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天井クレーンの安全装置の種類と取扱いについて
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1.はじめに
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 天井クレーンは,「クレーン構造規格 第3節(第24条~33条)」で規定された安全装置等を備えることを義務付けられています。
 今回はこれらの中から「運転ミス」や「不適切な運転」による事故を防止するための装置の代表的なものについて,その目的・構造や特性・取扱上のポイントを紹介します。
第3節「安全装置等」で規定された装置
 ◇第24・25条(過巻防止装置)
 ◇第26条(巻過ぎを防止するための警報装置)
 ◇第27条(過負荷防止装置)
 ◇第28条(安全弁等)
 ◇第29条(回転部分の防護)
 ◇第30条(走行クレーンの警報装置)
 ◇第31条(傾斜角指示装置)
 ◇第32条(外れ止め装置)
 ◇第33条(走行及び横行の定格速度)
  クレーン安全規則:以下(安)と記載
  クレーン構造規格:以下(構)と記載
 なお,天井クレーンになじみの薄いものや,人に対する保護カバー・速度制限等の斜体表記につきましては,説明を省略します。


2.巻上装置関連の安全装置
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2.1 過巻防止装置
 ワイヤロープ又はつりチェーンを用いるつり上げ装置への装備の義務付けが,(構)第24条に規定されています。また,巻過ぎを防止するために自動的に動力を遮断して作動を制動する機能を有すること,つり具上面と接触する恐れがあるものとの間隔が,直働式(重錘式やホイスト用)では0.05m以上,その他(ギヤ式やねじ式)では0.25m以上になるように調整できる構造であること等,具体的な制限内容と具備すべき能力などは,(構)第25条及び(安)第18条に規定されています。
 巻過ぎの場合は,巻上用ワイヤロープ切断によるつり荷の落下等の重大災害に至る恐れがあるので,クラブトロリ式天井クレーンの場合は,直働式で動力回路を,その他で操作回路を遮断するなど,2系統の過巻き防止装置を設けることが多くなっています。
 さらに巻下げ操作による逆巻での巻過ぎを防止するために,下限も検出対象とすることを推奨しています。
 
2.1.1 重錘式リミットスイッチ(直働式)
 つり具が上昇して重錘を押し上げると,操作用ワイヤロープの張力がリミットスイッチ操作レバーの重錘質量より軽くなり,カム軸を回転させて内部の接点が開く構造です。
 作動位置は重錘の位置(=操作用ワイヤロープの長さ)で決定するため,動作位置の誤差が少なく,巻上用ワイヤロープ交換後の再調整も不要ですが,操作用ワイヤロープも巻上用ワイヤロープと同様に経年取替えすることを推奨します。

図1 重錘式リミットスイッチ
 
2.1.2 ギヤ式リミットスイッチ(その他)
 巻上ドラムの回転をチェーン等を介してリミットスイッチのウォーム軸に伝達し,ウォームホイールと共に回転するカムの凹凸でマイクロスイッチの接点を開き,回路を遮断する構造です。
 全揚程をカムの回転に置き換えるため,停止精度が悪く,巻上用ワイヤロープ交換後の再調整が必要になりますが,複数のカムと接点を装備可能で,上限や下限以外にも,任意の高さ検出が可能になります。

図2 ギヤ式リミットスイッチ
 
2.1.3 ねじ式リミットスイッチ(その他)
 巻上ドラムの回転をチェーン等を介してリミットスイッチのスクリューに伝達し,スクリューに組み込まれたトラベラーが左右に移動することにより,停止位置で固定されたレバースイッチの接点を開き,回路を遮断する構造です。
 全揚程をトラベラーの移動量に置き換えるため,停止精度が悪く,巻上用ワイヤロープ交換後の再調整が必要になりますが,複数の接点を装備可能
で,上限や下限以外にも,任意の高さ検出が可能になります。

図3 ねじ式リミットスイッチ
 
2.1.4 ホイスト用(直働式)
 つり具が上昇してレバーを押し上げると,リンクがリミットスイッチシャフトに回転を与え,スイッチシャフトのカムがスイッチを作動する構造で,1段目は巻上用電磁接触器の操作回路を,2段目は巻上モータの主回路を遮断します。
 作動位置は固定されており,巻上用ワイヤロープ交換後の再調整は不要です。上限2段は同一系統の検出方式であるため,リミットレバー・スイッチレバー・ロッド等に異常がある場合は,いずれも作動しない可能性もあり,注意が必要です。

図4 ホイスト用リミットスイッチ
 
2.1.5 電気チェンブロック用(直働式)
 つり具が上昇して圧縮バネの上面が本体側のガイドバネを押し上げると,リンクがカム軸に回転を与え,カムがリミットスイッチを作動する構造で,ホイスト用と同様に,1段目は巻上用電磁接触器の操作回路を,2段目は巻上モータの主回路を遮断します。なおホイスト用とは異なり,下限やキンクの検出も可能です。
 作動位置は本体側のガイドバネ取付位置で決定されるため,巻上用チェーン交換後の再調整が必要です。上限2段と下限およびキンクのいずれも同一系統の検出方式であるため,リンク・カム軸・カム等に異常がある場合は,すべてが作動しない可能性もあり,注意が必要です。

図5 電気チェンブロック用リミットスイッチ
 
2.2 過負荷防止装置
 ジブクレーンには,過負荷防止装置(*)の装備の義務付けが,(構)第27条に規定されています。
:下記いずれかに該当する場合は,過負荷防止装置以外の過負荷を防止するための装置
  ①つり上げ荷重が3 t未満
  ②ジブの傾斜角度及び長さが一定
  ③定格荷重が変わらない
 天井クレーンにつきましても,基発第134号「クレーン製造許可の取扱いについて」の中で,下記について指導するよう通達されており,つり荷の荷重のみを検出する装置(=過負荷防止装置以外の過負荷を防止するための装置;以下『ロードリミッタ』と記述)の装備を求められています。
主巻と補巻の巻上げ又は巻下げを同時に行うことを目的とするクレーンの場合は,主巻と補巻それぞれのフックにかかる荷重の合計値が主巻の定格荷重を超えない装置及び補巻フックにかかる荷重が補巻の定格荷重を超えない装置を備えること
複数のフックを用いた「共づり」作業を目的とするクレーンの場合は,各々のフックの定格荷重を超えない装置を備えること(*)
  *:巻上げ及び巻下げの同調装置並びにトロリの衝突防止装置も具備のこと
 ロードリミッタには,ひずみゲージやバネで検出するもの,モータへの負荷電流を検出するもの等があります。なお,バネ式には偏心軸荷重検出式や,ロープ張力検出式なども含まれます。
 過荷重検出時に警報や表示灯で運転者へ注意を促す機能を備えるものや,自動的に巻上を停止する機能を備えるもの,あるいはそれら複数の機能を備えるものがあります。なお,自動停止機能を備えていない場合は,警報等による注意喚起後直ちに当該操作を中止する必要があります。
 
2.2.1 ひずみゲージ式
 ひずみゲージ式のロードリミッタには,引張型・圧縮型・ピン型・ワッシャ型・軸受型などがあり,クラブトロリの構造や検出対象によって使い分けられています。
 いずれもひずみゲージを備えた検出部の信号を増幅器を通して演算部へ送り,設定値と検出値の比較を行って制御信号を出力するものです。目的に応じオプションを装備することにより,計量&荷重表示,和算制限などの機能を追加することが可能です。
 取付状態や給油状態の確認は1ヶ月に1回以上,動作確認は1年に1回以上,設定荷重の調整は2年に1回以上,それぞれ定期的に実施されることを推奨します。なお設定荷重の調整には,校正済のウェイトを使用してください。
 

図6 ひずみゲージ式ロードリミッタ(引張型)

図7 ひずみゲージ式ロードリミッタ(圧縮型)
 
2.2.2 偏心軸荷重検出式(バネ式)
 荷重(W)がかけられたときに生じる偏心軸の回転力を利用してマイクロスイッチを作動する構造です。荷重(P)はモーメントのつり合いより,『P=W・e/l 』となります。
 荷重をつってマイクロスイッチが作動する位置に調整ボルトを固定することにより,任意に検出荷重を設定できます。取扱上の注意点はひずみゲージ式ロードリミッタとほぼ同じで,取付状態や給油状態の確認は1ヶ月に1回以上,動作確認は1年に1回以上,設定荷重の調整は2年に1回以上,それぞれ定期的に実施されることを推奨します。

図8 偏心軸荷重検出式ロードリミッタ
 
2.2.3 ロープ張力検出式(バネ式)
 イコライザシーブや固定端付近のワイヤロープに直接取り付け,三点支持でロープ張力を検出してマイクロスイッチを作動する構造です。
 ワイヤロープ交換時ごとに,取り外し・取り付け・調整が必要になります。取付の際は,上限リミットスイッチが作動しても干渉しない位置に取り付けるよう注意してください。
 
図9 ロープ張力式ロードリミッタ
 
2.2.4 電流検出式
 巻上モータの入力電流を電圧に変換し,基準となる指令値より高い場合に過荷重と判定する方式で,巻上速度が一定であるホイストでは一般的な検出方式です。
 インバータホイストの場合は,巻上速度の情報等も取り込み演算した結果で判定するため,低速時等の定格速度以外においても過荷重が検出可能です。
 
図10 電流検出式ロードリミッタ


3.巻上装置以外の安全装置
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3.1 走行クレーンの警報装置
 床上で運転し,かつ,運転者が走行とともに移動する方式のクレーン及び人力で走行するクレーン以外のクレーンには,電鈴やブザー等の警報装置を備えることを,(構)第 30条で義務づけられています。
 作業開始前の動作確認を確実に行い,これからクレーンが走行することなどを,周囲の作業者や他の人に警報して,注意を喚起してください。

図11 電子ホーン及び回転灯
 ベル・サイレン・電子ホーン・音声付き回転灯など多種多様の装置が存在するので,同一あるいは隣接するランウェイに複数のクレーンがある場合には,他のクレーンの警報と混同しないよう,音色や動作方法の異なる装置を装備されることを推奨します。また,運転者が走行と共に移動する方式のクレーン等,適用を除外されているクレーンにおきましても,装備されることを推奨します。
 
3.2 外れ止め装置
 鋳なべ用特殊フックや巻取紙用特殊フック,コイル運搬用 C型フック等,特定の荷のみをつるために使用するフックを除き,フックには玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置の装備を(構)第32条で,その使用を(安)第20条の2で義務づけられています。
 作業開始前の確認を確実に行い,玉掛け時には外れ止め装置を確実にセットしてください。

図12 外れ止め装置
 直接式が一般的ですが,人がフックに近づけないような作業条件等の場合には,電動シリンダーなどで開閉する遠隔操作式を採用される場合もあります。
 
3.3 接点溶着検出装置
 電磁接触器等の接点溶着によるクレーンの暴走を防ぐために,操作機器の指示状態とクレーンの動作状態を監視し,異なる場合は表示灯を点灯して,主電源を遮断する機能を有する装置です。
 構造規格や安全規則による義務付けはありませんが,特に「非常停止」機能を装備していないクレーンや,運転者付近に電源遮断スイッチが設けられていないクレーンには,暴走事故を防ぐためにも,装備されることを推奨します。
 取付時は,人為的に溶着と同じ状態を作って動作確認行ってください。また毎月1回以上または毎年数回以上の定期点検時にも,当該取扱説明書にしたがって装置の動作点検を行ってください。
 
3.4 接近検出装置
 建屋とクレーン,クレーン相互間,トロリ相互間などの接近状態を検出する装置で,光電式・超音波式・電波式・機械式などがあり,設置場所の環境や走行速度などの条件に応じて使い分けます。
 構造規格や安全規則による義務付けはありませんが,「運転ミス」や「不注意」などによる衝突事故を防止するために,装備されることを推奨します。なお検出時には,警報や表示灯で運転者へ注意を促す機能,自動的に走行や横行を強制減速または強制停止する機能,あるいはそれら複数を,作業内容などに応じて選択してください。
 
3.4.1 光電式
 光電式は反射式・測距タイプが一般的です。
 作業開始前に,投受光器や反射板の前に検出の障害となるものがないこと,取付ボルトの弛みがないこと,および正常に動作することを,確実に確認してください。

図13 反射形光電式接近検出装置
 
3.4.2 超音波式
 超音波式には反射式と送受信式があります。
 作業開始前に,送信子と受信子または送受信子と反射器の前に検出の障害となるものがないこと,取付ボルトの弛みがないこと,および正常に動作することを,確実に確認してください。

図14 超音波式接近検出装置
 
3.4.3 電波式
 電波法に基づく免許申請不要(=特定小電力無線局)のマイクロ波を使用した送受波式の検出装置で,耐環境性に優れています。
 作業開始前に,送波器と受波器の前に検出の障害となるものがないこと,取付ボルトの弛みがないこと,および正常に動作することを,確実に確認してください。

図15 電波式接近検出装置
 
3.4.4 機械式
 走行方向に長い腕を設け,その先端に備えたリミットスイッチが相手側のドックで作動する接触式の接近検出装置です。
 作業開始前に,取付ボルトの弛みがないこと,および正常に動作することを,確実に確認してください。

図16 機械式接近検出装置


4.おわりに
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 本稿はJCA発行の「クレーン」第39巻第7号2001から第12号2001にわたって掲載された講座『クレーンの安全装置とその取扱方法』より,「クレーン構造規格 第3節(第24条~33条)に焦点を絞って抜粋・加筆したものです。
 安全装置は同一の目的をもつものであっても多種多様です。使用や保守点検の際は,当該装置の取扱説明書を熟読の上,安全に関する注意事項を習熟しておいてください。
 最後に,安全装置を装備したからといって,安全が確約されたわけではありません。いざというときに,動作せずに事故に至った事例も散見されます。日常点検において,これらの安全装置が確実に動作することを確認すること,および安全装置に頼る運転操作を行わないよう心がけることが重要であると考えます。
 

参考文献

  • (一社)日本クレーン協会発行「クレーン」第39巻第8号2001
  • (一社)日本クレーン協会発行「クレーン」第39巻第9号2001
  • (一社)日本クレーン協会発行「クレーン」第46巻第8号2008
  • (株)大倉製作所 ロードリミッター取扱説明書
  • 丸宗工業(株) ロードリミッター取扱説明書
  • (株)日立産機システム ロードリミッタ取扱説明書
  • 新晃電機(株) コンタクタ溶着検出器取扱説明書
  • 三菱電機エンジニアリング(株) 衝突防止用検出装置カタログ
  • 北陽電機(株) 電波式センサカタログ
 
((株)大倉製作所 技術本部 香山 誠一)


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