これに対して,発生頻度はそれほど多くはないのですが,作業中の突風で屋外の走行クレーンがあおられ,運転者の意に反して走行が止まらず,隣接機や近接構造物への衝突や倒壊に至ってしまう災害があります。こちらの災害の場合は,揚重作業の最中であったり,ちょっと様子をみようと付近に待機中であったりということで,作業員が巻き込まれ人的被害につながってしまうことが多く,重篤災害になりやすいと考えられます。そのため,より注意が必要です。

 


2.法規格における災害対策
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 こうした災害を防止するために,クレーン等安全規則では,瞬間風速が毎秒30 mを超える風が吹くおそれがある時は逸走を防止するための措置を講じることを要求しています。加えて,クレーン構造規格では,逸走防止装置(アンカー等)の備付けについて規定しています。このように,屋外の走行ク ーンは規格に従い逸走防止装置を備えていて,危険が予想されるときは装置をはたらかせることが規定されているわけですが,それにもかかわらず,まれに災害が発生してしまう状況が存在します。

 風に煽られてクレーンが逸走して発生した災害では,大きく分けて2つのケースが存在します。

  逸走防止装置等を作動させたにもかかわらず逸走してしまったケース
       〃     作動させずに逸走してしまったケース

 クレーン等安全規則およびクレーン構造規格では,クレーンの停止時に対しての逸走防止装置(アンカー等)の備付けと転倒防止対策を要求していますが,作動時の突風に対するレールクランプについては言及していません。一方で JIS規格では,任意規格ですが,作動時および停止時の両方に対して逸走防止装置(レールクランプおよびアンカー)を設けることを規定しています。このように両者の間にはずれがあり,整合が十分にとられていません(表 1を参照)。
 このような部分的な不整合を整理することが,設計者や使用者のクレーン逸走防止に対する考え方や,クレーンに装備される逸走防止装置等の性能の違いを解消し,災害防止につなげられるのではと考え,日本クレーン協会規格( JCAS):「クレーン逸走防止装置の設計指針」をまとめました。
 また,クレーンに備えられた逸走防止装置等も適 切に運用されなければ災害を防止することができませんので,逸走防止装置等を効かせられなかった点への対策として,あわせて日本クレーン協会規格:「逸走防止装置の使用に関する指針」をまとめました。
 本稿と次回の2回に分けて,クレーンにおける風による逸走災害の防止対策である,逸走防止装置等の概要とその運用について,2つの協会規格を用いて説明したいと思います。
 これまでの記述で,クレーンの逸走防止にかかわる装置として次の3種が出てきました。

  停止時の暴風に対して逸走を防止する装置(アンカー等)
  作動時の突風に対して逸走を防止する装置(レールクランプ)
  停止時の暴風に対して転倒を防止する装置

 本稿では,これらの3種をまとめて“逸走防止装 置等”と記載することにしています。

 


3.災害対策…「逸走防止装置の設計指針」
     
 走行クレーンの逸走防止装置の目的は,(1)クレーンの作動時におけるもの(通常の作業を行っている場合の突風対策をとるときのもの)と,(2)停止時におけるもの(暴風対策をとるときのもの)があると考えられます。クレーン等安全規則およびクレーン構造規格では,暴風時の逸走防止としてのアンカーのみの定義にとどまっていると考えられますが,JIS規格では両者の条件での対策として作動時→レールクランプ,停止時→アンカーと使い分けして定義されています。
前述しましたように,クレーン作動中の突風による逸走災害で人的被害が発生していることから,作動時の突風による逸走を防止するための対策は安全上極めて重要と考えられますので,作動時・停止時の両者について対策をとっておくことが必要と考えます。

(1)作動時の逸走防止対策
 作動時(クレーンが稼働している状況)に突風によりクレーンを逸走させないための機構として,多くのケースでレールクランプが備えられます。代表的な形式を図 1~図 4に示します。
 小型の屋外走行クレーンでは,手動式のレールクランプ(図1)がよく用いられます。大型の屋外走行クレーンでは,ウェイト(図2,3)やコイルスプリング(図4)等により締め付け力を発生させておき,走行時には油圧機構等で開放し,運転室や走行操作箱のスイッチにより開閉操作する仕組みの電動式タイプのものが多くみられます。
 運転操作には,レールクランプの“締め(閉)”あるいは“弛め(開)”をスイッチにより手動で単独で操作するものと,走行制御部と連動して自動的に操作されるものがあります。
 また,風速計と連動していて,設定風速を超過すると,走行運転を停止するとともにレールクランプが自動的に閉まるものもあります。レールクランプが閉まったままでは走行できないように,インターロック機能を有しているのが一般的ですが,有していないものもあります。
 レールクランプ以外の逸走を防止するための措置としては,クレーンの走行車輪を全輪駆動とする方法や,車輪にブレーキ機構を設けるなどの方法があります。

(2)停止時の逸走防止対策
 停止時(暴風などにより屋外の走行クレーンが逸走する恐れがある時)に,突風によりクレーンを逸走させないための機構として,多くのケースでアンカーが備えられます。代表的な形式を図 5~6に示します。
 手動操作により短冊状金具(アンカープレート)を基礎側の溝に落し込む構造で,アンカープレートを走行レールの両側に落し込むタイプ(図5)と,片側に落し込むタイプ(図6)があります。アンカープレートが溝に落し込まれたままでは走行できないように,インターロック機能を持たせるのが普通ですが,持たないものもあります。
 アンカー以外の逸走を防止するための措置としては,走行クレーンを重量物や固定物に対して固縛するといった方法があります。

(3)停止時の転倒防止対策
 クレーン構造規格では,直接,転倒防止装置の備付けに関しては規定していませんが,暴風時の安定度計算要求があり,計算の結果,安定モーメントが転倒モーメントより小さい場合には転倒を防止するための措置を講じることを要求しています。また, JISでは解説に「屋外に設置されるクレーンは,暴風の風荷重に対して,クレーンが逸走又は転倒しないように固定装置を備える必要がある。」と記載しています。
 転倒を防止するための方法には色々な方法があり,クレーン構造規格では逸走を防止するための措置として必ずしも逸走防止装置の備付けが義務付けられている訳ではないと考えられます。転倒防止装置は転倒を防止するための一つの手段と考えられ,転倒防止装置以外の転倒を防止するための措置も認めるのが適当と考えます。転倒防止装置以外の転倒を防止するための措置としては,クレーンに重量物を搭載する等の方法があります。
 クレーンに備えつけられる転倒防止装置の代表的な形状を図 7,図 8に示します。転倒防止専用型とアンカーとの兼用型があり,いずれも手動操作でクレーンと基礎側の金具をリンクプレート/ターンバックル又は短冊状金具(アンカープレート)で連結する機構となっています。走行レールの両側で連結されるタイプと,片側で連結されるタイプがあります。
 一般的には,リンクプレート/ターンバックル又はアンカープレートが基礎と連結されたままでは走行できないように,インターロック機能を有しています。

 


4.おわりに
     
 走行クレーンの風対策について,今回は走行クレーンに備え付けられる逸走防止装置等の概要を,日本クレーン協会規格:「クレーン逸走防止装置の設計指針」を中心に説明しました。
 クレーンの逸走防止装置には,“作動時の突風対策のもの”と“停止時の暴風対策のもの”の2種類があり,前者の代表的なものにレールクランプ,後者にはアンカーがあることを説明しました。加えて,停止時の暴風対策には転倒防止装置もあり,その中には停止時に効かせる逸走防止装置と兼用されるタイプのものもあることを説明しました。
 この日本クレーン協会規格を通じてクレーンの逸走防止装置についての理解を深めていただき,設計者・使用者のクレーン逸走防止に対する考え方や,クレーンに装備される逸走防止装置等の性能の違いを解消し,災害防止につながってくれることを願っています。
 次回は,今回説明した逸走防止装置等を使用するにあたり,逸走災害防止に効果的につなげるためのポイントについて,日本クレーン協会規格「逸走防止装置等の使用に関する指針」を用いて説明したいと思います。

 

(清水建設(株) 生産技術本部機械技術部 古口 光)


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