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日頃、マスメディア等を通じて報道される移動式クレーンに関する災害・事故は、ほんの一部だけでしょう。そこで改めて、『クレーン年鑑』令和5年版(一般社団法人日本クレーン協会)より、クレーン等に関係する死傷者数(休業4日以上)と死亡者数の現状を把握してみたいと思います。
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2-1 死傷者数
令和4年(2022年)のクレーン等による死傷者数は計1,594人で、このうち、積載形トラッククレーンを含む移動式クレーンは2番目に多い551 人(全体の34.6%)でした(表1)。
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表1 クレーン等による機種別死傷災害発生状況(令和4年)
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| 機種 |
人数(人) |
割合(%) |
| クレーン |
762 |
47.8 |
| 移動式クレーン |
551 |
34.6 |
| エレベータ・リフト |
167 |
10.5 |
| ゴンドラ |
9 |
0.5 |
| その他の動力クレーン等 |
105 |
6.6 |
| 合計 |
1,594 |
100 |
(参考文献)クレーン年鑑(令和5年版)
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2-2 死亡者数
同死亡者数は計52人で、1番目と2番目に多い「クレーン」と「移動式クレーン」を合わせると全体の8割弱を占めました(表2)。
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表2 クレーン等による機種別死亡災害発生状況(令和4年)
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| 機種 |
人数(人) |
割合(%) |
| クレーン |
24 |
46.1 |
| 移動式クレーン |
16 |
30.8 |
| エレベータ |
8 |
15.4 |
| 簡易リフト |
3 |
5.8 |
| ゴンドラ |
1 |
1.9 |
| 合計 |
52 |
100 |
(参考文献)クレーン年鑑(令和5年版)
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2-3 積載形トラッククレーンによる死亡者数
機種細分別に見ると、移動式クレーンの死亡者数16人のうち、半数の8人は積載形トラッククレーンによるもので、現象としては、つり荷等の落下、機体等からの墜落がそれぞれ3人と大部分を占める結果となっています(表3)。
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表3 積載形トラッククレーンによる死亡災害発生状況(令和4年)
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| 現象 |
人数(人) |
割合(%) |
| 荷等の落下 |
3 |
37.5 |
| 荷等による挟圧 |
1 |
12.5 |
| 機体等からの墜落 |
3 |
37.5 |
| 機体,構造部分が折損,
倒壊,転倒したもの |
0 |
0.0 |
| その他 |
1 |
12.5 |
| 合計 |
8 |
100 |
(参考文献)クレーン年鑑(令和5年版)
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令和4年度の死亡災害発生状況のデータのなかで、特徴的であるのは、クレーン構造物等の折損・倒壊、および転倒による死亡災害が0件であったことです。
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ここで、移動式クレーンの機種別に区分した現象別災害発生状況を、平成12年度(2000年)と、23年後の令和4年度(2022年)において比較します(表4)。
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折損・倒壊、転倒災害に着目すると、平成12年度〈過去〉では、積載形トラッククレーンが最も多く発生しており(11件)、他の移動式クレーンの機種と比較しても、その転倒災害発生率は突出したものでした。一方、令和4年度〈現在〉になると、積載形トラッククレーンの折損・倒壊、転倒災害は発生しておらず(0件)、大きく減少していることが判明しました。
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さらにこの結果にクローズアップして、積載形トラッククレーンにおける、近年発生した死亡災害数を年度別に比較すると、次の結果が得られました(表5)。
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機体の転倒による災害件数は、平成19年に発生した8件をピークに、その後は2~3件/年程度発生していましたが、平成28年に転換期を迎えており、以後、主に1件/年程度の発生と、半減していることがわかります。
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もちろん、統計に表れるデータは文字通り「氷山の一角」であり、実際の作業現場では、労働災害の直接的な原因となる不安全行動や不安全状態が数知れず存在する可能性が高いと認識しておく必要はあります。
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では、平成28年度に何が起こったのか、考察したいと思います。
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当社では、前年度の平成27年に前述の図1で示した「G-FORCE」シリーズの発売を、まずは中型トラックからスタートしていますが、この頃では前述の過負荷防止装置等は全数に装備しておらず、機体の転倒による災害発生件数減少には別の要因があると考えられます。
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2-4 デジタル式荷重計の登場
筆者は、平成27年に発売をスタートした「G-FORCE」シリーズには、それまではオプション装備品として用意しておりました「デジタル式荷重計」(図3)を、標準装備に切換えていることに着目したいと思います。このデジタル式荷重計が構造物等の転倒による死亡災害等の減少の一翼を担っているのではないかと考えます。
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デジタル式荷重計とは、つり荷を積載形トラッククレーンのフックに吊下するだけで、容易につり荷重の常時見える化を可能にした装置です。また、その機構はロードセルを採用しているため、正確な質量を測定することができます。当社の積載形トラッククレーン用デジタル式荷重計の表示精度は、つり上荷重が0.5t 未満時で±20kg、つり上荷重が0.5t 以上は±40kg(ともに常温25℃時)となっています。
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ここで、まず従来の「油圧式荷重計」を用いての測定方法は、次に記す手順が必要であることを紹介したいと思います(図4)。
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- 作業前にトラックエンジン回転数を低速にする。
- フックにつり荷を吊下していない、無負荷の状態でフック巻上げ操作を行いつつ、荷重計の指針が「0(ゼロ)」になるようにエンジン回転数を調節する。
- 伸長しているクレーンブーム段数とフックに掛けたワイヤロープの掛け数に応じて、クレーンブーム側面の荷重指示計から、荷重計の読むエリアを確認する。
- つり荷をフックに玉掛けした後、巻上げ作業を実施し、巻上げ中につり荷重を読み取る。
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以上のように、必須である作業にも拘わらず、複雑かつ面倒な手順が必要でした。また、これだけ大変な手作業が必要であるにもかかわらず、フックの巻き上げ作動中にしか荷重を読み取ることができませんでした。
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デジタル式荷重計の利点は、これらの手順を一切不要としたことによる、荷役作業の作業時間軽減による作業性の向上だけでなく、つり荷重の常時表示を可能にするとともに、油圧式荷重計と比べて測定荷重の正確性も高い点です。よって、オーバーロード防止の役割を充分に担います。
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デジタル式荷重計を備えた積載形トラッククレーンは、平成31年3月1日以降、さらに過負荷防止装置等を装備することにより、折損・倒壊、転倒災害の発生はますます減少していくと考えられます。
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