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天井クレーンでの感電災害を防止するための知識と対策
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はじめに
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これから暑い夏に向かうと,作業者の肌の露出や発汗等により職場での感電災害が起こりやすくなる。毎年,8月は電気安全月間とされ,感電災害防止の注意が喚起される。ここでは,天井クレーンで発生し易い感電災害事例を2,3紹介した後,感電災害の特徴と知識,具体的な防止対策を紹介します。

天井クレーンで多く発生する感電災害の事例を,以下に紹介する。


感電災害事例 1:天井クレーンでプレス機械の金型を移動させようとして感電
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  発注先の工場で,納品した金型を動力プレスに取り付けるため天井クレーン(つり上げ荷重2.8t)で床からつり上げ移動させようと,作業者が金型を吊ったワイヤロープを右手で握り,左手でクレーンのペンダントスイッチを握った途端,作業者は「感電した」と叫び,膝から崩れ落ちるようにうずくまり,うつぶせに倒れた。
 事故後の調査の結果,この感電の原因は,ペンダントスイッチ内で電線の接続がゆるみ,ペンダントスイッチの金属製外枠に触れ漏電状態であったが,金属製外枠の接地が外れていたため漏電検出ができず,金属製外枠は充電されたままの状態であった。それ故,作業者が右手でワイヤロープに触れた状態で左手でペンダントスイッチの金属製外枠を握ったため,地絡電流が作業者の左手から右手を介して大地に流れて感電死したことが判明した。作業前からペンダントスイッチの金属製外枠とワイヤロープの間には208Vの電圧が現れていたが,発注元の作業員は軍手をしていたため,ペンダントスイッチの外枠に触れても,軍手や作業靴のおかげで地絡電流が感電災害を起こすほどには流れなかったものと思われる。


感電災害事例 2:天井クレーンのトロリ線から脱落した集電子を復旧させようとして感電
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 自動車部品を製造する工場で,工場内の清掃や塗装を終え,部品製造機械(ばり取り機とフライス盤)を元の位置に戻すことになり,作業者の一人(被災者)が天井クレーン(定格荷重2.8t)を操作しようとしたとき,天井クレーンの給電装置の集電子(滑車)が走行トロリ線から脱落していることがわかり,直そうとしてクレーンのサドルの上に登った。同僚の作業員が機械をホークリフトで運び込むため,持ち場を離れて数分して戻ってくると,被災者がサドルの上に横たわっていた。直ちに,救急車を呼び病院に移送したが,すでに死亡しており,左上腕部から右脇腹に電流が流れた感電死と判明した。
 感電の原因は,停電させないままクレーンのサドルに上り,外れた集電子を復旧しようとしたため,誤ってトロリ線(三相200V)に触れたものと思われる。また,被災者は,工場の清掃や塗装作業に来ていた作業者で,以前,他の会社でクレーンを運転した経験があるだけで,クレーン運転士の資格もない上,電気作業の教育を受けていなかった


感電災害事例 3:クレーンガータ上の電源盤で点検修理作業中に充電された電線に触れ感電
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 製紙工場の天井走行クレーンの月例点検作業を自社の設備部の社員4名で行っているときに発生した。点検対象となった工場のランウェイには2機のクレーン(つり上げ荷重13t×2台)が設置されており,係長がクレーンガータ上にある電源盤のメインスイッチを切り,機上を停電させて作業を開始した。1号機の点検作業が終了し,20分程の休憩を取った後,2号機の点検作業に取り掛かった。作業分担は,係長が横行トロリの点検,被災者が走行ブレーキの点検,1人が操作盤とモーターのエア洗浄,他の1人が巻き上げブレーキの点検であったが,係長が被災者に「電源盤のパイロットランプの電線が断線しているので,修理するよう」指示をした。被災者が指示された電源盤の前に行き,しゃがんで修理をしているときに,断線した電線が被災者のこめかみや上唇部分に触れ感電死した。

 感電の原因は,断線したパイロットランプの電線がメインスイッチの1次側に接続され配線であり,200Vに充電されていた。すなわち,電源盤のメインスイッチを切って機上の電路や電気設備を停電させても,点検の終わった1号クレーンを稼働させるため,走行トロリには電気が供給されていた。被災者の右手肘がガータ上の金属管に触れており,感電経路は被災者のこめかみから右手肘を介して大地に流れたものと推定された。
 
次に,感電災害の特徴,感電時の人体反応と電流限界を紹介する。


感電災害の特徴 1:感電死亡災害は夏季に集中
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 図1は,わが国の産業職場で発生した低圧電気(交流600V以下,直流750V以下の電圧をいう)による感電死亡者の発生状況を月別に示したものです。発生件数が少ないため,平成15~17年までの3年間の合計で各月の死亡者数を百分率で示しましたが,低圧電気による感電死亡者数は,毎年,7~9月の夏季に集中し,年間発生数の約8割を占めていることが分かります。
 これは,冬季のように人体の皮膚が乾燥し,かつ,乾燥した衣服等で覆われていると,夏季と同じ100Vや200V程度の電圧に触れても,単なるショック程度で助かり,死亡災害になりませんが,夏期では人体の発汗や肌の露出,衣服の湿潤により人体抵抗等が低下し,100Vや200V程度の電圧でも感電時,人体には大きな電流が流れ,単なるショックで済まなく死亡災害に至ることになります。


感電災害の特徴 2:感電災害は死亡危険性が高い災害
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 表1は,わが国の全産業で平成20年中に発生した労働災害による死傷者数及び死亡者数を,21の事故の型のうち「おぼれ」,「交通事故(道路)」,「その他」及び「分類不能」の4つの災害を除いた17の事故の型によって,被災者数の多い順に並べたものです。なお,17の事故の型とは厚生労働省の事故統計で分類されている事故の分類で,具体的には,「墜落・転落」,「転倒」,「激突」,「飛来・落下」,「崩壊・倒壊」,「激突され」,「挟まれ・巻き込まれ」,「切れ・擦れ」,「踏み抜き」,「高温・低温の物との接触」,「有害物等との接触」,「感電」,「爆発」,「破裂」,「火災」,「交通事故(その他)」及び「動作の反動・無理な動作」があります。
 
表1 事故の型別に見た労働災害のワースト 5
(平成20年)
  死傷災 害死亡災害 死亡発生率
第1位
転倒(24,792人) 墜落・転落(311人) 感電(14.1%)
第2位
墜落・転落(22,379人) 挟まれ・巻き込まれ(192人) 火災(8.41%)
第3位 挟まれ・巻き込まれ(18,439人) 激突され(96人) 交通事故(その他)(7.87%)
第4位 動作の反動・無理な動作(14,615人) 崩壊・倒壊(83人) 爆発(7.56%)
第5位 切れ・こすれ(10,707人) 飛来・落下(77人) 破裂(6.02%)
欄外 第13位 感電(149人) 第8位感電(21人)  

 死傷者数で見ると,「転倒」,「墜落・転落」による災害は,年に2万人以上の被災者を出す死傷者数の多い災害であり,次いで「挟まれ・巻き込まれ」,「動作の反動・無理な動作」,「切れ・こすれ」と1万人以上の死傷者を出す災害が続いて,「感電」による災害は17の事故の型のうち13番目です。しかし,死亡者数のみで見ると,「墜落・転落」,「挟まれ・巻き込まれ」「激突され」が上位3位までを占めていますが,「感電」も17の事故の型のうち8位に浮上しています。
 これは,感電災害が他の労働災害と比べて,災害発生件数は少ないものの,一旦発生すると死亡災害になる危険性が高いことを示しています。これを更に明確に示すために,死傷者数中に占める死亡者数の割合を死亡発生率として,その高い順に並べると,表1の右欄に示すように,「感電」が労働災害中第1位になります。

感電時の人体反応と電流限界

 感電で人体に現れる反応は,主に,人体に流れた電流(通電電流)の大きさ,電流が流れていた時間(通電時間)及び電流が流れた人体の経路(通電経路)等によって決まり,電圧の大きさは感電の危険性を評価する上では二次的な要素です。
 IEC(国際電気標準会議)の技術仕様書(TS60479-1)では,感電時の人体反応と電流限界(通電電流/通電時間領域)を与えています。図2は,15~100Hzの正弦波の交流電流が左手から両足に流れたときの人体の反応と電流限界を示したものです。

 ここで,図中の記号で示す領域は,次のとおりです。
領域AC-1: 通電電流が直線a(0.5mA)以下で示された領域。感知するかもしれないが,通常,驚くような反応はない。〔0.5mA:感知電流〕
領域AC-2: 通電電流が0.5mAを超え,折れ直線bまでの領域。5mA(成人男子に限れば10mA)以下であれば,通電時間に無関係。無意識の筋収縮が起こるが,通常有害な生理学的影響はない。〔10mA:成人の離脱電流〕
領域AC-3: 通電電流が折れ直線bを超え,曲線c1までの領域。無意識の激しい筋収縮・呼吸困難・回復性の心機能の興奮,硬直が起こる。通常,組織の損傷はない。
領域AC-4: 通電電流が曲線c1を越える領域。心拍停止・呼吸停止・火傷・その他の細胞損傷のような病生理学的影響が起こる。通電電流と通電時間の増加で心室細動の確率は増加する。曲線c1-c2間では心室細動が約5%までの確率で,曲線c2-c3間では約50%までの確率で,曲線c3を超えた領域では50%を超える確率で起こる。〔曲線c1:心室細動電流,40mA/3秒,50mA/1秒,100mA/0.5秒〕
 なお,心室細動とは,心臓部に流れる電流による心室脈動の不整脈で,心臓全体の収縮・膨張が起こらず,血液の循環機能が失われ死に至る現象である。心室細動は不可逆的現象であり,感電状態が物理的に除かれても,AED(自動体外式除細動器)を用いて除細しない限り心室細動が自然に回復することはない。感電死の大部分は心室細動によるといわれ,心室細動を起こす電流を心室細動電流という。

 最後に,感電災害を防止するための具体的対策として,電気機器の金属製外箱の接地と漏電遮断器の設置を紹介する。


感電防止対策 1:電気機器の金属製外箱を接地
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 電気機器が絶縁不良などで漏電を生ずると,機器の金属製外箱には大地との間に電圧が現れる。作業者がそれを知らずに外箱に触れると,人体に電流が流れ感電災害が発生する。そこで,図3に示すように,電気機器(M)の外箱を接地(R3)して,外箱に生じる対地電圧Vを低く抑えて感電危険を低減する。この方法は,従来から採用されている方法であり,現在でも金属製外箱を接地することが法規により義務づけられている〔電気設備技術基準の解釈(以下,電技解釈という)第29条,労働安全衛生規則(以下,安衛則という)第333条第2項〕。
 電技解釈の第29条には,電気機器の使用電圧の区分に応じて,電気機器の金属製外箱に表2の中欄に示すような接地工事を施すことが規定されており,その接地工事の接地抵抗値は,電技解釈の第19条に表2の右欄に示す抵抗値以下に保たなければならないとされている。しかし,感電防止の観点から,この接地抵抗値はできるだけ低いことが望ましい。

表2 電気機器の使用電圧と接地抵抗値
電気機器の区分 接地工事の種類 接地抵抗値
300V以下の低圧用のもの D種接地工事 100Ω(0.5秒以内に電路を遮断500Ω)以下
300Vを超える低圧用のもの C種接地工事 10Ω(0.5秒以内に電路を遮断500Ω)以下
高圧又は特別高圧用のもの A種接地工事 10Ω以下


感電防止対策 2:電路に漏電遮断器を設置
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 漏電遮断器とは,低圧の電路や電気機器で漏電が生じた場合,漏電を自動的に検出して電路を開放し,感電の危険源を除去する安全装置です。現在では,低圧電気における感電災害の防止対策として,最も優れた方法とされ,感電災害の多い移動式又は可搬式電動機器が使用される電路や人が容易に触れるおそれのある電路には,安衛則第333条や電技解釈第40条で設置を義務づけている。
 漏電遮断器の動作原理は,図3に示すように,電路から大地に漏れた地絡電流(漏れ電流)を各電線に流れる電流の差(ベクトル和)として零相変流器(ZCT)で検出し,遮断機構(引外しコイル及び開閉機構)を動作させるもので,定格感度電流(遮断器が動作する地絡電流)と動作時間(遮断器が電路を開放するまでの時間)によって表3に示すような種類があります。感電災害の防止を目的にした場合は,高感度高速形の漏電遮断器を選定する。
 なお,漏電遮断器を設置しても電気機器の金属製外箱には接地を施す必要があります。また,漏電遮断器の種類には,表3に示す地絡保護専用のものと過電流保護機能を備えた過電流保護兼用のものがあります。地絡保護専用のもの(テストボタンの色が緑)を選定した場合は,他に過電流保護用の遮断器を設置する必要があります。更に,分電盤内に漏電遮断器を設置する場合,感電防止用の漏電遮断器は分岐回路ごとに設置し,主回路には中感度時延形の漏電遮断器を設置するなどして,主回路と分岐回路の間に地絡遮断協調を考えた使い方をすることが好ましい。主回路に感電防止用の漏電遮断器を設置して回路全体の地絡保護を一つの漏電遮断器で行うことは,分岐回路で起きた漏電事故で電路全体を停電させることになり,全停電による二次的災害の発生にもなるので好ましくない。

 
表3漏電遮断器の種類と定格
区分 定格感度電流(mA) 動作時間(秒)
高感度形 高速形 5,10,15,30 0.1秒以内
時延形 0.1秒を超え2秒以内
中感度形 高速形 50,100,200,300,1,000 0.1秒以内
時延形 0.1秒を超え2秒以内
低感度形 高速形 3,000,5,000,10,000,20,000 0.1秒以内
時延形 0.1秒を超え2秒以内
注) 高感度形の中には,反限時形のもの(感度電流により動作時間が異なるもの)もあるが,現実に活用されていないので省略した。

(著者:公益社団法人 産業安全技術協会参与 市川 健二)

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