走行クレーンの逸走防止装置の目的は,(1)クレーンの作動時におけるもの(通常の作業を行っている場合の突風対策をとるときのもの)と,(2)停止時におけるもの(暴風対策をとるときのもの)があると考えられます。クレーン等安全規則およびクレーン構造規格では,暴風時の逸走防止としてのアンカーのみの定義にとどまっていると考えられますが,JIS規格では両者の条件での対策として作動時→レールクランプ,停止時→アンカーと使い分けして定義されています。
前述しましたように,クレーン作動中の突風による逸走災害で人的被害が発生していることから,作動時の突風による逸走を防止するための対策は安全上極めて重要と考えられますので,作動時・停止時の両者について対策をとっておくことが必要と考えます。
(1)作動時の逸走防止対策
作動時(クレーンが稼働している状況)に突風によりクレーンを逸走させないための機構として,多くのケースでレールクランプが備えられます。代表的な形式を図 1~図 4に示します。
小型の屋外走行クレーンでは,手動式のレールクランプ(図1)がよく用いられます。大型の屋外走行クレーンでは,ウェイト(図2,3)やコイルスプリング(図4)等により締め付け力を発生させておき,走行時には油圧機構等で開放し,運転室や走行操作箱のスイッチにより開閉操作する仕組みの電動式タイプのものが多くみられます。
運転操作には,レールクランプの“締め(閉)”あるいは“弛め(開)”をスイッチにより手動で単独で操作するものと,走行制御部と連動して自動的に操作されるものがあります。
また,風速計と連動していて,設定風速を超過すると,走行運転を停止するとともにレールクランプが自動的に閉まるものもあります。レールクランプが閉まったままでは走行できないように,インターロック機能を有しているのが一般的ですが,有していないものもあります。
レールクランプ以外の逸走を防止するための措置としては,クレーンの走行車輪を全輪駆動とする方法や,車輪にブレーキ機構を設けるなどの方法があります。
(2)停止時の逸走防止対策
停止時(暴風などにより屋外の走行クレーンが逸走する恐れがある時)に,突風によりクレーンを逸走させないための機構として,多くのケースでアンカーが備えられます。代表的な形式を図 5~6に示します。
手動操作により短冊状金具(アンカープレート)を基礎側の溝に落し込む構造で,アンカープレートを走行レールの両側に落し込むタイプ(図5)と,片側に落し込むタイプ(図6)があります。アンカープレートが溝に落し込まれたままでは走行できないように,インターロック機能を持たせるのが普通ですが,持たないものもあります。
アンカー以外の逸走を防止するための措置としては,走行クレーンを重量物や固定物に対して固縛するといった方法があります。
(3)停止時の転倒防止対策
クレーン構造規格では,直接,転倒防止装置の備付けに関しては規定していませんが,暴風時の安定度計算要求があり,計算の結果,安定モーメントが転倒モーメントより小さい場合には転倒を防止するための措置を講じることを要求しています。また, JISでは解説に「屋外に設置されるクレーンは,暴風の風荷重に対して,クレーンが逸走又は転倒しないように固定装置を備える必要がある。」と記載しています。
転倒を防止するための方法には色々な方法があり,クレーン構造規格では逸走を防止するための措置として必ずしも逸走防止装置の備付けが義務付けられている訳ではないと考えられます。転倒防止装置は転倒を防止するための一つの手段と考えられ,転倒防止装置以外の転倒を防止するための措置も認めるのが適当と考えます。転倒防止装置以外の転倒を防止するための措置としては,クレーンに重量物を搭載する等の方法があります。
クレーンに備えつけられる転倒防止装置の代表的な形状を図 7,図 8に示します。転倒防止専用型とアンカーとの兼用型があり,いずれも手動操作でクレーンと基礎側の金具をリンクプレート/ターンバックル又は短冊状金具(アンカープレート)で連結する機構となっています。走行レールの両側で連結されるタイプと,片側で連結されるタイプがあります。
一般的には,リンクプレート/ターンバックル又はアンカープレートが基礎と連結されたままでは走行できないように,インターロック機能を有しています。
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