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ICTを活用して、従業員に健診結果を見せても健康にはならない。近年、健康経営の流れとスマホの普及などで、保険者や企業が従業員(組合加入者)のスマホへ健診結果や健康情報を出したり、歩数や活動量のカウントが表示されたり、それを使ってゲームや競争、ポイント獲得ができるようなシステムが普及しつつある。
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しかし、これらを実際に導入している保険者や企業の多くでは、該当サービスに登録し利用しているのは健康意識が高く毎日2万歩以上歩くような一部の従業員(組合加入者)であり、課題を抱えるリスク者は使ってくれないという悩みを抱えている。また健診データは、年に1回あるいは2回のデータであるので、見たと言っても理解できていなかったり、忘れてしまったりというような問題もある。
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このような問題を起こさないためには、健康管理システムなどのプラットフォームを提供するだけではなく、介入・働きかけをするためのツールとして活用することが効果的である。
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企業の従業員(あるいは保険の加入者)に、健診データ等や健康情報を流すプラットフォームを提供するのみでは、前述のように健康意識の高い者のみが使うことになってしまう。考え方を変えて、産業医や産業保健スタッフが介入するツールとして使うと効果が上がった過去の事例が多い。以下に、事例を挙げる。
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① 高所作業者の転落事故予防事例
- クレーン関連の高所作業担当
- 50歳男性
- 残業時間 60時間/月
- 健診結果で最高血圧138/最低血圧92mmHg
- 2次検査の受診はしていない
長時間労働は脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症と関係性が高いため、法的には産業医面談は不要であるが、産業医面談を入れて、作業の状況や自他覚症状、既往症、家族歴などをヒアリングした上で受診勧奨をすべきであろう。この従業員が業務中に倒れてしまった場合、大きな事故につながるかもしれないし、訴訟のリスクもある。健診結果、ストレスチェック、残業時間、作業内容、既往症、家族歴などを総合して、リスクがある従業員には早めに産業医面談を入れることで、安全(健康)配慮義務を果たしていることになり、訴訟リスクも下げることができる。
紙の上でこれらを管理することはとても困難であり、健康管理システムで、多面的な情報を取り込むことができ、かつハイリスク者を抽出することができるシステムが望まれる(図4参照)。
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② 遠隔にて面談する例
テレビ電話機能等を使った遠隔の面談について、2015年 9月15日に厚生労働省労働基準局長から発令された「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項および第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」の通知より、長時間労働とストレスチェック面談について、労働者の心身の状況を把握し、必要な指導を行うことができる状況で実施するのであれば、直ちに法違反となるものではないと記されている。要件については、上記通知を参照。
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③ コラボヘルスの例
保険者と連携することにより、効果を高めたり効率を上げたりすることができる。例えば、ある単一健保の企業では健保・企業共有のデータベースを作り情報を共有することによって、効率的・効果的なリスク管理・予防を実践している。
メタボ系は保険者の特定保健指導に任せ、企業側は非メタボでコレステロール値が異常な者、特に多剤服用者(保険者との契約により情報提供)にターゲットを絞って介入することで、会社で突然倒れて亡くなるような事故を防ごうという取組みをしているケースもある。
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④ データにアドバイスや付加価値をつける例
ある企業では、健診データ等をただ表示したりするのではなく、アドバイス等を同時に表示することにより、実際の行動変容に結び付け、非メタボからメタボに移行する者の割合を6分の1に大幅低減させた。
看護職等がアドバイスを一人ずつに記述するのは大変な労力がかかるが、近年は技術が進み、ICTの活用により自動的にアドバイスを生成するようになっている。例えば腹囲が85㎝であっても努力して下がってきた者には、「引き続き頑張りましょう」というようなアドバイスを自動生成することができる。
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