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安全靴
spacer.gif  日本安全靴工業会
 粂 孝臣
1 はじめに
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 安全靴と聞いて,皆さんにどんな靴を想像するかと聞くと,多くの方が「つま先に硬質の先芯が入っている靴」と答える。これは間違いではないが,正解でもない。「つま先に硬質の先芯を装着して,作業中の重量物の落下などから足指を護り,靴の様々な部分で保護するための機能を有した革製又は合成ゴム製あるいは総高分子材料製の靴」が正解となる。
「硬質の先芯」といったのは,近年の安全靴のつま先部には樹脂製の先芯が多くなっていることによる(主力製品は60%以上が樹脂製先芯を使用している)。これにより,安全靴の軽量化と重量バランスが改善され,履き心地の改善が進んだ。
 これら先芯は,鋼製および樹脂製(写真1)ともに,つま先の防護が目的であり,つま先防護の程度が安全靴のJIS(規格値はJIS T 8101,試験方法はJIS T 8107)に規定されている。


2 つま先の防護性能について
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 JIS では,つま先の防護性能の違いによって,以下の4種類に区分されている。
U 種: 超重作業用(重量物の衝撃エネルギーが100J を超える作業)
H 種: 重作業用(写真2,重量物の衝撃エネルギーが70Jを超え100J以下の作業)
S 種: 標準作業用(写真3,重量物の衝撃エネルギーが30Jを超え70J以下の作業)
L 種: 軽作業用(重量物の衝撃エネルギーが30J以下の作業)
 最も防護性能の高い超重作業用のU種や重作業用のH種は,構造上先芯が厚くなり,靴底も厚く硬くなるため,靴全体の重量が重く,底が曲がりにくくなってしまうことと,近年は作業環境が改善されてきたことから,超重作業用と重作業用はあまり使用されなくなってきている。
 現状,市場で履かれている安全靴の70%以上は普通作業用のS種であり,残りの20%程度が軽作業用のL種であるので,超重作業用のU種(U種商品は,現状ではほとんど市場に流通していない)と重作業用のH種は,合わせてもほぼ10%以下にとどまっている。では,最も普及している普通作業用のS種安全靴については,つま先の防護性能どの程度なのか。
 次項では,JISで規定されたつま先の防護性能を示す尺度の耐衝撃性能と耐圧迫性能について,説明していく。
2.1 つま先の耐衝撃性能
 つま先の耐衝撃性能は,20kgのくさび型重錘を保護性能区分ごとに規定された高さ(表1)からつま先部に自由落下させたとき(写真4), サイズ毎に規定された先芯と中底のすき間寸法(全保護性能区分共通)以上であることが求められる。
すき間寸法は,つま先内に油粘土を設置し,衝撃を受けた後の油粘土の高さで評価する。
表1 衝撃試験条件
保護性能区分 重錘落下高さ つま先部が受ける衝撃エネルギー
U種 102cm 200J
H種 51cm 100J
S種 36cm 70J
L種 15cm 30J
2.2 つま先の耐圧迫性能
 つま先の耐圧迫性能は,つま先部を一定速度で圧迫(写真5)していき,保護性能区分ごとに規定された荷重(表2)まで到達したとき,サイズ毎に規定された先芯と中底のすき間寸法(全保護性能区分共通)以上であることが求められる。すき間寸法は,つま先内に油粘土を設置し,荷重をかけた後の油粘土の高さで評価する。
表2 圧迫試験条件
保護性能区分 つま先部にかける荷重
U種 15±0.1kN
H種
S種 10±0.1kN
L種 4.5±0.04kN
2.3 つま先の防護性能に関する留意事項
 普通作業用のS種安全靴の耐衝撃性能は,分かりやすく言うと,20kgの荷物を地面から膝の高さ程度まで持ち上げたものの,手が滑ってつま先に落としたという状況を想定したものである。
なお,普通作業用のS種安全靴の耐圧迫性能はつま先部に約1トンになるまで荷重をかける試験方法であるため,「安全靴は,1トンのものが落ちても大丈夫」という誤解をしている方がいるが,これは大きな間違いである。
 安全靴の各つま先防護性能の種類ごとに防護性能の限界があり,安全靴は決して万能の防護性能を持ってはいないことを認識し,適切な種類の安全靴を選定することが重要である。
 


3 耐滑性能について
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 耐滑性能(図1)は水や油で滑りやすい床面で転倒対策となる性能で,安全靴のJISに付加的性能の一つとして規定されている。また,クレーンの操縦席からの転落も転倒が要因であるケースが多いと考えられるため,重要な性能と言える。
 耐滑性能は,靴底の動摩擦係数を測定し,得られた動摩擦係数が所定の数値(表3)を満たしていれば,JIS種類表示に対応する表示が靴(主に中敷き)や個装箱に付記される。評価の指標である動摩擦係数とは,端的に表現すると止まりやすさの指標で,動摩擦係数が大きいほど滑っているものを止めやすくなる性能であると考えると理解しやすいであろう。
表3 耐滑性能の区分と記号
動摩擦係数 種類表示
0.20以上 F1
0.30以上 F2
 耐滑性能が高い靴を使用する場合,床面の状態に対し,過剰な耐滑性能を有していると,膝関節への負担増や床面への密着が良すぎて躓くなどが引き起こされる可能性がある。例えば,金属製の床に常時水や油があるような非常に滑りやすい環境では,耐滑性能F2の安全靴を推奨するが,その他の滑りやすい床での作業環境の8割程度は耐滑性能F1の安全靴で十分対応できる。このように,床面の状況に合わせて性能区分を適切に選択することが重要になるので,作業環境の確認をしっかり行う事が必要である。
 


4 静電気帯電防止性能について
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 静電気帯電防止性能(図2)とは,人体に帯びた静電気を,靴底を通して床に流す静電気拡散性を有した安全靴(以下,静電安全靴)のことで,静電気帯電防止性能については,安全靴のJIS とは別のJIS T 8103(静電気帯電防止靴)で規定されている。冬季などの乾燥した屋外での作業では,静電気帯電が起きやすく,場合によっては機械の誤動作などを引き起こす可能性があるため,静電気帯電防止性能も重要な性能の一つであると考える。
 JIS T 8103では,23℃及び0℃において靴本体の電気抵抗値が所定の範囲内(表4)にあることを測定し,その性能により特種静電靴(ED―X ),一般静電靴(ED),導電靴(EC)に分けられている。また,様々な作業環境を想定し,23℃の測定では3区分の相対湿度(表5,環境区分1(C1)~環境区分3(C3))が設定されており,着用する作業環境ごとに性能を選択できるようになっている。
表4 静電気帯電防止性能の区分と規格値
区分 規格値
特種静電(ED―X) 靴(片足)の抵抗値Rが
23℃時:0.1MΩ≦R≦10MΩ
 0 ℃時:0.1MΩ≦R≦100MΩ
一般静電(ED) 靴(片足)の抵抗値Rが
23℃時:0.1MΩ≦R≦100MΩ
 0 ℃時:0.1MΩ≦R≦1,000MΩ
導電(EC) 靴(片足)の抵抗値Rが
23℃時:R<0.1MΩ
 0 ℃時:R<0.1MΩ
 
表5 23℃測定時の相対湿度区分
区分 相対湿度
環境区分1(C1) 12%±3%
環境区分2(C2) 25%±3%
環境区分3(C3) 50%±5%
 静電安全靴は,靴底から床面へ静電気を逃がすことを目的としている。そのため,床面が絶縁構造であると静電気を適切に逃がすことができないので,適切なアースを確保することが必要である。また,靴底面が塗料などの絶縁物質で汚染されている場合や異物の付着や刺さりがある場合及び靴底が劣化していると帯電防止性能が低下するため,着用前に靴底面を確認し適宜清掃・除去を行う事が必要となる。さらに,定期的に電気抵抗値の確認を行うことが必要であり,出来れば始業時に静電気チェッカーのような簡易測定器(図3)などによって電気抵抗値が適正範囲に入っているかどうかを確認してから作業に入ることが望ましい。
 


5 着用上の留意事項
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 安全靴を履く上での基本的な注意事項は,各メーカーが靴の個装箱などに表示しているが,特に着用時に注意しなければならないことを以下に示す。
  • a )
  • 安全靴のつま先防護性能には,限界があり過信しないことが必要である。しかし,一般の靴よりはつま先防護性能ははるかに優れており,万が一の事故による足指の損傷軽減に有効であることから,重量物の取り扱い作業には着用が望ましいことは言うまでもない。
  • b )
  • 安全靴の先芯は足の屈曲構造上,小指まで防護することは出来ないため,小指をぶつけるという場合がある。小指まで保護を行いたい場合の対策には,甲部に足甲プロテクタが取り付けられている(写真6),あるいは後付けで足甲プロテクタを取り付けるなどがある。
以下に,小指まで保護できない要因の概念(図4)を示す。
  • c )
  • ウレタンを靴底の素材又は素材の一部に使用している安全靴は,長期間(一般に製造後4年以上)の経過によって,空気中の水分の影響を受けて,ボロボロに劣化してくることがある。これは加水分解と呼ばれるウレタン素材特有の現象であり,短所である。したがって,ウレタンを靴の使用材料の一部に使用している安全靴は,長期間履かずに保管しておくことはせず,購入後速やかに着用を開始することが最善の対策となる。
  • d )
  • つま先部に先芯が挿入されているため,安全靴は通常の靴とサイズ選定が変わってくる場合があり,初めて安全靴を着用する際は,注意が必要である。
     サイズ選定の基準は,靴紐やバンドなどを緩めた状態で靴の先端一杯まで足を押し込んだときに踵部に人差し指が一本軽く入る隙間が生じるくらいが適正サイズとなる。最終的には足を入れてみて,足の各部に当りがないか確認することを推奨する。
  • e )
  • 安全靴の交換時期は,作業内容によって損耗状態が変わり着用可能期間も変わってくるため,何か月,何年というような設定が困難である。交換時期は,靴の状態により判断できる(表6中の図5)。
 


6 使用・着用基準及び保守管理基準
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 安全靴の使用・着用基準及び保守点検基準(表6)を一覧にした。この内容は,安全靴を適切に使用するための基本事項であるとともに,全ての安全靴に共通する事項である。
表6 安全靴の使用・着用基準及び保守管理基準一覧
使用時留意事項
  1. 用途に応じたつま先保護性能区分の安全靴を使用する。
  2. つま先に衝撃又は圧迫を受けた場合は,速やかに交換する。
  3. 靴紐,バンドはしっかり締める。
  4. 踵を踏み潰して使用しない。
  5. 先芯に故意に孔をあけない。
  6. 足を入れるときに爪が先芯に引っ掛からないように注意する。
  7. 実際に履いてみて,足に合うサイズを選ぶ。
  8. かぶれなど,足に異常が生じたときは,使用をやめる。
  9. 靴底がウレタンの場合は,高温(120℃直接接触)で溶けるので注意。また,加水分解性があるので,長期間の保管には適さない。
  10. 中敷を交換する際は,当該靴メーカーの供給する中敷を使用。
着用時留意事項
  1. 甲被が破れて,先芯が露出した場合は使用しない。
  2. 靴底の凹凸がなくなった場合は使用しない。
  3. 甲被や靴底に亀裂・割れ・剥がれが生じた場合は使用しない。
  4. 靴紐やバンドに異常がないかを確認する。
  5. 靴底にものが詰まったときは,速やかに取り除く。
保守管理基準
  1. 使用後の点検の方法
    長期間使用していない靴は,着用前後に靴底を曲げてみて亀裂・割れが生じないか確認する。
  2. 保管方法
    • a )
    • 直射日光を避け,常温・常湿環境で保管する。
    • b )
    • ウレタン製靴底は,湿気により経年劣化(加水分解)を起こすことがあるので,風通しの 良い日陰で乾燥してから保管する。
  3. 交換時期
    • a )
    • 外観状態で,下記の何れか(図2)が見られたら交換する。
    • b )
    • 外観的に変形がなくても,一度衝撃や圧迫を受けた場合は交換する。


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