熱中症を効果的に防止するためには,図4に示した熱中症発症への流れを如何に切ることができるかが重要となる。これについて考えてみたい。
なお,全般的な対策については,厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」にわかりやすくまとめられている2)。
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(1)暑熱ばく露の状況を把握する
最も根本的な対策は,暑熱ばく露そのものの防止・低減である。そのためには,暑熱ばく露がどの程度なのかを把握することが重要となる。暑熱ばく露を把握するのに用いられる指標が「WBGT(湿球黒球温度)」で,暑さ指数,熱中症指数等とも呼ばれている。これを現場で測定するためには,市販のWBGT計を用いることが一般的だが,注意事項として,「JIS B 7922:2023」に適合した,黒球付きの測定器を用いることが求められる。黒球のない測定器では正確な測定はでないため,特に屋外環境では使用しないことが重要である。また,2023年にJIS規格が改訂され,測定器の精度が向上しているため,「JIS B 7922:2023」に適合したものを使うことが必要となる。
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(2)暑さを避ける
WBGT値が基準値(表2)を超過していた場合はなんらかの対策が必要になる。最も重要なのは「休憩時間の延長,休憩時間の増加」であり,あらかじめ,どのくらい暑くなったら(WBGT値が高くなったら)休憩時間をどのくらい取るかといった基準を決めておくことが必要となる。
ここで重要なのは,きちんと休憩を取れるスペースを確保することである。せっかく休憩時間を設けても,体を冷やすことができる休憩場所がなければ,その効果は半減されるだけでなく,熱中症になってしまった場合の対処もできない。現場によっては休憩場所の確保が難しい場合も想定されるが,有効な休憩場所の確保は熱中症防止対策の中で最重要であるため,可能な範囲での整備を検討すべきである。
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表2 身体作業強度に応じたWBGT基準値(厚生労働省通達,JIS Z 8504)
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| 区分 |
身体作業強度(代謝率レベル)の例 |
暑熱順化者のWBGT基準値℃ |
暑熱非順化者のWBGT基準値℃ |
| 0:安静 |
安静,楽な座位 |
33 |
32 |
| 1:低代謝率 |
軽い手作業(書く,タイピング,描く,縫う,簿記);手及び腕の作業(小さいペンチツール,点検,組立て又は軽い材料の区分け);腕及び脚の作業(通常の状態での乗り物の運転,フットスイッチ及びペダルの操作)。立位でドリル作業(小さい部品);フライス盤(小さい部品);コイル巻き;小さい電機子巻き;小さい力で駆動する機械;2.5km/h 以下での平たんな場所での歩き。 |
30 |
29 |
| 2:中程度代謝率 |
継続的な手及び腕の作業[くぎ(釘)打ち,盛土];腕及び脚の作業
(トラックのオフロード運転,トラクター及び建設車両);腕と胴体の作業(空気圧ハンマーでの作業,トラクター組立て,しっくい塗り,中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業,草むしり,除草,果物及び野菜の収穫);軽量な荷車及び手押し車を押したり引いたりする;2.5km/h~5.5km/h での平たんな場所での歩き;鍛造 |
28 |
26 |
| 3:高代謝率 |
強度の腕及び胴体の作業;重量物の運搬;ショベル作業;ハンマー作
業;のこぎり作業;硬い木へのかんな掛け又はのみ作業;草刈り;掘る;5.5km/h~7km/hでの平たんな場所での歩き。重量物の荷車及び手押し車を押したり引いたりする;鋳物を削る;コンクリートブロックを積む。 |
26 |
23 |
| 4:極高代謝率 |
最大速度の速さでのとても激しい活動;おの(斧)を振るう;激しく
シャベルを使ったり掘ったりする;階段を昇る;平たんな場所で走る;7km/h以上で平たんな場所を歩く。 |
25 |
20 |
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(3)風通しの良い服装を選ぶ
熱中症を防止するためには,熱がこもりやすい服装を避け,透湿性・通気性の高い服装を選ぶことが重要である。その意味では,クールベストやファン付き作業服等の熱中症対策グッズを適切に使用することも一考だが,一方でこのような熱中症対策グッズの多くは熱中症防止効果が明確ではないという問題がある。あまり効果を過信せず,着用していたとしても無理をしない,無理をさせないということが重要である。
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(4)定期的な水分・塩分の摂取
熱中症を防止するために,水分・塩分の摂取は非常に重要である。重要なのは,①水分だけでなく塩分も摂取すること,②定期的に摂取すること,である。のどが渇いた時に作業者任せで摂取するだけでは不十分で,定期的に摂取することが重要となる。休憩場所や作業場に水分・塩分を摂取できる設備を設けるほか,定期的に摂取したかどうかをチェックシート等で確認することが有効である。
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(5)暑熱順化(暑さに慣れる)
あらかじめ暑い環境に慣れ,汗を効果的にかけるようになることで,熱中症になりにくい体になると言われている(これを「暑熱順化」という)。
具体的には,皮膚血管拡張反応や発汗反応が起きやすくなることと,汗の塩分濃度が低くなり,蒸発・気化しやすくなるとともに,塩分の損失を抑える効果が生じるとされている。注意点は,暑熱順化を獲得するには2週間程度かかること,ならびに暑さから1~2週間遠ざかると暑熱順化が薄れてしまうことである。お盆明け等,久しぶりに作業するときは熱中症リスクが普段よりも高くなっていることに注意が必要である。
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(6)健康管理
高血圧,糖尿病等のある種の持病を持っている人は,熱中症の発症リスクが高いと言われている。
持病を持っている方はもちろん,事業者側も入職時のチェックや定期健康診断等で持病の有無を把握し,熱中症対策に繋げることが必要である。また,寝不足や深酒,朝食抜き等によっても熱中症リスクが高くなるため,そのような行為を行わないとともに,朝礼時等の体調チェックで把握することが求められる。
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(7)熱中症教育,統括管理等
熱中症は適切な知識を持ち,きちんと対策をすれば必ず防止できる疾患である。そのためには,熱中症に対する正しい知識を持つことが重要となる。自らの身を守るための知識を身につけるために,組織として作業者向けの教育を実施することが必要である。また,熱中症対策を組織的に実施することで,事業所全体の意識を高めることも重要となる。
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