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ヘルメットに求められる熱中症対策 ~ヘルメット内部の温度と湿度を下げるために~
spacer.gif  ㈱谷沢製作所
取締役
谷澤直人
1 はじめに
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 近年,日本の夏はますます暑くなり,その期間も長くなっている。真夏に日なたを歩いていると,強烈な太陽光線とまとわりつく熱気に,身の危険を感じることがある。ましてや,その環境でヘルメットをかぶって仕事をするのは,大変厳しい。
 そのため,当社では炎天下でヘルメットをかぶることが熱中症発症の原因の一つにならないよう,ヘルメット内部の温度や湿度を下げる研究を続けてきた。
 真夏の炎天下,ヘルメットをかぶって屋外に出ると,ヘルメットの帽体が太陽光線の熱エネルギーを吸収して,ヘルメットの内側の温度が上がり続ける。ヘルメット表面はわずかな時間で熱いと感じられるほどになるので,内側の温度上昇も容易に想像することができる。
 温度上昇と同時に,頭部が大量の汗をかき,瞬く間にヘルメット内部の湿度は100%の飽和状態になり,髪の毛がびっしょりと濡れて,汗が額から滴り落ちる。屋内でも,ヘルメット内部の温度こそ周囲の気温または体温以上には上がらないものの,湿度はすぐに100%に達してしまう。
 このような状況から,当社ではヘルメットに求められる熱中症対策とは,
①炎天下でいかに内部の温度上昇を抑えるか。
②いかに内部の温・湿度を外気並に抑えるか。
の二点だと考えている。
 本稿ではこの対策について紹介する。
 


2 帽体内部の温度上昇を抑える
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(1) 遮熱塗装
 太陽の赤外線は物体に当たると,熱エネルギーに変化するが,ヘルメットの表面に遮熱塗料の塗膜を作ることにより,この赤外線を効率的に反射して,内部の温度上昇を抑えることができる。
 この試みは平成19(2007)年頃から始まり,その後,普及が進んだ。現在,ヘルメットメーカー各社が採用しているのは概ね,反射拡散のための遮蔽材に酸化チタンを用いた塗料である。
 塗布する遮熱塗料は遮熱性能が高ければ高いほど良いのだが,実際にはヘルメットに用いることができる塗料は限定される。一般にヘルメットの帽体に用いるポリカーボネートやABS樹脂は溶剤に侵され易い特性がある上,塗膜により衝撃吸収性能を悪化させる場合がある。さらに,塗布によって帽体の経年劣化が促進する可能性もある。
 そのため,当社では遮熱塗料の選定にあたって,慎重に検証を行っている。
(2) 遮蔽材の帽体への練り込み(遮熱加工)
近年,ポリカーボネートやABSといった熱可塑性樹脂に遮蔽材を練り込んで帽体を成形することができるようになった。
 当社の場合,現時点で遮熱加工ヘルメットの帽体色はほぼ白色のみに限定されるが,遮熱塗装と同等の遮熱効果があることを確認している。遮熱加工は塗装するよりも製造コストが下がったため,普及し易い価格で提供できるようになった。
(3) 遮熱ヘルメットの遮熱効果
 遮熱効果は帽体の材質によって差があるが,ここではポリカーボネート製ヘルメットに用いた場合の実験結果について説明する。
図1は,遮熱塗装したヘルメットと未塗装のヘルメットに対して熱源照射を行い,帽体内部の温度変化を示したものである。
 熱源は300Wのハロゲンランプで,それぞれ30cmの距離から照射した。試験帽体は当社製品(PC製のST#142型)で色は白,測定位置は頭頂部の帽体内の表面である。
 この実験では,遮熱塗装を施すことで,帽体内部の表面温度が9.4℃下がった。
 なお,遮熱ヘルメットは太陽光線を反射するため,帽体内部の温度が下がるだけでなく,外側表面の温度上昇も抑える。そのため,炎天下で帽体表面を触ってみると,その温度が上がらないことで,内部の遮熱効果を実感することができる。
(4) 帽体色による遮熱効果
 炎天下の駐車場で,黒と白の自動車の車体を触り比べると,熱さが異なることに気が付くが,ヘルメットでも帽体色によって内外の温度に差が生じる。
図2,3は(3)と同じ条件で,白,黄,緑,青4色の遮熱塗装なし,ありのヘルメットの帽体(FRP製のST#108型)を試験した結果である。
 遮熱塗装を施していない帽体では,白色が30分経過後に73.6℃であったのに対して,青色では91.1℃にもなった。このように,濃色のヘルメットを白色に替えるだけで,炎天下での有効な熱中症対策になる。
 遮熱塗装を施した帽体でも同様に,白色が60.6℃,緑色では78.8℃となった。
 従って,遮熱塗装を施していない青色ヘルメットから白色の遮熱ヘルメットに切り替えると,30.5℃も下がる効果が期待できることになる。
(5) 遮熱シール
 前述のとおり,溶剤や塗膜がヘルメット本来の衝撃吸収性能に悪影響を及ぼす可能性があるため,使用者自身で遮熱塗料を塗布してはならない。
 もし,遮熱塗装(加工)していないヘルメットを購入後に遮熱効果を得たい場合には,市販の遮熱シールを帽体の内側に貼るとよい。
 当社の「ヘルピタ」(ST#1906)(写真1)は元々,建材用の熱貫流抵抗シートで,太陽の輻射熱をポリエチレンクロス層を通過する際に低減させた後,アルミニウム層で反射させることにより,帽体内部の温度上昇を抑制する。
 遮熱効果が高く,内装体と衝撃吸収ライナーが取り外せるヘルメットならば,どれにでも貼ることができるのも便利である。
 


3 帽体内部の温・湿度を外気並みに抑える
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(1) 通気孔付きヘルメット
 現在,製造者が産業用ヘルメットに設けることができる通気孔について,公益社団法人産業安全技術協会による「保護帽の検定に於ける通気孔の考え方」では,帽体の側面に一個の孔の面積が30mm2以下,その合計は450mm2以下とされている。
 但し,これに続いて,通気孔より帽体内部を直接見ることができない構造(二重構造,覆い,特殊な帽体形状等)で,かつ,帽体だけの状態で直径2.5mmの金属製の試験棒を通気孔へ挿入させたとき,試験棒が帽体内部に到達しない構造の場合には適用されない,とある。
 450mm2以下とは,半径3mmの正円を片側に7個ずつ配置する勘定になるが,これでは,帽体内部の湿った空気を排出する一定の効果はあるが,十分な換気を行うには大きさも数も不足している。
 そこで,メーカー各社ではこの「特殊な帽体形状等」をとって,前・後頭部にも十分な大きさの通気孔を設けることにより,より効果的に換気されるような製品を販売している(写真2)。
(2) ヘルメット内部の空間を広げる工夫
 従来,墜落時保護兼用ヘルメットの内部には発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーが入っていたが,それが風の流れ込みを阻害し,空気を滞留させて,ヘルメット内部の温・湿度が上昇する原因となっていた。
 近年,ヘルメットの通気性を上げるために,発泡スチロールの代わりにプラスチック製の衝撃吸収体を用いたヘルメットが増えてきた。
写真3は発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーを用いた従来型のヘルメットで,帽体内部の空間が狭く,見るからに風が通りにくそうである。
 一方,写真4は六角柱の衝撃吸収体をハンモックと一体成型した内装を用いたヘルメットで,写真3と比べて帽体内部の空間が広いのがわかる。
 両ヘルメット内の空間容積を実測すると,前者が972cm3,後者が1,454cm3と,ほぼ1.5倍である。
(3) 帽体内部が広いヘルメットの換気効果
 写真4のようなヘルメットは風がある屋外では勿論のこと,屋内でも歩いたり体を動かしたりすることで,顔面に当たった風を効率よく帽体内に取り込むことができる。
 人頭模型にかぶせたヘルメットに対して,真正面から時速3.6kmのゆっくりとした歩行に相当する秒速1mの風を当て,帽体内部頭頂部の風速を測定したところ,写真3のヘルメットでは秒速0.15mだったのに対して,写真4のヘルメットでは秒速0.8mと,帽体内部を流れる風の速さに大きな差があることが分かった。
 また,図4は室温26℃の風洞実験室内で,37℃に設定した蒸気を発散するサーマルマネキンに写真3と写真4のヘルメットをかぶせ,帽体内部頭頂部付近の温度変化を記録したものである。
 初めの5分間は無風,次の5分間はヘルメットの正面に向けて秒速1mの風を流した。
 無風時は帽体内部の空間が狭いヘルメットの温度上昇が速く,2分後には体温に近い36℃に到達したのに対して,内部空間が広いヘルメットは温度上昇の速度が遅いことがわかる。
 また,風を当てると,内部空間が広いヘルメットでは速やかに換気が進み,室温とほぼ同じになったが,内部が狭いヘルメットでは換気が進みにくく,温度が下がりにくいことが示された。
 湿度についても,帽体内部の換気が進むことにより,同様の効果が期待できる。
 


4 おわりに
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 本稿ではヘルメットにおける熱中症対策を紹介した。炎天下で長く作業を行う方には,遮熱ヘルメットの効果はとても大きい。また,発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーを用いないヘルメットの換気効果も高く,好評価をいただいている。
 是非とも,暑い夏に備えて,実効性のある熱中症対策のひとつとして検討していただきたい。
 


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