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熱中症を効果的に防止するためには、図7に示した熱中症発症への流れを如何に切ることができるかが重要となる。これについて考えてみたい。なお、全般的な対策については、厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」にわかりやすくまとめられている3)。
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(1)暑熱ばく露状況の把握
まず、図7の一番上にある「暑熱ばく露」の部分がどの程度なのかを把握しないと、そもそも対策が必要なのかどうか、必要だとしたらどのような対策が必要なのかの判断を行うことができない。
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従って、暑熱ばく露の状況を把握することは非常に重要である。暑熱ばく露の指標として広く用いられているのが、WBGT(湿球黒球温度、Wet Bulb Globe Temperature)である。
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WBGTを測定するには、市販のWBGT測定器を使用するのが現実的である。様々なWBGT測定器が市販されているが、現場で一般的に使われているのが、黒球を持ち、温湿度センサーで計測するタイプである(図8)。このタイプの測定器は、2017年にJIS B 7922として規格化されたものであるが、2023年に「JIS B 7922:2023」として改訂され、特に屋外環境における測定精度が向上した4)。したがって、これから準備される場合は、「JIS B 7922:2023」に適合しているかどうかを確認すること、ならびに古い製品を使用されている場合は、リプレイスの検討を行っていただくことが重要である。なお、黒球のないタイプの測定器も出回っているが、規格化されておらず、且つWBGTの算出に必要な黒球を有しないため、日射のある環境(屋外等)での使用は避けるべきである。
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(2)暑さを避ける
WBGT値が基準値を超過していた場合には何らかの対応が必要となるが、最も重要なのは「休憩時間の延長、休憩回数の増加」である。あらかじめ、どの程度WBGT値が基準値を超過したら休憩時間をどのくらい取るかといった基準をあらかじめ決めておき、超過度に応じた対応を取ることが重要である。また、WBGT値が高くなるような時間帯の作業を回避するような作業スケジュールを立てることも重要である。
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この際、非常に重要なのが「休憩場所の整備」である。有効な休憩場所がなければ、せっかく休憩時間を設定したとしても、体を冷やすことができず、その効果は半減してしまう。また、熱中症が発生してしまったときの対処も十分に行うことが出来ず、結果として重症化、さらには死亡災害に至ってしまうリスクが増加してしまうことになる。建設業をはじめとした屋外作業、特に小規模事業場(小規模現場)での熱中症リスクが高いことを示したが、その原因の一つが、有効な休憩場所が未整備であるためであると考えられる。
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小規模な作業現場では、なかなか完全な休憩場所を整備することが難しいことが想定されるが、簡易的な休憩場所でも、工夫次第では有効な休憩所を設置することは可能である。幾つかの小規模建設現場における対策例が厚生労働省により例示されているので、参考にしていただきたい5)。
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(3)風通しの良い服装を選ぶ
熱中症を防止するためには、熱を吸収し、熱がこもりやすい服装を避け、透湿性・通気性の高い服装が望ましい。その意味では、クールベストやファン付き作業服などの熱中用対策グッズを適切に使用することも熱中症のリスクを下げるためには有効であるとされている。但し、その効果については十分に検証されていないため、その効果を過信しないことも重要であると考えられる。
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(4)定期的な水分・塩分の摂取
熱中症のうち、熱失神を除く症状(熱痙攣および熱疲労)は水分・塩分が適切に摂取されないことにより発症する。したがって、水分・塩分を適切に摂取することは非常に重要である。喉が乾いたときに作業者任せで水分・塩分を補給するだけでは、補給頻度、補給量の両面から不十分であるとされており、定期的な補給が必要とされている。休憩場所に水分・塩分を補給できる設備を設ける他、作業者にスポーツドリンクや塩飴などを携帯させ、喉の渇きとは関係なく定期的に摂取するよう促すことが重要である。
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(5)暑熱順化(暑さに慣れる)
図7 に示した熱中症発症のメカニズムにて、「発汗反応」ならびに「皮膚血管拡張反応」で体温上昇防止が図られることを示した。暑さに慣れることによって、このメカニズムを増強することができるとされており、これを「暑熱順化」と呼んでいる。具体的な変化としては、2~3日で自律神経系に変化が生じ、皮膚血管拡張反応や発汗反応が起きやすくなること、ならびに4~5日で内分泌系に変化が生じ、汗の塩分濃度が低くなり(サラサラになり)、蒸発・気化しやすくなるとともに、塩分の損失を抑える効果が生じると言われている。わかりやすく言うと、汗をうまくかいて体内の熱を放出する働きを、暑くなる前、あるいは暑い場所で作業する前に目覚めさせることにより、熱中症になりにくい体を作るということである。
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(6)健康管理
高血圧、糖尿病等のある種の持病を持っている人は、熱中症の発症リスクが高いと言われている。入職時の健康診断や、定期健康診断によって、熱中症リスクを把握し、必要に応じた対策を講じることが必要である。また、寝不足や深酒、朝食抜きなどによっても熱中症リスクが高くなることから、朝礼時等の体調チェックが重要である。
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(7)熱中症教育
熱中症は適切な知識を持ち、適切な対策を行えば、必ず防止できる疾患である。そのため、熱中症に対する正しい知識を身につけることが非常に重要である。使用者側はもちろん、作業者向けにも教育を行い、自らの身を守るための知識を身につけていただきたい。教育ツールは様々なものがあるが、前述の厚生労働省のサイトにある動画教材も活用できる5)。
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