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表1は,わが国の全産業で平成20年中に発生した労働災害による死傷者数及び死亡者数を,21の事故の型のうち「おぼれ」,「交通事故(道路)」,「その他」及び「分類不能」の4つの災害を除いた17の事故の型によって,被災者数の多い順に並べたものです。なお,17の事故の型とは厚生労働省の事故統計で分類されている事故の分類で,具体的には,「墜落・転落」,「転倒」,「激突」,「飛来・落下」,「崩壊・倒壊」,「激突され」,「挟まれ・巻き込まれ」,「切れ・擦れ」,「踏み抜き」,「高温・低温の物との接触」,「有害物等との接触」,「感電」,「爆発」,「破裂」,「火災」,「交通事故(その他)」及び「動作の反動・無理な動作」があります。
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表1 事故の型別に見た労働災害のワースト 5 |
(平成20年) |
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死傷災 |
害死亡災害 |
死亡発生率 |
第1位
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転倒(24,792人) |
墜落・転落(311人) |
感電(14.1%) |
第2位
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墜落・転落(22,379人) |
挟まれ・巻き込まれ(192人) |
火災(8.41%) |
第3位 |
挟まれ・巻き込まれ(18,439人) |
激突され(96人) |
交通事故(その他)(7.87%) |
第4位 |
動作の反動・無理な動作(14,615人) |
崩壊・倒壊(83人) |
爆発(7.56%) |
第5位 |
切れ・こすれ(10,707人) |
飛来・落下(77人) |
破裂(6.02%) |
欄外 |
第13位 感電(149人) |
第8位感電(21人) |
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死傷者数で見ると,「転倒」,「墜落・転落」による災害は,年に2万人以上の被災者を出す死傷者数の多い災害であり,次いで「挟まれ・巻き込まれ」,「動作の反動・無理な動作」,「切れ・こすれ」と1万人以上の死傷者を出す災害が続いて,「感電」による災害は17の事故の型のうち13番目です。しかし,死亡者数のみで見ると,「墜落・転落」,「挟まれ・巻き込まれ」「激突され」が上位3位までを占めていますが,「感電」も17の事故の型のうち8位に浮上しています。
これは,感電災害が他の労働災害と比べて,災害発生件数は少ないものの,一旦発生すると死亡災害になる危険性が高いことを示しています。これを更に明確に示すために,死傷者数中に占める死亡者数の割合を死亡発生率として,その高い順に並べると,表1の右欄に示すように,「感電」が労働災害中第1位になります。
感電時の人体反応と電流限界
感電で人体に現れる反応は,主に,人体に流れた電流(通電電流)の大きさ,電流が流れていた時間(通電時間)及び電流が流れた人体の経路(通電経路)等によって決まり,電圧の大きさは感電の危険性を評価する上では二次的な要素です。
IEC(国際電気標準会議)の技術仕様書(TS60479-1)では,感電時の人体反応と電流限界(通電電流/通電時間領域)を与えています。図2は,15~100Hzの正弦波の交流電流が左手から両足に流れたときの人体の反応と電流限界を示したものです。
ここで,図中の記号で示す領域は,次のとおりです。
領域AC-1: |
通電電流が直線a(0.5mA)以下で示された領域。感知するかもしれないが,通常,驚くような反応はない。〔0.5mA:感知電流〕 |
領域AC-2: |
通電電流が0.5mAを超え,折れ直線bまでの領域。5mA(成人男子に限れば10mA)以下であれば,通電時間に無関係。無意識の筋収縮が起こるが,通常有害な生理学的影響はない。〔10mA:成人の離脱電流〕 |
領域AC-3: |
通電電流が折れ直線bを超え,曲線c1までの領域。無意識の激しい筋収縮・呼吸困難・回復性の心機能の興奮,硬直が起こる。通常,組織の損傷はない。 |
領域AC-4: |
通電電流が曲線c1を越える領域。心拍停止・呼吸停止・火傷・その他の細胞損傷のような病生理学的影響が起こる。通電電流と通電時間の増加で心室細動の確率は増加する。曲線c1-c2間では心室細動が約5%までの確率で,曲線c2-c3間では約50%までの確率で,曲線c3を超えた領域では50%を超える確率で起こる。〔曲線c1:心室細動電流,40mA/3秒,50mA/1秒,100mA/0.5秒〕
なお,心室細動とは,心臓部に流れる電流による心室脈動の不整脈で,心臓全体の収縮・膨張が起こらず,血液の循環機能が失われ死に至る現象である。心室細動は不可逆的現象であり,感電状態が物理的に除かれても,AED(自動体外式除細動器)を用いて除細しない限り心室細動が自然に回復することはない。感電死の大部分は心室細動によるといわれ,心室細動を起こす電流を心室細動電流という。 |
最後に,感電災害を防止するための具体的対策として,電気機器の金属製外箱の接地と漏電遮断器の設置を紹介する。 |