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安全な玉掛け作業の進め方 (2)
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Ⅲ 玉掛け作業の安全な進め方
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 玉掛け作業を安全に進めるにはどうすれば良いのだろうか。
 当協会の玉掛け技能講習及び玉掛業務従事者安全衛生教育の実施を通じて講師の方が感じている受講者におこりやすい理解不足や勘違いを防止する教育のポイントは次のとおりである。
 これらをよく理解することにより、安全に玉掛け作業を進めることができると考えられる。
 
1 ポイント
(1)  つり上げ荷重、定格荷重と定格総荷重の違い
(2)  過負荷防止装置の外部表示灯の3色表示の意味
(3)  外れ止め装置付きフックから玉掛け用ワイヤロープが外れるメカニズム
(4)  質量、荷重と力の単位
(5)  3本3点つりと4本4点つりのつり角度、つりクランプ等のつり角度と掛け巾角度
(6)  ワイヤロープの曲げによる強度低下
(7)  玉掛け用ワイヤロープの選定計算
(8)  シャックルの選定
(9)  つり荷の下への立入禁止
 
2 各論
 玉掛け作業は、多種多様なつり荷、玉掛用具、クレーン等の組合せの中から最善の方法を選択する必要がある。
 また、玉掛け作業とは、つり具を用いて行う荷かけから荷はずしまでの一連の作業をいい、したがって玉掛用具の取外しのみでも有資格者が行う必要がある。
 次は、玉掛け作業に係るポイントの各論である。
 
写真1 玉掛け作業を伴うクライミングクレーンの組立作業
 
(1) つり上げ荷重、定格荷重と定格総荷重の違い
spacer.gif つり上げ荷重とは、クレーンの構造と材料に応じて負荷させることのできる最大の荷重(質量)
定格荷重とは、つり上げ荷重からグラブバケット等のつり具の質量を除いた荷重
定格総荷重とは、移動式クレーンにおいて、フックを取り替えて使用することが多く、ジブの長さ及び作業半径が同じであってもフックが異なると定格荷重も異なるため、定格荷重の代わりにフックの自重等を加えた荷重
であり、玉掛け作業を行う場合に、これらの違いをよく理解し、混同することがないようにする必要がある。
(2) 過負荷防止装置の外部表示灯の3色表示の意味
 3色表示は、定格総荷重の負荷率を色で表しており、
 緑:90%未満
 黄:90%以上100%未満
 赤:100%以上
 また、赤は、過負荷防止装置等の安全装置を解除している場合にも点灯する。
(3) 外れ止め装置付きフックから玉掛け用ワイヤロープが外れるメカニズム
 往々にして玉掛け作業者は、外れ止め装置が付いているからフックからワイヤロープは外れるはずがないと思い込んでおり、外れるという認識が不足している場合がある。
 フックに玉掛け用ワイヤロープ等を掛ける場合は、外れ止め装置を使用するよう法令で定められており、したがって、荷をつり上げるときは必ず外れ止め装置を使用し、使用中に破損したときは、直ちに修理する必要がある。
 しかし、外れ止め装置を正常な状態で使用していても、作業の状況によっては玉掛け用ワイヤロープがフックから外れることがあり、これを「知恵の輪」現象と呼んだりする。
 図1に、玉掛け用ワイヤロープがフックから外れるメカニズムを示す。
 
図1 フックからアイが外れるメカニズム
 
 ねじれが加わっている玉掛け用ワイヤロープがたるむと、アイ部がフックに沿って大きく回転し、やがてフック先端を乗り越え、フック先端と外れ止めとの間に入り込みアイ部が外れるに至る。
 このような現象を防止するために、二重の外れ止め等を使用している例もある。
(4) 質量、荷重と力の単位
 質量はkg(キログラム)、t(トン)で表され、荷重と力はN(ニュートン)やkN(キロニュートン)と表される。
 また、1t=9.8kNの関係になっている。
(5) 3本3点つりと4本4点つりのつり角度、つりクランプ等のつり角度と掛け巾角度
 つり角度とは、フックに掛けられた玉掛け用ワイヤロープ等の間の開きの角度をいう(図2)。
 
図2 つり角度a
 
 つり角度が大きくなれば玉掛け用ワイヤロープに働く張力も大きくなる。
 4本4点つりの場合は、つり荷の形状や玉掛け用ワイヤロープの長さの微妙な違いにより、4本のワイヤロープに荷重が均等にかかりにくいので、3本つりと考えてワイヤロープ等を選定する方が安全である。
 「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(厚生労働省労働基準局長通達、平成12年2月24日付け基発第96号)では、「つり角度は原則として90度以内であること」と定めている。ワイヤロープにかかる張力や水平分力等を考慮すると、つり角度は60度以内が望ましい。
 なお、クランプ、ハッカーを用いる場合はつり角度は必ず60度以内とすると定めている。
 また、横つり用クランプを使用する場合の掛け巾角度は、30度以内とするよう定めている(図3)。
 
図3 横つり用クランプのつり角度と掛け巾角度
 
 当協会では、クランプ、ハッカーに係る災害を未然に防ぐため、構造の基準、作業基準及び点検基準を定め、1つにまとめた「つりクランプ」及び「つりハッカー」のJCAS(日本クレーン協会規格)を制定している。玉掛け等作業に従事する労働者にとって有効な資料となるので、是非、活用されたい。
(6) ワイヤロープの曲げによる強度低下
 ワイヤロープは、つり角度によるもの以外に、折曲げによる強度低下も起こる。
 フックやシャックルなどの径とワイヤロープの径の比(D/d)によってワイヤロープの安全荷重が減少するため、玉掛け用ワイヤロープを選定する場合は、この強度低下率を考慮する必要がある。
 例えば、ロープの構成が「6×24」の場合であってD/d=5であれば、玉掛け用ワイヤロープの強度は30%減となる(図4)。
(D:シャックル等の軸径、d:ロープ径)
(%)
ロープの構成 D/d 1 5 10 20
6×24   50 30 25 10
6×37   45 22 10 5
6×Fi(25)、Fi(29)   45 25 15 4
図4 折曲げによる強度低下率例       (出典:日本鋼索工業会)
 
(7) 玉掛け用ワイヤロープの選定計算
 玉掛け用ワイヤロープの安全係数は、クレーン等安全規則によって6以上と定められている。
 また、安全係数を考慮し、1本の玉掛け用ワイヤロープで垂直につることができる最大の荷重を、基本安全荷重と称している。
 通常の玉掛け作業では、つり角度が生じるため、ワイヤロープにかかる張力を割増しする必要があり、この割増し係数を張力係数と称している。
 玉掛け用ワイヤロープの選定では、1本当たりのワイヤロープに必要な基本安全荷重を求め、基本安全荷重表より必要とするワイヤロープ径を選定する。
 1本当たりのワイヤロープに必要な基本安全荷重=(つり荷の質量/掛け数)×張力係数
(例)  質量8t、つり角度40度、4本4点つりの場合の玉掛け用ワイヤロープ(6×24、A種)の適正な直径を選定する(図5)。
 
  図5 玉掛け用ワイヤロープの選定
   
   4本4点つりの場合、安全をみて3本つりとみなして計算する。張力係数はつり角度が30度を超えているので、表1つり角度60°の1.16を採用する。
   基本安全荷重=(8t/3点)×1.16=3.9t
   表2で6×24、A種の中から基本安全荷重が3.09t以上の径の20mm(4本)を選定する。
 
つり角度 張力係数
1.00
30° 1.04
60° 1.16
90° 1.41
120° 2.00
公称径(mm) 6×24
ロープの区分 G種 A種
10 0.778 0.837
12 1.12 1.20
14 1.52 1.64
16 1.98 2.14
18 2.51 2.71
20 3.11 3.34
  表1 つり角度による張力係数 表2 玉掛け用ワイヤロープの基本安全荷重
 
(8) シャックルの選定
 シャックルを選定する時は、玉掛け用ワイヤロープの径の1サイズ上の呼び径のシャックルを選定することが基本となる。
 なお、呼び径とは、シャックル本体の直径あるいは、ねじ込み部の厚さをいい、ボルトあるいはピンの直径(呼び径より大きい)ではない。
 玉掛け用ワイヤロープ6×24、A種12mm用のシャックルを選定する場合、基本安全荷重は1.2tであるので、シャックルは1サイズ上の14mmを選定することにより、使用加重1.25tとなりバランスがとれることになる。
 
(t)
呼び(mm) 等級Mストレート
シャックルSC型
12 1.00
14 1.25
16 1.60
18 2.00
20 2.50
22 3.15
24 3.60
図6 シャックルの使用荷重
 
 シャックルを使うときは、ワイヤロープアイをシャックルのボルト側とする。
 逆に絞り側にボルトがくると、絞った時にボルトが回転してネジが締め込まれたり、緩んだりすることがある(図7)。
 
図7 シャックルの使い方
 
 また、シャックル本体に曲げの力が加わらないように使用する(図8)。曲げの力が加わるような使用方法の場合は、引張り角度(直線方向に対する横方向の角度)が46~90度の時、使用荷重は50%減少することになる(JIS B2801参考1シャックルの使用基準より)。
 なお、同JIS参考2シャックルの点検基準では「摩耗率5%以上のものを使用してはならない」と定められている。
 
図8 シャックルの向き
 
 また、長尺物の玉掛けにおいては、つり角度が大きくなると、玉掛け用ワイヤロープが内側に滑りやすくなり、つり荷が平衡を失って荷が落下する危険性が増加する。
 そこで、つり角度が90度以内となる玉掛け用ワイヤロープを選定し、目通しつり、あだ巻きつりをして玉掛け位置がずれないようにする(図9)。
 
図9 長尺物のあだ巻きつり
 
(9) つり荷の下への立入禁止
 クレーン等安全規則第29条では、「次の各号のいずれかに該当する時は、つり上げられている荷の下に労働者を立ち入らせてはならない。」と定めている。
 ① ハッカーを用いているとき
 ② つりクランプ1個を用いているとき
 ③ 1本つりのとき
 ④ 磁力又は陰圧により吸着させているとき
等が対象となっている。
 立入禁止を義務づけられた磁力により吸着させている作業において、当協会では、作業の安全性の向上のため、点検基準も含めた「リフティングマグネット作業要領」をJCAS(日本クレーン協会規格)として定めているので、活用されたい。
 一般的には、広義の意味で「つり荷の下は立入禁止」としていることが多いが、つり荷の下の定義として、次のことが示されている。
 すなわち、つり荷の下とは、つっている荷自体の真下だけではなく、その荷が回転あるいは転倒する範囲を含むとされている。
 
図10 つり荷の下
 
3 各論(続き)
 上記の事項以外の、事業場全体として取り組むべき事項もある。
 事項としては、
(1) 退避の位置
(2) つり荷走行と共づり
(3) 玉掛用具の取外し後の措置
(4) 移動式クレーンの危険角度
(5) 送配電線近接作業の留意点
(6) 悪天候時の作業中止
になる。
(1) 退避の位置
 玉掛け作業責任者は作業開始前打合せを行い、作業場所の状況の確認と安全な退避位置を定め、確実な退避の実施のための手順等を周知する。
 退避位置の目安として、業界によっては、次のようなものがある。
 天井クレーン、橋形クレーン等の走行、横行の機能を有する場合は、走行若しくは横行方向の45°方向へつり荷の端から2m以上離れた位置に退避する。 移動式クレーン、ジブクレーン等で旋回機能を有する場合は、つり荷の端から旋回外方向へ2m以上退避する。
 また、つり荷の高さの1.5倍以上の距離まで離れるという事業所もある。
 
図11 退避の位置
 
(2) つり荷走行と共づり
 移動式クレーンのつり荷走行と共づり(相づり作業)は、労働災害の防止のための労働基準局長通達(昭和50.4.10付け基発第218号「荷役、運搬機械の安全対策について」)により、原則として禁止されている。ただし、止むを得ずこれを行う必要がある場合は、作業指揮者の直接の指揮のもとに行うこととされている。
 当協会では、クローラクレーン及びホイールクレーン(ラフテレーンクレーン等)のつり荷走行時の安定に関する指針をJCAS(日本クレーン協会規格)として定めているので参考にされたい。また、共づり作業についても、移動式クレーンの共づり作業を行う場合の指針も同じくJCASとして定めているので、併せて参考にされたい。
 つり荷走行においては、つり荷走行時の定格総荷重の限定、走行速度の限定、ジブ長さの限定等が定められており、共づりでは、最大負荷の限定、原則同一機種、原則巻上げ・起伏動作での作業等が定められている。
写真2 クローラクレーンのつり荷走行 図12 ラフテレーンクレーンのつり荷走行
 
(3) 玉掛用具の取外し後の措置
 つり荷の荷下ろしが終わり、玉掛用具を荷から外した後にフックと玉掛用具を巻き上げている途中で、玉掛用具がつり荷等に接触して、荷が転倒したり、落下したりする事故が多発している。
 玉掛用具の取外し後は玉掛け用具がつり荷等に接触しないよう介添えし、安全が確認できるまで監視することが必要である。
 
(4) 移動式クレーンの危険角度
 ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン、油圧トラッククレーンは小型から大型までほとんどの機種に危険角度が設定されている(図13)。
 危険角度は、アウトリガーの張出し幅が小さくなるほど、ジブ・補助ジブが長くなるほど大きくなっている。また、過負荷防止装置を無効にしたときなどは、危険角度以下に伏せると転倒することになる。
図13 危険角度が明示されている定格総荷重表の例
 
(5) 送配電線近接作業の留意点
 移動式クレーン等を送配電線に近接する場所で使用中に、クレーンのジブやワイヤロープ等が接近・接触して起こる感電災害が多く発生している。
 作業を行う際は、作業計画を周知徹底し、感電防止に対する措置(建設用防護管や防護ゲート等)が講じられているか、専任の監視責任者が配置されているかなどを確認するとともに、慎重な合図と運転を行い、送配電線からの安全な離隔距離を保つことが重要である(表3)。
 
表3 送配電線からの離隔距離(安全距離)
種類 公称電圧(V) 労働基準局長通達 東京電力 関西電力
離隔距離(m) 安全距離(m) 安全距離(m)
低圧 100 1.0 2 2
200 1.0 2 2
高圧 6,600 1.2 2 2
特別高圧 22,000 2.0 3 3
33,000 2.0 3 3
66,000 2.2 4  
77,000 2.4   4
154,000 4.0 5 5
275,000 6.4 7 7
500,000 10.8 11 11
 離隔距離 労働基準局長通達で定められた、クレーンのジブ等を電線等から離す距離
 安全距離 各電力会社が定めたさらに安全な距離
 配電線 市街地の電柱上に配線されている100~6,600ボルトの電気が流れている電線
 送電線  鉄塔上に配線されている2万~50万ボルトの電気が流れているハダカの電線
 特別高圧の送電線にクレーンのジブやワイヤロープ等が離隔距離(安全距離)より近づくと、空気の絶縁が破れて放電状態になり、玉掛け作業者等が感電する。
 
(6)悪天候時の作業中止
 労働安全衛生規則第522条では、「事業者は、高さ2m以上の箇所で作業を行う場合において、強風、大雨、大雪等の悪天候のため、当該作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならない。」と定めている。
 また、クレーン等安全規則では、「事業者は、強風のため、クレーンに係る作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業を中止しなければならない。」と定めている。
 ここで、強風とは10分間の平均風速が毎秒10m以上の風をいい、大雨とは1回の降雨量が50mm以上の雨をいい、また大雪とは1回の降雪量が25cm以上の雪をいう。
 屋外のクレーン作業においては、特に風による影響が大きいので、吹流しあるいは風速計で風の強さを確認することが重要となる。
 移動式クレーンの安定度計算には風荷重が考慮されていない。長尺ジブの場合は風の影響を大きく受けるため、強風時には転倒する危険性が増加する。 これら悪天候時の措置について、合図者及び運転者も認識しておくことが重要である。
 
参考文献
1)  腰越勝輝、玉掛業務従事者安全衛生教育について、クレーン、第50巻、7号、2012、pp43-51


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