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安全な玉掛け作業の進め方 (1)
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 当協会では、玉掛け作業の安全に関するテーマを本クレーン誌の「安全のすすめ」の欄で定期的に取り上げてきている。また、継続的に活用されるべきものについて、協会ホームページの「安全のすすめ」に掲載しているが、内容が重複する部分もあることから、今般、平成12年に厚生労働省から公表された「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」以降のものを再編集、整理し、「安全な玉掛け作業の進め方」と題し、新たな形で紹介することとした。
 今号から、3回程度で本誌に掲載するので、業務の参考としていただきたい。
技術普及部


Ⅰ 玉掛け作業者の心構え
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1 こんなに多い玉掛け災害
 玉掛け作業とは、玉掛用具を用いて行う荷かけ及び荷はずしを行う作業をいい、すなわち、クレーン等を用いて荷を移動させる作業を行う場合、つり荷をクレーン等のフックでつるために使用する玉掛け用ワイヤロープ等の玉掛用具を選定し、荷のつり上げ、つり荷の誘導及びつり荷を所定の位置に置き、玉掛用具の取り外しまでの一連の作業をいう。
 つまり、クレーン作業と玉掛け作業とは切っても切れない関係にある。それは、茶碗でご飯を食べるのに箸を使うように、また、バイオリンを弾くのに弓が必要なように、なくてはならないものといえる。
 それだけに、クレーン作業による災害のうち、玉掛けが主要因となる災害が高い比率を占めていることは、誠に憂慮すべき状況である。
 表1にあるとおり、平成18年から平成27年までの10年間に発生したクレーン等による死亡者数は755人で、このうち、玉掛け作業に関連する死亡災害を抽出すると、同じく10年間で332人となっており、クレーン等による被災人数全体の44.0%を占めている。
 玉掛け作業に関連する死亡災害のうち、発生件数の多いものは、①玉掛けワイヤロープ等からつり荷が外れたことによるもの(落下)、②つり具・つり荷と床上の物体によるもの(挟圧)、③つり荷の転倒によるもの(挟圧)、④玉掛けワイヤロープ等の切断によるもの(落下)、⑤つり荷・つり具が激突したものが挙げられ、これらで、玉掛け作業に関連する死亡災害の79.5%と約8割を占めている。
 
表1 クレーン、移動式クレーン、デリックにおける玉掛け関連の死亡者数現象
 
2 こうして災害が発生する
 では、どのような状況、原因で災害は発生するのであろうか。「ワイヤロープからつり荷が外れた」、「フックから荷が外れた」、「ワイヤロープが切断した」といった場合について、実際の事例を示す。
事例1
 「つり上げた鋼管が玉掛け用ワイヤロープからずり落ちて被災者に当たる」
 
(1) 災害発生状況
 プラント工場から、プラント建設用の鋼管3本(7m×2本、11m×1本)を搬入してきたトラックの運転手とクレーン運転手が、トラッククレーンを用いて鋼管を仮置き場に下ろす作業を始めた。
 当日の始業前打合せでは、「鋼管の玉掛けはワイヤロープを絞ってつる」こととしており、そのとおりの作業で積み込んできたため、1本目の鋼管には玉掛け用ワイヤロープが絞った状態で玉掛けされており、そのまま下ろしたが、2本目はトラック運転手が1本目に使用した玉掛け用ワイヤロープを半掛けにして下ろした。
 最後の鋼管(長さ11m)は、荷台上に収まりきれないため片方の端を運転台に乗せ、傾斜した状態であったが、トラック運転手はこの鋼管に半掛けで2点4本つりの玉掛けを行った。
 次にクレーン運転手が巻上げを始め、この間、トラック運転手は玉掛けしたワイヤロープがずれないように手で押さえていた。
 鋼管がほぼ水平になった時点でトラック運転手は荷台から降り、クレーン運転手はそのまま巻上げを続けたところ、玉掛け用ワイヤロープがトラック後方側にずれているのに気がついた。
 クレーン運転手はすぐに巻上げを中止したが、鋼管は運転台側の端が地面に着くまでに傾斜し、ワイヤロープがますます後方にずれて、ついには鋼管全体が玉掛け用ワイヤロープから抜け落ち、地面に降りていたトラック運転手の腹部に当たったものである。
 
 
(2) 主な原因
spacer.gif a. 被災者が事前の打合せを守らず、滑りやすい鋼管の積下ろしに「半掛け」という不適切な玉掛け方法をとったこと。また、クレーン運転手が不適切な玉掛け方法のやり直しを要求せず、そのまま巻き上げたこと。
b. 玉掛け後のトラック運転手の退避位置が適切でなかったこと。
c. 作業中の災害発生の危険性を感知した場合の対応について定められていなかったこと。
 
(3) 対策
spacer.gif a. 玉掛け作業に当たっては、つり荷の種類、質量、形状、数量及び重心に合った適切な玉掛け方法を用いること。
b. 「玉掛作業の安全に係るガイドライン」等を参考に、あらかじめ、玉掛用具、玉掛け方法、作業者の退避位置、緊急時の対応などを定めた作業計画を作成し、関係労働者への周知を徹底すること。
 
 
事例2
 「玉掛け用ワイヤロープのロッキングフックから荷が外れ、被災者が下敷きになる」
 
(1) 災害発生状況
 プラント解体工事で、前日までに解体されたプラント部材を、移動式クレーンによりトラックに積み込む作業を行っていた。
 作業には、玉掛け作業指揮者、クレーンオペレーター及び玉掛け作業者(被災者)の3名が従事し、移動式クレーンに4本のロッキングフック付き玉掛け用ワイヤロープを取り付けて行うこととしていた。
 積込み作業は大型の部材から始め、最初は4点つりでトラックに積み込んでいたが、部材が小さくなるにつれて、最後に、プラントの歩廊架台(質量約300kg)を積み込もうとして、玉掛け作業者(被災者)は1本のロッキングフック付きワイヤロープを、シャックルを使用せずに直接部材の腕の部分にある穴にかけた。
 クレーンのオペレーターは、玉掛け作業指揮者の合図に従って荷をつり上げ始めたが、地切りしようとしたときに荷が振れ始めたため、待避していた被災者が荷の振れを止めようとして近づいたところ、突然荷がロッキングフック付き玉掛け用ワイヤロープから外れ、被災者が落下した荷と地面との間に挟まれたものである。
 使用した玉掛け用ワイヤロープは、作業前の点検時には異常が認められなかったが、災害発生後に確認したところ、フックのロック機構が有効に作動しておらず、閉じた状態でも隙間が生じることが認められた。
 
 
(2) 主な原因
spacer.gif a. シャックル等を使用せず、フックの先端を直接部材の穴にかけるなど、玉掛け方法が不適切であったこと。
b. 荷が落下するおそれのある場所に入ったこと。
 
(3) 対策
spacer.gif a. 必要に応じシャックル等を用いるなど、適切な玉掛用具を使用し、つり上げに際しては、玉掛けの状況を確認してからつり上げ操作を行うこと。
b. 荷が振れた場合は、一旦、荷を着地させる、介添えロープを使用する等、危険が生じた場合の措置についてあらかじめ打ち合わせるとともに、つり荷には直接手を触れない、つり荷の下に立ち入らないことを徹底すること。
 
 
事例3
 「テルハを用いて鉄板を積み込む作業中、ワイヤロープが切断して玉掛け作業者が下敷きになる」
 
(1) 災害発生状況
 資材置場に、駐車場設置工事に使用する鉄板(1.5m×1.5m、質量約400kg)5枚をテルハ(つり上げ荷重1t)を用いてトラックに積み込む作業を行っていた。
 作業は、玉掛け作業者とテルハの運転者の2名で行い、鉄板にあけられた直径50mmの穴にワイヤロープを通し、ワイヤロープのアイをチェーンブロックのフックにかけてつり上げていた。
 2枚目までの鉄板の積込みが終り、3枚目を荷台上に下ろそうとしたところ、鉄板の下端がトラックの荷台から後方にずれ落ちそうになったため、玉掛け作業者がテルハの運転者に巻き上げるように指示した。
 このとき、運転者は操作を誤ってペンダントスイッチの「下げ」ボタンを押したため、鉄板がさらにずり落ち、これに気づいた運転者がすぐに「上げ」ボタンを押し直して、鉄板がほぼ垂直状態までつり上げられたとき、突然ワイヤロープが切断して鉄板が倒れ、玉掛け者が鉄板の下敷きとなったものである。
 トラックの荷台には、鉄板を下ろしやすくするために運転席側に角材を敷き、その上に鉄板の片側を乗せていたため、鉄板が約12度傾斜しており、後方にずれやすい状態となっていた。
 切断したワイヤロープは、玉掛け用ワイヤロープではなく、台付け用ワイヤロープで、腐食、形くずれ、素線の断線等があった。
 また、玉掛け作業者は玉掛け技能講習を修了しておらず、テルハの運転者もクレーンの運転に係る資格を有していなかった。
 
 
(2) 主な原因
spacer.gif a. 腐食、形くずれ、素線の断線等が生じている不適切なワイヤロープを使用したこと。
b. 鉄板のつり上げに玉掛け用ワイヤロープを使用せずに、荷や物の固定用の台付け用ワイヤロープを使用したこと。
c. 角材を運転席側にだけ敷いており、鉄板がずれやすい状態であったこと。
d. 作業者が必要な資格を有していなかったこと。
 
(3) 対策
spacer.gif a. 玉掛け作業に用いるワイヤロープについて、使用前に腐食、形くずれ、素線の断線等について点検を行い、適切なものを使用すること。
b. 荷のつり上げには、必ず荷の質量に応じた玉掛け用ワイヤロープを用いること。なお、台付け用ワイヤロープとは完全に分けて管理することが必要である。
c. 玉掛け方法や、使用する玉掛用具の種類、荷下ろし場所の状況等について定めた作業計画を立て、関係労働者に事前に周知すること。
d. クレーンの運転や玉掛け作業については、法定の有資格者を就かせること。
 
 
3 災害を起こそうとする人はいないのに
 さて、以上の事例を見て、どのように思ったか?「こんなやり方をすれば、災害になるのはあたりまえだ!」、「自分ならこんなやり方は絶対にしない。」などと思った者がほとんどであろう。
 また、中には「いつも同じような事例ばかり出てくるではないか。」という者もいるであろう。しかし、残念ながらこれが現状であり、似たような災害が相変わらず繰返し発生しているのである。
 誰しもが、自分のしている作業で災害が起きるとは思っていないのに、現実には重大な死亡災害が絶えない。
 
4 玉掛け災害をなくすために
 今、玉掛け作業に限らず、あらゆる作業について、労働者の安全を確保するためのツールは揃っているといえる。
 法令、規格・基準、指針及びこれらの解説書、ガイドラインや作業マニュアル等々である。
 このほか、玉掛け作業に限ってみても、つり上げる荷の形状や重量に適した各種の玉掛用具があり、これらを使った安全な玉掛け方法が決められている。
 
(1) まず、資格を取ろう
 玉掛け作業に関わるからには、少なくとも関連する法規や、玉掛用具、玉掛け方法などについての知識と資格が必要である。
 そのためのツールは揃っており、講習など資格取得への道も開けている。
 知識や資格については、後で改めて説明する。
 
(2) 予知能力を磨こう
 どんなに知識があっても、それを実践しなければ何の役にも立たない。
 先の事例でも、当事者たちは「これはどうも危ないな。」と、思わなかったのであろうか。思ったとしても、「多分大丈夫だろう。」と安易に考えて行動していたのではないかと思われる。
 ほとんどの者は、それほど知識がなくても、ある程度本能的に危険を感じ取るものがあり、また、それによって慎重な行動をとるものである。F-1レーサーは、一般道では並のドライバーよりもむしろ慎重な安全運転に徹するそうである。
 
(3) 経験を積もう
 勉強もした、資格も取った。しかし、それだけではまだ不十分な領域があるのではないだろうか。
 例えば、質量が明示されていない荷の質量目測などはどうであろうか。荷の材質や形状・寸法などから質量や重心を予測し、それに見合った玉掛用具・玉掛け方法を選ぶには、ある程度の経験も必要であると思われる。
 お米屋さんが、米袋だけでなく、他の物でも、人間でも、肩に担いだだけでその重量をほとんどピタリと当てるのを、テレビで放送されたことがある。これは、特殊な才能なのか、それとも経験の積み重ねなのか、よく分からないが、少なくとも、ただ漫然と物を担いだのではなく、意識して予測し、実測値との狂いを次にフィードバックするという努力を続けてきたのだと思われる。
 経験の多寡は、いわゆる「経験年数」もあるが、期間が短くても、意識的に集中して身につけたものこそが本当に役立つ経験と言えるのではないだろうか。
 
 
(4) 玉掛け名人を目指そう
 先のお米屋さんは、「重量当て名人」と呼ばれていた。
 世の中には「名人」と言われる人がいろいろいるが、それらの人々に共通して言えることは、仕事に精通し、そして何よりも自分の仕事に誇りを持っていることであろう。
 玉掛け作業に従事する者が、正しい知識と資格を持ち、経験を積み、「自分の仕事では絶対に事故を起こさない。」と誇りを持って言えるように、また、周りの人々から「玉掛け名人」と呼ばれるような人に、なってみませんか?


Ⅱ 玉掛け作業者の資格や再教育について
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 先に、「まず、資格をとろう」と記したが、玉掛け作業を行うために必要な資格としては、「玉掛け技能講習」と「玉掛け業務に係る特別教育」があり、玉掛け作業を行うときのクレーン等のつり上げ荷重の大小によって、区別されている。
 また、これらの資格を取得した後も、一定期間ごとに「再教育」を受ける必要がある。
 
1 技能講習と特別教育
 玉掛け作業は、労働安全衛生法及び関係法令により、以下のとおり、一定の資格を取得するか、特別教育を修了した者でなけれは、事業者は、業務に従事させてはならないとされている。
spacer.gif  クレーン等のつり上げ荷重が1トン以上の玉掛け作業
   玉掛け技能講習を修了した者
   1以外に職業訓練で玉掛けやクレーン等の訓練を修了した者も該当
 クレーン等のつり上げ荷重が1トン未満の玉掛け作業
   ①に該当する者
   玉掛け業務に係る特別教育を修了した者
 玉掛け技能講習は、科目と必要な時間数が定められた学科講習と実技講習の両方を受ける必要があり、それぞれ修了試験もある。この講習は、当協会の各支部のほか登録技能講習機関が実施している。
 また、玉掛け業務に係る特別教育は、科目と必要な時間数が特別教育用に定められた学科講習と実技講習の両方を受ける必要があり、それぞれの事業所で実施することが認められているが、講習機関等で実施している場合もある。
 
表2 技能講習と特別教育の必要時間数
講習 科目  時間 技能講習[時間] 特別教育
[時間]
補助作業未経験者 補助作業経験者



クレーン等に関する知識 1 1 1
玉掛けに必要な力学に関する知識 3 3 1
玉掛けの方法 7 6 2
関係法令 1 1 1
修了試験 1 1



玉掛け 6 4 3
合図の方法 1 1 1
修了試験
 
2 玉掛業務従事者安全衛生教育
 労働安全衛生法では第60条の2において、「事業者は、(中略)その事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険又は有害な業務に現に就いている者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うよう努めなければならない。」と定めており、「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針」が公表されている。
 なお、教育の種類には、一定期間ごと(概ね5年ごと)に実施する安全衛生教育(「定期教育」)と取り扱う機械設備等が新たなものに変わる場合等に実施する(「随時教育」)とがある。
 玉掛け作業に従事する者については、定期教育について、玉掛業務従事者安全衛生教育のカリキュラムが示されているほか、①教育の方法として、「講義方式、事例研究方式、討議方式等教育内容に応じて効果の上がる方法とする。」、②講師要件について、「当該業務についての最新の知識並びに教育方法についての知識及び経験を有する者とする。」、③教育の推進体制について、「教育の実施者は事業者であるが、事業者自らが行うほか、安全衛生団体等に委託して実施できるものとする。」とされている。
 このカリキュラムに示されている「災害事例及び関係法令」においては、「災害事例とその防止対策」として、災害事例に対する再発防止のためのグループ討議を行い、原因と対策をまとめる。
 実際には、受講者を10人以内程度のグループに分け、リーダーと書記を選出し、リーダーはグループ内の意見調整、進行、発表を行い、書記は原因と対策に対するグループ内の意見を発表用紙にまとめる。
 災害事例は玉掛け作業に係るものを選択し、原因として、法令違反(無資格、安全装置の解除、立入禁止等)、不適格な玉掛用具の使用、教育・知識・確認・情報伝達の不足等に注目する。対策として、原因事項を除去するための方策ほか、社会的要因や管理面の問題にまで踏み込んで討議する。
 社内において、安全教育を実施する場合においても、上記の事項に留意して災害事例研究を実施されると、有意義な内容になることであろう。
 当協会各支部では、玉掛業務従事者安全衛生教育を定期的に開催しているので、該当者の教育に活用されたい。
 
表3 玉掛業務従事者安全衛生教育カリキュラム
科目 範囲 時間
1 最近の玉掛け用具等の特徴 (1)玉掛け用具等の構造上の特徴 1.0
(2)クレーン等の安全装置等の特徴
2 玉掛け用具等の取扱いと保守管理 (1)玉掛作業の安全 2.5
(2)玉掛用具等の点検・整備
3 災害事例及び関係法令 (1)災害事例とその防止対策 1.5
(2)労働安全衛生法令のうち玉掛けに関する条項
  5.0


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