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高所作業車オペレーターのウェルビーイング向上について
spacer.gif 大和ハウス工業㈱
本社
技術統括本部
安全部
森 朋仁
1 はじめに
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 建設現場などでは,高い場所での作業には高所作業車が利用されている。高所作業車は作業床を備えた建設車両であり,特に狭い場所や室内において利便性が高い垂直昇降型が頻繁に使用されている。
 


2 問題点の特定
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 垂直昇降型の高所作業車には,上昇時に作業者が上部の固定構造物等の存在に気づかずに,手すりとの間に体や腕がはさまれて重傷化(図1)したり,首や頭をはさまれて死亡する事故が発生している(図2)。
 日本の構造規格では,安全装置の一つとしてフットペダル(ネガティブブレーキ)が装備されている。フットペダルは床の上下を許可する役割も果たし,以下のような操作で動作する(図3)。
 作業者が上部の支障物への接触時や,異常に気づいた場合,操作レバーから手を離すか足をフットペダルから離すことで上昇が停止する。しかしながら,フットペダルを使用しているものの,重篤な災害や死亡災害が発生している。そこで,独自の分析により事故を分類してみると,ある特徴が確認できた。特徴としては,①95%が1人乗車中の状態であることと,複数名の乗車中は事故が少ない事が判明した。②走行装置別(移動方式)としては,87%がタイヤ式とクローラー式であり,だれもが使いやすい,移動方式であった。③高所作業車の動作の型としては,64%が垂直式(シザース型・マスト型)であり,動きが単純な機種が多い(図4)。
 


3 詳細な事故分析
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 フットペダルを用いた安全対策を実施しているにもかかわらず事故が発生するため,事故発生の操車者の心理状況や環境条件等まで分析した。
 3つの原因が分析された。
原因1=無意識的な反応(反発)
 1つ目の原因は,作業者の体がはさまれてパニックになったときに,操作レバーやフットペダルから足を離すことができない状況である。離せば即座に停止するのだが,足を離すことができない現状があった。これを人間の行動から見ると,接触時に,作業者が力強く反発する(反射的に力を入れ続けてしまう)現象が観察された。シミュレーションでも,頭頂部に不意に下向きの力が加わると,フットペダルを踏み続ける反応が確認された。操作レバーも力を入れて維持する事例もあり,被災者からの話でも確認した。
 シミュレーションでは,頭頂部から下部に向かう力が加わると,90%以上の確率でフットペダルを踏み続ける,という結果となった。パニック時に強く反発するのは,人間の反射行動であると推測される。また,上部から下部方向に押されると足は上げられないという証言も得られた。
原因2=不注意
 2つ目の原因は,反復作業による慣れや注意力低下が見受けられることである。人間は同じ作業を何度も繰り返すことで,慣れからくる不注意や馴化現象が生じ,注意力が低下する場合がある。
結果として障害物があるのにもかかわらず,上昇を続ける。そして原因①の状況に陥る。
原因3=無効化
 3つ目の原因として,安全装置の無効化行為があった。安全パトロール時にも,当該作業では使用する可能性が無い物品が作業床上に見られることがあったが,おそらくフットペダルの固定に使用されたと考えられる。結果,停止機能の1つを失うことになる。
 


4 人と機械の共存の考え
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 現在の建設業界での主流な考え方は,危険な機械が動作している時は,人を近づけないというものである。接近時は機械を停止するという,隔離と停止の原則により安全を確保しているのが現状である。
 しかし技術の進歩により,人と機械が共存や協働する環境も増えてくる。隔離と停止の対応ではなく,人と機械が協調して安全を確保するという新しい考え方が必要となっている。
これからの安全確保は,「協調安全(Safety2.0)」という,新しい安全技術への進化の局面に来ている(図5)。
 


5 対策の検討と実施
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 協調安全(Safety2.0)の考え方を高所作業車に適用することで,課題の解決を行う。前述の原因に対応するため,以下の対策を含む後付け安全装置を開発した。機能安全を考慮に入れ,装置が故障した場合には,高所作業車が上昇しない仕組みを採用した。万一動作中にセンサーや装置が故障しても停止し,最悪でも標準のフットペダルで通常停止することが可能である。また,この安全装置は現在,安全規格のSafety2.0の適合を受けており,広く普及のためにレンタル会社を通じて提供する形としている。Safety2.0適合品初のレンタル品として,提供されている(図6)。
対策①
 1つ目の原因の対策として,標準のフットペダルに加えて,機体を操作する右手以外にも左手で停止できる措置を追加した。今回追加したのは,安全性を向上させるスリーポジションイネーブルスイッチ(以下「3Pイネーブル」)。一般的なスイッチはボタン操作がオン/オフの2段階だが,このスイッチでは,ボタン操作がオフ/オン/オフの3段階となっている。
 はさまれ等で驚いた作業者は,手を放すか,あるいは手を握りしめる反射動作を行う。そのため,手を放した場合だけでなく,手を強く握りしめた場合でもスイッチがオフになるため,どちらの反応でも上昇を止めることができる。さらに,手や腕のはさみ込みを防止し,作業者の位置を固定するため,スイッチを押しながら自然に握れるグリップを設けた(図7)。
 図8は,3Pイネーブルの装着有無により,アクシデント時の違いを説明した図である。
 実験結果イネーブルスイッチの無い場合で上昇時,①前頭部を接触した場合は,操作レバーを維持できずに,手を放したり,足踏みスイッチから足が離れ停止する事が多い。②頭頂部や③後頭部を接触した場合は,前かがみになり,スイッチから手を離せなかったりや,足踏みスイッチから足を上げられず,上昇動作が継続し,手すりやパネルやバケット内資材と,躯体等と挟まれ重篤になる場合が多い。
対策②
 2つ目の原因の対策として,一定の範囲内に支障物が近づくと反応し,作業者の頭部が接触する前に自動停止するセンサーを設けた。このセンサーはコスト面も考慮し,作業床の全範囲をカバーすることはせず,リスクアセスメント結果に基づいて重篤度が高いと思われる作業床前方や真上からの,はさまれリスクに焦点を当てた(図9)。
 センサーの範囲外については,シミュレーションに基づき,作業者の行動心理にもとづいた,センサー位置の調査と3Pイネーブルの操作により重篤化を防ぐこととした。後頭部への接触等で作業員が前傾姿勢になった場合,センサーの範囲内に体が入ることで停止する。後傾や屈む姿勢の場合は,3Pイネーブルを維持できない設計とした(図10)。
 なお,作業床後方など残留リスクの低減が必要なときは,追加のレーダーセンサーを用いて検出範囲を拡大することで接触事態の削減も可能である(図11)。
対策③
 3つ目の原因の対策として,フットペダルなどへの不正行為を検出するためのプログラムによる監視機能を設けた。この機能により,不自然にフットペダルが踏まれている状態を検知すると,作業車の動作ができなくなり,安全装置無効化の抑止が可能となった。
 


6 対策による結果と効果
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 効果検証のため,現場職長(マネージャー)48名と,作業者78名に対して導入前と導入後のアンケート調査を行い,その結果をレーダーチャートでまとめた(図12)。
 アンケート項目は「安心感があるか」「使いやすいか」「作業効率が上がったか」「自動停止による安全感があるか」「作業に集中できるか」の5項目であった。
 システム導入前と導入後を比較した結果,3Pイネーブルによる緊急停止機能の追加により,緊急停止が可能だと感じる回答者が増加し,それに伴い安心感も上昇した。作業に集中できると感じる回答者の増加につながった。
 この調査からは,作業者だけでなく職長(マネージャー)も作業の安全性を感じていることが確認できた。また,使いやすさと作業効率は向上したが,3Pイネーブルやセンサーの検知による一時停止の後の再操作など,操作手順が増えている。それにもかかわらず,新たに導入された3Pイネーブルの操作に対する大きな負担は感じられなかったことも確認できた。
 以上の結果から,身体的な安全性だけでなく,安心感,作業への集中力,作業効率,使いやすさといった要素も改善された。
 さらに,作業者の安全性や安心感が向上しているため,職長も作業者の作業を安心して監督できると感じている。つまり,高所作業に関連する現場の作業者および監督者のウェルビーイングが向上していると言える。
 


7 広く一般に普及させるため
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 この装置が広く普及し,高所作業車の安全性向上に少しでも貢献することを目指し,アクティオ(図13)・西尾レントオール(図14)・レンタルのニッケン(図15)の3社には特許を含む技術提供をしている。
 また,装置には拡張端子を設けているため,将来的にはセンサー等の入力追加や資格等と連動も可能である。
 


8 最後に
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 確実な安全対策を行うためには,事故の真の原因を正確に分析することが重要である。関係者の心理状態も考慮する必要がある。再開を急いで簡易な分析を行い,真の原因とは異なる原因の対策を採ることで,災害が繰り返されてしまう。この負のサイクルを断ち切るためにも,十分な原因分析が求められる。
 さらに,対策を検討する際には自分たちの意見だけでなく,客観的な外部機関の意見も積極的に取り入れて,より正確な検証を行うことが重要となる。
 この安全装置は誰でもレンタル可能であり,協調安全の認証も受けている。高所作業車の使用において,はさまれ災害防止のため積極的に活用していただきたい。
 


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